支援機関との連携で雇用に至った事例
1. 事業所の概要
・経営方針
当法人では「地域福祉の拠点として24時間365日の在宅介護を支援する」ことを基本経営目標に掲げ、特別養護老人ホームの施設サービスを中心に、短期入所、通所介護、訪問介護等の在宅サービスを展開して総合的介護支援マネージメントを行い、地域福祉に貢献することを目指している。
特に施設サービスでは、松本市において地域の中核医療を担い高度医療に対応した総合病院との連携により、利用者やご家族が安心できる充実した医療面のサポートも含めた介護を提供している。また、感染症対策には特に力を入れており、環境面での徹底した安全・衛生管理を行っているが、基本となることは地道な日々の環境整備である。職員が、より重度化していくご利用者への対応に追われる中、当市シルバー人材センターからの派遣やボランティアにより環境整備に取り組んでいるが、障害者にも雇用範囲を拡大して一層のスタッフの充実を図りたいと考えている。
2. 障害者雇用の経緯
これまで地域の中の一員としての社会貢献との考えを持っていたが、なかなか障害者雇用に結びつける機会がなかった。しかし、介護現場では年々手厚い介護が必要となっていく状況の中で、環境整備面までも業務の中でこなしていくことに時間的余裕のなさや体力的な負担など難しさを感じていた。そうしたところ、近隣にある障害者関連施設からのアプローチにより、職場体験に始まり障害者民間活用委託訓練、職業訓練を行う中で、その能力の高さと「自分で働き、生活をする」ことを目標にした、各人の仕事へのひたむきな取り組み姿勢について高く評価できた。その結果、トライアル雇用を経て当法人職員としての雇用となった。
3. 取り組み内容
長野県松本障害者雇用支援センター指導員から知的障害者の雇用についての相談を受けたことがきっかけであった。知的障害者についての知識がほとんどない状態の中、3名の受入を検討するには、まず本人たちの人柄や能力はどの程度なのか確かめてみる必要があった。手始めに、3週間程度の職場実習を実施した。短時間であったが、3名の能力の高さは予想していたレベルをはるかに超えていた。そして、障害者民間活用委託訓練（2ヶ月）を実施して、最終時点では勤務時間も正規職員と同じ8時間で3名のローテーションを組むところまで訓練ができた。その後、3ヶ月間のトライアル雇用期間を経て、当法人の職員として迎え入れることとなったのである。
4. 取り組みの効果
（1）手の行き届かなかった部分の清掃
施設の利用者は高齢化に伴って年々手厚い介護が必要となっていく中で、環境整備面まで業務の中でこなしていくことは時間的余裕のなさや体力的な負担など、職員間で難しさを感じていたところである。そうした現場に3名の知的障害を持つ彼らが現れて、職員がなかなか手の回らなかった「車いす掃除」「居室の窓拭き」利用者のくつろぐ「ベンチやソファー拭き」等を始めたのである。手抜きをしないでまじめに与えられた業務スケジュールをこなしていく仕事への取り組み方や能力の高さ、また、朝夕の挨拶の仕方は他の職員にとって新鮮な刺激や驚きがあった。
（2）知的障害者への理解
当初は職場内に「どんな人が来るのだろうか」という心配も当然あったと思われる。職業訓練に入る前から、職員会議で3人の障害特性等について機会があるたびに説明を繰り返した。職業訓練が始まり、日がたつにつれて、職員と話す時間が仕事だけでなく昼食時や休憩時間などにも拡大していき、3名は輪の中に入っていったのである。あらためて、3名の個性の違い、障害を含めて三者三様であることを理解することができた。
（3）作業スケジュール表の変更
時間が経つにつれて、作業内容も変更している。特養内の作業だけでなく、デイサービスセンターの利用者が帰宅準備を始める15時ごろからはデイサービスセンターへ場所を移動して、ベッドメイキングや床清掃などを行っている。こちらでは、特養以上に職員の行っていた業務を請け負っている。
5. 今後の展望と課題
3名が職員として当施設に入り、清掃業務を行うようになって、時々「建物の中が明るくなった」と言われることが増えた。また、利用者の受診のため、病院前で車いすをリフト車から降ろすとき、きれいに磨かれたタイヤやスポークが目にとまる。そして、胸を張りながら車いすを押して病院に入っていくのである。施設での仕事は、介護以外にも考えたらきりがないほどやらなければならないことがある。今まではすべて現場職員が行っていたが、今後は3名にどこまで移行できるか考えていきたいと思っている。そして、3名の個性が活かせることに繋げていけると良いと思う。
障害も一つの個性と考えて、いろんな個性をもった人が集まっている職場であると受け止められる、心豊かな職員であふれてほしい。
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