障害者・高齢者がやる気の醸成のお手本になって
- 事業所名
- あさひ自動車株式会社
- 所在地
- 秋田県秋田市
- 事業内容
- 一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー業)
- 従業員数
- 226名
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 7 タクシー乗務員5人、配車係2人 内部障害 1 タクシー乗務員 知的障害 精神障害 - 目次

1.事業所の概要
秋田交通圏と呼ばれている秋田市全域、広さ約900平方キロメートル、人口約32万人の地域内に、664台のタクシーと61台の個人タクシーが稼動しているタクシー過密地域の中にある(平成23年1月末現在)。創業は昭和27年9月で、営業種目は、一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー業)、一般貸切旅客自動車運送事業(貸切バス業)、国内旅行業、指定居宅サービス事業である。
タクシー部門では、本社営業所ほか1営業所で、小型タクシー110台(うち福祉用仕様5台)、中型タクシー2台、ジャンボタクシー3台を保有している。また、観光部門では、観光旅行用貸切バス3台、平成15年2月に介護基準該当事業所認可を受けて開始した介護部門では、ホームヘルパー2級の資格を持った乗務員が20名おり、車いすに乗ったまま移動できる福祉タクシー「CHIBI CAB(チビキャブ)」1台とストレッチャーごと移動できる福祉タクシー「すずらん号」1台を用意して高齢化社会への対応と、トータル的にお客様のニーズに応えられるようにしている。貸切バスを除くタクシー車両保有台数117台は、県内最多保有台数である。
2.障害者雇用の経緯、背景
障害者の雇用について、乗務員の場合は、普通自動車第二種運転免許を持ち、タクシー運転業務に支障のない人であれば障害のない人と同様に中途雇用してきており、障害者だからといって特別な条件等を附していることはない。また、採用後、病気や怪我により障害者手帳を取得した従業員もいるが、引き続きタクシー運転業務が可能であれば、従前と変わらず継続雇用してきたという経緯がある。事業所自体が自然に障害者を受入れてきているというスタンスである。当社で所有しているタクシーは、全車オートマチック車となっている。
配車業務については、GPS(汎地球測位システム)とAVM(車両稼動動態モニタリング)を利用したシステム、簡単に説明すると、自社タクシーが今どこにいて、どのような状態(空車・乗車・停車・予約中・休憩中など。)にあるかが、一目で分かるシステムを導入して機械化を図っており、パソコン操作が業務の要となっている。このため、配車業務では、パソコン操作の上手な人であれば障害の有無にかかわらず採用してきた。
3.取り組みの内容と効果
(1)障害者の従事している業務と現状
雇用されている障害を持つ従業員の職種は、乗務員6名、配車係が2名である。乗務員は、中途採用に応募して採用された、障害のない者と同様に、通常の3交替ローテーション勤務シフトに入っており、障害の種類はそれぞれであるが、全員がハンディを感じさせずに日常業務をこなし、営業成績においても全く遜色ない。また、配車係員は、二人とも上肢に障害を持っており、一人は、日勤のみの勤務時間だが、もう一人は、午後6時から午前2時までの夜勤もこなしている。
男性(68歳)の乗務員Sさんは、左下肢の機能障害がある。在職40年のベテランで、1ヶ月単位の変形労働時間制勤務シフトの中で、洗車、業務の引継など種々の作業を滞りなく行っている。また、男性(57歳)の配車係Kさんは、右前腕欠損の障害がある。配車係として勤続20年で諸般の事情に詳しく、配車室室長代理として活躍している。
現在当社で就労している障害者の職種・配置などの状況は次のとおりである。
障害の種類 | 等級 | 勤務年数 | 職 種 | 配置場所 |
下 肢 | 5級 | 40年 3月 | 乗務員 | 本社営業所 |
腎 臓 | 1級 | 28年10月 | 乗務員 | 本社営業所 |
上 肢 | 3級 | 19年 1月 | 配車係 | 本社配車室 |
体 幹 | 5級 | 15年 8月 | 乗務員 | 山王営業所 |
左 下 肢 | 4級 | 15年 3月 | 乗務員 | 本社営業所 |
右 下 肢 | 5級 | 14年 6月 | 乗務員 | 山王営業所 |
上 下 肢 | 2級 | 7年11月 | 乗務員 | 山王営業所 |
左 下 肢 | 3級 | 5年 4月 | 配車係 | 本社配車室 |
(2)乗務員・乗客に快適な就業・利用環境の整備
当社では、全車がオートマチック車であるほか、前述のGPS-AVMシステムの導入、規定の広さを備えた仮眠室(休憩室)の設置、業務終了時のタクシー洗車用として自動洗車機を備えた洗車場を設置するなど、乗務員の快適な業務遂行のために就業環境の整備に努めている。
また、利用客の多い市内のスーパーマーケット、病院、カラオケ店などへ、受話器をとるだけで当社直通となる「無料呼び出し電話」の設置や、市内20数か所に点在するタクシー待機場所の設置など、お客様にとっても分かりやすく、迅速な配車のための利用環境整備を行っている。


(3)健康管理
所長の個別面談でもチェックするほか、乗務員全員を対象に年二回の健康診断を春と秋に実施している。また、産業医との打合せにより、通常勤務が無理と認められたときは、当社へ通知が入ることになっている。産業医には、毎月、職場巡回を行ってもらい、メンタルヘルスを含む健康管理全般に関し広く助言をいただいている。なお、通院の必要がある乗務員は、緊急時を除きシフトの空き番を利用して受診しており、業務に支障をきたすことはない。
(4)定年・継続雇用と職場定着
定年は61歳であるが、定年後も本人のやる気が旺盛であれば、適性診断の結果などを考慮し、タクシー乗務に支障がないと認められた場合に義務化年齢以上まで継続雇用しており、その中には障害を持つ乗務員もいる。
また、所長、総務課長による従業員からの個人的相談の受け入れ体制が整っていることも良好な職場適応・職場定着につながっている。その結果、下肢障害5級の乗務員が40年の長期勤続となっているなど、障害者の定着率は良好といえる反面、従業員の中には70歳代の従業員もおり、従業員の高齢化が着実に進み、障害を持つ従業員の平均年齢も60.4歳と高齢化している。
(5)安全運転のための点呼システム、免許不携帯防止システム、所長面談等
当社では、毎日実施する点呼を集団ではなく、営業成績の周知、事故防止を目的として、点呼執行所カウンターの前で一人ずつ対面点呼を実施している。点呼終了後には点呼を受けた確認印をもらうことになっており、各ローテーション勤務に就く前に必ず全員が受けることとなる。
また、点呼執行所の隣には、読取装置に乗務員の免許証にあるバーコードをかざすとその日に使用する乗務員個人ごとの業務日報の用紙が出てくるシステムがあり、乗務員の免許不携帯防止に大きな役割を果たしている。さらに、この日報用紙の中には、個人別の営業実績が刷り込まれているなど、当社が県内で初めて取り入れたシステムである。
このほか、乗務員は毎日二人の所長による「所長面談」を受けることになっている。ひとりの所長は、「車体検査の所長」であり、その日使用するタクシーのライト、ウインカー等細部にわたる安全運行のための車体チェックを受ける。もう一人の所長は、「カウンターの所長」であり、事務所入口横のカウンターで体調面・精神面を確認し、アルコールの有無を判断する検知器とアルコール濃度の数値を読み取れる検知器(アルコールチェッカー)を使用し、厳格な検査を実施している。加えて統計に基づく営業実績等に関する指導を行うなど、個別面談を行うことにより、安全運転や健康維持に効果を上げている。面談時に少しでも異常が認められれば、当日の乗車勤務はさせないようにしている。
さらに、安全は顧客輸送業務の最大の使命であることを踏まえて、デイライト運動(昼間点灯)を実施している。デイライトは調査結果によれば、その効果は、まず人身事故が減少することにあり、さらに、乗務員は「見られている。」ことを自覚するため、安全運転やマナーに対する意識が高まるといわれており、秋田交通圏内で唯一当社が実施している。
(6)安全講習、接遇講習、採用時講習
安全講習については、県ハイヤー協会の主催する講習に必ず参加している。また、自己責任による事故を起こした乗務員については、集団教育指導により事後の事故防止に努めるとともに、全乗務員への「事故処理にかかるマニュアル」の周知徹底にも努めている。
入社時の講習は、10日間にわたって座学と実務の講習を実施しており、特に当社が重点を置いている「接遇講習」では、お客様に対する言葉遣い、応対を指導しているほか、乗務時の身だしなみや「忘れ物を未然に防ぐのもサービス」として、お客様への確認の実施励行なども厳しく指導している。特に、身だしなみについては、乗務するたびに自分の身なりをチェックできるよう事務所の入口に姿見を設置している。なお、配車係には、民間の専門の講師を招いて話し方の研修を行うことにより、電話応接のレベルアップを図っている。
また、乗務員の実務講習では、駅、ホテル、病院など、お客様の乗降の多い場所へ実際に車(タクシー)を持って行き、その場所の様々なルール、注意事項や毎日行っているボランティア清掃などについて実地指導を行っている。
さらに、介護基準該当認可事業所の認可を受けていることから、民間のホームヘルパー養成講習の実習生を受け入れ、乗務員とともに福祉車両に乗車して介護の実務教育指導を行った実績もある。受け入れ側の乗務員にとって教育指導を行うことは、あらためて介護の基本に立ち返る良い機会であり、効果を上げている。
(7)取り組みの効果
タクシーの乗務員は運転のみではなく、荷物の積み下ろしなどを行うこともあるが、障害を持つ乗務員に対する顧客からの不満・要望の声は全く聞こえてこない。障害を持つ従業員は、総じて明るく真面目であり、高齢者とともに真摯な態度で勤務する姿は、職場のやる気の醸成に大いに貢献していると認められる。
4.今後の展望と課題
募集・採用については、ハローワーク利用を主体にすすめているが、障害者のための特別な仕組みはなく、今までと同様の方針をもって障害者雇用に臨みたい。現在、障害を持つ従業員の多くは高齢者であり、高齢者雇用のお手本ともなっている。障害者雇用にプラス面を見出し、今後とも障害者の雇用について少しでも貢献できる会社でありたいと願っている。
また、障害者雇用を進める一方で、会社のサポートや職場同僚の協力を得ながら、サービス業としていかにあるべきかを追求し、当社のモットーである“安全・確実・快適”をお客様に届けて行きたい。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。