職場全体が障害を意識しない環境づくりで永年勤続実現

1. 事業所の概要
生活協同組合CO・OPとやま(コープとやま)は昭和49年(1974年)に約530人のお母さんたちが手をつなぎ合って、富山県地域市民生活協同組合として誕生した。
当時は、高度経済成長がもたらしたAF2やPCB汚染などによる食品公害や大気汚染などが社会問題になっていた。このような中で「自らのいのちとくらしを守るために」をスローガンに立ち上げたのがこの生活協同組合である。
スタート時は富山市を中心に事業が取り組まれ、まず自家配合飼料による鶏卵の供給や、無添加ウインナーの開発など食料品の品目を拡大していくとともに、対象も県内全域に広がる発展を見せた。さらに、灯油などの取り扱いを進めたほか共済事業も手懸け会員数を増加させた。
平成2年(1990年)には名称を今の「CO・OPとやま」とした。
特に、食の安全を求める世相の広がりとともに事業拡大が進み、現在では、富山県内で2店舗と4か所の配送センターを核に供給事業を展開し、会員数は設立当初の約530人が平成22年(2010年)4月現在、約62,400人となっている。
障害者雇用はこうした進展の中で実現した。CO・OPとやまの基本理念は、「一人ひとりが力を合わせ、より豊かなくらしの創造と平和な社会をめざす」である。
そしてサブスローガンは、①出資、利用し一人ひとりが運営に参加する②安全で安心安定した豊かな食生活をめざす③住みよい環境と平和な社会を未来につなげる④自ら学び、みんなに知らせて人間らしい豊かなくらしをめざす、と謳っている。
「お互いに助け合い、相手に敬意を払い、優しい心が生きる環境づくり」の精神が積極的な障害者雇用の根源となっている。
平成21年11月には、障害者雇用の促進及び職業の安定に顕著な功績があり、他の事業所の模範であるとして、富山市障害者雇用優良事業所表彰を受けた。


2. 障害者の職場
CO・OPとやまの事業は、(1)供給事業 (2)共済事業 (3)サービス事業に分けられるが、過去、障害者が登用されたのは、供給事業に集中している。
一般に製造業や販売業では、職務の内容が限定されているが生活協同組合の供給事業の中には多様な作業がある。
生鮮食品、家庭用品、衣料品等共同購入し店舗販売や車両による受注商品の宅配サービスで組合員に届けている事業が、4人の障害者の職場となっている。
商品の仕入れの際の搬入、出荷の積み込み、商品の仕分け、袋詰め、陳列、それに店舗管理など多種にわたる作業があり、この中に、それぞれの障害者が適性を発揮できる業務が多く存在している。野菜類の袋詰め、商品陳列、バックヤードの片付け、商品の運搬などは的確な指示のもと経験を積むことで、立派に職務を果たすことができる。

3. 働く障害者紹介
<Aさん> 男性 35歳 勤続17年 店舗勤務
Aさんは、平成5年(1993年)3月の採用で、初期のころはフルタイム勤務であった。採用後の労務管理は繊細に行われ、作業内容と体調の変化による配慮がなされてきた。現在は、健康維持にもっとも適している1日4時間、週5日のパートタイム勤務となっている。Aさんの主な仕事は、大量に出る空き段ボール箱の整理整頓である。店舗に商品が運び込まれ陳列された後の空になった段ボール箱を、体格に合った台を使って素早く整理していく。この作業のほかに店舗の清掃も行っているが、いずれも行動範囲は限定されており体力の保持が図られている。
「毎日、行くところがあって、店長や同僚それにお客さんと会えるのが楽しみ」と働く喜びを語っている。また、趣味はボーリングで家族や友人と時折楽しんでいる。母親が運転する車で毎日通勤していて、1日4時間勤務で通院の時間も確保されている。
平成5年(1993年)3月に学校の紹介で就職して以来、職場の支援もあって勤続17年6カ月(平成22年9月現在)になる。

<Bさん> 34歳 男性 勤続16年 物流担当
Bさんが働いている配送センターは、県内4か所あるセンターのひとつで、富山市の西に位置する山間地にあり、富山市のCO・OPとやま本部から車で約30分の距離にある。
職場を木々が囲む自然は疲れを癒す環境にあり、Bさんも心が和むと話している。
出勤時刻は午前8時で、一般の職員より早い。それは朝早く収穫される農産物を運んできた車両から降ろす集荷業務のためである。身長182㎝、がっしりした体格に恵まれ、職場一番の力持ちと頼りにされている。

配送センターでの仕事は、集荷の後、取扱商品を仕分けし、輸送する車両に積み込む作業である。中には、素早い判断と機敏な行動が要求される仕事もある。ジッパー(ベルトコンベア)を使って2階に荷を上げる作業は、受ける側とのタイミングを計る必要があるが、連携もスムーズでてきぱきとこなしている。
職場の配慮は、「Bさんのプライドを傷つけない」で、一定の仕事を任されたBさんが自信を持って、はつらつと仕事に励める環境を作っている。

Bさんの趣味は車、およそ30分要する自宅(高岡市)からの通勤にも役立てている。「働いて得た報酬を車に投資するのが大きないきがいだ」と話すBさんは、平成6年(1994年)3月の採用で勤続16年6カ月(平成22年9月現在)になる。

<Cさん> 21歳 男性 勤続 2年 店舗勤務
Cさんは、商品陳列、搬送品積み降ろしなど店舗の作業全般にかかわっている。
4人の障害者の中で最も若いCさんは、養護学校高等部2年生の時富山県中小企業家同友会の「1日仕事見学会」に参加し就職について学んだ。
そして、夏休みには実際にC0・OPとやまの仕事を数日体験した。
さらに秋の就業体験からは3週間程度の就業体験に入り、2年生の冬休み、3年生の夏休み、冬休みと4回にわたり職場体験を同じくCO・OPとやまで行なっている。
そして、就職後は、富山障害者職業センターに所属するジョブコーチの支援も受け、職場でのノウハウを得た。
Cさんは電気・ITに関心が強く、年に1度は東京秋葉原に行って新製品を買い求めたりしている。
専門知識を生かして店舗の照明器具調整を担当しており、修理はもちろん効果的な照明の提案も行っている。電気・IT関連の公的資格を取りたいと意欲的である。


<Dさん> 26歳 男性 勤続10年 店舗勤務
Dさんは、野菜・果物のスペシャリストである。
お客様に「野菜・果物がおいしい」と言っていただくのがうれしいと話している。
仕入れた青果物を店舗に陳列する前の準備では、大きさの選別、不要部分の除去などを手際よく進めている。
Dさんの仕事は作業だけでなく、培った関連知識を生かし、旬の青果物仕入について、種類・産地・時期などを提案する重要な役割も持っている。
Dさんも学生時代にCO・OPとやまで職場体験をして就職している。将来は、人の上に立つ存在になりたいと意欲を示している。

4. 事業所の工夫
CO・OPとやまの障害者雇用の特徴は長い勤続年数である。
平成5年に1名、翌6年に1名と2年連続で採用されている。
その後は平成12年に1名、最近では平成20年に1名が就職している。重要なことは、就職した障害者が組合の体制や従業員の支援で長く勤務を継続していることである。
勤続年数は、ベテランの障害者2名は17年と16年、もう1名も10年となっている。平成20年に採用された1名も今後の継続勤務が期待される。
4人採用・ 処遇・仕事内容から次の点が挙げられる。
・ 各種の機関・団体の就職促進活動に、生活協同組合の精神「助けあい」の観点から広く協力している。
(例)Cさん:富山県経済同友会の職場見学会に参加している。
・ 積極的に職場体験の機会を提供している。
(例)4人全員:CO・OPとやまの職場体験を経ている。
特にCさんは、高等部2年生から3年生にかけて3週間程度の期間を4回にわたり現場を体験している。
・ 採用後のジョブコーチなど関係機関の支援を活用している。
(例)Cさんは、富山障害者職業センターからのジョブコーチ派遣を受けている。
・ 能力や体力に合った職場に配置する
(例)Bさん:身長182㎝ がっしりした体格を生かし物流センター勤務とした。物流センターは山間地にあり通勤に車で約30分要するが、クルマに興味を持っていてマイカーを駆使している。
重量物を大量に扱う職場では貴重な存在となり、本人のプライドも高揚している。
・ 体調など状況により勤務時間を工夫する
(例)Aさん:採用時はフルタイムで、店舗作業全般を担当していたが、体調の変化に順じて仕事内容を変更するとともに勤務時間や勤務日数を軽減してパートタイム雇用としている。
現在は、空き段ボール箱をつぶして整理する仕事が主体で、体格に合わせた作業台で負担を軽くしており、行動範囲も限定されている。母親の車による送迎で通勤している身体条件ではあるが、職場の支えがあって勤続17年を超えた。
勤務時間も現在は1日4時間で、通院の時間も確保されている。
・ 的確な作業を実現するため日々の作業内容はきめ細かく指示する
(例)Bさん:職場の長が一日の仕事の内容を的確に指示する。作業中はできる限り本人の判断に委ね、自覚の養成に務めている。
・ 同僚は、折に触れ声を掛ける。
(例)Aさん:空き段ボール箱の処理で、独りの作業になる時間が多いが同僚が作業場を訪れ、積極的に声掛けを行っている。
これらの点を各職場の長を中心に職員全体でフォローしている。4人の職場は3か所に分散しているが、本部で定期的に直属上司からの報告を受けて全体を掌握している。
平成11年(1999年)に人事関連の部課長と現場指導員4名の職場定着推進チームを設立している。何よりも重要なことは、従業員全体に「支援はするが特別視しない」の基本的な認識があることである。
5. 今後の方針
経営管理グループ
総務チーム 課長 中川 雅博 氏
CO・OPとやまは、雇用とともに社会的な障害者支援の取り組みを行っている。
その一つは、富山県内の授産施設で製造された商品を共同購入して組合員に供給している。
さらに、視覚障害者や弱視の方を対象に、商品案内をテープに録音してお届けしている。
このリーディングサービスは、平成10年(1998年)から開始し、平成22年現在の利用者は17名、リーディングボランティア17名である。こうした活動で障害者関連団体との連携も強まり雇用にもつながっていくと考えている。今後も障害者雇用を中心として支援を行っていきたい。
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