産業医との連携プレーで、障害の程度や状態にフィットした業務に就いてもらう
- 事業所名
- 株式会社山元交通
- 所在地
- 鹿児島県鹿児島市
- 事業内容
- タクシー事業
- 従業員数
- 251名
- うち障害者数
- 15名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 5名 ドライバー3名・配車係2名 内部障害 10名 ドライバー10名 知的障害 精神障害 - 目次
1. 事業所の概要
昭和62年創業。現在、車両156台と県下有数の保有台数を誇り、安全・親切をモットーに鹿児島市街を中心として事業を展開している。
タクシーで巡る観光地案内にも非常に力を入れており、大手旅行会社JTBと提携、観光立県を目指す鹿児島の強力なサポーターの一員でもある。
ハード面にあっては、県内タクシー会社のトップを切って、ハイブリッド車を営業車に導入、環境対策にも力を入れている。
ソフト面では、人材育成、従業員教育に熱心に取り組んでいる。
主たる例を挙げると、タクシー会社は一にも二にも、まずは接遇が基本、大切だと考えている同社では、航空各社のCA(キャビンアテンダント)の接遇を指導教育する機関に自社の接遇教育を依頼し、実施している。
また、地元商工会議所などが実施する観光検定などを積極的に受検させ、ドライバーがいつでも観光案内ができる体制作りを行っている。
2. 障害者雇用の経緯と取り組み
(1)障害者雇用の発端
同社の重 一典所長によれば、これまで元気に頑張っていたドライバーが、ある日障害者(内部障害)になり、『何とか会社に残って勤務を続けてもらう』にはどうしたらよいか考えたのが障害者雇用の契機であったと言う。
(2)募集
ハローワーク(公共職業安定所)を通しての応募だけでなく、本人から会社への直接応募も多いという同社だが、特に障害者の採用枠を設けて募集を行ったことはなく、現在でもハローワークに障害者専用もしくは併用の求人は出していない。
しかしながら、例えばハローワークからの紹介があれば、障害者の応募を断らないというスタンスである。
(3)採用
採用に関して、産業医との連携をより一層密にし、就労する場合における雇用管理上の留意事項などを検討し、その状況に応じた対応をすることにしている。そのため、身障者手帳取得者については、その手帳の内容を把握したり、持病や健康上の悩みなどを申告できるよう努めている。
3. 社員の健康状態の把握と管理、障害の程度に応じた勤務(心強い産業医との連携)
タクシーの乗客は、乗車中はドライバーに自らの命を預けているようなものである。そのことを常に肝に銘じ、お客様の生命と安全を危険にさらすことのないよう、まず自分達の健康状態や体調をきっちり管理するよう事ある毎に会社は説いている。
それを担保しバックアップしているのが、産業医との連携である。年1回ないし2回の定期健康診断時はもちろん、常時、社員からの健康相談に応じる体制が整えられている。タクシー業の業務内容に精通している産業医の的確な指導と助言をいつでも仰げることは心強い限りである。
例えば、内部障害を抱えているドライバーなら、障害の程度に応じ、夜勤を免除する、勤務時間や拘束時間を考慮してシフトを組むといった細やかな配慮を行っている。
4. 障害者の勤務実例
(1)Aさん(女性)は下肢が不自由な身体障害者(車いすは利用していない)。一昨年定年を迎え、現在、同社の再雇用制度を利用して勤務している勤続二十数年のベテラン配車係である。(過去、鹿児島市の永年勤続表彰を受けたこともある。)
配車係とは、お客様からの電話を受け、指定された場所へ営業所内の待機車両を手配する係のこと。彼女の頭の中には、自分が担当している地区のクライアントに関するありとあらゆるデータが入っており、電話口で声を聞いただけでどのクライアントであるかが瞬時に分かるほどであるという。
クライアント先がわかりにくい場所に位置していたり、ドライバーが不慣れな新人であったりしても、彼女のナビゲートがあれば道に迷うことなく、スムーズに到着できるのだそうだ。さらには、「〇〇さん(クライアント)のところから(の配車依頼)。おばあちゃんが診察を受けるために〇〇病院へ行くつもりなんだと思うけど、少し足が不自由で杖を使っていらっしゃるから気をつけてあげて」といったアドバイスすることもあるという。
クライアント毎の利用状況を常に把握している彼女の記憶は、お中元やお歳暮の配布先をリストアップする際にも、非常に役に立つらしい。
重所長をして、「彼女の頭の中に詰められている(クライアント)データを、そっくりそのままコンピューターに移すことができたらいいんですけどねえ。動くGPSですよ。元気なうちはいつまでも働いていただきたいもんです」と言わしめる所以である。
Aさんの話。「正直に言って、(過去のどの)勤務先においても、下肢が不自由なことを揶揄され、イヤな思いをしたことがあります。でもそれにいちいちめげていてはだめですよ。ヤル気があって一歩を踏み出す勇気があれば、そして働けることへの感謝の気持ちを忘れなければ、障害者でも仕事は続けられます。こんなに永く勤めさせていただいて、私は幸せです」
クライアントからの電話に応対するAさん
(2)Bさん(男性)は、右半身が不自由な身体障害者。昨年秋、ハローワークから紹介され、トライアル雇用を経て正式採用となったドライバーである。
本人はもともと車も運転も好きだったそうで、マニュアル車は厳しくても、オートマチック車なら、ブレーキ・アクセルを共に左足でこなすことで、何ら不自由なく車を乗り回していたらしい。
しかしながら、タクシードライバーになるためには大きな関門がある。いわゆる2種免許の取得だ。これにはBさんもかなりてこずったようで、「15、6回は試験を受けたと思います」とのことであった。よくあきらめず、がんばったものである。
ハローワークから紹介があったとき、さすがの重所長も相当迷ったそうであるが、あきらめずに2種免許を取得した根性を買い、又自身が常日頃から大切にしている『機会均等』の考え方に沿って、とりあえず訓練車両を運転させ、自分も同乗してみた。
技術的に合格レベルであったことから、とりあえずトライアル雇用することにしたところ、最初の1か月は、散々たる営業成績だったそうだ。重所長は本人を励ます一方、内心、「これではとても続かないだろう」と思ったそうである。ところが、本人の努力の甲斐あって、2か月目、3か月目と倍々に営業成績を伸ばし、トライアル雇用終了時には、本人もタクシードライバーとしてやっていく自信を掴み、会社も正式採用しても大丈夫だとの確信を得るにいたったのである。
Bさんの勤務は、障害のない人と何ら変わることはない。夜勤も行うし、シフトも障害のない人と同じである。しかしながら、次のような配慮がなされている
同社の営業車両には、障害者ドライバー向けの改造等を施した車両は一切存在しない。障害のない人とまったく同じ車両を障害者ドライバーが使用している。通常は右手で操作する「後部ドアの開閉レバー」も、Bさんは左手で操作している。(写真参照)
障害のない人の操作
Bさんの操作
※写真モデルはBさんではありません。
また、お客様に乗車運賃のお釣りを渡す際、同社では必ずお客様(通常は後部座席)の方へ体全体をひねって(お客様の方を向いて)、右手で釣り銭をお渡しするように指導しているのだそうだが、Bさんの場合はそれができないので、不自由しない左手で渡すことを許しているとのことである。(写真2参照)
障害のない人の所作
Bさんの所作
さらに、同社では指定を受けた医療機関に常時、タクシーを待機させているが、Bさんはこれまでのところ待機したことはない。医療機関からの乗車である以上、お客様は車いす利用者や障害者など、タクシーの乗降にドライバーのサポートを必要とする方々である確率が高いためだ。車いすからタクシーへの乗り移り、逆もまたしかり、車いすのトランクへの出し入れなどは、ある程度の困難が予測されるためである。
ところで通常、タクシーは1台の営業車両を相方と2人で使用する。相方に車両をバトンタッチするまでに、燃料の補充、シートカバーの洗濯や交換、洗車、車内清掃などを終えてキレイにしておく必要がある。Bさんがそうだというわけではないが、重所長曰く、「身体障害者ドライバーの場合、恐らく、どうしても清掃が行き届かない面があると思われます。しかしながら、障害者を相方に持った障害のないドライバーから一切の不平不満や文句が出たことはありません。相方の行き届かない面カバーしてくれていると思います」とのこと。
Bさんの話。「何事にも挑戦することが大切だと思います。これからいろんなことに直面すると思いますが、周囲の協力も得ながら、一つひとつ解決していきます」
5. 今後の課題と展望
重所長は語る。「うちの会社では、障害者に対して特別なことは何もしていないんです。障害者ドライバー向けに改造した車両も、障害に配慮した備品類も一切ありません。社屋のバリアフリー化なども特別に行っていません。障害者のためだけに経費をかけているところはないんです」だから、皆様に参考にしていただけるようなお話は何も無いのだと言う。
しかしながら、実はこの点にこそ障害者雇用におけるひとつのヒントがあるのではなかろうか。つまり、やり方次第で、障害者専用のなにものかがなくても、エキストラの費用をかけなくても障害者雇用は実現できるということだ。
当地のタクシー業界では労働者の高齢化がかなり進んでおり、同社も例外ではない。他方、若年・中年労働力の確保は容易ではなく、引退していく高齢者の補充もままならない。障害者雇用は、こうした現状を打開するカギとなりうるのではないか、だからこれからも障害者雇用を前向きに考えてきたいと重所長は結んだ。
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