社会福祉施設における知的障害者の継続就労の実践
~特別養護老人ホーム宮城県和風園の取り組み~
- 事業所名
- 社会福祉法人宮城県社会福祉協議会 特別養護老人ホーム 宮城県和風園
- 所在地
- 宮城県黒川郡
- 事業内容
- 要介護高齢者に対する日常生活支援
- 従業員数
- 139名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 4 おしぼり準備、下膳、食器洗浄 ごみ収集(居室、事務室、園長室) 居室清掃、洗濯(利用者私物)など 精神障害 - 目次
1.宮城県社会福祉協議会の概要
平成14年11月、宮城県福祉事業団は全国に先駆けて知的障害者の入所施設群、宮城県船形コロニーの解体宣言を行って、地域移行の取り組みを展開した。そして、平成16年2月に宮城県知事により、みやぎ知的障害者施設解体宣言が行われ、地域での生活を希望する知的障害者のための、生活支援の実践強化の流れに、いっそう拍車がかかった。かつての船形コロニーには合わせてほぼ500名の知的障害者が生活していたが、地域移行が進んだ現在、入所者数はかつての半数以下になっている。その後、宮城県福祉事業団、宮城県社会福祉協議会、宮城いきいき財団との統合により、平成17年4月1日には総合的機能を有する地域福祉推進機関として新宮城県社会福祉協議会がスタートした。
現在も法人全体で地域移行を推進するとともに、知的障害者の働く場を創ろうとする取り組みが行われている。
今回は、特別養護老人ホーム宮城県和風園の知的障害者雇用の事例について報告する。
2.特別養護老人ホーム宮城県和風園の取り組み
和風園では、ショートステイの20名を含めて、220名の利用者が4つの棟に分かれて居住している。職員数は139名であるが、そのうちの4名が知的障害のある職員であり、それぞれ4つの棟で、業務に従事している。
和風園の基本方針は『一人ひとりのできることを伸ばし、願いや希望をかなえていく支援を行うためその人の活動や参加を、家族・職員・地域ボランティアが連携して実践することにより、自己実現を図っていくことを目指します。』である。個人・団体など約60名の地域の方々が、ボランティアとして演芸、唄、紙芝居など様々な分野で、利用者の余暇活動の支援を行っている。和風園の特徴は、様々な人々の支援をもとに、利用者一人ひとりの生活を大切に、その人らしい主体的な生活が送れるような取り組みを行っていることである。
今回、副園長の浅野さん、介護サービス課長兼地域生活支援課長の伊勢さん、知的障害のある職員から直接、話を聴いた。
知的障害のある4名の職員の内、3名は船形コロニーの解体宣言が行われた平成14年から働き始めたので約9年間継続就労している。残りの1名は平成17年から働いている。4名の障害のある職員は、皆、初めはとても不安を抱いたり、まごついたり、仕事をすることに困難を感じたりしたこともあったとのことだが、次第に、少しずつ仕事に慣れてきて、現在は当たり前に毎日の業務をこなしている。
知的障害のある職員の業務内容は、居室清掃、ごみ収集、おしぼりや清拭タオルの準備、洗濯・乾燥、洗濯物の利用者個人ごとの仕分け・収納、食事を終えた食器の仕分けなどである。和風園では、清掃やごみ収集を業者に委託しているが、プライバシーにかかわる利用者の居室や重要な書類のある職員室の清掃やのごみ収集などは、委託業者に任せるのではなく、知的障害のある職員が担当している。就業時間は朝9時30分から午後4時15分までの一日6時間、週30時間労働であり、社会保険が適用されている。
4名の知的障害のある職員はホームヘルパーの資格を取得している。宮城県では、知的障害者の就労が円滑に進むように援助することを目的として、知的障害者を対象としたホームヘルパー養成研修を行っている。受講対象者は、知的障害などの障害があるために、通常の研修よりも時間を必要とする人で、介護の仕事を希望している15歳以上の人である。じっくり時間をとって講義を受け、実習でも入念な指導を受けることができる。
3.知的障害のある職員へのインタビュー
各棟を訪ね、仕事の合間に知的障害のある職員に話を聞いた。4人の職員は船形コロニーに入所していた経験をもち、それぞれ、療育手帳Bを有している。
Aさん(女性:40歳代前半)は、船形コロニーが施設解体を宣言した年、平成14年から和風園で働いている。平成14年はBさん、Cさんも働き始めた年であるが1月から働き始めたAさんがもっとも先輩である。和風園で働いている知的障害のある職員は、4名とも居宅介護従業者(ホームヘルパー)養成研修3級課程を修了しているが、現在のところ、Aさんだけが2級課程を修了している。
Aさんの仕事の内容は前述した。仕事を始めた当初は、分からないことが多く、戸惑いも多くあったが、少しずつ仕事に慣れ、今はしっかりと安心して毎日の仕事に取り組んでいる。Aさんも他の知的障害のある職員と同様、船形コロニーに入所していた経験を有し、その後自立ホームで地域移行への訓練に取り組み、現在はグループホームで生活しながら和風園で働いている。和風園には船形コロニー時代に知っている職員もいるので心強い。Aさんの趣味は編み物である。休みの時には自分の部屋の掃除や洗濯などの家事作業を行ない、買い物などで外出している。
Bさん(女性:40歳代前半)はこれまでずっと同じ棟で働いてきた。慣れている同じ棟で働き続けることは継続して働き続けるためには大事なことである。BさんもAさんと同じように、初めは不安を感じ、仕事も大変だったが、だんだんできることが増えてきて、仕事が好きになってきていると話した。
Bさんは昨年(平成22年10月)、千葉県で開催された全国障害者スポーツ大会のボウリング競技大会で銀メダル(第2位)を獲得した。大会出場は今回が初めてではなく、平成13年には地元宮城県で開催された第1回全国障害者スポーツ大会のバレーボール競技大会に参加し、その後もバレーボールチームの一員として3度大会に参加している。Bさんは休みの日には、バレーボールの練習を行ったり、音楽を聴いたり、買い物に出かけたりしている。Bさんは、Aさんと同じグループホームで生活している。これまでにもいくつかのグループホームで生活した体験があるが、現在のホームは歩いて10分の距離なので通勤が楽になってきたと話してくれた。
Cさん(男性:30歳代前半)もグループホームで生活している。これまで何度かグループホームが替わったが、今は自転車で10~15分の通勤である。Cさんもスポーツに取り組み、これまでに2度、全国障害者スポーツ大会のソフトボール競技に出場している。雇用以前、実習に取り組み始めたときには、分からないことも多く、大変であったが、いろいろ教えてもらって、今は仕事ができるようになってきた、と話した。
Dさん(女性:30歳代後半)は平成17年から働き始め、自宅から通勤している。仕事の内容は他の3名の職員と同じである。今回の取材では、居宅介護従業者養成研修2級課程受講中のために、残念ながらDさんの話を聞くことはできなかった。
4.和風園における知的障害者就労の特徴
多くの場合、子どもの頃に兄弟喧嘩をしたり、学校でいたずらして先生に叱られたり、子ども同士で喧嘩したり、集団でいたずらして近所のおじさんたちに叱られたりして、次第に社会的ルールが身についてくる。しかし、障害がある人の中にはそのような社会経験を重ねる機会をもつことができない場合がある。
知的障害のある人に対する支援を行う上では、その行動が個性なのか、体験不足のためなのかを見極めることが、大切である。また、一人ひとりの障害者の得意な分野と不得意な分野を見極めながら、その人の潜在的な力を引き出して就労に結びつけるための支援を行うためには、知的障害者とかかわってきた経験が大切である。浅野さんや伊勢さんによると、知的障害にかかわってきた経験のある職員が人事異動で何人か和風園で働いているからこそ、必要な場合に適切なかかわりが持て、そのことが和風園における継続就労を可能にしている大きな要因だと考えられるとのことである。
和風園で働いている知的障害のある職員は、長期入所生活を続けていたために、地域生活への移行時や就労開始時には、その生活上の大きな変化に戸惑い、混乱することもあった。しかし、その後、一人ひとりの特性を踏まえた実践によって次第に、充実した就労と地域生活が実現できるようになってきた。そのような意味では、知的障害者の特性に精通している職員がいる和風園は良い環境条件下にあるといえる。
ただし、知的障害のある職員たちの方が、法人内の人事異動によって着任した浅野さんたちよりも和風園における就業年数が長いために、浅野さんや伊勢さんから、障害のある職員たちの就職当時の戸惑いや混乱の具体的様子については聴くことができなかった。このことは、それだけ長く継続して就労できていることや、現在の就労状況が安定していることを物語るものと考えられる。
今回お話を聞けた3人の知的障害のある職員は、入所施設から地域移行し、グループホームを住まいの場とし一人で通勤し、必要とされ、やりがいのある仕事に従事し、余暇活動に取り組んだり、外出したりして、それぞれの日常生活、社会生活を楽しんでいる。
自立生活は自己選択、自己決定をもとに自己実現することである。宮城県社会福祉協議会という大きな法人内の事業所間および関係機関がさまざまな選択肢を提供して、それらの提供された選択肢を当事者が主体的に自己選択して、一人ひとりの自分らしい生活を営んでいる。
5.まとめと考察~社会福祉施設における障害者就労の大きな可能性~
知的障害者の生活支援に取り組んでいる法人が運営する特別養護老人ホームで働く知的障害者の事例について報告した。法人内での人事異動によって、知的障害者施設で働いた経験をもつ職員が特別養護老人ホームに勤務したことが、知的障害の特性を理解し、継続就労にとって大きな力になっている。また、法人内の各事業所のバックアップがあるために、住まいや余暇活動などのさまざまな生活場面における連携した支援が実現している。
しかし、この事例を同一法人内に多様な事業所があることによって実現している、特別な事例として理解してはならない。同一法人に属していなくとも、就業・生活支援センターや職業センター、企業、グループホーム、各種NPO法人、特別支援学校、当事者団体、余暇活動支援ボランティアなどの連携によって、障害者一人ひとりの力を引き出すことが可能であると考えられる。一人ひとりの障害者の特性を理解し、就業・生活支援センターを中心に、就労支援と幅広い生活支援が実践できれば、継続就労とともに充実した地域生活を送ることができるのである。
この事例は、社会福祉施設での障害者就労の大きな可能性をうかがわせる事例である。そして、社会福祉施設だからこそ、各職員による障害者の潜在的な力を引き出すかかわり方をもとに、さまざまな社会資源との連携によって継続就労を実現できるのではないだろうか。
現在は、物質的な豊かさを追求する競争型社会から、心の豊かさに価値を置く支え合いの社会への転換期であるといわれている。一人ひとりの違いを大切にし、一人ひとりが役割を果たして社会の中で互いに支えあっていくことが大切である。障害者は、社会福祉の場において支えられる立場ではなく、互いに支えあう社会においては、支える立場になって、働きがい、生きがいをもって地域生活を行っていくことが可能である。この事例は、知的障害者が職場における理解と適切な支援を得ることで、本来もっている大きな力を発揮し、社会福祉の現場において継続就労が実現できることをうかがわせる好事例である。
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