企業での障害者雇用の取り組みと、関係機関との連携について


1. 事業所の概要
徳島市と鳴門市のほぼ中間地点に位置し、昭和13年浦田医院として開設し昭和26年には医療法人を設立以降、地域医療は勿論の事、都市化へと姿を変える国道11号線の要衝で救急患者様の受け皿としての役割や在宅患者の急変に対応等、また急性期と在宅の橋渡し機能を備え、医療スタッフは170名を超えている。
病床は介護・医療入院共に対応し、総合リハビリセンター(理学療法士・作業療法士・言語療法士)を設置し、生活習慣病の予防だけでなく失われた機能回復にあらゆる方向からアプローチし少しでも元の身体の状態に戻れるように努めている。診療科目は、内科・外科・婦人科・歯科・リハビリテーション科・放射線科・各種診断・人間ドック・川内町大塚製薬内に歯科診療所を開設するなど、多方面より地域の皆様へより良い医療を提供する事を心がけている。
また、平成20年6月に厚生労働省所管の財団法人21世紀職業財団徳島営業所長より「職場風土改革促進事業実施事業主」として指定を受けた。弘誠会は、職員の72%が女性で、仕事と家庭の両立をしやすい職場創りをテーマに掲げ、支援制度を導入・活用し、女性が長期に渡って働ける職場を目指している。個々の職員が自身の能力を最大限発揮し、患者により質の高い医療・サービスを提供したいと考えている。具体的には、支援制度の見直し・勤務形態の選択・子育て支援計画の周知徹底・男性職員育児参加促進などを初めとして職場風土および環境改善を促進して参る事を宣言している。
理念として
一.自然を敬い
一.生命を尊び
一.人間を愛す
基本方針として
1.患者様の人権を尊重し、良質の医療・看護・介護を提供する。
2.良質な医療を提供するため環境整備を行う。
3.良質の医療を提供するため、知識・技術の向上に努め、
職員は日々研修・研鑚に努める。
4. 地域医療・福祉の発展に尽力尽くす。
このような企業理念と地元地域に根ざした企業マインドが、特別なことではない形で障害者雇用を進めさせてきた。また、平成21年3月13日に障害者の雇用を支える徳島企業ネットワークに加入し、勢力的に活動を始めた。
2. 障害者雇用の経緯
障害者雇用の経緯や背景は、当社の方針と地域事情があったと考えられる。当院がある徳島県板野郡は、人口1万5千人、総面積13.94平方キロメートルの小さな町である。この町には古くから知的障害児施設と知的障害者施設が複数存在していた。昭和40年代に地元の知的障害者入所更生施設から職場実習の依頼があり、知的障害者であるAさんの受け入れを開始した。障害者が当院で働く事について抵抗感はほとんど感じなかった。受け入れた実習生が体調不良を訴える時は、同施設に連絡し、状況によっては、駆けつけてもらう等協力体制ができた。のちに、障害者就業・生活支援センターが町内にでき、福祉施設や関係機関が障害者の生活面をしっかりサポートしてくれる体制が整ったことも障害者雇用を促進させた要因の一つだと考えられる。当時初めて受け入れしたAさん(女性)は、現在も勤続年数40年、マッサージ師の2名も30年~40年浦田病院で仕事を続けている。「できる仕事があれば。」と云う考えのもと、その後も平成17年に特別支援学校からの紹介で1名、平成21年に就業・生活支援センターの紹介で1名、平成22年にも、就労移行支援事業所より、清掃業務員として1名採用し、継続的な雇用を行っている。また、ハローワークと盲学校の紹介でマッサージ師として視覚障害を持つ従業員も3名雇用されている。この他にも、過去に違う部署において障害者の雇用の経験がある。また特別支援学校の職場実習の受け入れなども積極的に行ってきた。
3. 取り組み内容
(1)従事業務・職場配置
清掃業務3名(院内各居室と廊下やトイレ、風呂などの共有スペースの清掃)
洗濯業務1名(患者さんの衣類などの洗濯・配送)
マッサージ師3名(リハビリを兼ねたマッサージ)


(2)能力を引き出す人材育成
当社の清掃業務では、どの場所でもこなせるオールマイティーな障害のある従業員の人材育成に力を入れている。障害のある従業員の働き甲斐を感じられることを重要視し、そのために日々の業務の中で柔軟な配置転換や配置場所の試行錯誤を実施している。また、障害のある従業員には会話が重要だと考え、作業現場の上司がコミュニケーションを取り、体調面や本人の意志など日々確認している。障害者の長所を活かした配属は、当院にとって有益な人材育成が図られている。また、各関係機関や福祉機関と連携することで、障害のある従業員の生活面をふまえた労務管理ができるようにもなった。
<1>Bさんの場合
性別:女性
雇用の経緯:平成17年特別支援学校から職場適応訓練を開始、平成18年パート雇用になる。
業務内容:清掃業務(院内各居室と廊下やトイレ、風呂など共有スペースの清掃)
職場適応訓練中のある日、「通勤途中に襲われた。腕を切りつけられた」とBさんより話しがあった。Bさんが住んでいる施設に連絡を入れたところ施設職員が駆けつけてくれた。Bさんの状況を施設職員が何度か聞くと、今回のことは、他者の注意をひくために行った自傷行為だった。院長から、緊急の対応ができるよう携帯電話を持つこと等を条件に、職場適応訓練を継続することとなった。その時のことをBさんは、「院長さんや事務長さんの言葉で、私が変わらなくてはいけないと感じた」と話している。このあとBさんの言動を信用できなくなってしまった為、職場適応訓練後の雇用は考えていなかったが、訓練終了間際、Bさんから「働かせて欲しい」と熱望されBさんに最後のチャンスをあたえることになった。その後Bさんが真面目に仕事を取り組んでいた為、現場の上司がBさんを支え続けた。その後のBさんの働きぶりを評価し、土日祝日一人で行なう業務をBさんに任せる事になった。Bさんは、「これでようやく認められた。」と嬉しそうに話したと聞く。現在では作業現場のムードメーカー的な存在になり、どの掃除場所でもオールマイティーにこなせるようになっている。
平成21年、22年には、Cさん、Dさんを雇用。Bさんは先輩としてCさんDさんをフォローし、仕事のコツなどを教えてくれる頼もしい先輩になっている。また、生活面も充実してきており平成22年2月にはかねてからお付き合いしていた彼と結婚。結婚式には当社の上司や同僚が招待され、Bさん夫婦を祝福した。また、8月には第一子が生まれている。現在は、育児休暇中で子育てに専念している。
<2>Dさんの場合
性別:女性
雇用の経緯:平成22年、就労移行支援事業所より実習を行い、その後雇用となる。
業務内容:清掃業務(院内各居室と廊下やトイレ、風呂など共有スペースの清掃)
Dさんは、松茂町内のグループホームより就労移行支援事業所に通っていた。Dさんは対人関係に課題があり、人と会話をするのを得意としていなかった。就労移行支援事業所では、弁当の配達や接客を主に行い、Dさんができるだけ人と関わるよう取り組んできた。その効果があってか、グループホームの生活の中でも自分の意見を他者に伝えることができるようになった。就労移行支援事業所サイドもそろそろ施設外実習に出したいと考えていた頃、当院の清掃業務の求人を見て、Dさんが面接にやってきた。面接時Dさんと話しをすると、「頑張りたいです。」と小さな声で答えてくれるもののやはり当初は表情の暗さが気になった。当院としては、二週間実習で受け入れ、雇用については、それから判断することにした。実習中、就労移行支援事業所と就業・生活支援センター両者がDさんのサポートに入ってくれた。まずは患者の居室に入る時に「失礼します。」出る時に「失礼しました。」と声を出すサポートから始めた。実習が進むに連れ声も出るようになり、時折笑顔も見え、困った時や解らない時には、自ら現場の上司に指示を仰ぐことが出来る様になってきた。実習終盤にDさん、ハローワーク、就労移行支援事業、就業・生活支援センターを交え、今後について話し合いを行った。「患者さんから、『ありがとう』って言われるとうれしいけん。頑張りたい。」とDさん。当院としては、清掃業務従事者といえども、直接患者やご家族と対面する場面があることから、Dさんの表情の暗さや受け答えに課題があると感じ、トライアル雇用を活用してみることにした。現在、試行雇用期間中である。
(3)障害のある従業員の適材適所
Aさんが入社した当時、介護補助業務にも従事してもらっていた。Aさんには、当院の清掃業務、リネン(洗濯)業務など全般を経験してもらった結果、リネン業務が一番合っていると判断をし、現在まで40年もの間この仕事に従事してもらっている。
また、当院では清掃業務、リネン業務、マッサージ師の他に、医療品の滅菌・消毒業務(中材=中央材料室)でも障害者を雇用した経験がある。障害がある方の特性を見極め、適材適所の配属とし、本人の意志や働き甲斐を高めることで、今後もAさんのような長期に渡る雇用者が増えると思われる。
4. 取り組みの効果
(1)本人にとって
Bさんのように生活面に問題がある従業員に対しては、当院から、「雇用できない。」ときっぱり話しをしたことでBさんが「このままではいけない。」と気付けたことが、本人の成長に繋がったと思う。
「昔は、色々やったけんな」と当時の事を照れながら話してくれるBさん。「最近Dさんが入社したやろ。Dさんを見ていたら昔の私みたいで・・・声だすのが恥ずかしいんやと思うよ」と振り返り、Dさんに積極的にアドバイスをしてくれている。今度はBさんが後輩のCさん、Dさんに教えて行く立場になり、働いている障害のある方が、後輩を育てる環境をつくることで本人達に責任感が芽生えてきているように感じている。
(2)企業にとって
当社は、障害者雇用の制度が充実していない数十年前から雇用を実施してきた。最近では各種助成金・制度など整備されたことで、以前より前向きに障害者雇用を取り組めるようになったと感じる。また、関係機関との連携や職場配置の工夫、能力を引き出す人材育成を取り組んだ結果、30年~40年にも渡る勤続年数の障害者を雇用する事ができている。当院は、「障害者」としてではなく一般の「社員」「従業員」と考えて雇用している。また、働く障害者も働き甲斐を感じて仕事をしてくれているように感じている。今後もこの経験を生かし、福祉機関や特別支援学校の働く意欲のある障害者の実習や雇用を受け入れて行きたいと考えている。
(3)福祉機関にとって
福祉機関にとって、若い能力を育成し勤続年数の長い従業員を育てることで、自分の夢や目標を叶えたり、安定した生活を送られる障害のある当事者が生まれる効果があったと思う。また、積極的な企業実習の受け入れなどにより、障害のある当事者が職場体験を出来ることで次に繋がる架け橋になればと思っている。
5. 今後の課題と展望
これからも、障害者を「労働力」として考えるのではなく、障害者が自分の夢を叶えるために、このような社会的な自立に向けた取り組みを関係機関と連携して、支えていきたいと考えている。
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