「底なしの親切」「よろこび」に活きる多様な障害者雇用の展開
- 事業所名
- 社会福祉法人射水万葉会
- 所在地
- 富山県射水市
- 事業内容
- 特別養護老人ホームを核に、ショートステイ、通所介護、訪問介護などの老人福祉事業及び保育園運営など子育て支援事業
- 従業員数
- 694名
- うち障害者数
- 11名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 5 室内整理、施設清掃など軽作業 内部障害 2 老人介護、事務、ケアマネージャー、オペレーター 知的障害 4 老人介護、施設管理 精神障害 - 目次
1. 事業の概要
社会福祉法人射水万葉会は、昭和58年4月に富山県中央部に位置する射水市（旧新湊市）に設立された。
特別養護老人ホームに始まり、軽費老人ホーム、ショートステイ、在宅介護、それに、「通い」を中心として要介護者の様態や希望に応じて「訪問」や「泊り」を組み合わせた利用ができる施設など老人支援事業を広く展開している。
また、高齢者が地域で安心して暮らせるようにと、様々な専門職スタッフが対応する総合的な支援活動を展開する「地域包括支援センター」を立ち上げるなどの社会貢献に努めている。
そして、平成19年4月と21年3月には2か所の地域密着型複合施設「サポートセンター」を開設、平成16年からは、4か所の保育所を中心に子育て支援事業を手掛けるなど地域の福祉の担い手を目指している。
基幹事業である高年齢者福祉サービスについては「底なしの親切」と「よろこび」がモットーである。
「明るい家庭的雰囲気の中で、要介護高齢者の自立、自助意識を醸成するためのリハビリテーションに力を入れる。職員は、より人間らしく生きることへの援護者として、また、推進者としての自覚を持ち福祉サービスの理想の姿を追求する。」などを掲げて、地域福祉に中核的な役割を果たすとしている。
こうした中で、障害者福祉の具体的な取り組みとして、近年、障害者雇用に積極的に取り組んでいる。
2. 障害者雇用の経緯と現状
射水万葉会で、最初に障害者1名が雇用されたのは平成16年10月である。その後、平成18年に2名、19年に3名、20年に2名、21年に2名、そして今年（22年）4月に1名と、次々に採用されている。
現在の障害者雇用数は、肢体不自由が5名、知的障害が4名、内部障害が2名の合わせて11名である。
平成18年以降、300人を超える職員数となり障害者雇用に関する機運が高まった。特別養護老人ホームを核とし、ショートステイ、軽費老人ホーム、通所介護、居宅介護支援、地域包括支援センター、訪問介護などの高齢者福祉事業に加え、4か所の保育園運営を行うなど事業の拡大・充実に伴い地域福祉の一環として、平成18年から22年にかけて、毎年、障害者合同就職面接会に参加し、積極的な障害者雇用を進めてきた。
平成21年度からは、支援学校等との連携を強め、新卒の採用に力を入れている。障害者11名の仕事は、清掃や除草など軽作業が7名と多いが、老人介護1名、オペレーター1名、事務1名、ケアマネージャー1名など、重要な職務もある。
また、それぞれの体調・体力に応じて勤務時間を短くするなど配慮されているが、2名は障害のない者と全く同じ処遇の通常勤務をこなしている。
11人の障害者は、射水万葉会が運営する5施設に分かれて就業しており、日常的にはそれぞれの施設長等が雇用管理しているが、全体の状況は法人本部に集約される体制になっている。
3. 働く障害者紹介
＜Aさん＞ 19歳 男性 知的障害 平成21年4月採用 特別養護老人ホーム勤務
Aさんは、就職して1年6か月（平成22年9月現在）の新人である。
養護学校高等部の3年の平成20年6月に学校の薦めで職業実習訓練として、射水万葉会の特別養護老人ホームの仕事を体験したのがきっかけとなった。
その年の8月夏休みにはボランティアとして奉仕活動をした他、6月、11月、翌年2月にさらに就業体験を積み重ね平成21年4月に就職した。
Aさんの作業の内容は、施設の廊下そして利用者が生活している居室の清掃である。
こうした作業の中で、Aさんの優しい個性が活きているのは、居室における入所利用者への対応である。シーツを交換したり、ベッドを小さなほうきで掃くときに、利用者であるお年寄りに声を掛け、気軽な会話が進む。時には、お年寄りが積極的に話し掛けてくる光景も見られる。
＜Bさん＞ 42歳 男性 内部障害 平成19年4月採用 特別養護老人ホーム勤務
Bさんの主な仕事は、施設の庭の手入れ（雨天時は施設内の清掃）である。もちろん、大掛かりな樹木の手入れは業者が行うが、日常的な庭の管理を任されている。勤務時間は、体調を考慮して午前9時から正午までの3時間となっている。
Bさんは、この射水万葉会に就職する前は石材店で研磨作業をしていたが、技術向上が難しく、本当に仕事に自分があっているかどうかという疑問もあり退職した。Bさんは、過去にいろいろな仕事についているが、いずれも長続きせず今の仕事がいちばん適していると喜んでいる。
現在は一日の勤務が3時間と短く、さらに、作業の継続や休憩も体調に合わせて工夫できるように配慮されており、2週間に1度の通院も容易で、以前の職場に比べ良好な環境になっている。
平成19年4月の採用から3年6か月継続勤務しており、今度はがんばれそうだと意欲を示している。
＜Cさん＞ 19歳 女性 内部障害 平成22年4月採用 認知症通所施設勤務
一般に、早くから目的意識を持って就職する人は少ない。この点、Cさんは年少の頃からかなりはっきりした考えを持っていた。「幼いころから病弱で、皆さんのお世話になっていたので、将来は弱い立場の人のお役にたつ仕事がしたいと思っていた」と今の仕事に充実感をみなぎらせている。
利用者の言動を見守り体調を気遣って接している姿は、就業してわずか半年（平成22年9月現在）とは思えない活躍ぶりである。
利用者を介護するのが仕事であるが、若者らしくパソコン処理が堪能で、送迎車両の運行ダイヤ、スタッフの配置状況などの入力を日常業務としている。
射水万葉会は、中核施設のある射水市のほかに隣接する高岡市と富山市に事業所を展開しているが、Cさんの職場である施設は体調が考慮され、徒歩5分程度の万葉線新湊本町駅近くにある。
現在の勤務時間は、体調を考慮して午前8時半から午後零時半までの4時間になっているが、徐々に延長される見込みである。
4. 効果上げる業務日誌
射水万葉会では、障害者の雇用をすすめる中で、各自の仕事の内容をより的確に把握し改善するために、平成21年8月から業務日誌の活用を進めてきた。
具体例として知的障害で、施設内・利用者居室の清掃を担当している男性のケースを紹介する。
＜実施当初の業務日誌＞
本人がその日の仕事の内容と、感想・質問を記入して担当上司に提出し、受けた上司が回答を入れて返す様式であった。
この方法では、本人の報告による作業の内容を把握することはできるが、自己申告であるため、的確さに欠けることが判明した。
＜業務日誌の第1次改善＞
そこで考案された様式は、あらかじめ作業項目（内容）を表示しておき、本人がチェックする様式である。実施後3か月後には、あらかじめ記入した作業項目に新たな作業内容が加わり、記入欄を増設する日が多くなった。
＜第2次改善＞
当初はA4サイズ1ページ2日分の報告としていたが、作業項目の増加に従い、12月から1ページ1日分の記載様式となった。
導入当時1日8項目であった作業内容がこの時期には34項目に増えていた。
それでも、新たな作業が出て項目の追加が続いた。
逆に、表記されている作業内容が行われない日もあった。
1日1ページとなった業務日誌
＜第3次改善＞
チェックされた項目を整理分析することで、基礎となる作業内容と今後、更に責任を持って進める目標が明らかになった。この点を要約することにより、より効果的な作業と本人の自覚高揚が期待されるとの判断から項目を整理し、午前・午後に分けて報告することになった。
改良点は、一連の作業とみられる内容は1項目とし整理した、本人の判断により作業の効率化を決定できる余裕を織り込んだことなどである。
この様式により、作業に取り組む姿勢がより活発になり、「やる気」を喚起している。
この最新の様式は平成22年4月から採用されており、状況によっては、一層の見直しをすることにしている。
5. 今後の方針
障害者がその能力に応じた職場に就き、その能力を十分に発揮して、障害のある者とない者がともに社会経済活動に参加することは、社会やこの射水万葉会関連事業所に働く職員にとっても極めて有意義だと考えている。
障害者一人ひとりが持っている能力や適性を積極的に見つけ出し、障害者の職場確保、また、働きやすい職場環境を提供したいと考えている。
