職場改善や体制整備を図り関係機関の支援を得ながら
~初めての知的障害者雇用を実現した~

1. 事業所概要
西海国立公園の玄関口に位置する「西海パールシーリゾート」を運営する第3セクターである。
■設立 | 平成2年5月28日 |
■資本金 | 2億9,600万円 52株主(佐世保市の持株比率50%) |
■事業内容 | (1)西海国立公園九十九島水族館の管理運営 (2)九十九島遊覧船の運航 (3)エコツアー(小型遊覧船・ヨット他)の企画運営 (4)物販店の運営 (5)テナント管理・マリーナの管理運営 (6)園地の維持管理 (7)イベントの企画運営 |
■組織構成 | ●総務部(総務課・販売課)●営業部 ●遊覧船事業部(エコツアー推進室) ●水族館事業部(運営課・施設管理課・クラゲ魚類課・イルカ課・九十九島ビジターセンター) 佐世保市より指定管理者として指定を受け、管理運営を行う「西海国立公園九十九島水族館 海きらら」の平成21年度(平成21年7月18日リニューアルオープン)の入館者数は558,918人であった。内訳は個人客が84%、団体客が16%、障害者が8,427人、外国人客が6,797人であった。 遊覧船の平成21年度の乗船者数は312,273人であった。内訳は個人客が63%、団体客が37%、障害者が4,845人、外国人客が10,470人であった。 |
2. 採用までの経緯
長崎県北地域障害者就業・生活支援センターの就労生活支援ワーカーから、「長崎県立佐世保養護学校の生徒さんが、実習先の急な都合で、職場実習が出来なくなったので、10日間の実習を受け入れてもらえないか。」と打診があり、社内での職場実習内容、実習指導、教育担当者を検討し、受入れをすることになった。受け入れがきちんとできるか不安であったが、職場実習の前に、Aさんと保護者の方と担任の先生と実習内容の打ち合わせを行った際、Aさんはきちんと靴を揃えて入室され、大きな声で挨拶し、質問に対する答えも、きちんと実習帳に書くことができていたので、通常行う職場実習と同様の実習を行うこととした。
実習では、マナー研修、小型遊覧船の掃除、エサ切り(水族館の給餌用)、大型遊覧船の改札、真珠貝洗い、船内売店、領収証の印鑑押しなどを体験してもらった。初めての受け入れだったので、担当者を1人決めて、実習中はできるだけ一緒にいるようにしたが、特に問題なく終了した。学校や家庭でいろいろなことを教えられていて、それがしっかり身についていると感じた。
その後、就職の依頼があり、1ヶ月の特別実習を行って検討を行うこととなった。特別実習は就職を前提としていたので、特別な技術や経験の必要がなく、習得がしやすい作業を各部署で洗い出し、それをもとに出来るだけ多くのことを体験してもらい、採用できるかどうかを検討した。他の従業員とのコミュニケーションは、休憩時間にテレビドラマの話で盛り上がったり、自分から、いろいろなことを話してくれたりしたので、うまくとれていた。仕事内容では、1度教えられたことや伝えたことを完全に忘れることはなかったが、休み明けの日は最初に教えたときのスピードに戻っており、作業手順を思い出すまでに時間がかかることがあった。それ以外は特に問題がなく、長期的にみれば十分戦力になると判断し、就職に向けたケース会議を行うことになった。
ケース会議は、ハローワーク佐世保の担当者、長崎障害者職業センターの職業カウンセラー、県北障害者就業生活支援センターの就労生活支援ワーカー、ジョブコーチ、佐世保養護学校の進路担当の先生、Aさん(平成22年3月27日雇用)、Aさんの保護者、当社総務部長と担当者で行い、Aさんの支援体制の確認や、雇用前の職場適応援助者による支援事業(ジョブコーチ支援事業)、トライアル雇用の説明を受け、採用に向けて、協力していくことを確認した。会議はこの後、ジョブコーチ支援事業(支援期間平成22年3月2日から平成22年6月26日)、トライアル雇用(雇用期間平成22年3月27日から平成22年6月26日)の終了前に行い、経過の報告などで、情報を共有化することができ、何かあった際は、すぐに連絡・相談できる体制ができたのでよかった。
ジョブコーチ支援事業は、ジョブコーチ支援計画書に基づいて実施された。具体的には、①対象者支援として作業状況を把握・分析して指示の理解や定着を図りやすい方法(手順書、メモのとり方)や職場でのコミュニケーション(報告、質問など)についてアドバイスする、又働く上で困ったことなどが発生した時には、本人の話を聞き事業所の協力の下に徐々に自身で解決していけるように支援する、②事業主支援として障害の特性や作業の習得状況及び習得の見通しから本人の力が発揮されやすい指導方法(指示の提示方法など)についての助言をするものだった。Aさんが休み明けにウトウトしてしまったり、手を切ったりしたことがあったが、ジョブコーチに話(安定した職業生活を送るために食事や睡眠、規則正しい生活リズムをとること)をしてもらい、改善することができた。支援期間が過ぎても、気に掛けてもらっているので心強い。
特別実習、ジョブコーチ支援事業中は、各部署でもAさんが取り組みやすいように業務内容を図にしたものを作って掲示したり、釣銭準備用の金種表は金額が書いてあるだけだったものに枚数や本数を書き加えたり、誰にでもわかるような工夫をした。このような工夫をジョブコーチ、支援ワーカーから褒めてもらい、受け入れ側も自信が付き、さらなる工夫への励みとなった。
①ケース会議

②加工手順・方法(魚の切り方)

3. 採用後の状況
勤務時間は、8:45~16:45(休憩1時間、実働7時間)、週休2日とした。バス通勤の時間帯や本人の体力、仕事内容を勘案して決定した。また社会保険等の福利厚生などは障害のない職員と同じであり、所属は総務部総務課とし、机も用意した。
仕事は、1日の時間割に基づいて、自主的に行えるようにしている。時間割は、実習中に、仕事中の小休憩がうまくとれず、ひとつのことを長時間黙々と行い、退社時間になると、肩がこったり、手が痛くなったりしていたため、1時間ごとに、5分の休憩を強制的にとるようにし、集中力も持続されるためにも、仕事内容も変えて、メリハリをつけている。繁忙時、仕事量の増減などによる時間調整は、仕事の責任者と総務課職員で行い、Aさんに説明して、臨機応変に対応している。
1人だけで、作業することはないが、いつもと様子が違わないか、気に掛けて見るようにしている。集中力が切れているかなと思うときなどは、声をかけるようにしている。また、よそ見をしながら、作業をするとか、注意をしなくてはいけないときは、きちんとその場で注意するようにしている。
実習中の日誌が、担当者の業務引き継ぎや改善に役立ったので、採用後も続けている。日誌は休みの前日に家に持って帰り、家庭でもどういう仕事をしているか話をするようにしてもらっている。家族からは、会社での様子が分かって良いと好評である。
Aさんは家族と一緒に生活しており、自宅から一人で通勤している。徒歩でも通勤可能な距離であるが、交通量の多いトンネルが通勤経路となっており安全面、健康面等を配慮してバスを利用して通勤している。バスの経路は2経路の利用が可能であるが自宅から最も近いバス停を利用している。
Aさんは職場実習の期間から遅刻、休みもなく出勤している。仕事は遅刻したり、途中帰社したり、休んだり仕事に迷惑をかけてはいけない事を理解している。勤務中に声が枯れていたことがあったときは、体調がすぐれないか声掛けしたが笑顔で「大丈夫です」と応え最後まで仕事を行っていた。
【仕事内容の一部】
①売り上げパソコン入力
計算式が入っているところは、間違って入力しないように、色をつけている。画面が見やすいように拡大表示。時間がかかるかと思われたが、テンキーはすぐに見ないで、入力できるようになった。文字のブラインドタッチは練習中。練習用ソフトがゲームのようになっているので、苦手意識を持たずに練習できている。

②エサ切り
水族館の給餌用。Aさんを含め3人体制。家で、カレーを作ったりしているので、包丁の扱いは不安がなかったが、当初は、小さく切ることがなかなか出来なかった。現在は、全部の切り方をマスターし、作業も早く出来るようになった。

③貝洗い
お客様が真珠を取り出した後の貝の貝柱などを取り、きれいに洗って乾かす。合間に接客の練習も行っている。

④釣銭準備
お札と硬貨を数えて、袋に入れる。お札数えは、指先の力加減を教えるのが難しく、出来るようになるまでに時間がかかった。現在は、数え間違いも自分で気づいて、探し、一人で準備できるようになった。


⑤シュレッダー
ホッチキスやクリップがついていないか確認し、ついていたらはずす。教えてはいないが、人がするのを見て、いっぱいになったゴミ袋をはずして、新しいゴミ袋に変えることも出来るようになった。人がすることを良く見ており、いろいろなことを出来るようになろうとする向上心がある。


4. 今後の取り組み
Aさんが雇用されたことにより、近くにいる他の社員にもよい影響が見られる。また仕事に対する姿勢も良くなってきている。釣銭票など、ちょっとしたことだが、Aさんの仕事がやりやすいように、いろいろと考え前向きに取り組むようになり、従来の仕事の見直し改善ができるようになった。
ほとんどの仕事は、同じことの繰り返しが続き慣れてしまうので、その中で、やりがいを持って働け、スキルアップができるような取り組みを行っていきたい。
Aさんは、明るく、人懐っこい性格で、他の社員とのコミュニケーションには問題がない。しかし、知らない人から話しかけられると緊張して、上手く話せなくなるので、少しずつ、お客様と接する機会を増やして、質問に答えたり、案内ができたりするようにサポートし、Aさんのよい性格を活かした仕事ができるようにしたい。
Aさんが働く姿を通して、従業員はもとより、当社にかかわりのある方々の障害者の方への理解が深まるような体制(障害を持つ人が就労する場合は雇用側の姿勢が大切であること)を整えていきたいし、各機関との連携を密にして雇用の拡大を進めたい。また、当リゾートも、多くの障害者の方々が来場されるので、接客マナーなどに障害者雇用で得られたものを活かして、満足いただける施設を目指したい。
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