職場実習から始まった初めての障害者雇用
- 事業所名
- 株式会社二十二 天然温泉グランスパホテルこまち
- 所在地
- 秋田県秋田市
- 事業内容
- 旅館ホテル業
- 従業員数
- 103名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 2 清掃、事務補助 精神障害 - 目次

1.事業所の概要
温浴施設で県民の健康と憩いの場として、小さな子供からお年寄りまで老若男女を問わず楽しんで利用していただくことを目的として、平成18年4月に設立された天然温泉ホテルである。付随する大衆演劇場、カラオケルーム、2万冊を備える漫画本コーナー、タイ古式マッサージ・韓国式あかすりを取り入れたボディケア、理容室等、施設も充実している。また、低料金で宿泊を提供しているほか、地産地消の食材にこだわった飲食部門、地元米の米粉を使用したベーカリーコーナーも設置している。
従業員は103名で、うち70名がパート、全従業員の6割が女性である。
2.障害者雇用の経緯、背景
経済雇用情勢が悪化している中、事業所設置からこれまで障害者雇用を経験していなかった当社に、地元の特別支援学校から知的障害を持つ生徒の職場実習受け入れの要請があり、障害者の雇用率などを勘案し、特別支援学校卒業後の本採用を検討しつつ、受け入れを承諾したのが障害者雇用のきっかけであった。その後、一度に2~3名を2週間、実習生として受け入れた。実習当初の2日間位は、総務部長をはじめとして各部署の担当スタッフが付いて業務の指導に当たり、その後は、危険の伴わないところで本人のできる範囲で実習してもらった。その際には、障害者職業センターから派遣されたジョブコーチのほか、送り出した特別支援学校の先生も度々訪れ指導した。
また、ハローワーク主催の障害者就職面接会にも参加し、様々な年齢、転職希望を持つ人などとの面接の結果、数名の職場体験実習を2、3日実施したが採用には至らなかった。実習を受けた人の中には、聾学校の生徒もおり、卒業後の採用に向けて筆談で1週間実習したが、体調をくずし辞退となった残念なケースもあった。
このような実習を行った中から、最終的に通勤可能な2名を平成22年4月1日から雇用することとなり、採用に際しては、ハローワークのトライアル雇用制度(3ヶ月)を利用した。2名が入社してからもしばらくは、ジョブコーチや母校の先生のアドバイス、指導を受けながら、本人のできる仕事内容や適材適所を判断していった。障害者の雇用に当たっては、総務部長を先頭に手探りながら社内の受け入れ、体制づくりはもちろん、いろいろな支援を受ける障害者雇用関係機関とのつながりは欠かせないものであり、家族、職場の同僚の理解と協力は絶対条件であると考えている。
3.取り組みの内容と効果
(1)職場定着に向けての配慮
①社会人としてのルールを教える。
障害のない人も同様であるが、企業では、昨日まで学生だった人に、社会人となりサービス業で働く者としての身だしなみから、報告・連絡・相談など職場のルールを身につけてもらう必要がある。2名の自立に向けて、褒めることももちろん大切ではあるが、それよりも明日になれば忘れてしまっている今日注意したことを、その都度、根気強く何度も何度も繰り返し教育指導していく必要がある。指導する場合でも、例えば、職場の一員としての身だしなみについて、上司から注意されるよりも、年齢の近い現場のスタッフから言われたほうが聞きやすいのではないだろうかなどと考えたりする。
②普通に接する。
当社では、知的障害があるからといって2名を特別扱いすることなく、他のスタッフと同じように接した上で、職場定着の道を求めていくこととしている。そのためには、社会人として常に見守っている家族の協力は当然欠かせない。
③従業員とのコミュニケーション
休憩中など、他の部署の従業員と一緒になることも多いが、どうしてもコミュニケーションをとるに当たって、うまく言葉で伝えられなかったり、何かを記入、あるいは記載するときに誤字・脱字が見受けられたため、日々の業務内容、自らのことなど、なんでも気軽に書き込める一冊のノートを用意した。このノートは、部長が目を通すほか、書かれている内容が仕事に関することであれば、所属する部署のスタッフが応えたり、教えたり、時には家族からの連絡・意見などが記載されるなど、毎日のようにやり取りされている。「忘れないために書くことの重要性」について本人への理解を図ろうと取り組んだものである。現在では、休憩時間に先輩の清掃スタッフと一緒に食事をしたり、声をかけてもらったりして過ごしている。
(2)担当業務と問題点
Aさんの主な業務内容は、客室のタオルの回収、ロッカーの清掃、タオルたたみ、事務所での案内掲示へのラミネートかけ、パソコンでのシフト作成、請求書・金券へのナンバリング作業などで、勤務時間は、午前10時から午後4時30分までとなっている。一方、Bさんは、浴室のシャンプーの回収・補充、サウナのマット敷き、施設周りの巡回などで、勤務時間は午前8時30分から正午までとなっている。ただし、繁忙日には残業を指示することもある。2名の本来の業務は異なるが、公休の場合は互いの業務を補うことになっている。互いの業務内容を理解することにより、同僚の大変さ、業務の難しさを感じてもらうとともに、協力する気持ちを育てていきたいと考えている。
また、総務部長を中心に作業効率・手順を検討し、その日の作業内容が本人に分かり易いよう日課表を作成し、これに合わせて動けるようにジョブコーチにもお願いした。本人も日課表どおり進めていくが、できなかったときには、どうしてできなかったのか、次からどうするのかを本人から説明してもらっている。学生時代から職場実習で覚えた業務は、容易にこなすことができる2名に、時間をいかに有効活用するかの工夫や、新しい仕事への意欲などが求められた。何回か職場実習を行って採用に至った経緯があるものの、社会人として「会社とは」などの理解する気持ちの相違が見られるところなど、個別に当面の努力目標も見えている。
(3)ジョブコーチの支援
当面の努力目標達成のため、「会社の意味」や「給料をもらって働くことの意味」など、基本的な部分から時間をかけて指導し、その後、家族、ジョブコーチと相談しながら勤務内容、勤務時間などを調整していくこととしている。また、家族に何か伝えたいことがある時に、本人たちを通すとなかなか伝わらなかったりしたため、ジョブコーチにお願いして話を通してもらったこともある。このように週1~3回のジョブコーチの支援を受けながら、日々の業務をいかに効率よく進めていくか、苦手とする業務を根気強く諦めずに努力すること、失敗を恐れないこと、克服できることなどを目標として指導した。家族・ジョブコーチから聞いている彼らの性格も考慮しながら、どんな仕事でもチャレンジして、努力してみて、時間をかけるとできることなのか、無理なことなのかを判断するようにしている。新しいことにチャレンジすることにより、今まで苦手と思い込んでいたことを克服するなど、本人にも新しい発見ができていると思う。
(4)大事な家族の協力
職場実習とトライアル雇用の終了時には、ハローワーク、特別支援学校、障害者就業・生活支援センターの人達を集めて、2名の業務内容、仕事への姿勢、指導の内容と結果などをジョブコーチから報告した。また、勤務時間帯の変更経緯について、会社からジョブコーチにお願いし、家族と話し合いをして理解を得た上で、ハローワークも同席の上、家族が少しでも理解できなかったところや、本人の理解が難しかったところをジョブコーチに補足してもらったこともある。このような中で、家族からも“社会人としての自覚”、“会社とは・働くとはどういうことか”ということについて考えながら、家庭でも職場での状況などを話題の一つとして取り上げてもらうことなどにより、職場定着につなげている。
(5)仕事をする喜び
Aさんは、学生時代、数ある職場実習先から当社での就職を強く希望して、数回にわたる職場実習を経験してきた。意欲とは裏腹に、初めはモジモジして思いを言葉にして伝えることが苦手で心配したが、社内で協議した結果、トライアル雇用期間を設けて採用が決定した。入社した当初は、身だしなみ、あいさつ、返事、質問などが十分できなかったが、現場に出て一つ一つの作業ができることで面白味を感じたことに加えて、総務部長のみならず現場のスタッフからも評価を得られるようになってきて、日ごとに成長していく姿が見え、仕事の幅を拡げていった。他の従業員と同じように接し、時には厳しく注意もし、忘れないように自分の言葉でメモを取ることを習慣としてきた成果が少しずつ見え始めている。
そのAさんがノートに書いた言葉。
『社会人になってみて仕事がすごく大変だと思いました。タオルたたみ一つでも、きちんとたためず、積み上げていくと斜めになってしまいました。毎日続けているうちに、早く、きちんとたため、真っ直ぐに積み上げられました。客室の業務の他にロッカーの清掃、事務所での仕事など、仕事が増えるのが嬉しいし、仕事をするのが楽しいです。最初は、お客様や従業員の人たちとうまくコミュニケーションをとることができなかったのですが、発声練習を毎日やっていくうちにお客様にも大きな声であいさつができるようになりました。これからも無駄話をしないように、テキパキと仕事をすることを心掛けたいです。仕事に行くのが毎日楽しみです。』


4.今後の課題と展望
障害の有無にかかわらず、誰でも初めて取り組む業務で作業効率などを考える余裕はないだろう。まして障害を持つ彼らの場合、周りの状況を読み取ったり、作業手順等を考えながら作業をするのは苦手な人が多い。そのため、周りのスタッフは、いかに相手にわかりやすく業務のコツや注意点を教え、伝えることができるかが課題である。上手に伝えることができることは、障害のある人にとって、仕事の上達への近道と思われる。
24時間営業をしている当社の中には、様々な業務があり、若い人から年輩者まで幅広いゾーンのいろいろな従業員が勤務している。そのような環境の中では、できること、できないことを本人たちにも厳しく教えてみて、やれること、やれないことを判断していかなければいけないと考えている。2名は、どうしても人と話しをするのが特に苦手だったりするので、むしろ従業員の方から声をかけたり、話のきっかけをこちら側から提供していくようにした方が良いと考えている。
新年度も特別支援学校からの職場実習の依頼があると思うが、今勤務している2名を育てるためにも、こちら側から積極的に取り組んでいきたいと考えており、できれば、現在勤務している2人に職場実習生を指導してもらいたいとも考えている。ある程度の年齢であれば社会一般のことも分かると思うが、2名は学校を卒業してすぐの就職で若いために、その辺のところがまだまだ理解できていない部分もある。今度は、いつまでも誰かが助けてくれるという立場ではなく、自分が教えていく立場になってもらえたらと思っている。
数年経っても、Aさんの気持ちが前向きで変わることのないよう見守っていきたい。
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