事業所名

白石クリーニング協同組合

所在地

宮城県白石市

事業内容

クリーニング物の協同加工、クリーニング物の官公庁からの協同受注組合員の福利厚生および教育情報事業

従業員数

78名

うち障害者数

16名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害
聴覚障害	2	ワイシャツ仕上げ、プレス
肢体不自由	2	おしぼりたたみ、作業着等ハンガー掛け
内部障害
知的障害	12	入荷仕分け、洗い場、ロール、ワイシャツ仕上げ
精神障害

目次

1. 事業所の概要と障害者雇用の経緯
2. 作業内容や作業工程、職場配置
3. 職場定着とその要因
4. 障害者雇用に関する多様な取り組み
5. おわりに

事業所外観

1. 事業所の概要と障害者雇用の経緯

多様化する清潔志向のニーズに応えて、合理的できめ細やかなネットワークを確立するために、製造部門と営業販売部門を分離して昭和46年に白石クリーニング協同組合が設立された。以前にも障害者が働いていた実績があるが、組合の歴代理事長の強い思いによって、企業の社会貢献として、さらにいっそう障害者雇用に取り組むことになった。組合のパンフレットには「ハンディキャップも一つの個性と考え、地域の雇用促進とともに、心身障害者の雇用にも積極的に取り組んでいます」と記されている。

組合では平成6年に各地に分散していた社屋をまとめて工場を新設した。新工場建設に当たっては、障害者雇用納付金制度に基づく重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金を活用し、バリアフリーで働きやすい作業環境を整備した。本協同組合では4つの組合員事業所でクリーニング物を受注し、先端機器と技術ノウハウを導入した工場で共同加工を行って品質の高いサービスを提供している。

今回、理事の大浦さんと総務部部長の佐々木さんにお話をうかがって取材を進めた。理事たちは、機会があるたびに障害者雇用に関する様々な研修会に参加し、学んだ最新の情報等を実践に役立てている。本協同組合の多様な取り組みには、研修参加の成果が随所にみられる。

2. 作業内容や作業工程、職場配置

本協同組合の主要業務はクリーニング物の共同加工であり、全従業員78名のうちの16名が障害のある従業員で、その内訳は聴覚障害者2名、肢体不自由者2名、知的障害者12名である。

業務は配属される工程によって異なるが、入荷仕分け、洗い場作業、ロール作業、ワイシャツ仕上げ作業、プレス作業、ハンガー掛け、おしぼりたたみ等である。障害者をまとめて配属するのではなく、なるべく本人の希望にそって各工程に1人は配属するように配慮するとともに、それぞれの工程に支援パートナーを配置して円滑な業務の推進を図っている。

入荷作業（シーツ・枕カバー等）種別ごと仕分け

ロール作業（枕カバー投入作業）

3. 職場定着とその要因

本協同組合の大きな特徴の一つは、障害のある従業員の職場定着がとても良いことである。知的障害のある従業員は、中学卒業後入社する。作業を覚えるための苦労は多いが、5年くらいすると仕事にも慣れ、10年くらいで職場にとって大きな戦力になる。現在、ほとんどの障害のある従業員は10年以上継続就労しており、20年以上働いている人も半数を超えている。

今年で30年目の勤務になるAさんは、中学卒業後、仙台市から通勤している。電車に乗っているだけで約50分かかるが、電車に乗るのが大好きなAさんにとって通勤は気にならない。電車が何らかの原因で遅れるときには、本人が電話で連絡できるようになってきた。本人も自分の仕事に自信を持って、少しずつできることが増えてきている。

家庭との連携も重要であるので、連絡帳を活用して情報交換を行っている。

障害のある従業員は、様々な工程に配置されているので、それぞれの場でパートナーとして支援する従業員の役割が大きく、潜在的な可能性を引き出すような姿勢と肯定的なコミュニケーションが大切だ。障害があっても、適切な支援があればできることが増えてくる。

作業に飽きたとき等には適切な声掛けが必要である。「仕事が遅いね」と否定的な表現を用いるのではなく、「頑張っているね」と肯定的に声掛けすることが大切なのだ。

取材に応じてくれた理事と総務部長は、さらに「従業員同士の思いやり」の多い職場だと話してくれた。母の日・父の日、敬老の日等には、プレゼントに何を贈るのか等と、「従業員同士の思いやり」が話題になる。干渉が過ぎるのかもしれないとも思うが、言わざるを得ないのが従業員なのだという。そして、プレゼントを受け取った家族から感謝されたことを聞くと、とてもうれしくなる。

職場では、障害のある従業員に自分の人生を自分で設計するように励ましている。親がいつまでも障害のある子どもの面倒を見るのではなく、障害があっても貯金等をして親の面倒を見ることができる。

「従業員同士の思いやり」という表現ではあるが、職場の家族的雰囲気も職場定着の良いことの大きな要因になっていると考えられる。

工場作業衣・ズボンたたみ作業

工場作業衣・ズボンプレス作業

4. 障害者雇用に関する多様な取り組み

これまで、工場建設（平成6年）のときには、作業施設・作業設備設置のための重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金や業務遂行援助者の配置助成金（平成10～19年に5件）を活用してきたところであるが、現在、通勤に不便があり、各自が通勤手当を出し合って、数名で地元タクシー会社に送迎を依頼したり、同僚の車に便乗したりしている状態である。そこで、現在、通勤対策のために通勤用バスの購入、通勤用バス運転従事者の委嘱助成金の申請を行う準備をしている。

また組合では、障害者福祉施設に在籍中の障害者の職場実習を受け入れている。さまざまな作業工程があるので、実習生は希望する作業を行うことができる。実際に取り組むと、福祉施設では作業になじめなかった実習生も、体験を重ねることによって力を発揮できるようになる。本人も周りの人も障害のために作業ができないという先入観を持ちすぎるのではないかと大浦さんは指摘する。環境が変わることによって、大きな力が引き出されるのである。

今年10月1日、就労移行支援事業と就労継続支援A型事業の多機能型事業所“ABAIN”（あばいん）（定員合せて20名）を工場隣接地に設立した。「あばいん」とは、この地方の方言で「一緒に行きましょう」という意味だ。本人の希望に沿って行きたい所に共に行く、すなわち、目的を持った職業生活の実現を達成するための事業所が「あばいん」なのである。

障害者が安心して就労生活を継続するには、就労以外にも多くの支援が必要になるので、地域の社会資源や行政と連携することが大切である。理事の言う「従業員同士の思いやり」を核として、金銭管理は地元の社会福祉協議会の日常生活自立支援事業、日常生活や地域生活に関する助言は、障害者就業・生活支援センター等と地域のネットワークが障害のある従業員一人ひとりを支えている。

工場作業衣・上着ハンガー掛作業

5. おわりに

職場定着率の高い白石クリーニング協同組合について報告した。障害のある従業員の場合は、仕事に慣れ業務の戦力になるまでには苦労も多いが、いったん仕事に慣れてくると、自信も増し、業務上の大きな戦力となる。また、障害のある従業員にとって働きやすい職場環境を築くことは、だれもが働きやすい環境を整えることにもなる。従業員が障害者とともに働くことによって、会社全体が優しい企業になってきている。「従業員同士の思いやり」の温かみのある職場環境も、その優しさの現われとも言える。また、障害のない従業員も入社時に、障害者雇用の重要性を説明され、それぞれの工程に障害者が働いていることを実体験することによって、共に働くことが当たり前になっている。

ところで、紙面の関係から触れることはできなかったが、障害者雇用における事業協同組合のメリットも多いと考えられる。本事業所ではクリーニング物の共同加工による効率化と製品の質の向上を図るために事業協同組合組織を設立したのではあるが、多くの障害者に就労の機会を提供すること等も含め、事業協同組合が障害者雇用の充実を図るためにも大きな意義を持つと考えられる。

また、事業協同組合等で障害者を雇用した場合には、組合と組合員企業の雇用率に算定されるようになったことも重要なことである（平成21年4月1日施行）。今回の事例で取り上げた白石クリーニング協同組合は紙面に尽くすことが困難になるくらいに、学び、参考にすべきことの多い事例であることを再度強調して稿を閉じたい。