現場で、全員で、その場で、問題解決することで、障害者の職場定着を図る
- 事業所名
- 有限会社上伸ミート
- 所在地
- 鹿児島県鹿児島市
- 事業内容
- 食肉加工処理業(鶏肉)
- 従業員数
- 56名
- うち障害者数
- 22名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 10名 食肉加工員 肢体不自由 内部障害 知的障害 12名 食肉加工員 精神障害 - 目次
1. 事業所の概要
牛豚肉を取り扱う上永吉畜産有限会社の鶏肉部門として平成7年創業。平成18年、現在地に移転し、工場を新設。『報恩感謝』の社訓のもと、全国に業務展開している。
障害者雇用にも熱心に取り組んでおり、現在「障害者雇用優良企業(ハートフルリボンマーク)2012」の認定を受けている。
現場の最高責任者で、同社の後継者でもある上永吉真吾 統括部長を含め生活指導員5名を配し、障害者雇用の推進及び定着を図っている。
2. 障害者雇用の経緯及び理念
在職中に受障し、障害者(内部障害)となった社員が、ハンディキャップを克服して障害のない人と同等以上に活躍していることが、障害者に対する社内全体の認識を変えたと上永吉部長は語る。
現在地への移転を機に、企業としての社会貢献の一環として、知的障害者3名を採用、ほどなく聴覚障害者1名を採用し、現在に至る。
障害のある社員(同社の場合、特に知的障害者)の将来を考えたとき、やがては面倒を見てくれていた両親がいなくなり、一人で自立しなくてはならなくなる。支援者は最後は自分自身なのだということをまずは障害者自身に自覚してもらい、周囲にも十二分に理解してもらったうえで、仕事を通して自立を促していくことが究極の目的である。それは、短時間で学べることではない。「あせらず あわてず あきらめず 自立させろ」の精神でゆっくりと時間をかけて、障害者本人も周囲も学んでいかねばならない。また、障害のある社員にも必ず活躍してもらえる場があるという信念の下、上永吉部長は「(障害者に行ってもらう)仕事を探す努力を惜しむな、みんなで考えよう」と日頃から社内で呼びかけているのだという。
同社では清掃(工場内は除く)専門の知的障害者が1名存在する。最初、彼女は食肉加工に不向きと判断されたが、本人が清掃好きであったことから、社内で検討した結果、清掃作業を専門にお願いする事になったという。
私見を述べることをお許しいただきたいが、「障害者を雇おうと思っても、ウチには障害者にやってもらう仕事がない」という不平不満にも似た意見を耳にすることが少なくない。個々の事業所にはそれぞれの事情が存在するわけで、精神論で全てを語るつもりもないが、誤解を恐れずに言えば、この種の発言を行っている事業所において、障害者雇用が順調に進展していくケースは少ないと思われる。なぜなら、障害者雇用に対する意識が前向きではないからである。是非、同社の姿勢を参考にしていただきたいと考える。
3. 募集と採用に関して
募集については、基本的にはハローワーク(公共職業安定所)や養護学校に紹介を依頼する等している。その他、職業訓練校や授産施設からの紹介もある。
採用に関しては、障害者本人と接した時点で「就業してもらうのは無理かな」と思われる場合であっても、トライアル雇用を利用する、とりあえず実習を行うなどして、必ずチャンスを与え、本人のヤル気をみるようにしている。知的障害者は保護者と一緒に面接を受ける場合がほとんどだが、保護者の話云々よりは、障害者本人の受け答えを見て採用を決定するそうである。
製品の仕様・規格を示した掲示
図解:エアシャワー室の 使用マニュアル
※製品の各種仕様や規格について記した掲示とエアシャワー室の使用マニュアル。
いずれも、知的障害者にも理解できるよう、平易な言葉を使用して丁寧に作られている。このほか、休憩室、更衣室、手洗い場などにさまざまなマニュアルが、図解入りで掲示してある。
4. 障害者雇用の取り組み
(1)同社工場では、作業員が複数のグループ単位で業務に従事している。仕事柄、なにより衛生面と品質管理面の要求が最も厳しくかつ最優先事項とされ、業務遂行上何かトラブルが起きた場合は、当該作業グループ全員(もちろん、障害のある社員を含む)が即座に作業の手を止め、その場で話し合って解決を図るようにしている。早期発見早期解決がモットーなのだとか。
上永吉部長に障害者雇用の取り組みについて語っていただいたものを以下に箇条書きでまとめてみた。
・「名前を覚える」
障害のある人もない人も同じ仕事仲間、フラットな関係でなくてはならない。工場内で働く全員が、白い作業着の胸の部分に黒くマジックで名前を書いている。この「名前」、必ずしも苗字にこだわらず、下の名前でもニックネームでもとにかく自分が呼んで欲しい名称で良いのだという。
・「まかせる勇気」を持て
相手を信用・信頼しなければ、障害者の信用・信頼は得られない。
・まずは「参加する」
これは「3.募集と採用に関して」で記載したトライアル雇用や実習の例と通ずるものである。特に知的障害者においては、業務を繰り返す内に自分の仕事として認識していき、スキルアップにつながるから、彼らから決して仕事を奪ってはいけない。
・「声掛けを欠かさない」「まず、あいさつ」
筆者が事業所を訪問した際も、各部署で非常に元気な挨拶で迎えてくれた。
元気よく大きな声で、聴覚障害者に対してはジェスチャーで、知的障害者に対しては明るい笑顔を添えてあいさつすることが同社のルールである。
障害者を孤独にさせないため、障害のある人と障害のない人の仲間意識作りのために、互いに意識して『声掛け』を行うようにしている。
高校球児が、帽子を取って挨拶してからグラウンド敷地に足を踏み入れる様子を見るが、同社では工場内に入る前に必ずあいさつを行なうのだとか。
鶏肉の加工工程
(2)上永吉部長によれば、作業グループのリーダーや管理者に対して、以下の点を要求しているという。
・「最後まで聞く。わかるまで言う」
同社では、これを障害者とのコミュニケーションの基本と考えている。
・「子供はクビにできない。(障害者は)それと一緒」
自分の子供をクビにする親はいない。一人前になるよう、親として愛情をたっぷりかけて教育していく。障害者もそれと一緒で、見放したりせず、根気強く教育していくことが大切。期待に応えてくれるところも子供と一緒である。
・「負担にならない責任を与える」
過度な責任を負わせると、特に知的障害者にとってはそれがトラブルを誘発しかねないが、適度な責任はむしろ本人の自覚を促し、自立へのステップとなる。
・「障害者個々人の性格を見極めろ」
特に知的障害者に対しては、個人の特性にフィットしたきめ細やかな対応が不可欠。
・「怒り上手になれ。うまく叱れ。でも決して怒鳴らない。」
これも知的障害者をおおいに意識してのこと。ミスはミスとして認識させることが大切で、怒っていることを表情豊かにきちんと伝えなくてはならない。しかし、怒鳴ると障害者が萎縮してしまったり、出社拒否等のトラブルに繋がりかねないから注意が必要。そして怒ったあとのフォローがポイントで、怒られてばかりや周囲が怒ってばかりでは本人が精神的に追い詰められてしまうから、なぐさめ役も必要である。
・「現場の雰囲気はトップ次第」
・「フェア(公正)でないと、(下からの)意見は上がってこなくなる」
容器の洗浄作業
加工品のパック詰め作業
5. 今後の課題
障害者雇用に関して、いろいろと手を尽くしてはいるものの、トラブルはなくなってはいない。しかしながら、それが小さな芽であるうちに、きちんと全員で対処して一つひとつ丁寧につぶしていくことが大切である。特に、全員で対処することが、障害者に対する障害のない人の認識の深まりにつながっていき、それは会社の財産になると考える。
ハード面においては、ディスプレイモニターのようなものを工場内に設置することで、障害者への情報の伝達もれや行き違いを解消するとともに、作業グループ全体の意思統一を図り、生産性アップにつなげていきたい。
ソフト・ハードの両面を一歩一歩充実させることで、障害者雇用の場をもっと拡充していきたい。
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