障害を乗り越え、働く喜びと生きがいを共にして、日々の生産にみんなが勤しむ
- 事業所名
- 株式会社内田紙器工業所
- 所在地
- 奈良県天理市
- 事業内容
- 紙加工品製造業(段ボール箱・パッキングケース)
- 従業員数
- 19名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 3 段ボール製造(型抜き、組み立て、仕上げなど) 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要
昭和38年、先々代社長が当工業団地で創業した。製品は何百種類もあり、サイズもきわめて多種多様である。生産は小ロット多品種で対応、大手紙器メーカーから原材料(大判の段ボールシート)を仕入れて加工し、段ボール箱の完成品を納入している。
「誠実に、互いに協力し合って、魂こめて仕事をする」をモットーに、経営理念として、「段ボール箱・パッキングケースの製造加工を通じて社会に貢献する。社員は切磋琢磨して技術・技能を磨き、生産性向上を追求、品質管理を的確に、納期を厳守し、良品を提供しよう」としている。
当社では、年功や学歴に関係なく実力が評価され、努力する人、誠実な人が家族的な雰囲気に包まれて、着実に一歩一歩の前進を目指して仕事に勤しんでいる。
製造工程のあらましを見よう。
① 段ボール全紙大シートを型抜き・裁断する
② バリ取りして形を整える
③ 山折り・谷折りする
④ 箱に組み立てる
⑤ 箱の底部を固定する(ワイヤ止、糊で固定)
⑥ 完成品を検査・検品する。(品質管理—不良品の除去)
⑦ 出荷にむけて完成品を梱包する。
これらの作業を工程ごとに1人、2~3人、4~5人がかりで機械や装置を操作し、あるいは手作業で、機械や作業台に向かっての立ち仕事である。
作業の流れは①から⑥へと製品を仕上げていくが、ベルトコンベア連続の流れ作業ではない。作業従事者の都合にあわせて機械のスピードの調整ができる。前述のごとく、工程ごとに数人が配置され、チームワークよく連携をとりながら作業がすすめられる。
言葉の不自由な社員も働いている場合もあるが、工夫して内輪の連携がよりよくとられるようになり、職場のコミュニケーションに困ることが少ない。
障害者はそれぞれ3~4人単位の作業グループに属し、そのリーダーの作業指導を受けて作業している。
勤務形態:8時30分から17時25分まで就業(うち休憩時間55分)
パートは、9時00分から15時55分まで就業(うち休憩時間55分)
社内カレンダーによる週5日程度操業。
賃 金: 月給または日給制。パートは、時給制。
2. 障害者雇用の経緯
バブル景気の崩壊、少子高齢社会の到来とともに、創業以来それなりに人員を確保してきた当社では、リストラ、就職難、人余り時代といえども若い人を確保することが難かしくなり、パート、高齢者、障害者の採用に着目した。
生産は小ロット多品種で対応、ベルトコンベア連続の流れ作業ではない。機械化できず手作業でなければという工程もある。各工程の基幹作業をベテランの正社員に、そして補助作業・付帯作業をよく訓練された非正規社員に託すこととされた。
当時、地元の特別支援学校から短期、長期の職場実習を受け入れ、地元のハローワーク(公共職業安定所)の紹介を受け、職場適応訓練などを経て重度、軽度の知的障害者を1人、そしてまた1人と採用をはじめた。重度の知的障害者には製造部長が業務遂行援助者となり、長期にわたり障害者の職業生活自立、育成を支援した。
そのとき以来、関係行政、関係機関から支援・援助を受け、特別支援学校と連携しながらの職場実習、トライアル雇用、職場適応訓練を実施し、特定求職者雇用開発助成金、障害者介助者等助成金などの障害者雇用支援制度を活用した障害者雇用の進展がある。
創業このかた当社では、年功や学歴に関係なく実力が評価され、努力する人、誠実な人が家族的な雰囲気に包まれて、着実に一歩一歩の前進を目指して仕事に勤しんできた。
この職場に障害者が迎えられ、障害者自身の努力、その家族の支援、会社の上司・同僚・後輩のサポートがみのり、今日では、勤続30年、基幹作業従事者までになっている社員を先頭に、学卒者、中途採用者など3人の社員が働いている。
知的障害者のほか、昨年ハローワークの紹介で、聴覚障害者のトライアル雇用を実施したが、この人の場合は、通勤事情等のため社員採用までに至らなかった。今後も応募者があれば、範囲をひろげて、支援制度などを活用しながら人材確保につなげたい。
3. 取り組み内容
(1)工程内検査基準の制定と厳格な品質管理の徹底
製函工程のあらましは次のとおりであるが、
段ボール全紙大シートを型抜き・裁断する
バリ取りして形を整える
山折り・谷折りする
箱に組み立てる
箱の底部を固定する(ワイヤ止、のりで固定)
完成品を検査・検品する。(品質管理—不良品の除去)
出荷にむけて完成品を梱包する。
この工程ごとに「工程内検査手順書」を策定し、それを作業現場に設置し厳格に運用、製品の品質管理徹底の実効をあげている。
製造指示書、仕様書やこの工程内検査手順書を手元に、初心者には特に丁寧に実地教育訓練し不良品の発生を防止している。
初心者を指導したり、養成工をキャリアアップさせたり、担当職務変更、新製品製造のとき、正しいマニュアルを元に丁寧に教育・訓練・研修を実施している。
(2)管理監督者によるOJT
作業場における監督者による実地指導や訓練では「言って聞かせ、やってみせ、やらせてみて、褒める、そして教えたあとをみる」これをマスターしたとわかるまで繰り返す。根気よく着実に身につけるために、Plan→Do→Check→Actionのサイクルをまわしながら。
(3)作業環境の改善
整理、整頓、清掃、清潔の4S運動を展開し、職場の安心と安全を確保する。
・整理:いるものといらないものとを分け、いらないものを処分する。
・整頓:いるものを、決められた場所に使いやすいように置く。
・清掃:通路、作業上の汚れやごみを取り除き、散らかしているものを片づける。
・清潔:身だしなみを整え、作業場を汚さないようにいつもきれいにしておく。
(4)働く職場の温かい雰囲気
障害者を受け入れ始めてこのかた、共に働く職場のみんなが寄り添い、力を合せて一人ひとりがその職場で「必要な人、役立っている人」として愛され、ほめられて、仕事ができる幸せ、生きがいをもって働く職場の温かい雰囲気作りに常に取組んでいる。
(5)安心と安全の職場づくり
大量生産、大量消費の時代は去り、環境とエコを重視し、当社は小ロット多品種少量生産にシフトした。社員の健康管理、作業環境の管理、それに作業管理そのものの充実に注力しなければならない。殊に高齢者、障害者が共に働く職場である。
・健康管理の充実
健康診断の実施と事後措置。心の健康確保、メタボリックシンドローム、癌対策、生活習慣病(死の四重奏)予防などの取り組みがある。
・作業管理
腰痛の予防、有害作業の点検と改善、長時間加重労働の解消、ヒヤリハットに対する取り組み、設備・装置・器具・機械・治具の改善、補助具・保護具の使用など作業管理の充実に努めている。
・作業環境の改善
労働に起因する健康障害の防止、労働生活の質の向上、日常作業に内在する不適切な要因の除去低減を目指し、作業場のバリアフリー化に取り組んでいる。
以前は組み立て作業の多くを2階の作業場でしていたが、安全面を考慮して、1階の作業場に移転し、視環境・音環境・温熱条件・空気環境・作業空間に着目した快適職場づくりを進めている。

4. 配置・作業内容・キャリアアップ
トムソン部では、段ボールをトムソン機で打ち抜いたあと、穴の部分をとりはずしたり、まわりの切れ端をはずしたりして半製品を仕上げる。その半製品を結束する。製造の際に生じた切り屑を片づける。
このトムソン部では、障害のある社員にはトムソン機で打ち抜きされた製品の整理、額や穴などをきれいに掃除し、20枚ずつを結束機で結束して、この半製品をパレットに積む作業をしている。
ここでは業務遂行援助者は共に作業をしながら、障害のある社員に作業方法や手順について手本を示し、額や穴はキズがつきやすいため不良品がでないよう注意を喚起し、常に注意を払い指導援助している。
障害のある社員は指導者の指導援助を受け、製造作業にミスがないかチェックを受けて作業を進めていく。経験を重ねて技能を身につけるにつれ、指導者は順次指導の回数を減らし、自立を促す。習熟とともに作業の担当範囲も広がり、新たな仕事を託されたり、ときには後輩の指導役にもなったりする。
常日頃から業務遂行援助者は、この作業グループのメンバーの一人ひとりに働きかけ、ともに働く職場内の人間関係が円滑に進むよう配慮し、よき相談相手となっている。職場定着推進の取り組みの一環である。
トムソン部門のほかに、糊接合部門、組み立て部門がある。こちらでも障害のある社員がそれぞれの作業をしている。経験の長い作業者になると監督者の指示支援の度合いが少なくなり、より多くの仕事をまかせられ、作業効率も一段と向上してくる。糊接合機、ステッチャー工程など機械を操作する作業もあるが、手作業が必要な工程も多い。これも時間をかけて習熟すれば不良品をセーブし、余裕をもって生産ノルマを達成できる。多品種小ロットの作業工程につき、小回りのきく作業が要求される。
重度障害者の職場適応訓練を開始したこともあった。おとなしく真面目で手先は器用であるが、月のうち5~6日は休む。いったん出勤しても帰ることもある。指示されたことはできるが、自分で段取りすることは困難である。時間をかけて生活リズムを立て直すよう家庭と綿密に連携を取り、社員への採用にとつなげていく。
失敗と挫折の繰り返しでもあったが、ここに働く誰もが、人の役に立ち、人に必要とされ、生きがいをもって働きたいと願っている。


5. 取り組みの効果・今後の展望と課題
高齢者、長期勤続の障害者が社員として作業の基幹を担うまでになった障害者雇用の実績がある。このところ景気動向に厳しいものがあるが、「人に職務を」の考えで、各人の特性に即応した作業内容を用意、道具や機械の改良、作業工程の単純化などの工夫をして障害者を受け入れたい。
障害のある社員の職業生活の支援を担当することは、業務遂行援助者ばかりでなく、会社の上司、同僚、後輩自身にとっても、日々の支援業務を経験して「人を教えることは、指導者自身が学ぶことでもある」と知る。障害をのり越え共に働き共に学んで、職業生活の喜びをそこに見出していく。
障害のある社員同士が切磋琢磨して真面目に努力している仕事ぶりは、周囲への波及効果がある。根気よく着実な成長を見守りたい。
これまで障害者雇用に取り組んだ経験をいかして、障害者の退職者が出た場合には、障害者枠で募集採用したいなど、障害者の活躍を期待している。
これからも
作業環境整備、憩室、更衣室、更衣ロッカーの改善
ワークライフバランス、仕事と生活の均衡
ノーマライゼイション、障害のある社員、ない社員がごく自然にとともに生産活動参画できるような心のバリアフリーの環境づくり
自分が必要とされていないなどという孤独感の除去
作業工程の工夫、生活面のサポート・支援、
職業能力の向上、職域拡大
視環境・音環境・温熱条件・空気環境・作業空間に着目した快適職場づくり
など工夫して取組んでいきたい。
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