音楽分野への重度視覚障害者の雇用
- 事業所名
- NPO法人 広島シューレ
- 所在地
- 広島県広島市
- 事業内容
- 学術、文化、芸術、スポーツ等の振興事業とその他関連事業
- 従業員数
- 3名
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 ピアノ演奏、歌唱指導、ピアノ教室・コンサート等の企画と推進、点訳業務 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要
(1)事業所の概要
当法人は、幼児から高齢者・障害者及びその保護者に対して、文化・芸術等の振興、子育て支援、高齢者・障害者支援などに関する事業を行うことによって、より豊かな生活環境を醸成し、もって地域社会に寄与することを目的とする。
(2)事業内容の紹介
①学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
小・中学生対象の学習塾開設
②子どもの健全育成を図る活動
ママとベビーの音楽クラブ開設
③職業活動の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
社会人と学生対象の宅建講座、行政書士講座、簿記講座等開設
④社会教育の推進を図るための講演会・教室などの企画・運営事業
コミュニケーション講座、脳の健康教室、音楽の集い等開設
2. 雇用に至る経緯、理念
理事長が平成8年3月30日のコンサートで、知的障害のある女性が自分で作曲した曲をピアノで演奏する姿を見て、深く感銘を受ける。
それがきっかけとなり、彼女のように軽度の知的障害のある人を雇用し、音楽にまつわる仕事に就いてもらいたいと考えるようになった。
平成20年12月、障害者雇用に関しハローワーク(公共職業安定所)から紹介があり、平成21年1月、ハローワーク職員がMさんを伴って事務所に来られた。しかし、当時は、全盲のMさんが働く作業環境が整っていない状況であったため、雇用の話は断った。
後日、Mさん自身が働く意欲を書き記した手紙を理事長あてに送ってきた。その手紙に理事長の心が動かされ、平成21年5月からMさんを雇用することとなった。
3. 取り組みの内容
Mさんを雇用するにあたり、平成21年5月、トイレの段差を無くし、Mさんが作業する部屋とトイレに、手すりを設置した。また、画面読み上げソフトや音声ガイド付きワープロソフト(PC-Talker等をパソコンにインストール済み状態で貸与)を高齢・障害・求職者雇用支援機構が行っている就労支援機器の貸出し制度を利用し、Mさんが作業を行なえる環境を整えた。
Mさんは全盲ではあるが、毎日単独で通勤をしている。日常生活のなかで、サポートとすることは皆無に近い。しかし日々の業務の中で、読み上げ等介助を必要とするものは、他の職員がサポートしている。

事務所トイレ出入り口(スロープ設置)

事務室内部の手摺設置状況

事務室トイレの内部(手摺設置)


事務室でのパソコン作業の様子
(1)勤務・処遇等の取り扱い
パート正社員として、週に火・水・金・土曜日の週4回午前9時から午後5時30分、1時間昼休憩を取り、週30時間労働である。
時給は他の社員と同じである。
(2)現状の紹介
①ピアノ演奏
・毎週土曜の脳の健康教室で、歌のリード
・平成21年10月4日 第1回障害者と高齢者のための音楽の集いと交流会開催
ピアノソロ演奏、季節の童謡等を参加者と歌う、情報・意見交換実施
・平成21年12月13日 第2回障害者と高齢者のための音楽の集いと交流会開催
童謡・クリスマスソング等を参加者と歌う、情報・意見交換実施
・平成22年3月7日 第3回障害者と高齢者のための音楽の集いと交流会開催
ピアノソロ演奏、季節の童謡・歌謡曲等を参加者と歌う、情報・意見交換実施
②事務的業務
・ピアノ教室の企画(対象:障害児、OL、ビジネスマン、高齢者、幼児)
・脳の健康教室で歌う歌の選曲、歌詞カードの作成、曲紹介の準備
・エンディングノートの点訳
・コンサートの企画、学校・作業所へのコンサートの案内状作成
・音楽葬のプラン作成
③介助者の支援状況
・Mさんが印刷した歌詞やプログラム等内容の確認
・事務処理の進捗状況の確認、フォロー
・点訳の際の読み上げ
・コンサート案内等の郵送に関する事務
・脳の健康教室やコンサートの会場作り、プログラムについての相談
・コンサート当日の来場者の方への対応

脳の健康教室に向けてピアノ演奏練習

の健康教室でのピアノ演奏(バイオリン演奏者と共に)
[ Mさんのある日のスケジュール ]
時 間 | Mさんの活動 | 介助者のサポート | |
---|---|---|---|
午前 | 09:00 | 出 勤 | |
09:00 | 脳の健康教室の演奏曲練習 歌詞カードの準備 |
歌詞カードの誤字・脱字のチェック 歌詞カードを人数分コピーする。 |
|
10:30 | 脳の健康教室会場へ移動 | 脳の健康教室会場まで歩行介助 | |
11:00 11:30 ~頃 12:00 |
脳の健康教室開始 ピアノ演奏 曲紹介・歌のリード 脳の健康教室終了 |
学習者の方と一緒に行動しながら、必要に応じてMさんのサポートに当たる。 | |
休憩 | 12:00 ~ 13:00 |
昼食・休憩 | Mさんと一緒に食事をしながら、 当日の脳の健康教室の様子について話し合う。 |
午後 | 13:00 ~ 15:00 |
次週の脳の健康教室で使用する歌の選曲、曲説明のための資料収集等 | 次週の脳の健康教室で使用する曲をMさんと一緒に考える。 楽譜の有無を調査 |
15:00 ~ 17:00 |
コンサートに向けて企画 プログラムの作成 コンサートの案内作成 |
コンサート案内の内容を確認 | |
17:00 | 日報の作成 | 日報受領 日報の内容についてMさんと話す。 |
|
17:30 | 退 勤 |
(3)支援機関(支援事業・支援制度)の活用
①広島障害者職業センター
職業相談・職業評価、職業リハビリテーション計画の策定
②広島公共職業安定所
求人募集と雇用支援
③独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構(当時)
就労支援機器の貸出し(画面読み上げソフト、音声ガイド付きワープロソフト:ノート型パソコンにPC-Talker等の該当ソフトをインストール済み)
④広島県雇用開発協会
・障害者介助等助成金
・障害者作業施設設置等助成金
(4)現時点の課題
毎週土曜日に行なっている脳の健康教室で演奏する中で、教室に参加されている高齢者からリクエスト曲を受け付けている。
リクエスト曲の中に歌謡曲が多いが、歌謡曲の楽譜は点字のものが少ないので、楽譜が無いものはMさんが曲を聞き、アレンジして演奏している。
今はピアノの練習でほとんどの時間を費やしているが、Mさんには、他の活動を広げるための広報活動にも力を入れてもらいたいと考えている。
(5)今後の計画と抱負
現在、Mさんのコンサートに来られる方は、Mさんの知人の方が多い。
Mさんのピアノの演奏を、より幅広い方に聞いてもらうために、地域の方への声かけと同時に、社会福祉協議会や障害者福祉センターにコンサートの案内をしていく。
Mさんのピアノの演奏が、障害者の方だけでなく、より多くの方に届くよう活動していきたい。
4. 取り組みの効果(コメント)
(1)法人代表のコメント
Mさんを雇用するにあたり、広島市の視覚障害者情報センターに雇用モデルがあるか問合わせたところ、前例がないと言われた。また、障害者の職業能力開発校を実際に訪れた際にも、全盲の方はいなかった。結局、参考になる実例が広島でなかった。そのため自分なりのやり方で、今日までMさんを雇用してきた。
その中で、私がMさんを雇用して良かったと思うことは、Mさんの演奏が障害者以外の方にも喜んでいただけたことである。
脳の健康教室では、毎週同じメンバーの高齢者の方と接する。日を追うごとに高齢者の方とMさんの結びつきが強まり、それがMさんの自信となったのだと思う。
Mさんのピアノの演奏はもちろん、曲演奏の前に行なう季節のあいさつ、歌の紹介、演奏後の言葉にも、Mさんの良さが出てきた。
高齢者の方は、最近Mさんの演奏曲のリクエストをされるようになった。これもMさんの努力の賜物であると嬉しく思っている。
(2)介助者のコメント
Mさんは全盲であるが、事務所の中で、作業する際の身の回りの介助は必要としない。
担当分野の中で、特に介助を必要とするのは、Mさんに点字で書類を作成してもらうときである。また、コンサートの際に会場へ移動するときには、歩行介助をしている。
私は、介助の際、Mさんに事前に相談することを心がけている。Mさん本人から、コンサート等の会場で、私やスタッフにどの様な介助を望んでいるかを聞くことにしている。また、コンサートに来られる障害者の方とのコンサート会場での接し方や、飲み物の出し方についてもMさんに教えてもらう。そうすることによって、過度の介助は必要がないこと、本当に必要な介助はどういうものであるかを理解することができる。
(3)本人のコメント
私にとって、初めて働く経験をしている。
働くにあたり、会社のルールに従い、社会人として自覚と責任に厳しい考えを持ち、何事にも前向きに取り組み、努力するという気持ちでいる。
音楽の集いや脳の健康教室を通して、1回1回の演奏の機会、会場にお集まり下さる方お一人お一人との出会い、人との繋がりの大切さを改めて感じた。1回のコンサートを企画し、無事終えるにあたり、どれほどの準備が必要であるか、集客の大変さ、周囲の沢山の協力が必要であること等、学ぶことが非常に多かった。周囲の協力者の方、会場に来てくださる皆様、全ての方への感謝の想いを新たにした。
パソコンを利用しての事務処理では、文字の大きさや書体等、音声では確認が困難なことがあったり、特に作詞・作曲者といった人名の漢字がわからなかったり、戸惑うことも多い。
これからも、人と人との繋がりを大切にし、感謝の気持ちを持って、前向きに努力する。健康教室やコンサート等の貴重な演奏の機会では、皆様に楽しんで頂くことができるよう、心を込めて演奏する。
パソコンを使うことに関しては、更に勉強を重ね、経験を積んでいく中で、事務処理の仕事の幅を広げていけるよう努力する。
(4)ご両親のコメント
脳の健康教室で歌う曲の中には、点字楽譜が無いものもあり、その音源を手に入れるために娘を手伝うことがあった。
しかし、一度社会に出て、働くと決めた以上、職場の方には、他の従業員の方に接するときと変わりなく、娘に厳しく接して頂きたい。
(5)筆者のコメント
これまで、私自身、障害者の方を見かけることはあっても、深く接した経験が無かった。そのため、Mさんとどの様に接したら良いか、最初は疑問ばかりだった。今では、Mさんに直接疑問を投げかけてみたり、Mさんの希望を聞いたりすることで、Mさんの仕事がスムーズに進んでいる。
以前私が、Mさんのコンサートの会場作りの際、机の配置を変更する際の人員が足りないと悩んでいた時のことである。Mさんが、「私も手伝えます。私にも声をかけて下さい。」と言った。
その言葉を聞いてから後は、必ずMさんに確認しながら、Mさんのコンサート等を進めるようにしている。
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