事業所名

八鹿酒造株式会社

所在地

大分県玖珠郡

事業内容

酒類製造業

従業員数

106名

うち障害者数

6名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害
聴覚障害
肢体不自由	2	商品管理（数の把握）、フォークリフト、食堂調理
内部障害
知的障害	4	仕上げ作業、ラベル貼り、積み込み、その他単純作業
精神障害

目次

1. 事業所の概要
2. 取り組みの経緯、背景（取り組みを実施するようになった経緯や背景）
3. 雇用の促進と安定のための取り組み
4. 障害者雇用による経営効果、今後の課題と展望

事業所外観

1. 事業所の概要

（1）事業の内容

経営方針——社名『八鹿』に至るまでの歴史

本日の取材に応じていただいたのは専務取締役波多野良美氏である。氏よりいただいた『仁寿／八鹿酒造百三十年の歩み』（総ページ数267）の中に、当社の『障害者を特別な人と見ていない平等感の原点』を語るエピソードが幾多も語り継がれている。ところどころ孫引きしながら江戸・明治から引き継がれている崇高な企業精神を見てみよう。

今年で146年目を迎える八鹿酒造は、経営基本方針に

一、正直・親切・平和の社是のもとに会社の健全な成長に努力する。

一、社員の平和と幸福の増大に努力する。

一、会社発展と共に地域社会に対する奉仕と奉仕精神の醸成に努力する

を掲げ、創業以来、地域貢献・社会貢献をモットーとして代々受け継がれてきた。

創業は元治元年(1864)であるが、幾多の苦難の末、麻生酒造の再興を果たしたのは、明治18年（1887）11月、三代目麻生観八だった。杜氏は仲摩鹿太郎である。20歳の観八と34歳の鹿太郎が作った酒は、地元の名瀑、龍門の滝にちなんで『龍門』と名付けられた。この酒が次第に評判をとっていったとき、社長・観八は自分の名の「八」と杜氏・鹿太郎の名の「鹿」を一字ずつ採って、名を『八鹿』と改めた。この『八鹿』という命名であるが、まだ日本にハッキリとした身分制度のあった明治時代、観八はめずらしいほど平等な視点をもった人であったことが頷ける。

さらに三代目麻生観八が、従業員に対して今の退職金制度にあたる“特別賞与制度”を取り入れたのが大正11年(1922)10月1日。地方の企業としては異例の早さだったといわれる。

実家の酒造業が軌道に乗ると、三代目観八もまた地域貢献（公共事業）に力を注いだ。「地域に働く場を存在さすることが肝要なり（地域貢献である）」「従業員はできるだけ多くの人を雇傭しなさい。仕事を分け合っても働く場を確保することが肝要なり（ワークシェアリングのはしりである）」の言葉を残している。今にして、多くの障害者を雇用している理由が頷ける。

（2）障害者雇用の状況

従業員数  106名

うち身体障害者2名（3級、6級）  知的障害者4名

Aさん：手首損傷、仕上げ管理（商品管理…数の把握）、フォークリフト

Bさん：左足不自由、調理（食堂）

Cさん，Dさん，Eさん，Fさん：知的障害、グループ作業による「仕上げ作業、ラベル貼り、積み込み、その他単純作業」（Fさんは自分が何かの役に立とう、という一面が見られるため、梱包の調査や機械での包装も任せている）

ダンボール片付け作業

ラベル貼りと仕上げ作業

2. 取り組みの経緯、背景（取り組みを実施するようになった経緯や背景）

前述したような徹底した創業以来の福祉魂を受け継いでいる当社において、障害者の雇用はなんら抵抗のあることではない。今日で言うところのワークシェアリングの考えさえ早くから取り入れているが、創業精神から言えば何ら不思議なことではないのである。大分県の玖珠地方という土地柄ゆえに、当時農林業以外そう仕事があるわけではない。人、皆平等という考えの基から発想すれば、一つの仕事を稼ぎは半分でも二人や、三人で分かち合って、雇用を広げていこうということなのである。

波多野氏は言う。「障害の有無を採用時に憂慮したことはない。雇用の基準は、当社の特性からして、そうたくさんの職種があるわけではないので、『この仕事が出来れば雇用します』。今一つは『通勤が可能であれば雇用します』の二つである」と。

採用のケースは様々である。障害をもつことを知らずに採用して、ハローワーク（公共職業安定所）からの調査で初めて身障者手帳をもっていることが分かったケースすらある。協会の講習会に出席して、障害者職業センター等にお願いして「障害のある人が居れば、紹介願えますか」も、一つのケース。別のケースは、近隣の高校に新卒者をお願いに行った際に、たまたま手に障害のある人を紹介されて。知的障害者の場合は養護学校の職場実習を依頼され、そのまま採用したケース等々である。

3. 雇用の促進と安定のための取り組み

（1）ワークシェアリングを現実のものに

当社の勤務時間はAM8：00～PM17：00である。知的障害のあるCさんとFさんは当社で働くには充分な力を持っている。本人も働きたいと念願している。採用を阻む条件は通勤の問題だけである。玖珠盆地の中間に位置する当社へ通勤するためには、JRを利用するしかない。しかし、ローカルの久大線、一日に何本も走っていない。当社の解決法は、二人の勤務時間をAM8：30～PM16：30までの条件で採用した。二人ともなくてはならない戦力として喜々として働いている。

また、障害者に対して、最賃除外の申請はしていないし、するつもりもない。

（2）ジョブコーチの活用で誤解の払拭

採用当初、彼らの仕事が『ぬるい』（ゆっくりしていること）ために、周囲の従業員から「なぜこのような障害のある人を採用したのか」等々のクレームが聴かれるようになった。

週に1～2の割合でジョブコーチを招聘し、講習会や介助しながらの指導などを受け、誤解の払拭に努めた。彼らの特性を正しく理解した従業員と良好な人間関係を構築するのに多くの時間は必要でなかった。

また、ジョブコーチの指導で、同じ仕事をするグループの人的配置を変えてみた。母親のような年代の従業員のグループに知的障害者を配置した。何かあっても、母親の眼・やさしい愛情を持っての指導に、彼らもよく解け合ってスムーズな人間関係のもとで仕事ができるようになった。

（3）身体障害者はトライアルが効率的

身体障害者の場合、何ができて、どんなことには不自由を感じるのかが、見た目には分からない。この仕事に向いているか、機械操作はどの程度まで可能なのか、フォークリフト等の運転は指導すればできるのか等々、採用以前に実態の把握が必要である。トライアル的採用が望ましいと思っている。

（4）福利・厚生活動も活用

今では全国的に減少しつつある社員旅行や運動会などの厚生活動にも力を入れている。運動会は親や親戚も一緒に参加して楽しんでいる。地域貢献の一つでもある。

4. 障害者雇用による経営効果、今後の課題と展望

（1）社員一人ひとり障害者観（人間観）の変容

経営的には、会社は所詮組織である。一人ひとりの社員が相手を思いやる気持ちが生じたとすれば、会社にとって利潤を支える財産である。

障害者雇用によって社員一人ひとりに、優しさとか、思いやりとか、温かさとかが社内全体に醸成された。当社の経営方針達成の一つの姿であり、年間5万人の見学者がこのことを感じている。

(2)今後の課題と展望

経営の角度から言うと状況は厳しいし、効率化の面からみると障害者雇用は相反する一面もあるので明確な答は出ていないが、人がどうしてもしなければならない部分は必ずあるので、今後も通勤の問題ともども解決して、意欲的に障害者雇用の拡大に努めたい。