一人ひとりの働きがいと家族的な職場環境で職場定着
- 事業所名
- 株式会社千鳥饅頭総本舗
- 所在地
- 福岡県福岡市(本社)、福岡県糟屋郡(工場)
- 事業内容
- 菓子製造販売
- 従業員数
- 275名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 菓子製造 聴覚障害 肢体不自由 1 ベーカリー製造 内部障害 知的障害 5 菓子製造 精神障害 - 目次
1. 事業所の概要
(1)沿革
株式会社千鳥饅頭総本舗(以下「千鳥饅頭」という。)は、長崎に伝来した南蛮菓子、かすていら・マルボーロの製法をいちはやく学び、寛永七年焼菓子の専門店として佐賀県佐賀郡に「松月堂」の屋号で本格的にお菓子屋を始めることから始まる。やがて焼菓子に日本独特の白餡を加味したまろやかなおいしさの饅頭を世に送ることになる。この饅頭に”水鏡せると伝ふる天神のみあしのあとに千鳥群れ飛ぶ…”という菅原道真公の故事にちなんで「千鳥饅頭」と名づけた。以来、千鳥饅頭・丸ボーロ・かすていらの三品は千鳥屋の焼菓子の銘菓として皆さまに愛され親しまれた。昭和2年に福岡県嘉穂郡に松月堂の飯塚支店として「千鳥屋」を開店し、千鳥饅頭、丸ボーロ、カステラの三品を専門に製造販売を開始。昭和14年に千鳥屋飯塚本店とする。昭和24年に福岡市に進出し、昭和27年に千鳥饅頭が全国菓子大博覧会で名誉大賞牌を受賞、昭和29年に同大博覧会で、カステラが名誉大賞牌を受けるなど、評価を受ける。昭和33年に福岡市に本店を設立。その後、昭和37年に洋風巻きせんべいの「チロリアン」、昭和41年に本格的なドイツ風ケーキを製造販売。それに伴い、昭和44年にドイツ菓子専門の「エルベ」店、昭和46年にパン製造販売店「スベンスカ」を創業、平成12年にチョコレート専門店「アンナベル」開店など、ドイツとの親交を深める。平成16年に社名を株式会社千鳥饅頭総本舗に改名し、現在に至る。
常にお客様第一、本物のおいしさをお届けしたいと願う千鳥屋は、吟味を重ねた原料に伝統の匠の技を生かし、日々意欲的な製品開発を続けている。
(2)概要
福岡市に本社を置き、県内に直営38店舗を持ち他にデパート等外販部門にも商品を卸している。糟屋郡にセントラル工場を構え、ここで製造を一手に引き受けている。伝統的な和菓子に加え、本場ドイツで修行したマイスターがつくる純ドイツ菓子をはじめ、ライ麦を主原料にしたドイツパン、そして最高級チョコレートを使ったお菓子など、千鳥屋は、ドイツなどヨーロッパから新しい技術とソフトを導入し、「良い材料で良い製品を」「本物主義」「医食同源」など独自の菓子文化を創造している。
2. 障害者雇用の経緯
セントラル工場において障害者雇用を行っている。雇用の経緯は法定雇用率の遵守がきっかけであるが、高校生の職場実習受け入れを以前から行っており、その一環として特別支援学校などからの職場実習も受け入れていた。これは現在も続いている。昭和38年から雇用を開始しているが、特に障害者雇用を意識して行っているわけではない。昭和45年、47年、50年、52年と1~2名ずつ雇用している。7名のうち2名は採用後に知的障害であることが分かったという逸話もある。在学時に実習を行い、求人状況と希望が合えば雇用するという自然な形であった。特筆すべきは、一人も退職していないことである。そして、それは障害者だけでなく、ほとんどの工場の従業員が退職しないのである。事業拡大が望めない昨今、このような状況なので、現在は一般で新たに入職する従業員も少なく、障害者雇用も最近はできない状況である。
3. 従業員が継続する秘訣
千鳥饅頭は、障害者の職場定着率が非常に良い。また、障害のない従業員の職場定着も非常によいのが特徴である。その秘訣を探ってみたい。
(1)従業員の特性を活かす
千鳥饅頭では、障害者と、障害のない新卒の入職者で差をつけていない。障害に着目するのではなく、その人の特性を把握し、能力を活かせる場所に配置することとしている。障害者についても、はじめから仕事内容を制限せず、色々と担当させて、その人の得意な仕事に就かせている。障害のある従業員はここで働いている経験が長いため、生産性についても他の従業員と同じであることから、結果的に重点部門を任されている。
(2)長所を見ている
従業員の中で、障害がある従業員を特別視する文化はない。障害のない従業員に障害のある従業員のことを聞いてみると、「まじめで一生懸命」「仕事を休まない」「新卒の(障害のない)実習生や新入社員も彼ら(障害のある従業員)とちっとも変わらない。違いはなく同じに見える」と見ている。
(3)家族的な社風
障害のない従業員も長期に働いており、同じ顔ぶれで長期にわたって仕事をしている。千鳥饅頭には家族的なチームワーク、助け合いの精神が社風として根付いているようだ。従業員同士は障害があってもなくても人格的には対等で、互いに尊重しあっているようであり、障害者を格下に見るという庇護的雰囲気もない。もちろん、ミスをすれば叱るが、その後に教え、その仕事を継続させている。ダメという判断はしない。これは障害とは関係なくすべての従業員に当てはまる。企業文化であろう。
社員旅行や社員レクリエーションも全員で参加し、アフターファイブの付き合いも、障害のある従業員も普通に混じって必ず参加している。障害のない従業員もそれが当たり前として考えて普通に接している。従業員の中に、彼らが障害者であるという意識はない。ノーマライゼーションの世界がここににあった。
(4)従業員一人一人の条件に合わせる
障害の有無に関係なく、年齢や体力に合わせて労働条件を変えている。例えば、高齢で身体障害のある従業員は短時間勤務にするなど、その人の働ける条件に合わせる柔軟性がある。
(5)障害のある従業員の声
50歳代の知的障害がある従業員から話を聞いた。「厳しい面もあるが、みんなやさしい。話しやすいし、仕事も遊びもみんなと一緒。仕事はやりがいがある」とのことであった。自信あふれる表情が印象的であった。
4. 今後の障害者雇用
特別に障害者雇用をしているという意識が千鳥饅頭にあるわけではない。しかし、法定雇用率達成という意識はある。最近は障害者雇用をしていないが、障害者だけでなく一般新卒者の雇用もしていない。従業員が辞めないので採用できないというのが理由だ。また、全従業員の7割は、店舗での販売事務である。店舗は少人数で運営しなければならないので、現実的に知的障害者等が働くのは難しいようである。工場だけで障害者雇用を担うとなると、これ以上人員を増やす余地がないので厳しい。千鳥饅頭はこのようなジレンマを抱えている。
5. おわりに
特別に障害者を雇用しようと考えて、特別支援学校の実習生から採用した従業員は2名、その他の5名は特別の意識もなく雇用している。そして特筆すべきは、障害者も含めた従業員の定着が非常によいことが特徴的であった。その要因は、同じ人間として対等に見ていることが大きく、さらに、先入観で判断せずに体験から得手不得手を判断して部署を決めるなど、障害者の能力を限定的に捉えていない。
筆者の持論は、「障害者雇用は企業の雇用管理の質を測る物差し。障害者が働きやすい職場環境は誰もが働きやすい職場環境」である。まさにそれを実感させてくれた。従業員にとって働きやすい職場になっているか、雇用管理はうまくいっているかを測り、それを実現するには、障害者雇用を行い、障害者が働きやすい職場づくりをめざせばよいといえよう。株式会社千鳥饅頭総本舗はそれを実証してくれた。
臨床心理学科(精神保健福祉コース) 教授 倉知 延章
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