在宅テレワークにより障害者の職域拡大
~在宅勤務で生きる力、働く喜び、人に役に立つ喜びを~

1. 事業所の概要
障害者が意欲的に働ける場を提供するために、コクヨ株式会社全額出資により設立された特例子会社。
親会社のコクヨ株式会社は、戦前より障害者雇用に本格的に取り組んできた歴史がある。コクヨ八尾工場と滋賀工場の統合を機に障害者雇用を通じて「福祉・雇用・経営」の三拍子を確立することを企業目的に2003年設立、2004年より本格的に操業開始、2005年4月に特例子会社として認定を受けた。CTP技術導入によるフルデジタル、フィルムレスのワークフローの構築によるオフセット印刷・製本・シール印刷を主に行なっている。
2. 在宅雇用の経緯
2004年コクヨKハート株式会社(以下Kハート)は聴覚障害者を中心にコクヨ株式会社の特例子会社として印刷・製本業として創業した。
2006年4月、障害者雇用拡大の手段としてICT(情報通信技術)を利用した肢体不自由者の在宅テレワークという方法で、グループ会社のオフィス家具レイアウト設計・CAD図面作成業務を検討。オフィス移転・リフォーム等を手掛けているグループ会社のコクヨエンジニアリング&テクノロジー株式会社(以後KET)に協力を要請したところ、KETでは障害者雇用も検討しており、またオフィス家具レイアウト図面作成の業務量が多く、新しいパートナーを探していた矢先であったことから「できるか、できないかわからないけど協力しよう」と合意を得た。
・社員誕生まで
2006年9月より障害者でCAD経験のある在宅勤務希望者を募集し、講習をKETの協力のもと週1回、約3時間12月まで12回にわたり行なった。その内容はオフィス概論、オフィス家具レイアウト設計やCADソフトオペレーション、オフィス家具のショールーム見学など広く多岐にわたった。その後講習生に図面作成の課題を出題し評価、課題提出と繰返し行った。
2007年1月にはKETがオフィス家具レイアウト図面提案サービスを実施しているオフィスにてメンバーの顔あわせと仕事内容の見学を行った。就労をつよく希望していた電動車いす利用のIさんは図面作成課題のレスポンスもよく、提出した課題をこなせば「スキルを身につけるため課題をください。」と自ら連絡をしてきた。この姿勢はKET、Kハートの関係者をつよく巻き込み、彼を支援しようという思いにさせた。
2007年3月にIさんはKハートの社員となった。
学生時代は、車いすの為、就職に際し自分に条件が合う会社がなかったので、就職できた時の喜びはひとしおであった。
その時、本人から1通のメールが届いた。メールは次のようなものであった。「今回チャンスを頂き、この様な形で自分のように重度の障害を持っている人間でも働ける喜びを味わうことができ、非常にうれしく思っています。同時に、自分がこれから一人の人間として会社や社会でやるべき役割を得たことにやりがいを感じています」と書かれていた。
・スタート時の課題と解決策
KETよりIさんにはスキルの習熟に合わせた物件を選別し、依頼していった。開始当初は、納期の余裕のある物件や小規模のものであった。
在宅勤務ゆえの孤立感や疎外感を解消するため親睦会の実施や、メールなどで社内情報や業務関連情報を提供しコミュニケーションの促進を図った。関係者との親睦会も実施し、序々に顔を広めていくと同時にグループ社内報に在宅テレワークについて投稿し、グループ内での認知度向上を図った。
3. 取り組み内容
(1)就業規則の改正
従来の就業規則を基に、在宅勤務者にも適用できるように必要な条項をつけ加え整備した。就業日、就業時間は図面作成を依頼するKETのオフィス勤務者と同一のものにした。
(2)就業環境の確認
在宅勤務を行う場所で、安全衛生の維持と業務に集中できる環境であるか確認を行った。Iさんの執務場所は個室でベッドと机がある部屋で、机にデスクトップパソコンが設置されている状態であった。倒壊しそうな高い収納庫もなくIさんの部屋で業務遂行に問題はないと判断した。
(3)パソコン等のハード面の整備
パソコンは会社から提供しても設置スペースもなく本人とも話し合いをし、通信費とパソコン使用料を毎月支払うことにした。CADソフトは提供した。
(4)コミュニケーション
在宅テレワークで最も大事にしたところが、在宅勤務者とKET、Kハートとのコミュニケーションであった。各々で案を出し合いできることから順次始めた。内容は次のようなものであった。
①朝礼の内容をメールで送付
②オフィスでの朝礼参加(不定期)
③在宅勤務者、Kハート、KETで意見交換会実施により労務環境改善
④オフィスで行う社内講習会の参加
⑤親睦会の参加
⑥社員旅行への参加
⑦オフィス家具納品現場、オフィスの視察
⑧オフィス家具納品現場の工事中、施工後の写真の閲覧
⑨在宅勤務者同士のコミュニケーション
2009年にさらに1名が入社し、在宅勤務者が計2名となったのを機に、在宅勤務者2名が同一物件のオフィスレイアウト設計を行い、持ち寄って発表しあいお互いに学ぶようにした。
(5)業務の確保とスキルアップ支援
業務確保のためKETの協力により設備図面作成業務、パーツ作成業務など業務領域の拡大を行った。これに伴う業務スキルは3者間の音声通信を利用し在宅で講習を受講し習得してもらった。
(6)Kハート、KETの役割分担
特例子会社であるKハートは、在宅勤務者とKETとの連絡を密にし、在宅勤務者の『働きやすい環境づくり』を行い、KETは『業務の確保とスキルアップ支援』を行い、2社がそれぞれの役割分担と連携の強化を図りながら在宅勤務者の支援を行っている。


4. 取り組みの効果
(1)在宅勤務者、KETの声
①Iさん(上下肢障害1級、2007年入社)
就職活動をしていても、会社に毎日通勤することが難しいため、条件に合う企業はほとんどなく、「普通に働くこと」自体を難しく感じていました。在宅テレワークに出会えて、重度の障害を持っていても、一人の社会人として会社と社会に貢献できることの喜びを得たこと、そして働くことが生きるための力にもなっています。
在宅テレワークは、自宅で自分一人だけで行うということもあり気が緩みやすいので、自分で意識してそれなりの緊張感を保たなければならないと思います。仕事で疑問点があれば電話等ですぐに質問することが大事ですが、すぐに連絡が取れない時は今持っている情報を元に自分で考えて判断し、作業を進めなければならないこともあります。
在宅テレワークは、特に障害を持っている人にとっては大きな可能性のある勤務形態だと思います。しかし、まだまだ一般的ではないのが現状なので、これを少しずつでも社会に浸透させていくことに貢献し、障害をもっている人にテレワークという選択肢が普通にある社会を実現していきたいです。
②Tさん(上下肢障害1級、2009年入社)
以前3年半程通勤していたが高速道路を利用していた為、体力的、精神的、経済的に負担が大きく、結果として体調を崩し退社せざるを得なかった。
在宅テレワークを行うことにより通勤しなくてもよい分、体力的な負担が少なく業務にも集中でき精神的負担も少ない。一方、相手の表情が見えない事による意思疎通の難しさや、メールなどでのやりとりによるタイムロスが生じる時があるが、自己管理ができるなら長期間続けられる勤務形態だと思う。在宅テレワークが一般に認知され障害者雇用の拡大に貢献できるよう努力します。
③KET
開始当初は「Kハートとの障害者によるオフィスレイアウト設計CAD図面作成業務の在宅テレワークという協業は本当にうまくいくのか。」と不安でした。しかし3年たった今ではそんな小さい不安を一掃し、KETから依頼する短納期の作図物件や複雑なレイアウト要件の物件にも対応可能なレイアウターに育ちました。IさんもTさんも大きなハンデをお持ちですが、ハンデを全く感じさせない仕事ぶりです。彼らと一緒に仕事をしていると、障害を持たない我々は「もっとやれる」とつくづく思い知らされます。
(2)Kハートの在宅勤務雇用の効果・メリット
在宅勤務を採用することにより、肢体障害をもつ社員を雇用することが可能になり、社員の生きる力、働く喜び、人に役に立つ喜びを感じる手助けとなった。特例子会社だけでなく、グループ会社全員が障害者雇用を理解するきっかけになった。多額な設備投資やオフィスの増設の必要なく、必要に応じて雇用を増やすことができる。勤務場所が在宅のため自由度が高く障害に応じた執務環境が整備できる。社員は通勤圏外でも勤務は可能である。KETの図面発注部隊が、この在宅勤務開始時の大阪から現在は東京へ移動したが、業務は滞ることなく以前と同様に遂行できている。
5. 今後の展開
今後障害者の在宅テレワークの分野を拡充するために、新しい業務の発掘に注力していきたい。2010年の取組みとして3月よりオフィス家具のレイアウトから「LAN、電話回線なども含めたオフィス設備図面作成」の業務を実施。5月よりグループ会社のステーショナリー製品の段ボールの版下作成業務をこの在宅テレワークで実施している。
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