障害者雇用の原点はコミュニケーション~特例子会社 課長と主任の経験談~
- 事業所名
- JFEアップル西日本株式会社 本社事業所(JFEスチール株式会社の特例子会社)
- 所在地
- 広島県福山市
- 事業内容
- パソコンデータ・文書入力、計器検査・資料測定、プリントサービス、名刺印刷、メールサービス、書類頒布、他
- 従業員数
- 72名
- うち障害者数
- 45名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 1 パソコン入力 肢体不自由 37 パソコン入力、計器検査、書類頒布、コピー、メール、鋼片性能測定作業、事務サービス、その他 内部障害 3 書類頒布、計器検査 知的障害 1 書類頒布 精神障害 3 パソコン入力、カード作成 - 目次

1. はじめに
JFEアップル西日本は、JFEスチールの特例子会社として、平成4年4月に設立された。同年7月に入社式では10名の社員を確保し、職種探しや作業場の確保などに奔走。10月の本社屋落成から本格的な営業を始めた。よちよち歩きの時代から、パソコン入力を柱に多彩なサービスを織り交ぜながら徐々に業容を拡大。平成16年には「倉敷事業所」の設立を果たして大きく成長し、今日現在全社においては、社員94名(内、障害者64名)の事業規模に発展し、更に障害者雇用の拡大に意欲を燃やしている。
こうしたなかで、創業以来社員の中心的人物として活躍し、現在業務の中心的なパソコン入力職場を切り盛りする、藤井主任と第1業務課の境課長が、コミュニケーションづくりをどうすすめてきたかを振り返りながら、今後を展望した。
2. 草創期のコミュニケーション作り
境課長
こんにちは、私が出向してきて先代の業務課長からまず申し渡されたのが、コミュニケーションづくりの重要性を言いつけられました。当時、人間関係には不安はありませんでしたが、やはり障害者とのコミュニケーションという点で構えたことは否めませんでしたね。駐車場の片隅で皆さんと一服しようと「今日は足元が冷えるねー」と近づきましたが「わしらにゃ足に神経がないけんわからんです」と返されて次の言葉が出なかった苦い思い出があります。
藤井主任は平成4年7月15日の当社入社時から今日まで、職場で第一線のリーダーとして活躍してこられました。一口では語れないと思いますが18年の経験を通して、コミュニケーションづくりを進めてきましたね。
藤井主任
そうですね、入社はしたものの正直言ってどんな仕事なのかさっぱり分からず、ただ来る日も来る日も、製鉄所の専門用語に悩まされながら、キーボード入力の訓練でしたね。
一方で、入社当時から厳しく躾られたのが、コミュニケーションづくりでした。始終業時の10分間を職場ごとにミーティングを行なうのですが、仕事の話しはほんのわずかで、朝は今日の気持ちや最近の出来事に対する受け止めや考え、夕方は一日の仕事のなかで感じたことがらを輪番制ですが、みんなの前で発表します。自分の考えをキッチリと相手に伝える。相手の意見をしっかりと聞き取るという原則のところを厳しく躾られました。
朝夕のミーティングも、すんなりとここまで続いたのではありません。中には「もう発表するネタが尽きた」「話しをするのが苦手だ」など本音のところで、議論になった事がありましたけど「お仕事です」と押し通したり、新聞のコラムを利用したりと、職場毎に工夫しながら18年間毎日欠かさず続いていますね。

3. 業務日誌でのコミュニケーション
境課長
そうですね。コミュニケーションづくりの原点を朝夕のミーティングにおいて、仲間同士の意思疎通を図るということですね。
それから、仕事の内容や課題などを週報として、記入してもらっています。これは業務内容の把握はもちろんですが、健康状態やその日の課題を記入して貰っていますね。現場で毎日記入してもらって、副主任が毎日チェックを掛けながら、週末に主任、係長が目を通してコメントを入れる。これも健康管理や個別の課題を発掘する上で効果をあげていますね。
藤井主任
そうです、副主任から口頭で言えないことを日報のなかで発見して、様子を聞いてもらいたいと報告があり、個人面談を行なって対処することがあります。
「特にどこかを特定できないけど、体が動かない」と相談があって、いろいろ検討をしましたが、夏場の3ヶ月だけ帰宅時間を1時間早める短時間勤務を選択し、2年実施しましたら、昨年からは短時間勤務にしなくてフルタイム働けるという好事例も有りました。

4. JFEアップル西日本の個人面談
藤井主任
個人面談と言えば、設立当初は3ヶ月に1度のペースで、管理職による個人面談を行なっていました。病状の進行や職場での配慮など、個人的な課題をざっくばらんに言える場を大切にしてきました。今では定期的には年に2回にしていますけど、社員にしてみれば管理職に直接話ができる場ですから、「あれを言おう」「これを言おう」と準備するのですが、終わった後「発言を忘れた」と後悔する人もいますけどね。
境課長
そうですね、定期的な個人面談は、以前は課長が直接やっていましたが、社員の皆さん20人近くになると、定期的には限界が有り、副主任・主任は課長と一般は係長という役割分担にさせていただきました。
藤井主任
JFEアップル西日本の個人面談は本当に人気が有るのですよ。定期とは別に随時面談を進める職場定着委員会の取り組みがありますよね。そこで課長の面談に望む心構えのようなところを聞かせて下さい。
境課長
そうですね、個人面談の最も基本は「相手の気持ちを受け止めること」だと思っていますから、一緒になって悩んであげることが大事だと思います。課長だからとか亀の甲より年の功だと、説得しようとすると面談相手に受け入れてもらえません。散々聞いてあげてしまうと、比較的すんなりとこちらの言い分を理解してくれますね。ここのところを詳しくやりたいのですが、文章では限界がありますね。
5. 今月のコメント
藤井主任
ところで、課長と一般社員との定期的な面談を中断してから、始めたのが文書による「今月のコメント」ですね。毎月月末に仕事の課題や自分の健康、家族のことや人生論まで、その月を振り返りながら課長をイメージして書き込みを入れると、課長の思いもよらないコメントが返ってくる。結構みんな楽しみにしていますよ。
境課長
始めて3年目くらいになりますか。一般の社員と課長とのコミュニケーションづくりをどのように作るかの課題がありましてね。面談方式では相手との時間調整が必要ですが、文書だと比較的自由に時間を掛けることが出来ます。
それと、必要ないという人がいますね。それはそれで今月コメントなしでいいですと答えていますが、課長の方からコメントを求める、逆襲も結構楽しいですね。


6. 高次脳機能障害とコミュニケーション
境課長
ところで、体幹機能障害に加え精神障害を抱えているY君(仮名)の件ですが、十分な状態ではありませんが、本人の強い希望と主治医、産業医の診断結果を尊重し、職場復帰可能と診断された経緯もあって、職場の皆さんにはとてもご苦労を掛けていますね。
藤井主任
復職後、指導員を選任して、リハビリ就業中のパソコン入力者から、独り立ちした技能者として、パソコン操作を訓練する事にしました。
しかし、一般的なコミュニケーションをとるのも難しく、教えた事を覚えられないのでメモをとるように指導しましたが、必要なメモを探しきれないという現実に指導員が参ってしまいました。
これまでのメモを整理する意味で、実作業を中止して、メモをマニュアル化する作業に専念して貰いましたが、とてもマニュアルを完成させるところまで行かず断念しました。
一方で、週1回土曜日クリニックのリハビリを受けながらの職場生活で、クリニックからの要請があることに何をどのように答えていいか、真意がつかめず現場は本当に暗中模索の毎日でした。
また、草創期を思い出して、ふれあいノートを提案し始めました。当初は、なかなか本音を表現できませんでした。それは、本人が本音を書いたら、会社から悪い評価をされるという観念から、どうしても当り障りのない表現しか出来ず、家族の参加もいただけず、現場がいらいらしたときもありました。
境課長
そこで、4ヶ月経過したなかで、クリニックとご家族を交えて、これまでの経過を踏まえて、以降のすすめ方を整理しましたね。
ふれあいノートを軸に、本人・会社・家族・クリニックの立場で課題を共有するという、基本の再確認、クリニックサイドの病識のアプローチ、そしてご家族の積極的な参加を求めてきました。
6月頃になって、やっと本音が引き出せるようになりましたが、こちらが緩めるとすぐに当り障りのない表現に戻ってしまいます。そこで本音を表現できるように誘導すると、課題を表現できるようになる、といった繰り返しでした。そのような状況のなかで繰り返し繰り返しですが、Y君の目標を「自立」ということに絞ってノートのなかで訴えてきました。彼の中にわずかですが、自分で指導員に質問する頻度が少なくなってきたような感じが出て来ましたね。
藤井主任
課長の言われるように、本当にねばり強く繰り返し繰り返しでしたね。このふれあいノートは、他の社員の中でコミュニケーションをとることが困難な社員に対しても、範囲を広げて取り組みを進めています。
さて、わが社の色々なコミュニケーションづくりへの取り組みについて、お話しさせていただきました。お話しを整理する意味で、ここで、コミュニケーションに対する課長の基本的な姿勢をお伺いしたいのですが。
境課長
そうですね、自分がどのようなスタンスで相手とのコミュニケーションづくりを進めるかということですね。
ここの部分は、やっぱり自分のこれまでの経験のなかで築いた哲学と言うと大げさですが、生き様のような土台が有るといいでしょうね。面談を通して、よく聞くのは「相手が悪いので自分が苦しい」「過去の出来事が今の私を苦しめる」と言うのです。でも、どのように考えてもいくら悔やんでも「過去と他人は変えられない」のです。あるがままなのです。
でも、「未来と自分は変えられる」です。あるがままにそっくり受け止めて、未来に向けて今、目の前の選択を誤まらないように取っていくことと、あるがままの現実を前向きに受け止められる自分をつくることが大事だと考えて対応しています。
7. レクリェーションでのコミュニケーション
藤井主任
ありがとうございます。話は変わりますが、なんと言っても倉敷事業所を含めた、全社員のコミュニケーションづくりですけど、「忘年会」や「すこやか大会」など年間いくつかイベントがありますが、「旅行会」は盛り上がりますね。
昨年の旅行会は、日帰りコースの年でしたが、手作りのイベントを企画し、グランドゴルフにバーベキュー大会を組み合わせて、みんなが役割を分担していましたね。
境課長
社員会役員の皆さんのご苦労は大変なものだと思いますし、感謝しているところですが、参加した社員一人ひとりが率先して行事に参画している姿が自画自賛ではありますが、本当に嬉しいですね。参加でなくて参画だから、一人ひとりが行事を通して、自分が今何をしなければならないかを考えて行動してくれています。
藤井主任
草創期からの伝統ですね。お互いの障害を認識しあって、不自由なところを助け合うという、障害者同士の本音のコミュニケーションが遊びを通して醸成されるというのでしょうか、自分でできることは自分でする。出来ないところは「ご免なさい」とコミュニケーションをとることが原点ですね。
境課長
私は昨年、生ビールの担当でしたが、はじめは「課長、恐縮です」なんて言っていましたが、盛り上がってくると「大盛りお願い」なんてことになってしまって。のりがいいのもわが社の特徴ですかね。
そういえば、主任は黙々と野菜を切っていましたね。
藤井主任
グラウンドゴルフは体調が優れなくて不参加だったものですから、せめて裏方のお手伝いをさせていただいていました。課長もビールサーバーを離さず、みなさんに振舞っていましたけど自分のお腹の中にもたくさん入っていましたよ。
境課長
さすが主任ですね。ちゃんと見るところはチェックが入っている。ここがコミュニケーションのスタートかなと考えています。人とひとの繋がりの出発点は相手への関心から始まるのです。「関係ない」と思っていては進みませんね。
さて、まだまだ話したいことは山ほどありますが、時間となったようです。今日は、どうもありがとうございました。今後ともコミュニケーションづくりにいっしょに取り組みましょう。

(対談者職歴)
第1業務課 課長 境 和幸
昭和42年 4月 日本鋼管(株)福山製鉄所入社
平成 9年 1月 JFEアップル西日本(株)入社(株)出向
平成20年10月 JFEアップル西日本(株)移籍
職務:PC入力、メールサービス、プリントサービスのマネージを担当。
第2・倉敷業務課全体を集約しながら、特に採用を含めた労務管理を進めている。
第1業務課 主任 藤井 宣美
平成 4年 7月 入社
平成12年 4月 副主任
平成15年 9月 広島県雇用開発協会会長 優秀勤労者表彰
平成17年 4月 主任
平成19年 9月 厚生労働大臣 優秀勤労者表彰
職務:PC入力職場22名のリーダーとして職場の信望が厚く、
職場をまとめるに留まらず、職域・地域サービスの窓口として活躍している。
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