働く人を応援する企業
~「障害者」という言葉を意識しない職場作りへの取り組み~
- 事業所名
- 株式会社日信
- 所在地
- 北海道札幌市
- 事業内容
- 給食調理サービス、弁当仕出し
- 従業員数
- 206名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 2 工場で弁当製造 内部障害 知的障害 3 工場で厨房器具やコンテナの洗浄 精神障害 - 目次

- ホームページアドレス
- http://www.kk-nissin.com/
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯等
(1)沿革
昭和47年7月に創業以来約39年、お弁当一筋に営業区域を拡大し、現在では札幌市内全域、小樽市、石狩市、江別市、岩見沢市、北広島市、恵庭市、苫小牧市、千歳市全域に、1日約3万食をお客様にお届けしている。主要販売先として全省庁統一資格許可を所有し、自衛隊を始めとする各省庁、道庁、札幌市、北海道警察、札幌ドーム、各民間企業、ホテル、病院、大学売店、団体等があり、その他各種行事や学校祭等で販売をしている。また、外出が困難なお年寄りの住居へのお弁当も栄養士の指導の下で健康の保持・増進を目的として製造、自宅まで配達も行っている。
お弁当製造は、衛生に関しても万全な管理体制を敷いており、HACCPに基づく衛生基準を自社内に確立し、その基準に従い専門の業者による週1回の食品検査を実施、『食の安全・安心』をモットーに管理の徹底を実践している。
(2)経営方針
「働く人を応援します」。これが、当社のコンセプトになっている。お弁当を食べていただいているお客様も働いている方であり、当社の従業員も働いている人。一生懸命働く人を応援するのが、当社の基本方針となっている。
(3)組織構成
当社は営業部、事務部、業務部、管理部、工場の5部門、計206名を雇用しており、これとは別に275名の販売員(業務委託)がいる。従って、480名以上の人が当社の経営・営業に携わっている。
(4)障害者雇用の理念
個人の能力に応じて出来ることをする、というのが仕事を割り当てる時の基本的な考えであり、それは障害の有無に関係なく同じである。それは当社のコンセプトである「働く人を応援します」に凝縮されている。働く人であれば、障害の有無に関係なく同じく応援するという姿勢が、障害者への対応にも表れている。その結果、社内には障害者を特別扱いせず特に意識することもなく、お互いに仕事をする仲間という意識が醸成されている。
(5)障害者雇用の経緯・背景
障害者枠で入社が一番古い従業員は平成12年4月入社であるが、当社は20年程前から近隣の特別支援学校の依頼を受け、生徒を実習生として毎年1名受け入れて来た。しかしながら法定雇用率に達していなかったため、企業の社会的責任を果たすべく雇用率を達成することを目指し、平成12年以降積極的に障害者の雇用に力を傾けてきた。この結果、平成12年に続き、平成18年6月に1名、平成20年4月に1名を採用した。このように障害者の採用を行うとともに、入社後に障害を持つに至った従業員の雇用も継続している。このような従業員は2名おり、現在合計5名の障害者を雇用している。
2. 取り組みの内容と効果
(1)障害者の従事している作業内容
a.知的障害 3名(男性):全員工場において洗浄を担当している。
Aさん 工場において厨房器具を大型洗浄乾燥機で洗浄している。
特別支援学校からの紹介で平成12年4月に入社。
Bさん 工場においてコンテナ(弁当を運ぶためのプラスティックケース)を大型洗浄乾燥機で洗浄している。 授産施設からの紹介で平成18年6月に入社。
Cさん Bさんと同じく、工場においてコンテナを大型洗浄乾燥機で洗浄している。
特別支援学校からの紹介で平成20年4月に入社。
b.肢体不自由 2名(女性)
Dさん 工場で弁当の生産ラインに従事。20年以上前に入社した大ベテランである。2年半前に体調不良となり障害認定を受ける。
Eさん Dさんと同じく、工場で弁当の生産ラインに従事。弁当のトッピングを担当。20年前に入社した大ベテラン。2年半前に体調不良となり障害認定を受ける。
(2)就業時間・休日等
5名全員がパート従業員である。休日は日・祝日。
a. A、B、Cさん:就業時間 08:30~14:30
b. D、Eさん :就業時間 22:00~05:00




(3)障害者の雇用、就労で留意していること
上述したように、当社は20年以上前から特別支援学校の生徒を実習で受け入れ雇用してきているので、障害者に対し差別するような意識は全くないと言ってよい。しかしながら、これまでの知的障害者の雇用経験、就業経験から勤務を続けてもらうために何をすべきか、何をしたら良いかということを学んできており、障害者、特に知的障害者が勤務を継続できるようにするという観点から様々な工夫をしている。
a.受け入れ後約3ヵ月は配置場所を決めず、何が出来るかを見極める期間とし、見極めた後で配置場所を決める。本人が出来ることをしてもらうのが、本人にとっても職場の同僚にとっても一番良い結果を生む。
b.教える時にはゆっくり話し、本人の行動を見て理解度を確認する。理解が不足していると判断される時には、理解するまで何度でも繰り返し説明する。
c.受け入れの最初の3ヵ月は指導者(洗浄責任者)をつけ、十分に指導する。個人によって異なるが、概ね3ヵ月くらい経つと独り立ちできるようになる。
d.特別支援学校の出身者については、卒業後3年くらいまでは、特別支援学校の先生に半年に1回程度職場に来て様子を見てもらい指導をお願いした。また、職場では工場長をはじめ同僚も日常生活に関するアドバイスも行うようにしている。
(4)取り組みの効果
当社は最近障害者を雇用し始めたのではなく、20年以上前から障害者が働いていたということもあり、今勤務している大部分の従業員にとって既に入社した時に障害者が働いており、障害者と一緒に働くことが、ごく当たり前の日常になっているという状態である。このことが、会社全体でも特に障害者という意識なしに従業員の一人として一緒に仕事をするという状態を作っていると思われる。
(5)今後の展望と課題
これまでも述べてきたが、当社は障害者の雇用に関して特に大げさな理念を掲げて来たわけでなく、昔から特別支援学校の生徒を受け入れ、障害者が働くことを従業員全員が特別な意識をせずに受け入れることができる職場を作ってきた。現在も、特別支援学校の生徒の実習を毎年1名ずつ受け入れている。これからも法定雇用率を達成していく決意をしている。
3. 最後に
(1)今回の取材では、工場長、工場担当者から主にお話を聞き、実際に工場を見学させて貰った。先ず、衛生管理が徹底されていることを実感した。食品の製造会社であるので当然であろうがやるべきことをしっかりとやっている会社という印象を抱いた。
(2)少ない時間ではあったが、社長のお話、副社長のお話も聞くことができた。印象的であったのは、社長の気さくな人柄である。初対面の我々や若い従業員にも気軽に冗談を言い、また若い従業員も冗談を返すという、取材の中でも会社の風通しの良さを感じた。この社長の人柄が障害者を差別しない社風を作っているのだということを強く感じた。
(3)今回の取材の中で、担当者の方が、「障害者の仕事を決めるためには、先ずその人が何ができて何ができないのかを見極めて、できる事をしてもらうことです。我々もできる事とできない事がありますから、同じです。」と話された。さりげなく話されたが非常に大きな意味を持っている。
障害者という画一的な見方ではなく、一人ひとりを見るということである。言葉には出されなかったが、「個の尊厳」につながる見方であろう。
株式会社日信がますます発展し、障害者の雇用機会が増えていくことを期待して取材を終えた。
(4)これまで筆者は、障害者を積極的に雇用している数社の取材をさせて貰った。そして、この会社を含め障害者雇用で成功している企業に共通しているのは、法定雇用率を達成するという強い意思を企業のトップである経営者が持っていること、そして従業員として障害者を見る時には、「障害者」という「枠」をはずし、「従業員の何某さん」すなわち「個人」として見ていることである。従業員を見る時に障害の有無に関係なく、個人を見てその個人の能力を生かす。これが障害者雇用に最も重要なことであることを教えて貰った。
障害者雇用は「個の尊厳」が守られる社会を築く有効な方策と思われる。ますます多くの企業が障害者雇用を進めていくことを祈っている。
キャリアカウンセラー(CDA) C&Cビーコン 代表 湊 和生
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