事業所の理念「地域の暮らしを支援します」を障害者雇用に生かす
- 事業所名
- 社会福祉法人天心会
- 所在地
- 福島県喜多方市
- 事業内容
- 社会福祉事業
- 従業員数
- 340名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 1 内部障害 2 知的障害 4 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要
本事業所は、昭和57年に設立され、昭和58年特別養護老人ホームの開設を皮切りに、老人福祉施設、介護保健施設、養護老人ホーム、生活保護施設関連の12の事業所を運営している高齢者福祉事業を柱とする社会福祉法人である。
法人本部所在地には、9つの事業所が集中的に配置されており、各事業所の連携はもとより、法人設立の母体となった、隣接の医療法人「飯塚病院」と同法人経営の総合病院「有隣病院」との連携を図っている。
高齢社会の到来の中、「長い間、社会のために尽くしてこられたお年寄り方はもちろん、心身に障害があり、経済的に恵まれない方々が生きる喜びを味わいながら住み慣れた地域の中で健やかに安心して暮らせる地域社会の創造と社会福祉の充実を目指す」という飯塚理事長の考えのもと、「地域社会と共にあり、地域の暮らしを支援する」という理念を掲げて地域の関係機関と連携を図りながら医療機関と社会福祉が一体となった利用者中心の社会福祉支援事業を展開している。
施設生活支援部門の入所定員は474名、短期入所15名、在宅生活支援部門(通所リハビリ、通所介護)は80名となっている。平成22年7月現在、職員数は340名(正規職員252名、契約・パート職員88名)であり、介護職員158名中、介護福祉士取得率は74%となっており、質の高いサービスの提供に努めている。
2. 障害者雇用の背景
障害があっても住み慣れた地域で生活したいという願いは高齢者に限らず、若年の障害者であっても同じである。このような考え方をベースに本事業所が「障害者雇用は責任ある事業所の社会的な使命である」という考え方に立って雇用の検討をしていた矢先、地元の養護学校から生徒の雇用について相談を持ちかけられたことがきっかけとなり、卒業生1名(女)の雇用に至った。
障害者雇用は、本事業所の事業内容と相まって自然な流れで進められたという清野部長の言葉が印象的であった。
最初に雇用した障害者の働きぶりが評価されて、その後も養護学校の卒業生が継続雇用されている。
3. 障害者雇用の実際
現在、本事業所には内部障害者2名、肢体不自由者1名、知的障害者4名の計7名が雇用されている。内部障害者、肢体不自由者(下肢の一部機能障害)は障害者雇用としてではなく一般雇用で採用されたスタッフ(看護師他)であり、知的障害者は全員養護学校の卒業生である。そのうち、時間単位で雇用している内部障害者(1名)、知的障害者(1名)がいる。本事業所としては正規雇用に結び付けたいと考えているが、長時間の勤務は体力的に無理な状態であるため、本人の希望を尊重した雇用形態をとっている。
(1)事業所の受け入れ体制
障害者の雇用の流れは、養護学校の生徒を職場実習生として受け入れて、実習期間中に本人の性格、勤務態度、入所者とのコミュニケーションの様子、仕事の進め方等を十分観察した上で、学校側と雇用について協議の上、ハローワーク(公共職業安定所)に求人票を出すというプロセスで進めているという。
雇用の窓口となる職員は特に置かず、実習担当部署の責任者等の意見を参考にしている。雇用に当たって重視しているのは、性格・意欲・態度、協調性、コミュニケーション能力を挙げているが、事業所の利用者が同じような障害を抱えている高齢者であるので、このような能力は全ての職員に求められるものであることは想像に難くない。
障害者の配置に当たっては、本人の性格、意欲、態度等を考慮して、本人が取り組めるような業務内容のある部門に配置するとともに、その部署の利用者の実態も考慮しているという。
例えば、ある事業所で実習がうまくいかなかったAさんは、入所施設での業務なら適合するのではないかという本事業所の判断により配置職場を考慮しながら雇用に至ったという例がある。また担当部署の責任者には事前に個人的な情報の提供や対応の仕方について指導をしているが、同僚スタッフに対しては特に行っていない。
(2)雇用条件
障害のある雇用者の賃金は月給制になっており、知的障害者は業務等の状況により他の雇用者よりは低めに設定しているが、その他の休暇、福利厚生、退職金等については、他の正規雇用者と同じ条件となっている。
(3)従事している業務の実際
知的障害者の配置職場は、介護老人保健施設「天心ケアハイツ」デイケア(通所リハビリ)1名、デイサービスセンター啓愛ヒルズ(通所介護)2名と、特別養護老人ホーム「北原荘」1名である。主な業務は、利用者に対するお茶の提供、食事後の下膳、歯みがき支援、入浴の補助、清掃などの介護補助業務である。
筆者が訪問したときは、通所リハビリ部門で働くMさんは、食後の食器の後片付けとお茶を注いで回ってきびきびと働いていた。時折、利用者から声をかけられると、笑顔で応えており、コミュニケーションもスムーズに行われているという印象であった。また、通所介護施設で働いているAさんとYさんは、利用者の歯ブラシに歯磨き粉を付けて準備作業の真っ最中であった。利用者一人一人の歯ブラシをすべて記憶しており、的確に仕事を進めていた。


(4)働くしあわせ(本人の声)
天心ケアハイツのデイケア部門に勤務しているMさんの仕事に対する感想は以下のとおりである。
○天心ケアハイツで働いて10年になりました。辛いと思ったことはありません。仕事ができ、天心ケアハイツで働いてきたことをほこりに思っています。
○利用者の方が「ありがとうと言ってくれます」私もうれしいです。
元気で明るく、毎日、毎日楽しい生活を送ってほしいです。本当に私もがんばれます。ありがとうと言ってくれてうれしいです。気持ちがいいです。
○困ったことはないです。毎日楽しいからです。働いてきてよかったと思います。仕事がなかったら自分はデイケアにはいません。
○難しいことはないのでとても勉強になります。私も明るくがんばっていきます。
○これからもますますデイケアでがんばっていきます。
※Mさんの利用者を思いやる優しさが伝わってきます。なお、Mさんは事業所の10年の永年勤続表彰とそのがんばりが認められ、福島県雇用開発協会優良勤労障害者表彰を受けており、それがまた本人の励みになっている。
(5)職場の支援体制
①利用者本位のサービスの提供は、本事業所の基本方針であるため、質の高いサービス提供のための研修は全ての職員に求められている。そのため障害のある職員に対しての研修・相談体制については、新採用時に一定の事前研修を行っている。また、採用後、他の職員と同時期に経験者研修を行っているが、将来は、障害のある職員のグループ研修を検討したいと考えている。なお、研修担当の責任者は、事業所の教育担当者であり、その他、問題があるときは、看護介護統括部長が相談に当たる体制をとっている。現在、スムーズに職場に適応しているため、ジョブコーチなどの人的な支援を利用するようなことは検討されていない。
②業務遂行上の配慮
それぞれの職場で、作業工程に関してマニュアルを作成し、仕事に対する不安や混乱の軽減を最小限に留め仕事がスムーズに行くように配慮するとともに、一つ一つの作業遂行につまずきがあった場合に適切に指導できるようにしている。
③生活支援等
余暇の過ごし方など、日常生活をしっかり安定させることが、職業生活の継続のために重要であるといわれている。本事業所では余暇支援等は行っていないが、自力通勤を含め当事者が安定した生活を送っていることが継続的な職業生活に結びついている。
4. 関係機関等との連携
(1)家庭との連携
障害のある職員は全員自力通勤しており、現在のところは、この面で家庭との連携が必要な状況にはないが、自力通勤の支援は、障害者雇用においては重要な家庭の支援であるという認識を持っているという。
(2)養護学校等との連携
養護学校の生徒の実習を受け入れており、進路指導主事を通して連携を図っている。実習受け入れに当たっては、生徒に対して、「あいさつや返事をする」「約束を守る」などの生活指導をしっかり行うことを望んでいる。
また、働くためには基本的な生活習慣、意欲・態度、コミュニケーション、基礎的な数や文字等の指導を行ってほしいと考えている。また、ハローワークとも採用に当たっては情報の交換を行っている。
5. 会社の評価と今後の方針等
障害者の雇用は、スタッフ同士の融和に役立っており、利用者の評判もよく雰囲気を和ませる役割を果たしているという。また、スタッフの仕事の隙間を埋める大事な仕事を担ってくれていると同僚は感じている。本事業所としては、今後も必要に応じて障害者雇用については、前向きに検討していく考えであるという。
本事業所は、地域の中で働き、地域の中で当たり前の生活を送りたいという願いを持っている障害者を高齢者の支援スタッフとして雇用をしている。筆者は、同じような高齢者の事業所で実習をした障害のある生徒が、「高齢者への支援を障害者にさせることは危険がある」という理由で採用に至らなかった事例を知っているが、本人のよさや利用者の状態、仕事の内容などを吟味して、できる仕事を見つけ任せる本事業所の方針のもと、それぞれの職場で自信を持って生き生きと働いている障害者の姿に接し、やさしさを基盤にしたサービスの提供を目指す同僚スタッフ、利用者の高齢者と知的障害者の三者のリズムと、お互いのやさしさが解け合う職場環境が、障害者雇用を支えていると感じさせられた。
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