天候と仲良くしながらステップ・アップを目指す
— ローン(芝生)の整備は僕等に合った仕事 —

1. 事業所の概要
房総半島を貫通する館山道沿いに、市原市が誇る「市原スポレクパーク」がある。公式サッカー場4面を有する3万平方メートルの緑地で、この整備を任されているのが当社である。国体や高校サッカーの公式試合、また「JEF・ユナイテッド」の練習場としても使用されるので、高度の整備技術が求められる。専用サッカー場としての要件から、トラクター、芝刈り機等を用いた機械整備のみでは不十分で、ディポット(芝穴)補修、除草、芝生の養生といった手作業が大きな比重を占める。
ところが、ディポット補修一つとっても、穴に入れる砂の量は一つ一つ状況により異なり、作業者の判断が必要で熟練を要する。広いコートを、むら無く、漏れなく、能率良く整備することは、単純だが根気と忍耐力が必要である。また、「芝生の養生」は、枯れた芝生をゴルフカップ大の筒状の穴を掘って芝生を植え替える作業であり、補修箇所は1コートにつき約百箇所に及ぶ。しかも、これらの野外作業を、決められた試合日程に合わせて天候に拘らず実施しなければならないので、かなりの能率を求められる。こうした熟練の要る手作業の部分を担っているのが3名の障害者なのである。




2. 障害者雇用の経緯
当社は、現社長が昭和48年に個人創業し、昭和54年1月法人化した地元の建設(造園)業者である。工場や公共施設の緑化工事など土木主体の造園工事を、ランドスケープ(デザイン)から 緑化(植栽)まで総合的に手掛けている。また、社長が農水省認定の樹木医の資格を取得しており、神社等から注文がくることもある。 平成17年「市原スポレクパーク」の造成工事に参画し、引き続きそのメンテナンス工事を受注した。事業多角化の一環として緑地管理業務に進出することを決意したからである。同時に、長年抱いていた「社会貢献」の夢を障害者雇用によって実現したいと考えたからである。

社長の障害者雇用に寄せる思いとは、「障害のある者が障害のない者と同じ様に自分自身の努力によって少しずつでも業務のレベルアップを図り、業務の遂行を通じて経済的にも自立し、ステップ・アップすること」である。また、そうした機会を提供することが社会貢献と考えている。勿論、そうした努力と成果に対しては障害を持たない者と同様の規準で報いたいと思っている。
この度の緑地管理業務は、「同じ単純なルールでの作業の繰り返しなので根気の要る仕事ではあるが、障害者の能力を発揮しやすい」また、「本人の適性があれば、芝生の管理は障害者に安全な仕事場を提供できる」「仕事の成果を面積で測ることが出来るので経済性(能率)を追求できる」といった特徴があり、障害者に適した業務であるとの計算もあった。
そこで、平成20年2月、ハローワーク千葉南、市原市役所、市原商工会議所三者合同による「障害者就職面接会」に参加し、当社ブースを訪れた5名の障害者を全員トライアル雇用で受け入れた。しかしながら、そのうちの1名は筋肉萎縮症で、間もなく通勤困難から入院してしまい、もう一名の精神障害者は、気分の変化が著しく、いずれも職務不適応により、相手方から辞退を申し出てきた。結果として残ったのが現在の3名である。3~6ヶ月のトライアル雇用を経て、その後は地域の障害者就業・生活支援センターからジョブコーチ(職場適応援助者)の派遣を受けることを前提に常用雇用(正社員)に移行した。ちなみに当社の勤務体系は週6日制で、時間帯は月~金については午前8時~午後4時15分の1日6時間45分労働、土曜については午前8時~12時である。
3. 取り組み内容
芝生の整備は作業者の判断が必要な作業であり、はじめに仕事の内容を障害者が十分理解できるようにすることが必要となる。しかし当社においては、同じ事業所の管理者や、障害者以外の従業員は、自分の業務をこなしながら障害者に接していくことを基本としており、大企業のように援助者を選任して障害者に張り付ける余裕はない。当事業所担当の部長が、毎朝各人に指示を出し、出来る限り彼等の仕事ぶりを観て回り、温かく見守りつつその場で適切に指導・援助を行って、レベルアップに努めている。
そこで、ジョブコーチに期待するところが大きく、支援により著しい向上が見られたことがある。そのジョブコーチの場合は、業務の内容を先ず自ら覚えて理解し、それを上手に伝達することによって、事業者側と障害者の間に立った「翻訳者」の役割を果すことができたのではないかと思う。 更に、事業者側に対して、障害者に対する接し方や適確な指示の出し方、コミュニケーションの図り方について具体的な助言を行った。
一方、事業者側としても、障害者に目標(ノルマ)を強要せず、障害者自身が毎日少しでもレベルアップを図れる(一歩でも前に進む)ことのみを期待して、温かく見守るよう努めてきた。また、管理者は障害者個々人の性格や特徴を掴んで指示するように心掛けている。例えばA君に対しては「相手が怒りだしても同調しない」、B君に対しては「吃音が出るような時は、ゆっくり待って聞く」「難しい指示は出さないようにする」、C君に対しては、「きつい言葉は控え、優しく接する」「甘やかし過ぎず、また強く言い過ぎないようにする」といった具合である。また、出来るだけ「声掛け」をするよう努めてはいるが、業務以外の面で飲み会を設定したり、敢えて他の事業所の従業員との交流の機会を持つようなことまではしていない。
4. 取り組みの効果
障害者個々人に与えられる作業の範囲はそれぞれ独立しており、比較的マイペースで進められる作業環境であるが、反面、各人の仕事の出来映えや能率が歴然と表われてくる。その際特に注目しているのが「着実にレベルアップが行われているか?」ということ、およびレベルアップの程度である。前者については一様にレベルが上がってきているが、後者については個人差が強く出てきている。
過去2年間で最も著しい成長を遂げたのは重度知的障害者のA君である。「穴に砂を詰める時は、練りこんで足で締め付けるようにしている」といったように自ら進んで工夫を施し、目標のレベルは既にクリアしていて、仕事の成果は障害のない人以上である。そのことについてはジョブコーチによる支援の成果が出ていると言える。そうした成果が自信となって表れ、「仕事が楽しい、雨でも苦にならない」「周囲の人達は自分に親切にしてくれるので働き易い」といった感謝の気持が言葉になって表れ、「出来れば機械の操作も習いたい」という新たな学習意欲も見せている。こうした「仕事に対する取組み姿勢」の差は、障害者個々人の家庭環境によっても違ってくるように思われる。例えばC君の場合は、「自分の稼ぎが家庭の経済を支えている」という意識が強く、そのことが「頑張って稼ぎたい」という意欲になって表れている。
5. 今後の展望と課題
障害者雇用を軸とした緑地管理事業に一定の成果が得られたので、次の段階として、当事業所の障害者を更に1~2名増やし、草刈り機による機械操作や樹成(植栽)への職務拡大を図っていきたいと考えている。
また、当事業所以外にも公園や緑地管理(メンテナンス)業務を受注できる可能性があるので、それまでに戦力になる障害者が育っていれば、彼等を中心にした構成で事業展開を図っていきたいと思っている。その狙いは、「障害者本人に意欲さえあれば障害のない者と同じように戦力になる」という、「障害者に適した職場のモデル事業」となる夢の実現にある。勿論そのためには、障害者個々人の能力や仕事の成果を正しく評価し、能力と成果に応じた報酬を支払うことが前提である。
こうした反面、事業者としては、「ジョブコーチの支援を得て障害者雇用管理のノウハウを蓄積し、障害者の業務遂行能力のレベルアップを図って生産性を高めていく」ということが課題となる。その際、「ジョブコーチの活用」特に「個々の障害者とジョブコーチとのマッチング」が重要な鍵を握るように思われる。現行の支援について、支援を依頼した支援機関のジョブコーチでは、3名の障害者に対して1名のジョブコーチを付けることが通例になっている。事業者としては、派遣されたジョブコーチが自社の障害者にマッチングしていないと思ったならば、期間の満了を待たずに別のジョブコーチに替えて貰うことを働き掛けることが必要であると思っている。
また、ジョブコーチを派遣している支援機関側としても、適切なマッチングを実現できるようジョブコーチの変更等に関して柔軟に対応することが、お互いにとって望ましく、かつそのことが障害者雇用の促進に繋がることを訴えたい。当社においても、精神障害者については、「障害者本人は働きたい意欲を強く持っているものの、思うようにレベルアップが図れないでいる」という問題点を抱えており、上記の方法で解決を図っていきたいと考えている。
いろいろな課題はあるものの、全体としては障害者自身のステップ・アップが図れ、経済性も向上しているので、結果的には障害者雇用に踏み切って良かったと評価している。その中には「障害者以外の従業員への好影響」といった効果も含まれている。同じ事業所の他の従業員は、障害者と接することにより、「相手を思いやる自然な言動」「面倒見の良さといった態度」が身に付き、「社会を見る視野が拡がった」、「人間性が豊かになった」との感想を漏らしている。当社は敢えて社会貢献企業を標榜したいとは思っていないが、彼等が当社の将来を担って行くようになったとき、当社に対する地域社会の見方も現在とは異なったものになっているのではないかと期待している。
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