事業所名

有限会社堀江製パン

所在地

佐賀県佐賀市

事業内容

パン・菓子製造販売、炊飯加工業

従業員数

60名

うち障害者数

21名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害
聴覚障害	1	パン・菓子の製造工程
肢体不自由	1	〃
内部障害
知的障害	17	パン・菓子の製造工程
精神障害	2	〃

目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
2. 取り組みの内容
3. 取り組みの効果
4. 今後の課題と展望

事業所外観

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯

昭和27年7月にパンの製造販売を目的として、佐賀市堀江通りに工場を建設し創業する。昭和55年に鍋島工場に移転、その後、佐賀市学校給食パンや米飯、菓子の製造等業務を拡大し、県内や九州はもとより全国各地に営業を展開している。平成17年8月に工場を新築移転、社員寮も整備し現在に至っている。

従業員は60名、障害者は21名（うち重度7名）で障害者雇用率は46.7％となっている。障害者を雇用したのは平成元年3月頃からで、特別支援学校やハローワーク（公共職業安定所）等からの雇用要請を受けて知的障害者の職場実習を行い、実習態度が真面目で良好であったため雇用した。当時、パンの製造会社はどこも人手不足で、募集しても応募が少なかった時代で障害者の雇用が検討されやすい状況にあった。その後、特別支援学校だけでなく、知的障害者施設からも職場実習を受け入れるようになり、順次障害者の雇用が拡大し、身体障害者や精神障害者の雇用も全体の従業員数の拡大とともに進んできている。平成17年には現在地に新築移転したが、その際、重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金を活用し、障害者のための社員寮を建設し、8名の障害者が生活できる環境を整えている。

2. 取り組みの内容

（1）募集・雇用

募集はハローワークを通して行っているが、原則として新卒者を採用することにしている。これまでに、中途採用も行ったが、コミュニケーションが上手くとれなかったり、前の仕事と比較して途中でやめたりすることが多かったため、現在中途採用は行っていない。特別支援学校や障害者施設に在学・在所中に職場実習を受けて経過が良好な場合トライアル雇用を経て正規に雇用することにしている。

（2）障害者の業務・職場配置

パンの製造工程は、パンの生地をつくる仕込みの工程、出来上がったパン生地を1個のパンの量に分割する工程、様々なパンの形をつくる成形の工程、成形したパン生地をオーブンで焼き上げる焼成の工程、焼きあがったパンを包装する包装の工程という5つの工程から構成されている。また、パン製造の他に炊飯の作業を行う部署でも障害者が働いている。現在、知的障害者は全工程で働いており、身体障害者は成形と包装の工程で、精神障害者は包装と炊飯の作業部門で働いている。それぞれの作業工程には難易度の違いはあるが、基本的に全工程ができるように、作業の習熟度や時期を見ながら作業ポジションを変えていくようにしている。また、パンの製造は、全工程が機械化されているが、高価な製品は手作りで行うため、機械作業・手作り作業どちらも仕事ができるように、障害者の作業配置を行っている。障害者だけが担当する工程というものはなく、すべての工程で障害のある者とない者が一緒に働くという体制が取られていた。

生地の分割作業

食パンの成型

焼成工程の作業

3. 取り組みの効果

知的障害者の場合、仕事の習熟に少し時間はかかるが、覚えたら手抜きをせずに根気強く作業を行うので、ほとんど他の従業員との差違はない。また、製品が食品関係であるため衛生面には特に留意が必要だが、工場への入室基準は詳細に定めており、その決まりをきちんと守る態度は、他の従業員の模範になっている。身体障害者は、下肢障害や聴覚障害であるが、作業能力には特に問題はなく、精神障害者も炊飯工程で根気強く取り組んでいる。

パンの製造は朝が早い仕事であり、突発的な発注があったときは作業時間が長時間になる場合もある。そのような時でも、率先して仕事に取り組み、最後までやりぬくという姿勢は感心させられるもので、障害者に共通してみられる特徴でもある。

平成17年に現在地に新工場を新築した際に障害者のための社員寮を併設し、8室ある寮で現在7名の知的障害者が寮生活を送っている。通勤が困難な場合や通勤途上の事故防止などに配慮したもので、寮にはヘルパーの資格を持つ寮母が配置されている。寮母は食事の世話だけでなく、仕事上の悩みや職場の人間関係、生活上の相談など親身に世話をしており、会社や家族との連絡・調整をしながら安心して働き、生活できる環境が作られていた。また、誕生会や職員旅行、忘年会など職場における社員の親睦をはかる行事も年間計画で実施されている。

4. 今後の課題と展望

企業理念として、「障害者とともに会社運営を行っていく」とされており、障害者雇用を積極的に推進しているだけではなく、作業環境や生活面での環境整備にも熱心に取り組まれていた。同じ作業工程では真面目にコツコツやってくれるという面もあるが、同じ作業環境ばかり行っていると慣れが生じ注意散漫になったり、作業ミスも出てくるため、状況により作業ポジションを変更することにしている。作業工程ごとにそれぞれ難しいところがあるので、その部分を習得することを目標にすることで、難易度の高い作業工程ができるようになりたいという作業意欲の向上にもなっている。会社としてはどのような作業工程でもできるように教育しているが、そこには、パン職人として通用する人材を育成したいという障害者に対する確固とした人材育成の方針を見取ることができた。

わが国の主食の消費状況は、コメの消費は下落し、パンは横ばいという状況が続いており、パンや米飯の製造販売を行っている当社は厳しい現況であるということであった。しかし、業績が拡大していけば、今後も障害者雇用が拡大していくという会社方針を示されていた。

特別支援学校や障害者施設、ハローワーク、障害者就業・生活支援センター等関係機関との連携は良好であり、保護者との関係もさらに深めていきたいということであった。今後は、障害があっても確かな腕をもった一流のパン作り職人の誕生が期待されている。

執筆者：西九州大学  健康福祉学部  社会福祉学科  准教授  田代  勝良