障害者の社会参加を目指して
~ともに学び合い、一緒になって、お客様に喜んで頂く店作り~
- 事業所名
- 株式会社すし弁慶
- 所在地
- 鳥取県米子市
- 事業内容
- 回転ずし「すし弁慶」「北海道」を直営でチェーン展開
- 従業員数
- 262名(パート含む)名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 5名 食器洗い、皿洗浄機の操作、野菜の下処理、つぶ貝等の下処理、軍艦巻き、細巻き 精神障害 - 目次


1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯と背景
(1)事業所の概要
本事業所は山陰両県に「すし弁慶」という屋号の店舗2店と「回転すし北海道」という屋号の店舗5店の7店舗の回転すしのチェーン展開をしている。創業から今期で32年、会社理念は『感動店舗!豊かな人生!』を掲げ、来店のお客様に感動して頂ける店づくりと全従業員に豊かな人生を築いてもらいたいと全社一丸となって事業に取り組んでいる。従業員は店舗には正社員・パート社員・アルバイトで構成され、各店舗40人前後で運営している。年齢は店舗により若干異なるが、パート・アルバイトを含めて、平均年齢が34.5歳と若い人達で構成されている。健全な店舗運営には売上確保は欠かせないが、それには人材育成が重要なポイントとなる。人材育成が出来ている店舗は、お客様の満足度も上がり、結果として売上高につながっている。従って、どの店舗の店長も部下の育成に励んでいる。
(2)障害者雇用の経緯と背景
障害者受け入れのきっかけは、養護学校の先生より、生徒の体験学習の一環として「短期間作業させて欲しい」と要請があってからである。それまでは法定雇用率遵守の意識はなく、店舗での作業は高効率を追求するなど経営意識が優先し、わが社の店舗での仕事は障害者には無理と一方的に考えていたとのことである。しかし、平成12年頃、初めて、米子養護学校の先生の依頼で、その時は社会貢献のつもりで生徒体験学習を引き受け、平成15年3月、知的障害者1名を採用。その後は、積極的に養護学校の生徒体験学習を受入れ、平成19年には会社として障害者合同面接会に参加。11月に『障害者就業・生活支援センターしゅーと』からの紹介で20歳の知的障害者を「回転すし北海道 皆生店」で採用。障害者雇用の取り組みが始まった。
合同面接会を機に「1店舗1名の障害者雇用」の目標を掲げ、翌20年4月から同店と鳥取「湖山店」・倉吉「河北店」にそれぞれ1名の障害者を雇用し現在に至っている。
2. 障害者雇用の取り組み
(1)障害者に対する勝手な思いこみを一掃し、はじめての障害者雇用
本部と連携を取りやすくするため本部に一番近い「すし弁慶 道笑町店」を体験学習の店舗に選んだ。受け入れて最初に驚いた事は真面目に作業する姿勢である。知的障害者という点から、簡単な作業を設定し、単純作業の「洗い場」業務に配置。その働きぶりは一生懸命で、「休憩してもいいよ。」と、声かけするまで無駄口をせず、怠けず作業し続けた。同店には同年代の高校生アルバイトも何名か勤務していたが、仕事振りはまだまだ遊び感覚や部活の延長のような態度が見受けられたのに対し、体験学習の生徒はそのような事はなく、もくもくと作業をしていたとのことである。
そうした経緯が、これまで障害者の人に抱いていた勝手な思い込みを一掃させるきっかけとなり、これを契機に本格的に障害者雇用をスタートさせた。平成15年3月より、体験学習経験の米子養護学校卒業の生徒を「すし弁慶 道笑町店」で採用した。
(2)障害者雇用の課題と対策
店舗での主な作業は体験学習の時と同じ「洗い場」である。洗い場の仕事は、食器洗浄機に入れる前の「下洗い」と「皿洗浄機の操作」がある。皿洗浄機では、何百枚もの皿の洗浄を行い、皿を種類毎に重ねる作業がある。この作業は在学中に体験、比較的スムーズに何の問題もなく業務が行われている。

食器を片づけているところ

つぶ貝の下処理中
しかし、他のポジションに変わった時に問題が発生した。当時商品として出していたラーメンを1食分ずつ量ってまとめる作業である。この作業は決して難しい作業ではなく、通常グラム数を教えるだけで済んでしまう事であるが、何グラムか覚える事が出来ず、やる度にグラム数が違って、まとめる作業に時間がかかり過ぎ、結果仕込みが間に合わないという事態になった。特にピーク時は他の従業員も忙しく作業をしているため、のんびり行っている態度が目につき、他の従業員達の不満の要因になった。
いつもの笑顔が消え、落ち込んで一時仕事を休みがちになった事があった。この時、本人は店長や経営者に悩みを相談できず、信頼関係のあった養護学校の先生に相談した。この頃の経営者には、ジョブコーチ支援や職業生活相談員を含めた「障害者職場定着推進チーム」等の認識がなく、店舗に任せっきりで企業の姿勢にも問題があった。これをきっかけに、どんな些細な事でも、こちらの方から必ず作業の進捗状況を確認して、解らず困っている状態がないようにケアしていくことを努めた。結果、本来持っている明るさが戻り、困難だった作業も上手にこなせるようになった。作業スピードもアップするなど大いに改善が進んだ。
後日、白兎養護学校の先生が作業状態を視察された際、「作業スピードの速さに驚かれた」と嬉しい話を伺った。
また、いつも笑顔で頑張っている姿が、他の従業員達にも感動を与えた。この従業員は、平成21年の夏に店舗を退職し、本来希望していた介護の職に向けて頑張っているとのことである。当社の店舗での勤務をきっかけに自信を付けてもらった事が小さな社会貢献につながった。その他の従業員も、体験を積み重ねながら、今はそれぞれの店舗でスタッフの一員として頑張っている。

細巻きを作っているところ

軍艦を作っているところ
(3)企業経営と障害者の働きぶり
~各店長の改善対策~
一般的に、企業経営は従業員の能力と生産性を高め、人件費比率を低く保つことがポイントの一つに挙げられ、この点がハードルとなる。どう「ムダ」「ムラ」「ムリ」「ミス」を無くすかが現場の責任者の課題となる。
B君はなかなか作業が覚えられず、やり残しが多かった。現場の責任者は、残業は抑えたいが、翌日には持ち越したくない。ピークタイムの仕込みが間に合わず、お客に迷惑をかけ、接客レベルが下がるからである。そこで、作業見直しを行い、仕事を限定し、徹底して明確に教えた結果、やり残しなくできるようになり、翌朝スムーズに当日の作業が行えるようになった。
A君は重度の知的障害者。ムラがあり、作業がスムーズにできたりできなかったりする。叱られた原因より、叱られたという行為で何もできなくなってしまうことがあった。できなかった理由はこういうことで、このような理由のために必要だよ、と懇切丁寧に何度も説明し理解できるよう努めた結果、今ではきちんと作業ができるようになった。以前にましてスピードもアップした。「頑張っているね」と声かけると、満面の笑みで「ハイ」と返事ができるまでに成長した。
生産性を上げるためには、2つの作業を同時に行うことは必須になっている。しかし、C君は、頭の中でうまく組み立てられずミスを連発していた。これを解消するために、一つの作業だけを繰り返し行った。そうすると、ミスは全くなくなった。また「今どこまで済んだの?」「できた?」と確認し続けたら、分からないことを質問したり、手が空いたとき「何かしましょうか?」と積極的に問いかけるようになってきた。昼休憩時にも自分からドンドン話をするようになった。
各店舗の店長から伺った障害者を雇い入れる際、現在の指導上の主なポイントなどは以下の通りである。
回転すし北海道皆生店店長
一生懸命頑張っている。指示したことも、素直に取り組んでいる。事細かく指示をすれば、比較的理解もできていると感じている。
雇用する際、注意する事について
(1) 指示を細かくすること(特に新しい仕事の場合)
(2) なるべく同じ作業を繰り返しする。(本人にもストレスなくできると思う)
(3) よく話しかけること(困っていることを早期に発見するため)
(4) 本人の能力を正確に判断し、仕事を与える。
回転すし北海道河北店店長
仕事に取り組む姿勢はとてもまじめで、指示された事はしっかりこなしている。しかし、仕込みなどが早く終わって時間が余ったりした時、次にどうしたらいいか、人に聞いて行動ができないので早めに指示をすることが必要。仕事を教えたり、指示を出したりする時は、怒った口調で言うと作業が遅くなってしまうので、丁寧にやさしい口調で指示を出す必要がある。
回転すし北海道湖山店店長
(1) 雇用する前に、どの程度の障害レベルで、どのような作業が出来そうか事前に打ち合わせする事が重要。
(2) 本人の性格、普段の生活振り等も把握しておくべき。
(3) コミュニケーションを多く取ることが大切。
(4) トレーナーに適切な人をつけ、やさしく接する。
(5) 本人の満足度・達成感を与えてあげる。キチンと褒める。
(6) 注意する時は怒るのでなく、キチンと説明する。
以上が各店舗で実際に指導している店長のコメントである。
怒らずやさしく指導すること、それにコミュニケーションがポイントとして挙げられる。

回転すし北海道 皆生店 店内
(4)障害者の支援体制と業務ステップアップ
■ 平成21年7月7日、店長ほか4名で障害者職場定着推進チーム設置
■ 社長、人事課より1名が平成21年「障害者職業生活相談員資格」取得
■ 店長が教育者を専任、ジョブコーチが支援
■ きちんとした作業のやり方を覚えるまで指導
■ 相談事は昼休憩の時に対応
■ 現在はバックヤードの仕事が主体
■ 食器洗い「下洗い」、「皿洗浄機の操作」
■ 野菜下処理
■ 在学中に研修、入社後は研修でやったことに従事
■ ゆくゆくはホールの接客も担当させたい
3. 障害者雇用に関する今後の展望と課題
1店舗1障害者雇用は、現在の経営状態では十分に対応出来ない面がある。
しかし、障害者だから出来ないのではないかという偏見を取り除き、簡単に作業が出来る環境を整え、また、コミュニケーションが取りやすいように、常にこちらからの声掛けや、相談しやすい雰囲気を作っていくことが大事である。そのように強く感じたのは、以前図書館で出合った「マザー・テレサ」の言葉からである。
「この世の最大の不幸は貧しさや病ではありません。だれからも自分は必要とされていないと感じることです。(「マザー・テレサ語る」より)
関心がなく、無視されていることが人を一番傷つける。自分は大事にされていない。自分は使い捨てなんだ、と感じさせない相手への思いやりが大切であることに強く心を動かされました。自分にできることは、「今、何か気になっていることある?」という声かけである。自分の行動が変われば、周りの人の行動も変わる。人材の力は相乗効果が働けば、とてつもない成果を生み出す。
これからも彼らの真面目に取り組む姿勢を評価し、共に学びながら、障害のない人もある人も一緒になって、お客様に喜んで頂く店づくりに励んでいきたいと考えている。
障害者を雇用して感じた事は、考えていたよりもずっとそれぞれが能力を持っているという事である。コミュニケーションが苦手な人が多いので誤解する事があるが、各店舗に職業生活相談員を配置して、障害者の能力を活かしていける店作りを目指し、すべてのお客様のためにさらに進化させたいと考える。
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