障害のある従業員と障害のない従業員との分け隔てのない人事処遇で養われる活性化された職場

1. 事業所の概要
(1)設立の経緯
「元々は常磐炭鉱の坑道で使用済みになった坑木をチップにして製紙会社に販売したことと、家庭用の石炭を入れる紙袋の生産をすることからスタートしたのです。」事務課課長代理で人事責任者の山口剛史さんは語り始めた。
昭和30年代まで、いわきは炭鉱の町として栄え、その中核をなしていたのが常磐炭鉱であった。当初は生産のほとんどを常磐炭鉱に販売していたが、昭和34年、その関連子会社として、前身の常磐紙業株式会社は設立され、常磐炭鉱以外にも、農家へ米の袋などの販売を開始した。炭鉱が閉山するとともに、主力商品を段ボールに変えて行き、いわき市内の弱電メーカーや住宅設備関連会社への販売へシフトしていった。平成14年に現在の社名に変更し、平成20年には常磐興産グループから、包装資材最大手の高速グループの一員となり、販路を南東北から北関東まで拡大していった。
「私たちは地元いわきの変化とともに歩んできました。これからも、なお一層、企業理念である地域社会への貢献をしていきたいと考えています。」

(2)事業の現状
事業所はいわき市の本社事業所を含め、福島県以外にも茨城県や岩手県に6事業所を数える。
「工場の中は機械化が進み、作業に従事するスタッフの人数はかなり減少しました。しかし、最後は人の手がどうしても必要なのです。」
3,000坪ほどある本社工場内には大型機械が、いくつも据え付けられており、工場の広さの割には従業員の姿はさほど多く感じない。しかし、機械化が進んでいるとは言え、機械のオペレーションや製品の検査などはすべて人の手に頼らざるを得ない。現在、全社で207名ほどのスタッフが従事しており、いわき本社事業所には60名のスタッフがいる。そのうち、障害者の雇用は8名(身体障害者1名、聴覚障害者2名、知的障害者5名)となっている。


2. 障害者雇用の経緯
(1)障害者雇用の経緯
生産の過程の中で、外注を活用することも多々あり、障害者作業施設「いわき養護学校・いわき福音協会および綴町作業所」も元々、外注先として取引をしていた。その仕事ぶりはミスやクレームも少なく、障害者の真面目で献身的な仕事ぶりで大いに評価されていた。「是非、従業員として雇用してもらえないだろうか。」いわき養護学校からの申し出に対し「喜んで受け入れさせてください。」と快諾し、障害者の雇用がスタートした。
(2)障害者雇用の現状
「高校でも絶対に野球を続けて、甲子園に出たいんだ。でも、地元の県立高校では受け入れてくれない。」聴覚に障害を持つAさんが大好きな野球を続けるため、親元から離れ、いわきから500キロも彼方にある青森に行く決意をしたのは、今から24年前のAさん中学3年生のときだ。青森山田高校は今でこそ甲子園の常連校として全国的に有名だが、当時は甲子園の出場も無く、まだ無名に近かった。Aさんが在学していた3年間、彼は厳しい練習に耐え、野球を続けたが残念ながら甲子園の夢は果たせなかった。高校を卒業後、正社員として入社したAさんは、機械のオペレーターとして障害のない社員とまったく同様の仕事をこなし、また、社内の野球部の一員としても活躍した。Aさんの元に吉報が届いたのは、Aさんが入社した3年後のことであった。後輩たちが甲子園出場の夢を叶えてくれたのだ。そのことは、Aさんの社会人生活をも大いに刺激したのだった。「努力を継続すれば、必ず夢は叶う。」そのことを確信した彼は、人一倍の努力と野球の練習で培われた根性で仕事はめきめき上達していった。そして、彼の努力がついに報われるときがきた。平成17年、Aさんの仕事ぶりが評価され、福島県から優秀社員として表彰されたのであった。39歳になった現在は、工場内の重要な役割である機械オペレーターの機長として部下を指導する立場になっている。「これからも、会社のために一生懸命働いていきたい。」と更なる飛躍を目指している。
その他、知的障害者で準社員として雇用された3名は「いわき福音協会」からの紹介で雇用され、梱包および製造の補助要因として作業を行っている。単純作業であるが、本当に一生懸命働いており、他の従業員からの評価も高い。彼らも他の従業員と仕事上での差別は全く無い。現在は準社員というポジションだが、本人の努力次第で正社員への登用も十分可能性はある。

3. 取り組みの内容
(1)雇用管理
従業員は正社員・準社員・契約社員の3段階に分類されている。契約社員から準社員へ、また準社員から正社員への登用制度がある。知的障害の3名も、現在は準社員というポジションだが、本人の努力次第で正社員への登用も十分可能性はある。また、人事制度もそれぞれのカテゴリーごとにあり、人事考課により昇給や昇格が決まる。これは、障害者についても分け隔てなく対応している。もちろん、雇用期間、勤務場所、労働時間、賃金等の労働条件についても障害のあるなしの分け隔てはなく、そのことが、障害者のモチベーション向上に繋がっていることはいうまでもない。
(2)教育・訓練
安全管理は全ての業務の中で最も重要視されており、安全管理などについての教育や訓練は、定期的に全従業員に対して行なわれている。「安全管理や事故予防のためなら、多少お客様にご迷惑をお掛けしてもいい。当初のモットーは何があっても安全第一だ」佐々木岳志社長は常に、従業員に指示している。工場内には、大型の機械がいくつも設置されており、安全管理を怠ると大きな事故に繋がる可能性もあり、従業員の安全への意識は極めて高い。
安全管理を含め、教育訓練や社員研修は充実しており、障害者も他の従業員と同様の内容の訓練や研修を一緒に受けている。これらの教育訓練の場などで障害のない社員とのコミュニケーションを取ることは、重大な事故防止の大きな要素のひとつである。
「入社間もない頃はこちらで記入した報告書に名前だけ書くことがやっとだったのですが、最近では障害のない社員に負けないほどの内容の報告書をあげてくるのです。」人事責任者の山口剛史さんは顔をほころばせて語った。知的障害のある社員は、報告書作成などの経験は皆無であり、当初は困惑した表情を浮かべるばかりで名前を書くことが精一杯であった。しかし、本人たちの向上心と絶え間ぬ努力、そして周りの人たちの優しい指導により、現在のように成長していったのである。
4. 取り組みの効果
(1)効果
障害者を雇用した効果は、障害者のためのみにとどまらず、障害のない社員にも好影響を与えている。「障害者も一人の人間であり、分け隔てする必要はまったくない。」そのような社内風土が浸透し、全従業員が助け合いながら仕事を行なう良好な職場が出来あがってきた。良好な人間関係は、職場を活性化させ、従業員の定着率を向上させる。定着率が高まることで、経験豊富な従業員が増え、ミスやクレームが少なく、また、付加価値の高い製品開発へと繋がってきている。安全や事故防止の意識、コミュニケーションの大切さなど障害者を雇用したことによる有形無形の効果は計り知れない。
一方、雇用障害者数の年度間合計数が一定数を超えて障害者を雇用しているため、毎年75万円程度の報奨金も受給している。
(2)今後の取り組み
今後の取り組みとしては、新たな雇用の創出をどのようにしていくか、ということだ。不況の影響で売上を急速に伸ばしていくことはなかなか困難である。しかし、「地域社会への貢献」という企業理念のもと、障害者の雇用の創出にも前向きに取り組んでいき、地元の発展とともに会社もさらなる成長をさせていきたいと考えている。
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