ロストワックス精密鋳造品のスペシャリストを目指して
~先端技術で会社を支える自負と誇り~
- 事業所名
- ニダック精密株式会社
- 所在地
- 福島県相馬市
- 事業内容
- ロストワックス精密鋳造品の製造販売
- 従業員数
- 150名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 1 模型課・ロストワックス係 肢体不自由 2 鋳造課・鋳造係、鋳造課・ロストワックス係 内部障害 知的障害 精神障害 - 目次

- ホームページアドレス
- http://www.nidakseimitsu.co.jp/
1. 事業所の沿革と事業内容
ニダック精密株式会社は1977年の創立で、主にロストワックス精密鋳造品の製造及び販売を手がけ、主要品目としては航空宇宙・防衛機器の部品、電子・通信機器の部品、光学機器・医療機器の部品、原子力・産業機械の部品等を製作している。比較的小規模な会社ではあるが、世界をリードする最先端の日本の工業技術力の一翼を担っている会社である。本社・工場は福島県相馬市にあり、神田に東京営業所がある。従業員は150名(平成19年2月現在)で、そのうち障害者が3名雇用されている。
2. 障害者雇用の概況
(1)障害者雇用に対する会社の基本姿勢
ニダック精密株式会社は特段に「障害者雇用」を意識して障害者を雇用した訳ではない。従業員が在職中に病気を患い、結果として障害者(中途障害者)になった。ただ、その従業員にとって救いだったのは、社長が「障害者でも、探せば必ず仕事はあるはずだ」と従業員をクビにしなかったことである。このことの意味はとても大きい。社長のこの一言がどれほど従業員を勇気づけたかは想像に難くない。教育の世界でも言えることであるが、「靴に足を合わせるか、足に靴を合わせるか」である。当然、「足(人)に靴(仕事)を合わせる」発想が重要なのである。障害の状況に応じて、その人に出来る仕事を見つけるという発想である。しかも重要なことは、障害の有無に拘わらず従業員個々人の特性や能力を重視して、障害者だからといって極力「特別扱いはしない」ということである。こうした会社の上層部(経営陣)の発想や配慮に応えるかのように、その従業員は技術を磨き、今では会社にとって無くてはならない人材になっている。こうした会社の配慮と本人の努力のかいがあって、表1のB氏はその技能で厚生労働大臣賞を受賞している。
障害者を特別扱いしないことが、結果的に障害者にとって働きやすい、やりがいのある職場になっている。また、「会社員である前に一市民であること、地域社会の住民であること」を重視した会社経営がなされている。
ニダック精密株式会社は、こうした企業理念のもとで発展を続け、今では防衛省調達実施本部や欧米の航空メーカー、それに日本の多くの機器メーカーに当社の製品が採用されている。こうした最先端の技術力は会社が一丸となって取り組んだ成果だといえる。
(2)障害者雇用の概況
2010年8月時点での相馬工場(本社)における障害者雇用の概況は表1の通りである。勤続30年を超える障害者が2名いるが、いずれも中途障害者である。入社後の病気で障害者となり、もし障害に理解のない企業であったなら、会社を辞めざるを得ない状況におかれたにも拘わらず、「職場には必ず仕事があるはずだ」との社長の英断で、引き続き雇用され現在まで永年勤続を続け、今では会社にとって無くてならない重要な社員となっている。C氏のみが新卒で入社しているが、彼は工業高校を卒業後さらに専門学校に通い、技術を身につけて採用されている。本人のやる気と技術があれば積極的に採用していきたいという会社の方針で採用された人である。会社としては今後も技術と能力さえあれば積極的に障害者を雇用していく方針であるとのことである。
表1 障害者雇用の概況(2010年8月現在)
名 | 性別 | 年齢 | 勤続年数 | 障害等級 | 障害の概要 | 職種(業務内容) |
---|---|---|---|---|---|---|
A | 男 | 62 | 32年4月 | 5 | 右・股関節機能障害 | 鋳造課、鋳造係 |
B | 男 | 64 | 32年3月 | 3 | 右・下肢切断 | 模型課、ワックス係 |
C | 男 | 44 | 24年3月 | 2 | 聴覚障害 | 模型課、ワックス係 |
相馬工場では何よりも本人の意志や希望を尊重して、適材適所に配置している。その結果が表1の通りである。自らの希望で選んだ職種なので、やりがいや生き甲斐を持って仕事に取り組み、成果を挙げている。こうした会社の配慮が彼らの永年勤続に繋がり、大きな成果となって会社の発展に貢献している。また、聴覚障害者であるC氏は小・中学校の手話講師を兼ねるなど、ボランテイア活動を通して積極的に地域に溶け込んでいる。こうした積極さが何よりも大切である。
(3)障害者の生の声
中途障害者となったB氏は会社への感謝を込めて次のような感想を述べている。
「入院中、会社に行ったら一日中仕事が出来るかどうかとても心配でしたが、腰を掛けて出来る職場(ワックス)に異動し、社会復帰することが出来ました。ワックス職場は、以前経験のある職場だったのですが、一日中椅子に腰掛けてすることが出来るか心配でした。でも、職場の同僚の励ましで初日から一日勤めることが出来ました。現在は、職場の協力のお陰で何不自由なく楽しく仕事をしています」また、会社や職場に対する意見・感想として次のように述べている。「一時退院の時でも働く職場があって感謝しています。また、集会所の改築の際は階段に昇降機を付けてもらい感謝しています。入院中、よその会社では3ヶ月も休めば辞表を出すように会社から言われたなんて聞いたことがありますが、私にはそんなことは一度もなく、安心して治療に専念することが出来ました。これも社長を始め、会社の人たちのお陰だと思っています」同様に新卒で使用されたC氏は次のような感想を寄せている。
「物を作る作業が得意なので、自分に合った仕事に就けて良かったです。自分の持つ技術を生かせて、やりがいのある会社に入れたと思います。職場の雰囲気がとても良くて楽しいです」
以上の2氏の感想から、会社の配慮と同僚への感謝の気持ちが汲み取れる。
(4)障害者雇用に際しての会社の配慮
①昇降機の設置やトイレの洋式化
会社では食堂が2階にあるために移動しやすいように昇降機を設置し、トイレを洋式化するなどの配慮がなされている。こうした職場環境の配慮や工夫は、実は障害のない者にとっても便利で使いやすいもので、まさに会社のユニバーサルデザイン化に繋がっている。また周囲の従業員も協力的で気遣いのある、とても温かい会社の雰囲気である。こうした職場の人間関係や労働環境が障害者にとっても働きやすい職場となっている。
②特別扱いしない(最大の配慮)
障害者だからといって業務の遂行や労働条件面での特別扱いはしていない。ただし、作業環境を障害者が安全で働き易いようにさまざま改善や工夫がなされている。通常の従業員と同様にごく普通に当たり前に処遇することが、実は障害者への一番の配慮だといえる。障害者本人も「特別扱い」されることを嫌がり、望まないのである。敢えて「障害者」として特別な目で見る必要はなく、たまたま下肢が不自由であったり、聴覚に障害があるだけで、同じ従業員であることに何ら変わらないのである。「特別扱い」しないことが実は障害者への最大の配慮だといえる。会社も本人も特段に「障害者」と意識してないところが素晴らしい。
(5)本人の希望の尊重と適材適所
①聴覚障害者への配慮
聴覚障害者の場合、コミュニケーションの取り方についての配慮が必要となる。手話が出来る人が少ないために筆談が中心になるが、周囲の社員や上司は身振り手振りでかなりの会話が可能である。
②下肢障害者への配慮
股関節や下肢に障害がある者は活動に制限があり、重い物を持ったり、「立ち作業」は困難なので、「座業」中心の業務に就かせるなどの配慮がなされている。いずれも当社の場合は、先ずは本人の希望を優先して負担がかからないように職場の配置を決め、本人の特性や自己ペースに合わせて就業出来るように配慮されている。


3. 敢えて「障害者」と意識しない対応
ニダック精密株式会社で、障害者雇用に関して現在問題になっていることや課題を尋ねたところ、「全くない」とのことであった。その理由は、障害者であるが故の問題や課題は何もないとのことであった。それだけ職場適応がスムーズであることと、会社自体に障害者を雇用しているという特別な意識がないためと考えられる。このことは障害者雇用にとって、とても重要なことで、たまたま結果として3名の障害者が就業しているが、会社としては障害者との認識は薄いということだろう。これは他の従業員にも言えることで、同じ社員であることには変わりはなく、ことさら特別視する必要がないということである。
4. 障害の有無に拘わらず会社が必要とする人間像
ニダック精密株式会社では取り立てて障害者と意識してないという前提で、社員(従業員)に求める人間的資質について尋ねたところ、副社長の渡辺氏と経理・総務課長の杉本氏は共通して、「明るい性格」と「協調性」、それに「根気・忍耐」を挙げられた。実際、当社の3名の障害者は、他の従業員よりも生産性や評価が非常に高かったのが特徴的であった。雇用主として、学校や家庭での教育面に関しての期待や要望として、「コミュニケーション力」「挨拶」「集団活動」「ボランティア活動」や「対人(仲間)関係」といった基本的生活習慣やソーシャルスキルを小さい時から習得させておく必要性を強調された。
つまり、生活の基本(基本的生活習慣)がきちんと出来ていることと、コミュニケーション力を身につけておくことが、障害の有無に拘わらず企業人として求められる重要な人間的資質と言える。こうした資質は職種や業種を超えて特に必要とされる基本的資質である。しかも障害者であろうがなかろうが、すべての職業人に必要とされる人間的資質と言える。筆者のこれまでの企業訪問を通しても痛感することは、雇用主は共通して作業の「スキル」よりはむしろこうした「人間的資質」を重視していることである。
5. まとめにかえて-みんなちがって、みんないい
事業所内において、従業員間で人間関係を結び職場に定着していくためには上司を始め同僚や周囲の人々の理解と協力が不可欠である。障害者の就労を可能にするのは、同僚や周囲の人の理解と配慮、上司の注目度といったことが障害者雇用に際して大きな効果を発揮すると言える。会社内の雰囲気や温かい人間関係を構築していくためには、上司や周囲の従業員の理解と協力、それに本人の努力が不可欠である。障害者自身も他人との協調性に富み余暇時間やレクレーション活動等にも積極的に参加し、職場外の諸活動にも可能な限り参加していく必要がある。そして何よりも、障害者本人のチャレンジ精神、就労への意欲である。
今回の訪問を通して痛感したことは、会社が一人一人の従業員をとても大切にしているということである。障害者に対するちょっとした配慮や工夫が結果的には従業員全員への配慮に繋がっているということである。「一人のため」に配慮した工夫や改善が、実は「みんなのため」になっているということである。障害者にとって働き易い職場は、結局は障害を持たない者にとっても働き易い職場になっているということである。まさに職場のユニバーサルデザイン化を図ることが多くの企業に求められている課題と言える。
また今回の訪問でも、対象となった障害者は知的障害者ではなかったが、今後の大きな課題は知的障害者や精神障害者の雇用をいかに促進していくかである。
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