障害者と共に成長する会社
~障害者雇用は会社経営の発想の源である~
- 事業所名
- 龍屋物産株式会社
- 所在地
- 神奈川県伊勢原市
- 事業内容
- 珍味、嗜好食品、紅茶等の食品輸入・企画・製造・卸業
- 従業員数
- 80名
- うち障害者数
- 9名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 9 荷受け・箱入れ・出荷・ピッキング・検品・検査・送り状作成・データ入力等 精神障害 - 目次

1. 事業の概要
小田急線「伊勢原」駅より、徒歩15分の場所に龍屋物産株式会社はある。同社は昭和45年(1970年)創業。元々は熱海の旅館に珍味食品を提供するサービスが主体の事業であった。現在もホテル・旅館への卸は販路として続いており、龍屋物産の特徴の1つである。
さらに現在は、ナッツ、ドライフルーツ等の輸入に力を入れ、高品質な製品を開発し、常に付加価値を見いだせる新しいマーケットへの事業拡大を行っている。例えば「トルコ産干しいちじく」や「干しブドウ」の販売・PR活動などの企画力、発想力が同社の強みである。
また、日本において、ナッツ、ドライフルーツの歴史は浅く、今後も参入できるマーケットがあり、様々なライフシーンでの提案が可能であると考えている。
現在、従業員80名のうち、9名の知的障害者が活躍している。また、取材時にはその他に1名のトライアル雇用中の障害者、1名の特別支援学校の実習生が研修をしていた。
会社の入口付近には、地元の方のリクエストで直営店も2009年4月にオープンし、ここでは龍屋物産で扱うほぼ全ての商品が購入できる。
代表取締役社長と製造部長から同社の障害者雇用の取り組みについてお話を伺った。また、同社は障害のある従業員を「えいぶるさん」と呼んでいる。これは社長が命名した呼び名で、“可能性を多大に秘めた人”という意味が込められている。
2. 障害者雇用の動機・経緯
障害者雇用を開始したきっかけは、創業者の地元の知り合いで障害をお持ちの娘さんを受け入れた事であった。コミュニケーションを取るのも苦手で、仕事がつとまるかどうかも半信半疑であったが、創業者は思い切って受け入れることを決断。彼女は中学校卒業後すぐに龍屋物産に就職した。日に日に彼女が成長していく姿は周囲が驚くほどであった。
その女性は定時制高校に通いながら勤務を続け、すでに退職をし、現在はご結婚をされて家庭を築いているという。
この話がきっかけとなって、特別支援学校の先生から職場実習の受け入れを頼まれることになり、その機会もだんだん増え、いつの間にか気がつくと龍屋物産は地元でも有名な障害者雇用の優良企業となっていった。
実はきっかけは「自ら進んで」というよりは周囲からの後押しがあり、障害者雇用がスタートしたのだった。
以後、障害者雇用を継続して行うことになったのは、この後で詳しく述べるとおり、障害者の潜在能力の高さを発見したこと、会社にもたらしてくれるメリットが大きかった事などから、経営方針の柱として障害者雇用の取り組みを推し進めることとなった。
3. 取り組み内容
(1)募集・採用
採用においては、多くの場合、特別支援学校から実習を受け入れ、研修を積んでから本人、家族、施設や特別支援学校の先生との面談を経て入社するパターンである。また、ハローワーク(公共職業安定所)経由でトライアル雇用を受け入れる場合もある。
採用の判断時において、特に気をつけている事を伺った。重要な点は、面接の際に「目や表情などを良く見ること」である。どんなに能力のある方でも本人の意欲がなければ長続きはしません。話をする時に本人の表情を見ればすぐに本心が分かると指導員の飯嶋氏は言う。
今、活躍中の障害のある従業員は皆、働くことを心から楽しんでいる、欠勤もほとんど無く、仕事がない休日を残念だと言う者もいるほどだ。無遅刻・無欠勤で勤務態度は非常に真面目であり、全社員のモデルとなってくれている。働くことを楽しめる事が、採用条件の最も重要な点である。
(2)障害者の業務・職場配置
職場の配置には、一人一人の人格や特性を尊重し活かす事を徹底している。たとえば、とても心配症な性格の人には、検査やチェック等細かい仕事が向いている。お昼のお弁当の集金や計算も彼の仕事である。パソコンが得意な人にはデータ入力(伝票作業)を担当してもらう。また、障害のある従業員の成長を促す意味で、従事・指導方法に工夫をしながら苦手と言われることをしてもらうこともあった。自閉症の人はコミュニケーションが苦手な方が多いため、彼専用の電話回線を引き、外出先からかけてくる営業の電話を受ける担当になってもらった。最初は電話に出ることもできず、電話に出たとしても会話をすることができなかった。しかし、対応方法を提示しつつ根気強く電話応対に従事させたところ、今では営業からの電話にもはっきり応答できるようになった。また電話応対をするようになり、今では優良社員として働いている。

また、障害のないパート従業員よりも年齢の若い障害者は、デジタル機器や新しい機械を導入した際にも覚える事に抵抗がなく、むしろ積極的に挑戦してくれるので、周囲からとても尊重される存在になっている。また新しい機器の導入時に最初に障害のある人に覚えてもらうことは、社内のマニュアル作りにも大変役立つ。障害があっても出来るようにするために職員は知恵を絞る、その結果、障害者が覚えたやり方で、他のパート社員に操作を教える際に、非常に分かりやすいマニュアルを作成することができる。社長の多田氏は「障害のある人がいることで我々は知恵を絞ります。その結果発想が豊かになっていると実感しています」と話す。
(3)障害のある従業員の一日の主なスケジュール
8:50 出社 ユニフォームに着替える 手の衛生検査
※手の検査(30秒石鹸を泡立てて手洗い、30秒水洗い、30秒消毒)
9:00 朝礼
※朝礼の進行係も障害のある従業員が担当。
また、月に1回、障害のある従業員についての評価をパートさん自身が発表するコンテンツもある。
(例)どんな事をしてもらって業務がはかどったというエピソードや、こういう仕事ぶりや成長に感銘をうけた等。内容は日誌にも掲載をする
~始業~
各担当に分かれて業務を行う
・箱作り、原材料出し(原料の計算、袋詰め)
・伝票発行、送り状のデータ入力
・ピッキング(伝票に基づいて商品を箱詰め)、送り状を貼って発送
11:00 体操(障害のある従業員が考案したオリジナルの体操)
11:30 昼休み(前半のチーム)
12:30 昼休み(後半のチーム)
※お昼は皆で一緒にいただく。楽しくおしゃべりをしながらの昼食。このようなコミュニケーションが非常に大切なときもある。
12:30 午後の業務開始(前半のチーム)
13:30 午後の業務開始(後半のチーム)
16:00 休憩(5~10分)
16:50 片付け・掃除(自分の周り)
※掃除は日々身の回りの掃除のほか、月に1度、食堂、廊下、ロッカールーム等を持ち回りで担当する。
※日誌は、本人と指導員、ご家族との重要なコミュニケーションとなっている。毎日、丁寧に読みコメントを添えるのが指導員の日課である。
17:00 終業
(4) フォロー体制の特徴
パート従業員を含む全員が、障害のある従業員の教育を担当するという方針。その中でメインの指導員として対応をしているものは現在2名。その2名とも、障害者職業生活相談員資格を取得。自発的に考え、指導ができる従業員の育成が今後の課題でもあるという。

パート従業員が一丸で仕事に取り組む

障害のある従業員が担当

4. 今後の課題や展望
障害者雇用はずっと継続して取り組んでいく。さらに、社会へ訴求をしていけるような存在になっていきたい。まずは地元伊勢原市の障害者雇用を社会のモデル事例としていきたい。また将来は、障害の有無に関係なく同じ賃金を支払う事も目標にしていきたい。そのためにも助成金は非常に重要であると考えている。
今後、障害者雇用を検討される企業へのアドバイスとして、お話を伺った。
受け入れる側の心の余裕は不可欠である。「効率」という1つのものさしだけでは見てはいけない。また、経営トップの理解の促進と、現場で障害者と働く指導者の育成も非常に重要な課題である。障害のある従業員に対しては仕事だけでなく、生活面での指導も行い、自活できることを目指して欲しいという思いでいる。
最後の質問として「もし、障害者の雇用をされていらっしゃらなかったら今、会社はどうなっていますか?」と伺った。
多田社長の回答は「極端なことを言えば、会社は存続していないかもしれないですね。障害のある従業員抜きにはもう会社は成り立たないところまで来ています」との事。また、社長自身、「障害者」を雇用している中で、「一人一人の特徴をどうしたら活かせるのか?」「どうしたら彼らが楽しく働くことができるのか?」と考え続けた。その結果、経営戦略を考えるときにも、会社の独自性を考えられるようになったり、差別化撤廃をはかるときの発想の源泉になったりしている。
5. まとめ(取材者記)
パート社員が毎月、朝礼時に発表している障害のある従業員者への評価、フィードバック等その内容の一部を以下に紹介する。
パート社員Aさん
「この会社に入るまで、障害者のある人達がこんなに素直で、こんなに何でも出来るとは知りませんでした。会社にとっても私にとっても大切な人達です。これからも障害のある人と共にがんばっていきたいと思います。」
パート社員Bさん
「年末の忙しい時、チェック業務を助けてくれてとても助かりました。慎重に慎重を重ねた性格の人なので、細かい点までよく検査をし、不備を発見してくれました。今やチェック業務になくてはならない人となりました。」
パート社員Cさん
「私自身、新しい業務に異動になって3週間になりますが、分からないことだらけで毎日四苦八苦していますが、それを完璧にこなしているのでスゴイと思います。障害のある人の真面目な仕事ぶりと前向きな姿勢を見習って私もがんばります。頼りにしています。」
このように龍屋物産にとって、障害のある従業員は不可欠な存在であることは間違いない。障害者と共に会社も継続して成長を続けていく龍屋物産の取り組みは、経営のヒントも多く含まれており、大変参考になる事例である。
「障害者雇用の促進」と聞くと多くの方は福祉的な意味合いが濃い印象を持つ方もいるが、実際に障害者雇用のモデル事例は、障害者の方一人一人が会社の戦力となり会社に貢献ができていて成り立っていることが特徴的である。その効果は売上、利益、効率といったような数値として目に見える成果と、目に見えないけれども周りにもたらしてくれる働きやすい環境、社会からの評価(CSR)など両軸がある。同社はまさにそのバランスを実践している。
特に取材を通して印象に残ったのは、障害のあるなしにかかわらず、龍屋物産の社員は皆とても明るく思いやりに溢れ、意欲的な事である。
障害者と共に働き成長しているという自覚と自信の表れであると感じた。
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