知的障害者を根気強く戦力化
- 事業所名
- 有限会社トーア乳業
- 所在地
- 茨城県水戸市
- 事業内容
- 食料品製造(菓子製造・販売業)
- 従業員数
- 43名
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 8 製造 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要
代表取締役の高梨保男氏が以前働いていた水戸市の冷菓メーカー及び販売会社が赤字続きで、平成10年に閉鎖の話が出た。そこで高梨氏がこれを譲り受け、スタートさせたのが現在の「トーア乳業」。
当時は、牛乳加工製品やアイスキャンデーを製造していたが、現在は、これら製品の製造は行っておらず、社名の「乳業」に名残があるのみである。主力製品はどら焼。その他に大福、金つば、まんじゅう等を製造している。
製造、営業拠点は、本店と製造販売を取り扱う千波店(水戸市)の2カ所。平成22年8月には、千波店の場所を変えて拡大し、ここに本店の製造機械を集約し、さらなる効率化をはかるとともに、障害者の一層の雇用拡大と会社の飛躍発展をめざしている。
2. 障害者雇用の経緯
(1)現在当社には、知的障害者が8名勤務している。このうち重度知的障害者の3名は、高梨社長が以前、水戸市の冷菓メーカーで一緒に働いていたときの従業員である。3名とも高梨社長の人柄を慕い、一緒に働くことを希望し同行して来た。
(2)その後、高梨社長のご子息である高梨隆治専務の高校時代の恩師が特別支援学校に赴任し、これを契機に特別支援学校から現場実習を依頼されるようになり、継続的に知的障害者を雇用するようになった。その後、雇用された知的障害者のみなさんの「障害者に対して面倒見のよい会社」という口コミも手伝って、近隣の各特別支援学校から毎年現場実習を依頼されるようになっている。
今年は厳しい就職難ということもあり、特に3名の現場実習の依頼を受けている。もちろん、ハローワーク(公共職業安定所)からのトライアル雇用の依頼も多い。
(3)これまでの障害者雇用に対する積極的な貢献により、当社は栄えある「平成22年度独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構理事長努力賞」を受賞した。
3. 取り組み内容
(1)募集・採用
採用されているほとんどの障害者は、特別支援学校からの現場実習者かハローワークからのトライアル雇用者である。やはり特別支援学校やハローワークの担当者の「何とか雇用してほしい」という熱心さと協力性は、経営者の心を打ち、採用につながってくるとのことである。
(2)勤続
8名の知的障害者のうち勤続年数のベスト5は、全員重度障害者である。しかも、5名中4名は10年以上のベテランで、平均勤続年数は、11.4年と10年を超えている。雇用の安定ぶりが、ここにもはっきりと見てとれる。
(3)賃金
①賃金は、重度の知的障害者を含め、全員最低賃金を上回っている。しかし、全員が最初から賃金以上の働きをしているわけではない。それにもかかわらず、最低賃金を超える賃金を支払うようにしているのは、社長、専務の「いずれは、賃金を上回る働きをしてくれるだろう」という期待を込めた“先行投資”。
②現に、この考えを証明するように、知的障害者でも10年以上のベテランは、十分期待に応え、それ相当の働きをしてくれている。現時点では、能率が悪くても、いずれはこのベテランのようになってくれると信じている。
障害を持たない者を含め全従業員の賃金未満、賃金以上の凹凸の平均が、プラスマイナスゼロ以上になってくれれば、企業は存続するという懐の広い考えで成り立っているわけである。
(4)作業環境の改善
①どら焼を中心とした焼き菓子が中心のため、製造工場内は、常に熱気・熱風が充満している。熱い夏は、40度を超えてしまい、スポットクーラーは設置されてはいるものの、快適な環境とは言い難いところもある。
②しかし、平成18年には、古いタイプの換気扇と最新式の強力換気扇に交換し、これと一緒に工場全体にダクトを設置した。これにより、空気の流れがグンとよくなり、職場環境も格段に向上し、効率アップにもつながっている。
4. 製造機械の導入、改善
(1)知的障害者の長所と短所
知的障害者によくある特徴は、ひとつの仕事を覚えるのに時間が掛かる。また短期間に多くのことを覚えることは得意ではない。そして、覚えたこと以外のことはやらない。つまり、「応用の利く人」は少ない。一方、長所は一度覚えたことを決して忘れないこと。
また、やってはいけないことをしっかり覚えると、覚えた作業手順のみ行い、障害を持たない者のようにその他のことに手を出さない。そのため、「動いている機械に、ついウッカリ手を出しケガをする」などということはまったくない。また多くの雇用者が心配するところであろうが、周囲の者が気を使っていることもあり、知的障害者の安全面に関しては、障害のない者より心配はないとのことである。
(2)そこで、できる限り機械の取り扱いを簡略化し、判断業務を減らし、すぐに作業を覚えられるようにするため、自動機械の導入、改善を積極的に進めている。
まず、重労働であった餡を練る作業は、製餡機が取って代わった。また、製餡機は、高温であずきをグツグツ煮るため、鉄フタが高温になり、フタを開けた時、熱い蒸気が周囲に吹き出す。このため、誤ってフタや蒸気に触れて、小さな火傷をすることが結構あった。そこで製餡機のフタを開ける作業(写真1)を手動から電動に改善した。これにより、火傷をする人は、ほぼゼロとなった。
(3)以前の全自動どら焼機は、ときおり形の不揃いのものが出たり、異物混入もあったため相当に神経を使う作業で、ベテランが担当していた。しかし、現在の最新型タイプは、型崩れもほとんどなく、異物の混入は、金属探知機(写真2)がチェックしてくれるので、新人でも十分作業ができるようになった。
(4)生地練り作業は、粉ふるい機(写真3)に任せて安心の作業となった。これまでは、小麦粉を入れて汗まみれになってふるうという重労働であったが、今では完全自動化されて、これも誰でもできる簡単な作業となった。
(5)1分間に何個の卵を割ることができるかが名人芸の基準となっていた割卵作業も、自動割卵機(写真4)の導入で、新入社員でも名人芸を超える作業ができるようになっている。しかも、「機械にお任せ」ばかりでなく、卵をセットし終えた僅かな空き時間も有効活用しようと、その間、自分でも卵を割っており、スピードアップにさらに磨きをかけている。




5. 今後の課題と展望
(1)穏やかな社長が知的障害者の雇用に対して理解のあることは納得できるが、若くてやり手、バリバリの専務がなぜこれほどに理解があるのか疑問符がつくので伺ったところ、専務が幼いころから工場には知的障害者がおり、しょっちゅう工場に遊びに行って、知的障害者が一様に持つやさしさに直に触れてきたためであろうとのこと。「これまで障害者に対して何の違和感もなかった」という言葉に納得。
(2)専務いわく、「障害者は、スピードを要求しなければ、かならず期待に応えてくれる。最初の半年は両目をとじて見る。次の半年は、片目を開けて見る。両目を開けるのは、1年後」。これ位の気持ちで見ていれば、イライラすることもない。もちろん、すべての人が順風満帆に育っていくわけではない。
欲求不満が募ってくると、物を投げたり、道具を壊す人も出てくる。しかし、ストレスの原因を突き止め、それを解消させることができれば、穏やかな元の状態に戻る。また、いかにストレスをためないようにするかもポイント。日々顔色をしっかり見て、心配顔、疲れ顔、イライラ顔になっていないか見極めて、話をじっくり聞いて、その原因を取り除いてやることが大切である。
(3)子供自身に対する教育も大切であるが、その土台となる親の教育はもっと重要であろう。知的障害を持つ子供と親の関係も同じ。子供を不憫に思う親の気持ちを理解できないわけではない。しかし、子供のわがままを聞く一方で、子供が「会社に行きたくない」と言えば、親が「悔みができて子供を休ませます」と嘘をついてまで休ませることがある。その子供がスーパーで遊んでいるということを耳にするとガッカリする。こういうことが続くと、職場の仲間からも理解されなくなってくる。
甘やかしは、決して子供のためにならない。心を鬼にしても「障害部分以外は、障害のない者と同じに扱う」ことを心がけてほしいとのことである。
(4)一方、スポーツマンタイプは、「期待はずれ」はなかったとのこと。部活動を通して、先生、先輩の厳しい指導を受ける。甘えは許されないし、厳しさを克服して卒業してくるわけで、仕事も生活も大変まじめできっちりしている。体も丈夫でへこたれない。手放しでほめたいと言う。
(5)現在、当社の障害者雇用率は30%を超えている。3人に1人は知的障害者である。しかし、社長、専務は口をそろえて力強く言う。「牛歩の歩みではあるが、目標をめざして着実に歩んでくれる知的障害者の雇用は、雇用率にとらわれず、これからも続けていきたい」と。
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