事業所名

株式会社ワイキャブ

所在地

神奈川県横須賀市

事業内容

タクシー事業

従業員数

330名

うち障害者数

11名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害
聴覚障害
肢体不自由	5	タクシー運転
内部障害	6	タクシー運転、LPガススタンド業務
知的障害
精神障害

目次

1. 障害者ドライバーは安全運転
2. 初心者も安心の養成制度
3. 体調や通院にあわせて
4. 防犯対策
5. こんなにおもしろい仕事はない

事業所外観（本社・横須賀営業所（事務所棟、駐車場、LPガススタンド））

ホームページアドレス

http://www.ycab.co.jp

1. 障害者ドライバーは安全運転

保有車両123台。横須賀、横浜、相模原と3つの営業所をもち、330人のタクシー乗務員が所属する株式会社ワイキャブ。

障害者雇用率は2010年3月時点で15.05％と高く、ここ数年は常に10％以上の数字を維持している。現在、障害のある社員は肢体・内部あわせ身体障害者が11人。内9人が運転手だ。

「安全第一で運転ができれば、障害の有無は関係ありません」と言うのは、取締役の山田努さん。車いす運転手向けの特別仕様車などは用意していないので、重度の肢体障害は断る場合もあるが、基本的には障害のない人と変わらぬ採用基準としている。

「第一に、危険な運転をしないこと。それから、接客業としての適性です。タクシー業務は運送業ではありますが、同時にサービス業です。お客様に気持ちよく利用していただくための会話や心配りができるか、などがポイントになります」

山田さんは、運転に関しては、むしろ障害者のほうが安全意識が高いと見ている。障害を持っているという自覚がある分、慎重な運転になるというのだ。

また、体が不自由な人や足腰の弱い高齢者など、弱い立場のお客様の目線に立って物事を考えることができるので、細かい配慮が行き届くという。

「他社でも多数採用していますし、業界としては、障害者のタクシー乗務員はさほど珍しい存在ではありません。仕事をしたいという意欲さえあれば、大歓迎。ぜひチャレンジしていただきたいですね」

タクシードライバーは、想像以上に障害者に門戸を開いた職業かもしれない。

2. 初心者も安心の養成制度

ワイキャブでは、タクシー乗務員に必要な第二種運転免許の取得に際し、全額会社負担による新任乗務員養成制度を設けている。期間は1ヵ月。その間の給与も支給される仕組みだ。

障害者の応募の場合、そのほとんどがタクシー乗務員初心者というが、運転技術や交通知識、接客ノウハウ以上に「不安だ」と声を揃えるのが、地理情報である。

「裏道や抜け道まで、あらゆる道に精通していないと務まらないんじゃないかと心配されるようですね。当社の車両にはナビゲーション・システムが搭載されていないので、なおさら。でも、ナビというのは案外大ざっぱですし、1ヵ月も路上に出れば、おおよその道はつかめてくるものです。分からなければ無線で本部に問い合わせればいいし、いざとなったらお客様に教えてもらうことだってできるのですから」

以前に一人、養成期間を終えてもなお不安がぬぐえず、なかなか路上に出られなかった新人（障害のない人）がいたという。山田さんは地図を渡し、「とにかく 1ヵ月、お客様を乗せなくてもいいから、地図を見ながら自分の思うままに運転してこい」と送り出したとか。自信が持てるようになるまでに時間はかかったが、自分なりに地理を把握することができたようで、その後、彼は立派なドライバーに成長した。

「たいていのドライバーは路上に出始めてしばらくすると、『心配するほどじゃなかった』と安心した表情で言いますよ」と、山田さんは豪快に笑った。

山田努取締役

昨年秋、ワイキャブは、ハローワーク主催による障害者就職面接会で、面接にきた50代の男性を1人採用した。タクシー乗務員は初めてという内部障害の持ち主。彼は「人生をやり直すつもりでがんばりたい」と意気込みを語ったという。

「人当たりがよく穏やかな性格が見てとれたので、この仕事に向いていると思ったのですが、それ以上に働きたいという強い意欲があった。彼なら大丈夫と即採用を決めました」

順調に養成期間を終えて第二種免許を取得。今年から元気に路上に出ているそうだ。

3. 体調や通院にあわせて

ワイキャブのタクシー乗務員の就業形態は以下の通り。本人の希望などにより、いずれかを選べるようになっている。

●一般乗務員………月間12乗務。給与は基本給+諸手当。賞与年2回

●定時制乗務員……月間7.5乗務。給与は基本歩合+割増歩合。1年契約

（注）1乗務はAM8：30～翌AM1:30

障害者の社員は一般乗務員、定時制乗務員ともにいるが、特に内部障害で定期的に人工透析を受けなければならない人などは定時制を選択し、通院日と仕事日をうまく調節しながらシフトに入っている。

また、仕事の途中で具合が悪くなった場合は、無理をせず営業所に戻り、休憩室（24時間オープン、仮眠室あり）で休んだ後に帰宅するよう指導している。 体調にあわせ、仕事量を自分でセーブすることができるのも、この仕事の利点といえよう。

ワイキャブのタクシー車両

ドライバーの体調管理には注意が払われ、法律で義務付けられている乗務前後のアルコール検査（思わぬ病気が見つかることもある）のほか、健康診断は年に2度、全社員を対象に実施。休憩室には血圧計が設置され、健康管理への意識付けなども行われている。

4. 防犯対策

近年、タクシー乗務員を巻き込んだ事件が話題になっているが、ワイキャブではどのような防犯対策を取っているのか、山田さんに尋ねた。

「全車両に防犯ブザーを設置し、万一のときは大音量とランプで周囲に知らせるようにしています。また、危機を察知したときは車両も金銭もすべて放り出して飛び出せ！  そう徹底して教えています」

その他、「トラブルに巻き込まれないための心構え」などもレクチャーし、対策に努めている。

京浜地区では、5年後にタクシー無線の完全デジタル化が予定されている。ワイキャブでは、現在、地域5社による共通無線を使用しているが、デジタル化に伴い、全車両にGPS機能を搭載したデジタル無線機を設置する計画だ。

「GPS機能があれば、どの車両がどこにいるのか、すべての位置が把握できるし、事故が起きたときに素早く駆け付けることもできます」と山田さん。

ドライバーがより安全に、安心して仕事に取り組めるよう、高度な管理機能に期待したい。

5. こんなにおもしろい仕事はない

山田さんは言う。

「確かに、長時間クルマに乗りっぱなしの仕事ですし、前章でお話したような防犯の心配もあります。でもね、こんなにおもしろい仕事はないですよ」

今日はどこの駅で「つけ待ち」しようかと計画を練り、何人のお客様を乗せようと目標を立て、また実際に乗せたら乗せた分だけ収入という成果になって返ってくる。「自分自身で仕事場を探す」楽しさが、この仕事にはあると力説する。

その分、目標や課題を自ら課し、また常に仕事に対するモチベーションを維持させるための自己管理も必要だが、山田さん曰く「仕事のやりぐせさえ身につけば、必ず伸びるし稼げるし、稼げるようになれば、またどんどんおもしろくなってきます」。

「障害者だから無理」と決めつけることはない。

タクシー乗務員は、仕事選びのひとつの選択肢になるのではないだろうか。