「やる気」のある人材には手をさしのべ、働きやすい環境を提供
さらなる意欲アップにつなげる
1．事業所の概要
昭和43年3月設立。岩手県を地盤に、地域密着型の店舗展開を行っている。本社も含め、県内11ヵ所に営業拠点がある。
2．障害者雇用の経緯
障害者雇用として最初に採用されたのが、現在本社総務課課長をつとめる盛川光夫さんである。高校卒業後実家の商売を手伝っていた盛川さんは、昭和51年に重機に左足をはさまれ切断。そこで商業高校出身の知識を生かして事務職を希望し、昭和56年からハローワーク（公共職業安定所）に通った。そこで紹介されたのが現在の会社。同社では長く経理の責任者的存在だった女性従業員が急逝したため、代わりとなる長く働ける専門職の人材を欲していたという。
ところが面接に行くと、当時面接担当だった現会長夫人が不在。代わりに応対してくれた男性から、「長時間勤務になるから、障害者の人には大変。やめた方がいい」と言われた。でも盛川さんは「一生懸命働く。障害者だからといって特別扱いしてほしくない」と力説。試験・面接を受けられることになり、その結果、採用されたという。
実はこの時応対してくれた男性が、現在の会長である。
盛川さんのやる気を認めて、試験を受けさせてくれたようだ。
「当時は障害者が働くのは大変だった。ここを受けるまで何社もハローワークで紹介されたが、全部不採用だった。会長が、障害者という偏見を持たず、やる気を評価してくれたおかげ」と盛川さん。
こうして昭和57年に正式採用された盛川さんは、以来28年間経理も含めた総務のエキスパートとして勤務している。
その後、同社では平成7年に、身体障害者（内部障害）の女性を採用。特に日常業務に支障がないこともあり、他の障害のない従業員と同様に営業職として勤務している。
他の4人は、入社後に病気をして障害者となった。Aさんは人工透析の治療を受けており、整備担当のBさんは心臓の弁に異常が見つかり手術を経て復帰。営業所所長だったCさんは仕事中に脳梗塞となり、右半身が麻痺してしまったが、1年間休職したのち復帰している。Dさんは発病前も後も整備を担当。障害のない従業員と同様に勤務している。
3．取り組みの内容
盛川さんは座っておこなう作業がほとんどであることと、「特別扱いしてほしくない」という考え方のため、最初の頃は会社として特にハードの整備はしなかった。
実は本社のトイレは和式トイレで、盛川さんは使うのが大変だったが、昼休みは車で10～15分の場所にある自宅にもどって食事をして、その時に用を足すことにしたので、問題はないということで改築することはしなかったという。
ただ、たまに展示会の手伝いをすることがあり、長時間立ちっぱなしになる。 この時、義足の装置の関係で足が痛くなるのだが、「周囲の従業員が気を遣って座るように言ってくれるので、大変なことはありません」と盛川さん。
また、平成4年に本社の建物を増改築した時、盛川さんの仕事場である事務室が2階に移ってしまったが、会長の意向で盛川さんのために階段の両側に手すりをつけた。
一方、透析患者であるAさんはもともと営業職だったが、透析治療のために週に2～3日は17時に退社しなくてはならず、長時間勤務も難しくなったため、いったん退職扱いになった。しかし社長が「Aさんにやる気があるなら、会社も考えるよ」と声をかけた結果、整備部門の事務職として再雇用。現在に至っている。
Cさんについては、1年間の休職中にリハビリをがんばり、歩けるようになったので、所長として復職した。もともと左ききだったこと、入院中にパソコンが導入され手書き作業が減ったことなどが幸いし、復職が可能になったようだ。
このように、同社の会長も社長も、「本人にやる気さえあれば、できるだけ働きやすい環境をつくり、仕事を続けさせたい」と考えている。それは障害者だけに限ったことではない。同社の会社案内の「社長あいさつ」の中には、「学力や経験にとらわれず、努力して成果を上げた者が報われる。をポリシーとしている」とある。
こうした考え方が、やる気のある障害者の雇用につながっているようだ。
4．取り組みの成果
6人の障害者はみな、障害があることを意識せず、障害のない人と同じ様に、やりがいを持って働いている。それは、彼らが会社にとって会社に貢献してくれる貴重な人材であることを意味する。そう考えると、Win-Win（ウィンウィン）の関係を築き上げているといえるだろう。
5．今後の課題と展望
「高齢化社会を考えると、今後も従業員が病気になって障害者になる可能性はある。その時にはこれまでのように、継続して働けるよう配慮したい」と、採用担当者も兼任する盛川さん。でもこれは「本人にやる気があること」が前提だ。盛川さんは、「障害者自身が常にプラス志向で、できることは他人を頼らず自分で動く、やる気を見せる、といったことが求められる」と話す。
一方で、同社ではこれ以上新規で障害者を採用することは難しいという。客側が店や従業員に要求することが年々多くなっているためで、サービス業ではそれを無視することはできないとのこと。客の立場となる私たちも考えなくてはいけない問題であろう。
盛川さんのために、社長の配慮で両側に手すりが付けられた
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