人に優しい環境づくりへの取り組みについて
- 事業所名
- 株式会社 ジョイ・ワールド・パシフィック
- 所在地
- 青森県平川市
- 事業内容
- 光学レンズ接合加工及び組立、半導体検査装置製造
- 従業員数
- 100名
- うち障害者数
- 10名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 1 レンズ工程作業 肢体不自由 4 レンズ工程作業、管理事務 内部障害 知的障害 5 レンズ工程作業、清掃 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要
(1)事業所の沿革
『株式会社 ジョイ・ワールド・パシフィック』は、代表取締役社長 木村 清勝氏が昭和53年10月に現在の平川市にある自宅の一部を改造し『タムロン協力工場木村組立』として創業。その後順調に規模を拡大し、昭和56年に『有限会社 木村工業』として以来、昭和60年8月に第2工場を新設し、昭和61年12月に第2工場を増設。そして平成4年9月には、現在の新工場に社屋が完成したのを契機に、本社を移転し操業。平成9年4月に現在の社名並びに組織を変更している。
当社は、弘前市から弘南鉄道で黒石市に向かって15分ほどの、館田駅近くに立地している。遠くに八甲田連峰を仰ぎ見ることができ、周辺をりんご畑と稲作田に囲まれた自然豊かな土地柄である。
(2)会社の概要
『株式会社 ジョイ・ワールド・パシフィック ~ 太平洋をめざしていきたい』は、同社が順調に業績を伸ばす中で、海洋探検家マゼランが大シケに悩まされて、穏やかな海、太平洋(Pacific)に出会ったように自分たちも荒れた海を果敢に乗り越え、太平洋を目指していきたいという願いが込められている。
現在の生産品目は、半導体部門で半導体検査装置の製造(プローブカード)、レンズ部門では各種光学製品に搭載されているレンズの接合加工及び墨塗り作業からモジュール組立までを行っている。また、光学レンズ墨塗り機装置・光学レンズ自動接着装置・光学小径レンズ自動接着装置など自社で開発し、常に高品質・短納期を念頭に事業を展開している。また、これまで培ってきた光学系や精密機器のものづくりの経験を生かして、健康、福祉、環境の分野で研究開発に取り組んでいる。
2. 障害者雇用の状況
(1)障害者雇用状況
現在の従業員数は100名、そのうち障害を有する人は10名(聴覚障害1名、身体障害4名、知的障害5名 うち重度障害者8名)が在籍しており、障害者雇用率は14.0%と高い。創業当時より障害者を積極的に受け入れており、障害者雇用優良事業所として、平成元年には社団法人青森県障害者雇用促進協会長表彰、平成7年には青森県知事表彰、平成11年には労働大臣表彰を受賞している。
(2)障害者雇用の経緯
障害者雇用の取組みは、昭和59年、ラジオの組立が忙しくなった時期に地元のハローワーク(公共職業安定所)の紹介を受けて、聴覚障害者を雇用したのをきっかけとして、その後特別支援学校や、青森県立障害者職業訓練校の現場実習を受け入れるようになった。
当時は社長自らが送迎車を運転し、社員(障害者含む)を対象とした送迎サービスを提供していた。また社内には未就学児を抱えた社員のための託児所も完備するなど、社員が働きやすい環境への取組みには熱心であった。そんな社長の環境整備への取り組みを受け、障害者を受け入れる環境を整えながら、昭和63年には、聴覚障害者2名と身体障害者1名を雇用し、その後も特別支援学校の依頼を受け、毎年のように障害者を受け入れていた。最も多い時では22名の障害者を雇用した実績を持っている。
3. 取り組みの状況
(1)環境へ取り組み
管理購買部長の成田春光氏は、青森県立障害者職業訓練校を卒業し、平成元年に当時の『有限会社木村工業』に採用された。当時は、聴覚障害や松葉杖を使用する身体障害を有する社員だけで、車いすを必要とする社員は成田部長が初めてという状況であった。当時の会社は本社2階に新しい生産ラインを増設した時期であり、その現場へ行くためには階段を使用しなければならなかった。成田部長が出勤すると、当時の現場のリーダーが率先して、自ら成田部長を2階まで運ぶ役目を担ってくれた。毎日朝夕の2回、その役割は続けられ、その姿を見た周囲の社員が、自然にその役割を交代で行うようになっていった。ごく自然に成田部長を受け入れる環境が普通のこととして社内に広がっていったと、当時のことを成田部長は話をしている。その思いやりに対して心から感謝をし、担ってくれた周囲の社員に敬意を表しながらも、それと同時に申し訳ないという思いも感じ、スロープの利用ができる社屋があればと考えていたと話していた。また、次第に規模を拡大しつつあり、社屋そのものが手狭になってきた。そんな会社側の背景もあって、ハローワークから、「第1種作業施設設置等助成金」について情報の提供があり、この助成金を利用し、平成4年9月、現在地に車いすに対応したバリアフリーの新社屋が完成したのである。
新社屋は駐車場よりスロープを利用して社内に入ることができ、社内も車いすのまま移動して現場のラインにつくことができるよう配慮されていた。その当時のことを成田部長は「これで周囲の社員に気兼ねなく仕事ができる」と素直に喜びを感じたと話している。
車いすに対応できる環境が整ったことと、成田部長自身の努力もあって長年勤務する事が出来、成田部長は平成21年度優秀勤労障害者として厚生労働大臣表彰を受賞している。
松葉杖を使用している身体障害者のAさんは、レンズ工程作業に従事している。レンズ工程作業は立ったままの作業であるが、Aさんにとっては1日中の立ち作業は体力的に厳しい。そこで周囲の社員と同じ高さの作業台にあわせて座るいすへの工夫がなされた。何度も高さを調整し、座りやすいように工夫されたいすを使用して作業を行っている。当社では、このように個人にあわせた環境づくりを行っており、障害に配慮した職場環境の整備に取り組んでいる。Aさんが使用したいすばかりでなく、一般の社員にもそれぞれに工夫された生産ラインの整備にも取り組んでいる。すべての社員に対して、その作業環境を改善することで作業の効率化へと繋がっている。
(2)人に合わせた作業種への取組み
平成4年に重度障害者多数雇用事業所となった会社は、身体障害者ばかりでなく知的障害者(重度含む)を雇用した。その中には一般の生産ラインの職種では対応できないことが出てきた。当時の現場責任者は、生産ラインの中から、本人ができる職種を見つけ出し、根気よく、そして細かい気配りをしながらゆっくり指導し、時間をかけて生産ラインへ従事できるよう配慮していった。
レンズ洗浄を担当している知的障害者のBさんは、隣接する市にあるケアホームから、電車を利用して毎日通勤している。レンズ洗浄の仕事は薬剤の入った洗浄液にレンズを浸す仕事であり、レンズを薬剤に浸している時間を計測して行わなければならない。1日に何度も洗浄液からレンズを持ち上げる工程を繰り返す作業内容であり、体力を必要とする仕事である。当初Bさんは、洗浄液を床にこぼして足に洗浄液が付いてしまったり、時間の計測ができないなどの失敗があったが、長靴を着用して足に液体がかからないようにしたり、タイマーを利用して時間を把握しやすくするなど、Bさんが作業を行いやすい環境に取り組んだ。現在は自らタイマーを設定するなど、レンズ洗浄部門ではBさんはなくてはならない存在となっている。そのことがBさんにとっても、会社から必要とされているという自信へと繋がっている。会社の要請に応じて残業にも快く応じるBさんは、毎月受け取る給料を何より楽しみにしている。その給料で大好きなソフトボールのバットやグローブを購入すると話していた。
レンズ工程作業のなかに、レンズの周囲に付着した接着剤を削る仕事があり、その仕事に従事している知的障害者のCさんは、勤続17年のベテランである。Cさんもケアホームで、世話人や支援員からの支援を利用しながら生活している。Cさんは入社当時から、その器用さを認められ生産ラインに配属された。しかし私生活面での人間関係や、体調不良の影響を受け、仕事に集中することが苦手であった。そんな時、周囲の社員が時には母や姉のように休憩時間を利用して本人の話を聞き、必要によってはケアホームスタッフと連絡を取りながら、本人が安定した精神状態で仕事ができるよう配慮している。また、ケアホームスタッフも定期的に職場訪問を行い、生活上のCさんの様子や、受診の状況等を伝え、情報を共有しながら相互にCさんの職業生活を支えあう環境を作っている。
レンズ工程作業でレンズを接着させる工程を担当している聴覚障害者のDさんは、勤続29年で社員の中では最も長い勤務年数であり、平成16年には優秀勤労障害者として、社団法人青森県障害者雇用促進協会長表彰を受賞している。Dさんは手話ができない社員とは口の動きを読んでコミュニケーションを図ることができる。創業当時から勤務するDさんは周囲の社員にとって頼れる存在であり、他の社員との良好な関係を築き上げている。






4. 活用した制度、助成金等
(1)活用した制度、助成金
平成4年に第1種作業施設設置等助成金をはじめ、特定求職者雇用開発助成金の活用や、障害者雇用納付金制度による報奨金を受けている。昨年の津軽地区の障害者合同面接会に参加し、トライアル雇用を活用して新たに雇い入れを行った。また、社団法人青森県高齢・障害者雇用支援協会による優秀勤労障害者表彰を受ける事により、社員の意欲向上へと繋げている。
(2)障害者職場定着推進チームの設置
障害者職場定着推進チームを平成3年に設置し、障害者がその能力を十分発揮できる職場環境づくりに取り組んできた。これまでに3名の社員が障害者職業生活相談員の講習を受けその業務を行ってきたが、それぞれに退職や転勤等により、現在は成田部長が障害者職業生活相談員を務めている。多くの障害者を雇用する当社にとっては、この職場定着推進チームがそれぞれの障害者が抱える様々な課題を解決するキーパーソンとなっている。今後は更に成田部長以外の社員にも障害者職業生活相談員資格認定講習を受講させて、職場定着推進チームの充実を図りたいと考えている。
5. 今後の課題と展望
これまで当社では、デジタルカメラやビデオカメラの組立等で培ってきた精密機器のものづくりの経験を活かし、健康、福祉、環境の分野で研究開発に取り組んできた。その成果の一つが『カロリーアンサー』(カロリー測定器)の開発である。
しかし、近年の不況により受注量が安定せず、今後も更に多くの障害者に働く場を提供したいと考えているが、積極的な受け入れが難しい状況である。
安定した仕事を取り込み、現在頑張っている社員すべての生活を守るために、これまでと違った新しい分野への取組みも視野に入れた展開が必要であろうと成田部長は話している。
社内には木村社長が定めた『 社 中 八 策 』が掲げられている。それは、「努力は必ず報われるし、機会は公平である。友と競い合いながら自らの責任を果たせ」や、「社員あっての会社である。お互いの信頼の絆を太くせよ」などの内容である。この創業時の木村社長の想いが、現在も脈々と引き継がれ、職場環境を改善する考え方の基礎となっているのではないだろうか。障害者にとって働きやすい環境づくりへの取組みは、単に障害者ばかりではなく、すべての社員に配慮した社内環境づくりへと繋がっていると強く感じた。
所長 長岡 恵美子
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