障害者雇用が新たな事業展開を導き出す
- 事業所名
- 有限会社大和(だいわ)プロパン
- 所在地
- 熊本県熊本市
- 事業内容
- LPガス配管施工、太陽光発電、浴室暖房乾燥機、床暖房、住宅リフォーム
- 従業員数
- 8名
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 1 事務、インターネット関連業務 内部障害 知的障害 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要
(1)事業の概要
有限会社大和プロパンは、昭和47年設立。主要な業務はLPガスの販売であるが、そのほか住宅リフォームや冷暖房機器の販売・取り付け等、多様な生活者ニーズに応えるため、あらゆる住宅周りのサービス業務を展開している。もともとLPガスの販売事業は、コンロの取付け、風呂釜のガス化のための風呂のリフォームや台所周り及び風呂周りの改装を請け負っていた。それが現在のように周辺業務にまで拡大・多様化していった。
LPガスの顧客の約6割はどこの販売店からLPガスを購入しているのか意識していない。ひとくくりに「ガス屋さん」なのである。大和プロパンでは、「ガス屋さん」から「大和プロパンさん」へと顧客意識の転換を図り、それによって住宅周りの多様なニーズを汲み上げるために業務の見直しを進めている。畳替え、電気工事、電話線工事、住宅建設及びリフォーム等領域は広く、関連業者とのネットワークを築いていくことで事業の展開が可能となる。

(2)計画と課題
前述した業務拡大の計画のためには、顧客とより深い関係を構築し、ニーズを把握し、提案等を重ねて行くことが必要である。そのため、顧客管理のシステム化やデータベース化が不可欠となり、それらのデータを分析し、計画を立てて行くためにマーケティングの機能等が必要になる。
このように社内業務のシステム化を図っていくためには、デジタル機器やプログラムソフト等に関する知識や技術を持った人材の確保が急務であった。
今、ようやく人材が確保できたので、これから既存顧客への生活提案・商品提案を行っていこうとしているところである。さらに、これまでの住宅関連サービスに加えて、パソコンのクリーニングやデジタル関連の救急対応等、時代に即応した新しいサービスを取り入れていきたいと考えている。
2. 取り組みの概要
(1)障害者の現状と従事業務
現在、雇用している障害者は1名(身体障害)である。
当社では、会長、社長の下、営業が3名(うち1名が統括部長)で、それをサポートする総務・経理が2名、事務職が1名という構成である。障害をもつ従業員(鎌木啓介さん)は事務職を担当している。主な業務としては、社内のシステム化・デジタル化の推進やネット関連の業務である。また、基本的に事務所内の勤務であるため、事務書類の作成の他、顧客や関係各社との電話対応等も行っている。

複数のパソコンを使い、電話はヘッドセットで。右奥のパソコンやプリンタなど使用する頻度が高い機器は彼の周辺にまとめてある。
(2)障害者雇用の経緯
当社では、前述したような業務拡大を図る中で、社内にデジタル技術とその活用技能を持った事務職員を必要としていた。しかし、実際にどこで探せば有為な人材が見つかるのか分からなかった。
そんな折、作業療法士をしている社長の姉や妹から、「従業員を募集するのであれば、ハローワークを通じて障害者雇用を考えてみてはどうか。非常に優秀で熱心な人材がいるから」と勧められた。そこで、社長はハローワーク(公共職業安定所)及び社団法人熊本県高齢・障害者雇用支援協会へ相談をした。これが大和プロパンで障害者雇用を行う契機となった。
パソコンができる事務職を募集し、3人が応募、面接を行った。「最初に応募してきてくれたのが鎌木くんで、縁を感じました。また、パソコンといっても、エクセルとワードくらいは使えた方がいいだろうな、という程度の考えだった。まさか、こんなにいろんなことができる人材だとは思いもしませんでした。他のお二人も優秀で、うちに余裕があれば3名とも雇用したいくらいでした」と、益田裕樹社長は語る。
(3)雇用に際しての施設改善
雇用に際しては、障害者雇用納付金制度に基づく助成金を活用し、既存の事務所の改築を実施することにした。まず、本人が出社して、事務所に入り、自分の机やトイレに行く順路を明らかにすること。それから、その順路と使用方法に応じたスペースの確保や必要な設備を整備すること。これらを計画し、経費を算出することから雇用の準備が始まった。
そのため、本人には内定後、入社前に3回程来てもらい、車庫への入庫、車から降りて車庫奥のエレベーターで2階事務所へ。エレベーターを出て机やトイレに行く順路や必要スペースの割り出しに協力してもらった。施設改善の具体的内容としては、エレベーターの取り付け、トイレの拡張改装、それに伴う事務所内の間取りの変更等である。
その他、本人の障害に応じた工夫もいくつか行った。
鎌木さんの場合、腕にも障害があるため、握力が弱く、物を握ったり引っ張ったりすることが困難である。そのため、ボタン等の装置を扱い易い物に付け替えたり、受話機を取るのが困難なので、ヘッドセットを使用している。また、筆記具も使わずに済むように、複数立ち上げているパソコンの一つでは常にメモ帳が開いてあり、パソコンにメモとして残るようにした。これらの工夫は、本人が自ら働き易い環境を作ろうと努力し、会社がそれをサポートすることで実現されていく。当社の事例は、施設改善のような大きなサポートと職場環境の工夫のような小さなサポート、この両輪が円滑に機能したケースである。
施設改善については、障害者作業施設設置等助成金の申請後認定を得るのが必要だが、それまでに時間を要したので、種々課題はあろうかと思われるが、認定までの手続き等が簡便・迅速に出来たらと思った。

1階の車庫奥から2階の事務所内まで直接昇降できる

車いすで使用できるように、改装されている
(4)コミュニケーションによる不安の解消
縁あって採用したものの、正式雇用した最初の頃はどう接していったらいいのかと不安ばかりであった。まずは、コミュニケーションのベースを築く必要を感じたという。そこで、「どこがどんなふうに不自由で、どこまでならできるのかをなんでも話して欲しい。まずは、それが君の仕事だ」と伝えた。
当初あった不安は1カ月程で解消していった。それは、肉体的な障害があったとしてもコミュニケーションの上では何も障害等を気にする必要はないと「気づいた」からであった。「お酒を飲める人もいれば飲めない人もいる。彼は車いすに乗っていて、我々は乗っていない。それだけの違いだと思うんです」と社長は言う。
「鎌木くんが入社した10日後が、忘年会だった。車いすだし、2次会は行かないだろうが、声をかけないのは悪いと思い誘ったら『行きます』と言う。1次会が終わって、15分程他の社員と一緒に歩いたら、自然に会話するようになっていたんですよ」
また、一緒に行動することによる気づきも大きかったという。「例えば、一緒に飲み屋に行きますよね。そうすると、車いすが入れるスペースや段差といった条件はあるが、その条件さえクリアされれば何処でも行ける、ということが分かってきた。このようなことは、仕事以外のコミュニケーション等をとってみて初めて分かることかもしれません」
障害者雇用にとって物理的な条件整備は必要である。しかし、働き易さや安心感というものは物理的な環境からだけで作れるものではない。お互いのコミュニケーションが全ての基本になるのではないだろうか。
3. 障害者雇用の効果と今後への期待
(1)新たな人材が進める業務改善
採用した鎌木啓介さんは、もともと熊本ソフトウェア株式会社身体障害者ソフトウェア開発訓練センターでパソコン技術やIT技術を学んでいたが、さらにそのスキルを向上させるために、入社後、ホームページ制作やパソコンのメンテナンス事業会社に週1回程度研修に通った。
このような努力と支援があって、鎌木さんの入社後、わずか半年で、大和プロパンにおける新たな事業展開に向けたIT関連業務の構築が大きく前進した。まず、顧客管理や営業日報がデジタル化された。これまで手書きだけでやってきた会社である。パソコンとソフトを使いこなせる人材が一人入社しただけで、仕事のやり方が大きく変わっていく。障害者の働き易さをサポートするために進めた書類のデジタル化によって、現在、社内文書はほとんどデータ化され、今年の4月から営業員全員がノートパソコンを持つようになった。
次に、ホームページが開設され、必要に応じてチラシがすぐに社内で制作できるようになった。いずれも、鎌木さんが一人で制作している。単に技術的な知識があるだけではなく、デザイン感覚にも優れているというところが強みである。顧客にも好評で、取引会社からも「御社のチラシを我社でも使わせてほしい」といった相談がもたらされている。

設計からデザイン、組み立て、運営まで行っている
(2)企業文化の変化
今回の障害者雇用によって、社内が「人に優しい」雰囲気になってきたという。気にしないとはいっても、一緒に食事したりすれば、誰もが自然に配慮をする。また、本人も回りの配慮に気づき対応するようになる。「自分も含めて、人に対して優しく接することを学んでいるのだと思います」と社長は言う。
障害者雇用を行っている企業で、よく耳にするコメントの一つに「社員や社内の雰囲気が人に優しくなった」というのがある。障害のない人だけの職場では気づきにくいことが確かにあるのだろう。障害者雇用にはこのように相乗効果があるのかもしれない。
(3)今後への期待
益田社長は「鎌木君の能力を引き出させてやれば、もっといろんなことができる」と考えている。「会社やそれぞれの部署の課題をどのように彼に伝えればよいのか。また、彼は彼ができることを我々にどう伝えればよいのか。そこを理解して行く努力をお互いがしていけばマッチングできる余地が一杯あるはずです」と。
例えば、他社のホームページ制作を請け負うことも可能である。すでに、1社からはホームページの作成依頼を受けている。
益田社長は言う。「地元の祭等を通じて若者とよく接する機会があるが、やはり物足りなく感じることが多い。性格的に弱いのか、諦めてしまう。ところが、鎌木くんは諦めない。今日はもう帰っていいよと言っても、この仕事が終わるまではと言って、帰らない。彼にはまだまだ潜在能力がある。今やっている仕事がもっと効率化できれば、さらに多くの仕事ができる。そうすれば、自分の収入も多くなる。自分のためにもっと貪欲になって、可能性を広げていってほしいですね」と。
人の力とは、障害の有無だけで決まるものではない。個人個人が本来持っている力が大切である。その力を如何に伸ばしていくのかが大切になる。大和プロパンにとっても、入社した鎌木さんにとっても、この出会いは幸福なものであったろう。但し、幸福な出会いを出会いだけに終わらせず、豊かな未来へとつなげていくことが雇用の本意である。本人と会社とのコミュニケーションと互いの努力が継続していくことに、大きな可能性と期待を持つものである。
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