知的障害者の一般就労に向けた作業訓練
- 事業所名
- 財団法人秋田市総合振興公社
- 所在地
- 秋田県秋田市
- 事業内容
- 一般廃棄物(空きびん・空き缶等)収集・処理、ゴルフ場の管理運営、建築確認検査等
- 従業員数
- 127名
- うち障害者数
- 9名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 9 空きびん・空き缶・ペットボトルの選別仕分け、庁舎清掃 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要
財団法人秋田市総合振興公社は、秋田市の公社改革方針のもと、市が出資していた3公社を統廃合し、平成17年4月に設立された。環境事業部、緑地施設部、住宅事業部があり、それぞれの部の主な業務は、空きびん、空き缶の収集及び処理、廃棄物の中間処理事業、ゴルフ場の管理運営、建築確認検査などである。従業員は、127名、そのうち9名が知的障害者で、全員が環境事業部に所属して空きびん、空き缶、ペットボトルの選別仕分け作業や庁舎清掃に従事している。
障害者それぞれの勤続年数は、4名が平成20年4月1日入社で2年6ヵ月、3名が平成21年4月1日入社で1年6ヵ月、2名が平成22年4月1日入社で6ヵ月である。
2. 障害者雇用の経緯、背景
(1)障害者雇用のきっかけ
現在の公社の母体である旧秋田市環境保全公社では、昭和55年10月から秋田市内の一般家庭から排出される空きびんの選別の一部を、知的障害者を対象とした「秋田市第二福祉授産所」へ委託していた。その後、平成11年4月の秋田市リサイクルプラザ(資源化物リサイクル中間処理施設)の運転開始に伴いこの委託を取り止め、障害者を公社で直接雇用することとした。
目的は、障害者の一般就労に近い福祉的就労の場として、就労形態での作業訓練を重ね、就労に対する喜びと自信を与えるとともに、広報や秋田市リサイクルプラザ見学などを通じ事業主へ障害者雇用についての啓発を図り、障害者雇用の拡大に資することである。このことから雇用された障害者は、作業訓練生となっている。
(2)障害者採用方針、採用の経路
採用方針として、一定期間就労訓練を行うための雇用であることから3年雇用としており、平成11年4月はじめて5名採用後、現在まで38名を雇用している。
雇用条件は、6ヵ月更新のパートタイマーで、午前8時45分から午後3時45分までの6時間労働、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険加入、作業服等支給であるが、所在地の面から「継続的に自主通勤(バス通勤)が可能な方」が必須条件となっている。
障害者の採用に当たっては、秋田市の広報への掲載、ハローワーク(公共職業安定所)での求人票の公開、通勤可能な範囲の特別支援学校へ募集要項を送付するなどにより募集している。応募者に対しては、現場実習及び面接試験を実施のうえ採用している。応募者の中には、障害者職業センターで職業準備支援事業を受けた人や、特別支援学校からの要請で2週間程度の職場実習に受入れた生徒もおり、採用につながっている。
ちなみに、平成11年4月からこれまで38名(現在在職者9名を含む。)の作業訓練生を採用し、自己都合による退職5名、結婚退職1名など、中途退職者が6名で、期間満了者が23名である。
また、公社では、障害者雇用納付金制度に基づく助成金のうち、障害者介助等助成金(業務遂行援助者の配置助成金)を活用した。
3. 取り組みの内容
(1)障害者の従事業務、職場配置
採用後3日間の実習終了後の作業内容は、①空きびんの仕分け作業は、リターナブルびんを種類、メーカー毎に分類し箱詰めする。例えば、日本酒の一升びんは茶色と緑色に分類し、ビールびんは、特大、大、中に分類する。②空きびんの手選別作業は、ワンウェイびんを白色、茶色、その他の色に選別する。③空きびん類運搬積み上げ作業は、仕分けした空きびん類を所定の場所まで台車を使用して運搬し、積み上げる。④電池処理作業は、空き缶類のラインで磁選機により分別された乾電池を、専用袋に入れる。以上の作業を1週間交替で行う。⑤庁舎清掃作業は、女性の作業訓練生が1週間交替で、秋田市リサイクルプラザ2階の各室内、廊下、トイレ等を清掃する。作業内容は、十分な余裕を持って行える量としている。
なお、障害者と同一作業に従事している職員の数は、嘱託、臨時職員を含め、①空きびん処理ラインに5名、②空き缶・ペットボトル処理ラインに3名、③庁舎清掃業務に1名の配置である。


(2)入所・退職説明会等
4月の入社の1週間ぐらい前に家族を含めて「入社説明会」を開催し、給与、労働条件など基本的な説明を行うとともに、指導員等が作業内容の詳細について説明し、本人・家族が納得した上で雇用している。
「退職説明会」では、家族から「公社での就労が終わった後のこと」や「障害者が金銭を取り扱うこと」など、先行きの心配をしている声が聞かれる。
(3)通勤問題
職場へは、自家用車か秋田駅からのバスを乗り継いでの通勤となる。始業時間が8時45分で、通勤時に利用するバスが職場近くのバス停留所に到着する予定時刻が8時38分であり、朝の交通混雑時の到着遅延により、作業服に着替え終わるのは9時ごろとなる。これにより、毎朝10分程度、その日の作業内容の伝達を行っていた朝礼を、現在取り止めている。作業訓練生も含めて、人員が揃わないと現場のラインを動かすことができないためである。
通勤用のバスについては、昨年の9月までは職場の前を通るちょうど良いバスがあった。それが9月いっぱいで廃止になり、秋田市マイタウンバスという市で管理するバスが運行されることになった。このバスの当初の運行時刻では、朝8時台に職場の前を通過するバスはなく、市の交通政策室へ始業時間に近い運行をお願いし、現在の比較的近い時間にしてもらった経緯がある。本当は、帰りのバスも午後3時45分の終業時間に近い運行(現在は午後5時39分のみ)をお願いしたが断られている。最近、職場前の道路が拡幅されたが、それまでは道路幅が狭く、帰宅時にバスの乗り換え場所までの2キロメートルを歩かせるのは危険であること、知的障害者が9名も勤務しているということで、市の障害福祉課のバックアップを受けながらお願いしたものである。公社では、歩くことも就業に必要な訓練としているが、帰宅時の天候等によっては、歩行に危険が伴うこともあり、終業時間よりも早いバスへ乗車させるなど配慮している。
(4)採用後の実習
採用後、市障害福祉課所属の嘱託職員2名が指導員となって、3日間の実習を行っている。実習内容は、1日目が一升びんの箱詰め作業、2日目がビールびんの箱詰め作業、3日目はびん類の運搬作業となっており、ライン作業はさせていない。
実習は、通常作業の中で行われているが、指導員が説明しながら作業指導を行うほか、先輩訓練生もアドバイスして、通常作業に滞りなどは見られない。これまで無事故であるが、びん類を扱うことやベルトコンベアーの使用など、作業には危険が伴うため、指導員が事故・ケガ防止のため徹底して指導し安全作業に努めている。
指導員の目の届かないところは、ライン内の職員も指導し、その後指導員へ指導した事例を伝え注意するよう説明がある。作業訓練生もはじめは緊張しているものの、慣れてきて気持ちにゆるみが生じるとミスが多くなるようで、その都度、繰り返し注意をするようにしている。特に多いミスは、手選別作業で茶色のびんとその他のびんの分け間違い、割れているびんを選んだり、キャップをはずし忘れて箱詰めしたりするなどである。指導員は、実習はもちろん、通常作業時も常駐して一人ひとりの体の調子を観察しながら、同じことを何回も繰り返して説明し、体で覚えてもらうことが指導と考えている。
(5)目標「挨拶の励行」、コミュニケーション
職場でのスタートは挨拶から始まるが、特別支援学校卒業生、一般就労経験者共に挨拶することが難しく、採用後1年間は、「挨拶の励行」を目標としている。①出勤時の「おはようございます」、②休憩時の「作業終了しました」、③作業時の「報告、連絡、相談」、④作業終了時の「お疲れ様です」、⑤返事は「大声でハッキリと」、この5項目について今では、自ら進んで挨拶し、特に目上の人への挨拶は、きちんとお辞儀ができるようになっている。
このほか、作業現場の上の階の明るい事務室内に作業訓練生個人専用のディスクが備えられ、食事・休憩用のテーブル・ソファーや和室、作業服へ着替えるための男女別更衣室、具合が悪い場合利用できるベッドを備えた医務室など、福利厚生環境整備に努めている。
毎日のコミュニケーションにも十分な気配りを行っており、例えば、昼食後の休憩時に以前は指導員が加わって話をしていたが、現在は仲間同士でのおしゃべりや、ゲームをしたりしている雰囲気を大切にしている。また、指導員以外の職員とのコミュニケーションは、特定の話しやすい職員とだけはとれているが、話しやすい話しにくいということがあるようで、お互いに全員とは話していないようである。
1日の作業終了時には、作業訓練生が1週間交替で司会を担当するミーティングを実施しており、指導員からは作業等に関する指示及び注意事項を伝え、作業訓練生からは連絡事項を発表することになっている。話が苦手な作業訓練生にとって、訓練の一環であるが貴重な機会となっている。
作業訓練生に関するトラブルへの対処については、現場や室内で大声で叫んだり、担当同士のちょっとしたトラブルなどは、その都度話を聞いて注意をしているほか、作業面や私生活、友人関係で悩み事があるような場合は、本人からの申し出を受けて指導員等が個別面談により解決策を見出すように努め、トラブルが大きな問題にならないように気をつけている。指導員が見る限りでは、女性5名の作業訓練生同士が仲良くするのは難しいようで、この5人がコミュニケーションをとれないまま作業はしているが、帰宅時には、バラバラになっている。この5名が仲良くできれば、もっと楽しく仕事ができるのではと思っている。
(6)作業訓練終了者に対する支援
3年間の雇用期間終了後の就労先について支援するため、市障害福祉課の主催でケース会議を開催している。ケース会議は、平成13年度からこれまで10回開催されている。
本年7月に開催したケース会議は、メンバーが障害福祉課職員2名と指導員2名、雇用主である公社から環境事業部長、業務課長、就労支援機関としてハローワーク秋田、秋田障害者職業センター及び市内の障害者自立支援法による指定事業所から各1名と作業訓練生本人とその家族が出席している。
会議の内容は、平成23年3月に期間満了退職する作業訓練生と家族を1組ずつ会議の席へ呼んで、指導員から作業面・労働習慣面・対人態度・社会性などについて、3年間の評価を説明した。その後、ハローワークの雇用指導官や障害者職業センターの障害者職業カウンセラーから状況の詳細について確認があった後、残された訓練期間でどのようなことに取り組めばよいかを検討し、訓練中の再チェック、再指導の参考とする。また、雇用期間満了後の再就職の見通し、本人の期間満了後の継続就労の希望を確認した。過去には家族から、「この後も継続して雇用していただけないものか」など、厳しい雇用環境を踏まえ継続雇用を望む声があった。
この結果、支援対象者4名のうち、1名が福祉的就労希望、3名が他事業所での一般就労を希望している。福祉的就労希望者については、自立支援法による指定事業所へ、また、再就職希望者については、ハローワーク、障害者職業センターへ支援を依頼した。
(7)取り組みの効果
ここ3年間の作業訓練生の退職後の就労状況を見ると、期間満了退職者8名中、7名が継続して就労しており、7名の就労先の内訳は、就労継続支援B型事業所5名、パチンコ店1名、資源化物業者(びんの分別)1名となっており、就業に向けての取り組みの効果が期待できる。3年間継続して勤務するためには、「ここへ入ってきた以上、3年間は勤めなければいけない。」という本人の気持ちはもちろん大事であり、加えて家族の「きちんと勤めなさい。」などという日々の声かけ、支援も大きな要因となっている。作業訓練生の中には、3年間1度も欠勤せず、有給休暇も取得しないで勤務したり、風邪を引いたりしても出てきて勤務するなど、気持ちの一途な作業訓練生もいる。
また、指導員が見ていると、作業訓練生各個人には、他の担当部署より難儀で担当したくない部署があるようで、1週間ごとに行われる担当部署の交替を楽しみにしているようである。作業は軽作業であるが、職員以上の作業をこなしており業務の戦力になっている。
4. まとめ
指導員から「ここを退職してから時間をおいて就職した場合は、前に戻って最初からやり直すこととなり、できれば継続就労させたい。」との切実な言葉を聞く。これは、公社を退職する障害者のみではなく、就労することを希望しながら職に就けない障害者全てに向けられた言葉に思える。
昨今は、この業種も、びん使用飲料が他の容器に取って代わられ、びん類が少なくなってきたり、回収が難しくなったりしていること、前記のとおりの始業時間遅延に伴う作業人員不揃いによるライン停止、作業訓練生の終業後の作業に補充する職員の配置に苦慮することなどの課題を抱えている。しかし、びんの回収が現場作業に間に合わない場合は、現場の清掃作業に切り替えたり、通勤バス時刻の問題は、引き続き市へ改善を要望していくなどの方策により、今後も一人でも多くの障害者が作業訓練できるよう雇用枠の拡大に努めていきたいと考えている。
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