事業所名

社会医療法人生長会  ベルキッチン

所在地

大阪府堺市

事業内容

院外調理センター

従業員数

139名

うち障害者数

13名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害
聴覚障害
肢体不自由	1	調理師
内部障害	1	調理補助
知的障害	11	調理補助
精神障害

目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の状況
2. ベルキッチン設立の経緯
3. 取り組みの内容
4. まとめ

事業所外観

1. 事業所の概要、障害者雇用の状況

約2,500人の従業員を抱える社会医療法人生長会（以下、生長会）は、1955年に創立された和泉府中病院をはじめとする病院や介護施設、院外調理センターの経営などを行う法人である。

愛の医療と福祉を実現し、地域全体へ伝わる事を目標として、最適の治療、最善の心配り、最高のパートナーシップを目指している。

障害者が従事している職種は、事務や放射線技師、診療補助、調理補助などで、中でも院外調理センター「ベルキッチン」では、140人ほどの従業員のうち、知的障害者を中心に14名（うち、重度障害者3名のため雇用障害者数の算定では17名となる）の障害者を雇用している。

当法人では、平成18年度を境に障害者雇用率が一挙に向上し、平成21年度の雇用状況報告では、障害者の雇用率は2.45％で、障害者数は35名となっている。平成18年度に法人内で一挙に障害者の雇用率が上がった背景には、「ベルキッチン」の設立が大きく関わっている。

2. ベルキッチン設立の経緯

きっかけは平成8年、堺市を中心に起きたO-157の集団食中毒であった。O-157で病院に運ばれてくる多くの患者、特に子どもたちを目の当たりにして、食中毒の怖さを再確認し、少なくとも病院内では集団食中毒を起こさないように、徹底して患者を食中毒から守る方法を考え始めたところから浮かんできた案が、病院毎に厨房で作っている食事を一括して作り、安全面と衛生面を徹底して管理するというものであった。

そうして生まれたのが、日本では画期的な、医療法人が経営する院外調理センターの設立だった。医療法人が調理センターを作り病院の食事を管理し、自分たちの責任で食中毒をなくす事を目指し、さらに治療食を治療の専門家である医療法人が受け持つことで、患者にもよりよい食のサービスが提供できるというのだ。

また、それが障害者雇用をいかに進めるかという、この時期に病院が抱えていたもう一つの課題と合致し、障害者を多数雇用する院外調理センター「ベルキッチン」が誕生した。

ベルキッチンが画期的なのは、医療法人が経営しているという事だけではない。ニュークックチル方式という手法を取り入れ、徹底した食中毒への防止を行っている。このニュークックチル方式というのは、調理した料理をそのまま提供するのではなく、調理終了後90分の間に3℃の低温にし、それを低温のまま病院に運び、食べる直前で加熱するというものである。この方法であれば、保存もできるし菌が入る事を全く防ぐ事ができる。

さらに、病院に調理室を置かなくてもよいという利点もある。この方式は、他の病院からも注目され、ベルキッチンは、他の病院とも契約するまでに至り、一日6,000食を賄うようにまでなった。衛生面でも、56枚もの自動扉を配置し、動線も空気の流れも決して不潔なほうから清潔な方へは流れないようにしている。

このような新しい事業に踏み出せた背景には、生長会が経営している病院や介護施設で食事の4,000食の需要がもともと確保されていたため、多額の設立資金を投じて事業所を立ち上げたにも関わらず、需要が見込めないという一般の調理センターなら懸念しそうな最悪のケースからは守られていたという状況もある。

3. 取り組みの内容

このベルキッチンで雇われている14人の障害者は、その特性に合わせ実に様々な作業に従事している。その作業は、運搬されてきたものを箱に入れ替える作業（段ボールは調理室に持ち込まないようにしている）や材料を数えたり、量ったり、カートで運搬したり、盛りつけたり、箱を洗浄したりと枚挙にいとまがない。

配属先は、「衛生面のルールさえ守れれば、大丈夫。とにかく、その人それぞれの特性を見極め、適材適所に配置するのが長く働いてもらうコツである、とのスタンス。事業所が適切と判断した作業よりも、別の作業をやりたいと本人が言ってきたような時にも「障害がある人ない人に関係なく、誰しも隣の作業のほうが楽しそうに見えたりするもの。そういう場合には、試しに実際にやってもらい、少しやってみると、その作業が自分で合わないことに自分で気づいてきます」とそういう希望がでてくる事も想定の範囲内なのだ。

適性をどう見極めていくのか。ベルキッチンの所長自身、障害者施設で働いていた経験があり、能力を見る目に長けているのかもしれないが、それだけではなく障害者職業センターのジョブコーチ支援事業を利用したり、特別支援学校等の実習を受け入れたりする中で、それぞれの得意分野をじっくりと見極めていくという。

働きぶりについては「以前は手探りであったが、今では重要な戦力で、いないと困る存在」また、「挨拶一つをとっても障害のある従業員はきちんとできる。障害のない従業員はあいさつでも何でも適当にしてしまいがち」と障害者雇用のメリットを挙げる。

作業風景

4. まとめ

今回の事業所は、職域拡大に際し障害者雇用を一挙に推し進め、丁寧な雇用管理のもと成功した事例である。もちろん、どの事業所もがこのような職域拡大に踏み切れるわけではない。しかしながら、この事例から言えることは、障害者雇用により職域拡大まではないとしても、質の向上を再検討できるのではという事である。今回の場合には、障害者雇用により、箱の洗浄に従事する者や運搬に従事する者などの、その作業に専門的に取り組める人物を配置する事が可能になり、結果として事業所全体が衛生面などに丁寧に取り組めるようになった。

また、適材適所の見極めに、特別支援学校の実習などを上手く活用している点も重要である。特別支援学校側も、就職前に生徒に様々な経験をさせ、職業選択の幅を与えたいと考えているが、なかなか実習の受け入れ先がないのも実情であり、そういった意味でニーズが合致したと言える。また、特別支援学校の教師などとも連携することで、生徒の特性をより詳細に把握できたりもする。

障害者雇用促進法における雇用義務の面から、障害者雇用を進める場合においても、ただ単に障害者を人手不足の部署に雇用をすると、逆に雇用管理が難しくなってしまう場合も多く聞かれる。障害者に合う作業はどのようなものか、また、採用する障害者が選定されている場合には、その人がどの作業に適しているのかを確認し配属することが、事業所にとって従業員（この場合は障害者）がより戦力となり、長く勤められる重要なポイントとだと学ばされた。