事業所名

タイロン株式会社

所在地

大阪府枚方市

事業内容

送風・空調器材メーカーの社会貢献活動への取り組みとしての農作物の加工や小売（移動販売）

従業員数

189名

うち障害者数

1名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害
聴覚障害
肢体不自由
内部障害
知的障害	1	農作物の加工、販売
精神障害

目次

1. 事業所の概要
2. 精神障害者社会適応訓練事業の受け入れ事業所として
3. 『モチベーションエンジニアリング』の視点～やる気を引き出すために～
4. まとめ

事業所外観

1. 事業所の概要

（1）概要

プラスチック成形の大宝工業株式会社のグループ会社の一つが、タイロン株式会社である。従業員数は200名程度の空調用部材の製造をしているメーカーである。

本稿で紹介するのは、社会貢献活動の一環として起業し、社内ベンチャーとして取り組んでいる農作物販売（タイロンフルーツ事業）における、非常に特徴的な障害者雇用等の取り組みである。

（2）メーカーでありながら、農産物販売での障害者雇用の取り組み

事業所が本業と異なる農業分野での取り組みを始めたのは、さかのぼること10年前のことである。定年退職した企業OBの将来を考える中で、製造部門での再雇用以外の方法として考えだされたものであった。当時、定年退職を迎えたOBの中に実家が農業を営んでいる人がいた。退職後に実家で収穫した農作物の販路を確保していく支援のニーズがあったことも、農作物販売での事業を考えるヒントになったようである。

現在は、工場の敷地内に設けられた作業場に、契約農園から収穫された野菜、果物、米が毎日届けられる。作業場では精米と、野菜の袋詰め作業を行っている。全量買い上げで契約している各地の農園では、企業OBなど高齢の方々が中心になって耕作しているとのことである。

作業場で袋詰めされた商品は、会社敷地内で販売するだけでなく、トラックに積み込んで地域の会社や店舗、福祉施設の軒先などを借りることで確保された4か所の拠点に移動販売に出向いている。この移動販売は現在、販売先毎に曜日を決めて、1か月あたり17～18日は出かけるようになっている。市場に流通していない新しい品種を中心に取り扱うことと、収穫直後の新鮮な商品を販売する等の品質へのこだわりが認知されており、どの販売場所も盛況となっている。事業の収益は、小売り販売を通した売り上げ収入によるものとなるが、昨年の年末には単月ベースで黒字となるだけの売り上げが確保できている。全従業員が収益確保に向けて相当な努力を重ねた成果であることが想像される。

また、本業である製造部門で当たり前に取り組まれている「改善」「ムダとり」の考え方は、作業場での農産物の加工作業における作業手順や作業動線の効率化においても、ごく自然に実践されているようである。

従業員体制は、社員が2名、アルバイトやパートの従業員5名であるが、そのうちの1名が知的障害のある男性のAさんで、近隣の障害者福祉施設からの紹介で働いている。Aさんは、移動販売でのトラックから積み下ろして商品を並べたり、お客さんとの対応をしたりと、自分ができる範囲での仕事を率先して取り組んでいる。そんなAさんは、お客さんに対して商品の説明をしたくて、野菜や果物の本を家で読みこむほどの努力家でもある。お客さんの「ありがとう」「おいしかったよ」の声を聞くために、自主的に勉強を続けている。

手前の平屋建てプレハブ造りの建物が、農作物の袋詰めを行う作業場

2. 精神障害者社会適応訓練事業の受け入れ事業所として

事業所では、精神障害者社会適応訓練事業を活用し、精神障害者が社会復帰するための訓練の場としての取り組みも行っている。先述の移動販売の場所を提供してくれているうちの一つが精神障害者の福祉施設である。定期的にやってくる移動販売の取り組みに関心をもった障害者が、一緒に関わることができるようにと始めた取り組みでもある。現在は、社会への復帰を目指す精神障害者に対して、ゆくゆくは企業就労が実現できるための関わりとして、4名の実習生の受け入れを行っている。

実習生に対しては、週2日以上は必ず休むことにするルールを作り、体調を崩して働けないときには、無理をしないように声をかける等の「がんばりすぎない」ための仕組みづくりを大切にしている。

総じてプレッシャーに弱い実習生に対して、障害のない従業員は「できなかった分は後でフォローをするから…」と気持ちにゆとりがもてる関わりを大切にしている。それでありながら、個々の実習生にとっては、自らの責任が果たせる役割が仕事の中で担えるようになっているのである。もちろん、個々の実習生の体調にも配慮した関わりができるように、実習生が在籍している福祉施設とも連携を絶やさないようにしている。

社会適応訓練の取り組みを通して、精神障害者が就労等の社会復帰に向けたトレーニングができる機会はまだまだ十分とはいえない状況である。また、事業所での取り組みは、これまでに紹介した障害者の雇用や社会適応訓練以外にも販売促進のチラシ作成・配布の作業を福祉施設内の作業に委託するなど、地域の障害者にとっての社会参加に向けた関わりが拡がっている。

3. 『モチベーションエンジニアリング』の視点～やる気を引き出すために～

前述の社会適応訓練の実習生であっても、自らができる範囲の仕事が成し遂げられないときには、厳しく注意をする場面もあるようである。しかし、この事業所では、仕事中に注意することがあったとしても、一日の終わりには気持ちよく帰ってもらうために、仕事の最後はよかったことを必ず褒めることを心がけるようにしているのである。

個々の障害者のやる気を伸ばしていく関わりを意識的に創り出すことを、事業所では『モチベーションエンジニアリング』と捉えている。個々の障害者にとって、自らの能力を踏まえた、無理ない範囲での役割が職場内できちんと与えられ、自分の業績に対して周囲から正当に評価がされることは、障害のある人が働きやすい職場環境づくりにおいても、とても重要なものである。このような取り組みを、障害者に対する支援という視点だけでなく、業績を向上するための必要性から気負うことなく実践していることも、この事業所の特徴といえる。

また、本稿を執筆する時点では、実習生のうちパソコン操作に関心がある人については、販売促進用のチラシ作成や、売上の管理等の定型的な事務作業についても、周囲の従業員からのごく自然なサポートを受けながら、できる範囲で取り組むことも始めている。障害者の職域は、このように現在進行形で拡がっている状況でもある。

出張販売先で陳列した商品の一部

福祉施設の軒下での出張販売の様子（あいにくの雨の中…）

実習生が作成した販売促進用のチラシ

4. まとめ

平成22年7月からの障害者雇用促進法の改正法の施行により、障害者雇用納付金制度の対象事業主が、常用雇用労働者数が201人以上の事業主に拡大されるとともに、短時間労働者についても障害者雇用率制度の対象に含まれることとなった。法改正を受けて、障害者雇用の促進に向けて取り組まざるをえなくなった事業主も少なくないが、一方で業種や事業形態の制約から、障害者が就労可能な職域を見出すこと自体が困難な場合も少なくないと思われる。

本稿で取り上げた事業は、特例子会社設立のような社内プロジェクトとは異なるため、障害者を一度に大量に雇用する取り組みとはなっていない。しかし、本業とは全く異なる業種を展開することで、新たな障害者の雇用の実現可能性が拡がる結果になっていることは、障害者雇用数の確保に悩む多くの事業主にとって、何らかのヒントになることであろう。

本稿で紹介した事業所の取り組みが、障害者の受け入れにとっての理想的な職場環境となったのは、柔軟な発想に対して許容的なトップの判断、実務を切り盛りするとともに社内調整をタイミングよく行う中心的なキーパーソン、現場での障害者のモチベーションを引き出すための関わりがごく自然にできるパートやアルバイトの従業員・・・、これらの人全ての力ゆえのものである。これまでの相当な苦労に対しては敬意を表しつつも、引き続きの障害者就労等の社会参加に向けた積極的な関わりを期待したい。