介護事業所における視覚障害者雇用の取組み


1. 事業所の概要
当事業所は、高齢者の居宅介護支援事業と、通所介護事業を展開する介護保険指定事業所であり、現在、居宅の介護支援事業の契約者は約100名を数える。浜松市中心部にほど近い地区の商業住宅地域に、通所介護支援を行う定員25名の施設ウイルIと定員20名のウイルII、定員12名の認知症対応型通所介護施設ウイルIII、そしてここから少し離れた市の南部に認知症対応型通所介護施設として定員12名のウイルVの計4棟を構える。
その原点ともいうべき活動は、創設者が介護保険制度も施行されていない時期に先駆け的に取り組んだ、公会堂を借りての託老所の発想であった。その後、創設者は整形外科で自己研鑽も兼ねて勤務する傍ら、医師の勧めと協力を得て併設型のデイサービスを計画していたが、設立には至らなかった。
こうした経験を経て、平成14年8月に今の事業所の原型となる居宅介護事業所と通所介護事業所を設立し、8年が経過した。
当初、自治会の会合の説明の際に、婦人部の役員の方々から、何処の出身であるかとよく聞かれた。事業を展開するに当たり、地域のために地域と共に歩み、地域へ貢献することで、自然に周囲に受け入れられるということを学んできた、と代表の中津川氏は語る。
2. 障害者雇用の経緯
介護保険においては、施設等での機能訓練指導員としてマッサージ師の配置が認められているため、特別養護老人ホームや養護老人ホームにおいては、あん摩マッサージ指圧師が入所者の日常生活上の機能訓練を行なっている事業所がある。機能訓練業務を遂行できるのは、看護師、准看護師、作業療法士、柔道整復師、言語聴覚士、理学療法士、あん摩マッサージ指圧師の資格を有する者とされる。
平成18年に介護保険法が改正され、機能訓練指導業務が強化されることとなったのを機に、機能訓練指導員として、夫婦である2名の視覚障害者を雇用したのが障害者雇用の始まりである。以後も事業拡大とともに視覚障害者の雇用数は増え、6名がマッサージ師の国家資格を有する視覚障害者であり、機能訓練指導業務を遂行している。うち3名が身体障害者手帳1級、2名が2級、1名が4級を所持している。
3. 取り組みの内容
男性職員Aさん(48歳)は以前、整形外科で25年間働いていた職歴のある人である。整形外科を退職後しばらくの在宅期間を経て、ハローワークを通し当事業所に就職した。以前住んでいたアパートが老朽化したため、事業所が住宅の賃借にかかる費用の助成(通勤対策助成金)を受けて住宅を借り、Aさんはここからバスを利用して自力で通勤している。

おおらかで明るい性格のAさんは、お年寄りたちからも人気がある。訓練指導員の主任を引き受けて所属する視覚障害者であり、マッサージ師のまとめ役として活躍してきた。施術するうしろ姿は大変頼もしく感じる。

女性職員のBさんは、市内に在住していて通勤困難であった。そこで事業所側がウイルIII2階のアパートを借り受けたため、職場と目と鼻の先の場所に住宅を確保することができ、通勤にかかる負担を軽減することができた(通勤対策助成金を活用)。残念ながらこの写真の撮影後、家庭の事情で退職をしたが、環境が整えば家族から離れ自立した職業生活を送ることが可能であるという例である。
また、平成18年の事業所開設当初から勤務するCさん夫妻(夫46歳、妻41歳)は、事業所の送迎車両を利用して通勤をしている。ご主人は16年間他でマッサージの仕事をしていたが、ハローワークを通じて当事業所の求人に応募した。その際、事業所側は複数名を採用したいと考えていたので、夫婦揃っての雇用となった。二人は夫がウイルV、妻はウイルIIIと、それぞれ異なる施設に配置されており、ご主人は一旦出勤した後、送迎車両により就労場所のウイルVに向かう。二人の温厚でまじめな性格と安定した仕事ぶりは高い評価を受けている。

視覚障害のある人たちにとっての就労は、通勤手段の確保が大きな課題となる。当事業所では、このように住宅の確保や送迎車両の活用によって、通勤上の負担を軽減している。
また、事業所の特性上、施設建物はバリアフリーであり、視覚障害のある人たちにとっても働きやすい環境となっている。
どの人も、これまでマッサージ師の国家資格を活かして治療院を開業していたのでなく、整形外科や施設などで仕事をしてきた人たちである。勤務年数3年のDさん(54歳女性)は23年間、銭湯などでマッサージ業務を行ってきた。
65歳のEさんも25年間福祉施設で仕事をしてきて、高齢にもかかわらずここに新たな就労場所を得て1年がたつ。視覚障害のない人たちも国家資格を取得してマッサージ業界で活躍する中、一般的に障害がある人たちが治療院を開業することは容易ではない。当事業所では第二・第三の職場を得て資格を活かす仕事に就いた人たちが活躍している。
平成22年7月に退職したBさんの後任として、視覚特別支援学校(以前の盲学校)の先生からの紹介で8月から雇用されたFさん(39歳女性)は、整骨院で5年、整形外科の医療機関で11年勤務した経歴を持つ。明るい性格で、礼儀正しく健康的で、利用者からのマッサージ利用希望が急増している。彼女は自宅よりバスを乗り継いで通勤している。
4. 取り組みの効果
介護保険法では、機能訓練指導に必要とされる時間数が一日120分以上と規定されている。一日あたり2時間の勤務でこの条件が満たされるところを、当事業所での訓練指導員の勤務は普通の介護職員と同様、8時30分から17時30分であり、マッサージ業務を行う6人全てが一日8時間、常勤として勤務をしている。介護保険報酬の点数から考えると採算を度外視した雇用ではあるが、それには以下のような代表者の思い入れがある。
まず、「せっかく仕事をしてもらうなら、一日の勤務としたい。」という思いである。これにより機能訓練指導員は、常用雇用で日給月給制。それぞれが報酬を得て、自立生活を実現させている。
次に大事にしているのが、地域に貢献するということである。マッサージ師が常時勤務している介護事業所は、他にあまり例を見ないのではないだろうか。高齢の利用者さんたちは、希望をすれば常時15分程度のマッサージ施術を受けられる状況である。「利用者の皆さんとそのご家族に喜んでもらいたい」という願いは、当事業所設立の原点でもある。歩行困難になってしまい、介護認定を受けて通所を始めた利用者が、通所して施術を受けることにより、機能回復をみたということも実際にある。機械ではなく人の手によるマッサージは、受ける人に癒しを与え、その機能回復に一役かっているのではないだろうか。何より、このサービスが受けられることは、利用者にとってありがたいことと評価を受けている。
さらに「やる気があり、利用者を敬う気持ちのある人であれば、性別、国籍、障害の有無を問わず職員として受け入れる」という思いである。機能訓練指導員も採用にあたっては技術的力量とともに人格(利用者に対するおもいやり、利用者の立場になって接することができること)を重視し、人物本位の採用に徹している。これにより当事業所のモットーでもある「従業員同士のチームワーク」も強まり、より質の高いサービスを提供できる要因となっている。
5. 今後の展望と課題
今後、介護事業を通じて、高齢者福祉と障害者雇用のふたつの側面から、地域福祉への貢献をさらに展開していきたいと考えている。
また、機能回復に関しては、まだまだ満足できるようなサービスができているとはいえないが、高齢者介護事業の中における機能回復訓練の重要性を確信してきたこれまでの経験から、視覚障害者の機能訓練指導員を主軸にした通所リハビリサービスをさらに充実させ、合わせて視覚障害者の雇用の拡大も考えていきたい。
そして、機能訓練指導員として認められる国家資格をもつマッサージ師が、こうした介護事業所に雇用される機会がもっと多く与えられる社会になるよう、外に向けても発信をしていきたい。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。