職場内のノーマライゼーションを進めるために
- 事業所名
- 社会福祉法人英水会 特別養護老人ホーム英水苑
- 所在地
- 三重県四日市市
- 事業内容
- 特別養護老人ホーム・通所介護事業・短期入所生活介護事業、在宅介護支援、センター等を運営
- 従業員数
- 140名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 1 洗濯・収納 肢体不自由 1 軽介助・利用者の送迎、配膳等 内部障害 知的障害 精神障害 1 洗濯・収納、フロアの清掃 - 目次

1. はじめに(事業所の概要)
社会福祉法人英水会(以下、本事業所)は、四日市市において特別養護老人ホーム英水苑を1994年9月から運営している社会福祉法人である。入所定員は50名の従来型と30名のユニット型、20名の短期入所となっている。施設内においては音楽療法を取り入れながら、利用者の生活の質の向上を図る取り組みを行っている。また、通所介護(デイサービス)では1日の定員を35名として運営を行っている。
本事業所の経営理念として、「(前略)…複雑・多様化する変化に更なる事業の効率化・サービスの質の向上を図りつつ、地域と共に考え推進…(後略)」とし、現在の高齢者福祉を取り巻く様々な環境の変化に対応しながら、サービスの品質保持や地域社会との連携を念頭に置いている。現在、従来型(多床室)の特別養護老人ホームの敷地横に新棟を増築し、個室及び2人部屋に移行する取り組みを行っている最中であり、事業所としての業務内容は大きな変化の途上となっている。この増築も、個室化が進む高齢者福祉におけるサービス提供の変化に対応した展開となっている。
2. 採用にあたって(障害者雇用の経緯)
現在、本事業所においては3名の障害のある人(以下、障害者)が従業員として勤務しているが、これまでの採用者は合計6名となっている。そのうち2名の身体障害者は介護職として勤務することを希望していたが、障害の部位や程度と業務内容と照らし合わせたところ、介護職としての就業は困難と判断されたため、異なる部署での就業を伝えたところ、希望職種ではない、として退職となっている。また残りの1名は本人の意思というよりも、家族の強い希望で退職となっている。
本事業所において障害者を従業員として採用するきっかけとなったのは、本事業所の理事長や施設長が知り合いから頼まれて、とりあえず採用してみようということや、民生委員からの紹介で頼まれたので、引き受けたのがきっかけであったようである。
事業所としては、障害者を従業員として受け入れることにより、その他の従業員の成長を期待し、社会福祉の理念でもあるノーマライゼーションを実現するために、職場内から差別を排除し、それぞれの従業員が個性を発揮できるような職場作りを目指そうと考えている。これは明文化されているわけではないが、本事業所における障害者雇用の理念と考えてよいと思われる。
障害者を従業員として採用するということについて、本事業所は社会福祉施設ということもあり、従業員の多くは様々な障害者を受け入れる基本的な理解や姿勢はあったと考えられる。しかし、基本的な理解があるからといって何も特別な指導が必要ないのかといえば、それは少し違っており、実際に同僚として働くにあたっては、個別に配慮が必要な事項や特性の理解について、周知徹底させるためのガイダンスなどが行われている。
本事業所では、障害者雇用に際して職場実習を採用の前に行っていないこともあり、職業トレーニングについては、OJTで行われるのが現在の方式となっている。職業トレーニングは主に統括指導責任者が窓口となって指導をしており、一緒に仕事をして回り、指導をしながら適性を考えて職種の検討を行っている。
採用にあたって、勤務時間等も考慮されているが、勤務はおおむね週3日又は週5日のパターンで、時間としては1日3時間から4時間の短時間と、8時間のフルタイムなど、障害者本人の体調や働き方等を考慮して決定されている。
3. 採用後の職務について(取り組みの内容と効果)
配属については、障害の種類や部位及び程度等を考慮し、決定をされているが、資格保有状況も考慮の対象となっている。現在のところは「用務」の部署に2名、「介護」の部署に1名を配属している。
用務での仕事は、利用者の着替えや入浴等で使用したタオル等を洗濯機にて洗濯し、乾燥機にかけて乾燥させた後に、畳んで棚に整理整頓するという内容となっている。この洗濯場には通常3名の従業員がおり、うち1名ないしは2名が障害者である。1名の従業員が障害のある従業員(以下、障害従業員)と一緒に勤務し、仕事の進捗状況の確認などを行っている。洗濯物の畳み方などで介護の現場従業員からもっと丁寧にしてほしいという要望もあるが、現在は介護主任や統括指導責任者が従業員からの声を受け止めて、障害従業員の業務の状況、障害特性などを説明して理解を求めている。ただ、このような声を伝えてくる従業員も少数であり、大部分の従業員は理解を示すようになっている。
訪問時に、障害従業員の1名と、統括指導責任者の3名とで話をする時間があり、現在の仕事状況について話を聞いた。そこでは現在の仕事は体への負荷が少なく、楽であることや、以前に同じような仕事をしていたので、馴染みがあり、やりやすいとの本人の思いが語られた。反対に現在、仕事をする中で困ると感じることとしては、従業員の中で手話が出来る人が一人しかおらず、他の従業員とのコミュニケーションがうまく図れないことから、誤解が生じるおそれがある、とのことであった。また話をしてくれた本人は、通勤のためのバスの本数が少なく、一本逃すと次のバスまでかなりの時間、施設内で過ごすことになっている状況に対して、不便さがあるのではないかと感じられた。
もう1名の障害従業員は介護員研修の2級を終了しているので介護業務に従事しているが、下肢に障害があるために、力を入れて踏ん張ることが難しいので、あまり体に負荷のかからない利用者の軽介助を中心に業務についている。また、デイサービスの利用者を送迎するために、利用者宅へ訪問する場合も、全介助など体に負荷がかかるような場合は、1名の従業員をサポートとしてつけるように配慮がなされている。

クーラーはあるが、それでも夏場は暑い。
4. 採用後の経過として(取り組みの内容と効果)
現在在籍している3名の障害従業員のうち、介護業務に従事している障害従業員については、他の従業員とも円滑にコミュニケーションを図っており、それほど個人が抱えているような問題は見られない。また、他の障害従業員とも積極的に関わるために、これから本事業所において障害者雇用を進める際のキーパーソンになることも考えられる。
洗濯場で勤務する聴覚障害と下肢に障害のある従業員については、上でもあげたとおり、手話の可能な従業員が一人しかおらず、他の従業員とは筆談や口の動き等で理解しようとしている。しかしながら前述したとおり、誤解や十分な理解ができない場面も見られるために、本事業所では可能であれば、職場内で手話の講習会を開催し、少しでも理解者を増やすための取り組みができないのかを検討している。また勤務時間の後、バスの時間まで余裕があるときは、職場内で自由に過ごしているのだが、それを他の従業員が見たときにサボっていると見られないように、障害従業員の勤務時間を伝えたり、余計な誤解を生まないように配慮をしたりしている。本人自身も手伝えることを見つけて、行っているため、現時点では大きな問題とはなっていない。
洗濯場で勤務しているもう一人の、精神障害のある従業員は、精神的に浮き沈みが大きく、他の従業員から掛けられた言葉で沈み込んだりし、その時には仕事が手につかなくなることがあるため、元気がないようであれば、なるべく気がついた従業員が声を掛けて、本人の話を聴くように努めている。また、この従業員の場合については、家族が送迎をしているため、時間を作って職場での状況などを出来るだけ伝え、家庭でのフォローがしやすいようにしているとの事であった。この家族との連携が、職場定着をするための一つの要因となっている。またこの従業員の職務は本来、洗濯場での畳ものを整理整頓するのが仕事であるが、気分を変えるために、フロア内の清掃を本人がしていることがある。これについても、この従業員の行動を受け止めて、落ち着くまでその様子を見守っている。
洗濯場で勤務する2人の障害従業員は、どちらも自分のペースで仕事を進めるため、無理やり本人たちのペースを狂わすようなことはせずに、本人のペースで仕事を進められるように配慮をしている。職場定着には、本人たちのゆっくりとしたペースの仕事を待つことができる同僚の従業員が、必要不可欠な存在となる。どちらの障害従業員に対しても、仕事の説明は丁寧に繰り返し行っており、チェックリストを作成し、仕事の進捗状況を自分自身で確認できるようにしている。職場全体では、他の従業員が仕事のペースが遅いと感じていることもあるが、統括指導責任者や介護主任などが間に入って、双方の言い分を良く聴き、なるべく両者の意見を尊重できるように解決を図っている。
障害者雇用に取り組むようになって、本事業所の従業員全体に、利用者だけではなく、従業員間でも互いに思いやりを持てるようになってきたことが効果として挙げられている。また、それぞれの従業員が障害従業員に関わるようになったことも、障害者雇用を進めるきっかけとなって、職場内のノーマライゼーションが少しずつ実現できつつある効果である。その他の副次的効果として、障害従業員の勤務時間を柔軟にした結果、他のパート従業員の勤務形態も柔軟に対応するようになったことが挙げられる。
福利厚生や昇給については、特に洗濯場に勤務する2名の障害従業員については、最低賃金となっている。しかし、もう1名の介護職をしている障害従業員は、職務内容が他の介護職員よりも若干配慮されたものであるため、障害のない従業員より少し低い金額ではあるが、最低賃金を上回っている。またこの従業員の昇給は、勤務状況により数年に一度ではあるが、行われている。福利厚生としては、原則として障害のない従業員と同様の扱いとなっている。

5. 今後の展望について
本事業所において、これまで障害者雇用を継続し、徐々にではあるが拡大してきた背景には、とりあえず受け入れてみようという、職場全体としての理解があることや、経営者自身の方針によるところが大きい。またとりあえず受け入れたところから、職場内の同僚という意識が芽生え、従業員のほぼ全員が積極的に関わろうという姿勢を持つように変化したことも要因として考えられる。
ただ職場定着には課題を抱えており、指導者となる人や、円滑にコミュニケーションを取ることのできるキーパーソンが限定される等、改善をしなければならないと、本事業所が考えているものはある。しかし、現時点で勤務している障害従業員にとっては、安定した職場となっていると考える。要因としては、従業員の多くが障害従業員を受け入れる態勢や基本的な応対ができる事が挙げられる。今後は障害特性に応じた話しかけ方や手話の修得等を障害のない従業員が身につけると、さらに安定した職場定着が図られると考えられる。また人材育成の一環として、職場実習や障害の種別を問わない受け入れも視野に入れておられるとのことであったので、募集の段階で、しっかりとした計画を立て、本事業所において求める人物を明確にし、職場実習や採用を進めることができれば、社会福祉法人としての公益活動にもつながることが期待される。
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