きのこ生産・加工販売部門において知的障害者の雇用に取り組んだ事例
1.事業所の概要
山形県の最南端に位置する米沢市は人口約90,000人、「上杉の城下町」と言われている。第9代米沢藩主の上杉鷹山公は、藩財政が逼迫していた折に大倹約の改革を行い、武士といえども時には刀を鍬に替えて国を養うことを自ら実践し、家臣たちの意識をも改革した。また農民の援助、殖産振興、開拓、水利事業など勤倹を旨とする民政の安定、経済の復興を図った名君であった。バブル経済崩壊後はその藩政に学び、不況下での経営を見習おうというブームが起こったほどであった。そのご当地にある株式会社後藤組は、大正15年の創業以来『わたしたちは夢を創ります』をテーマとして、建築・土木工事の企画・設計・施工・管理、不動産の売買・仲介・賃貸・管理業務、仮施設機材のリース・賃貸・売買及び保守管理・飲食店経営等様々な業務を行っている。その中でも、今回はきのこ類の工場生産・加工販売(バイオファーム事業部)について紹介する。
取材にあたり、万世統合事務所の高橋所長よりお話を伺った。
バイオファーム事業部を創設し、シメジの大量工場栽培事業に参入したのは昭和60年で、岩手県の建設会社が実施している事業を参考にしたとのことで、当時は現在の規模の4分の1ほどだった。現在では成長し、会社全体の売り上げは50億円余り、うち1億9千万円がバイオファーム事業部である。創業当時は事業が順調に回らなかったため、利益がなかなか上がらず苦労していた。しかし、近年になり、ようやく品質が安定し収益面での安定も取り戻してきた。現在は山形県内にとどまらず、福島県、宮城県にも出荷するなど徹底的な品質管理のもと生産が安定してきている。
2.障害者雇用の経緯
バイオファーム事業部で最初に知的障害者を雇用したのは昭和60年5月であった。現在は6名を雇用しているが、延べ10名を雇用した実績がある。雇用のきっかけは、事業所の近隣に知的障害者の授産施設と通勤寮があったので、会社側から声を掛けたことから始まった。作業内容については、流れ作業の中で荷物をパレットに乗せることや機械の掃除など、簡易な作業が中心である。シメジの工場生産・加工の工程の中で、機械ではなく人の手で行うべき簡易作業があったこと、決して雇用するために仕事を作っている訳ではなく、ある程度同じ作業が毎日あることが、知的障害者がより良く働くことができる職場としてマッチしたと思われる。
3.障害者雇用の現状
(1)日々の業務の中で
現在雇用されている6名について、基本的にはハローワークのトライアル雇用を利用して採用した。真面目で純粋であり仕事をしっかりやっている。また、あまり無理をさせないように心がけている。ただし障害特性として、コミュニケーションが得意ではない職員が多いのも事実であり、作業指示に対して返事はするものの、実際に作業を行うと指示を理解していなかったことがわかる場合もあり、確認については慎重に行っている。また、日々の業務の中では、やはり様々な問題も少なくない。しかし、知的障害者を雇用している現状において、日頃のサポートが大切と常々思っているので、すぐに対応することができている。平均すれば月に1回のペースで対応が必要な問題が起こるとのこと。内容としては、前日お酒を飲みすぎてしまい作業に支障が出てしまう、また精神面が不安定になり職場で大声を上げてしまうなどである。そういった事が起きてしまった場合、まずは本人の話を良く聞き、会社から前述した施設へ連絡し、場合によっては本人と面談してもらい、その状況や対応方法を会社へ伝えてもらう、という相談・連携体制はできている。また必要に応じて、家族や施設の職員も含めてケア会議を行うなど十分な連携も取れており、安心して働くことのできる体制が作られていることを感じた。
長谷部工場長からも現場の状況等のお話を伺った。
雇用している知的障害者の中にはてんかんを有する職員もおり、時折状態が不安定になる時もあるとの話しがあった。その場合には施設と連携の上対応している。作業場の指導は会社で、医療や生活面での支援は施設でと、しっかり役割分担をしてケアにあたっている。また、真面目に作業を行っているとのことであった。一つのことができるようになると、二つ三つと別の仕事も任せたいところではあるが、できる仕事を継続して長くやってもらえれば、との話もあった。これは知的障害者の特性を職場がしっかり把握しており、長く安心して働くことのできる環境であると言えるであろう。
(2)Tさんの話
平成21年4月から就労しているTさん(女性)にお話を伺った。Tさんは、高等特別支援学校を卒業し、新卒での採用である。米沢市内に在住しており、自転車で10分ほど要する自宅から事業所までの通勤は、冬は降雪量が多い地域のため父親が送迎している。作業については、午前は主にパレットへの積み込み、午後は掃除と次の日の準備という内容である。1人で行う作業が多く、最初はできるかどうか不安であったが、上司や周囲の人に教えてもらって覚えた。仕事は楽しく、何か困ったことがあれば周囲の人に相談もできるが、同僚は皆さん年が離れている人が多く、話しづらい時もある。それでも、皆さんゆっくり話を聞いてくれるので安心しているとのこと。特別支援学校の進路担当の先生も時折様子を見に来てくれ、それが励みになっている。
仕事以外の時間のことについても話を聞いてみた。スペシャルオリンピックスの冬季競技になっているフロアホッケーを、高校2年からずっと続けている。練習は母校の特別支援学校で定期的に行っており、競技会や練習をとおして仲間ができたことも嬉しかったそうだ。10月には長野県で行われた大会に参加し、見事準優勝という成績をおさめた、今後も好結果を是非期待したい。また、休みの日には趣味として手芸も行っているが、夢は「パラグライダーで空を飛ぶこと」。これからも、仕事、そして自分の好きなこと、楽しいことにも邁進していくことを願う。Tさんは、忙しい中、笑顔で取材に答えてくれた。
4.今後の展望と課題
バイオファーム事業部の今後については、拡大していきたいが薄利多売ということもあり、なかなか設備投資できないとの話であった。市場のニーズは確かにあるものの、設備も古くなっているので更新したいが困難とのこと。新たに機械を導入できれば、人手が必要な単純作業も多くなり、新たに障害者を雇用できるが、会社としてもその考えはあるものの、今後の検討課題とのことであった。
全国平均と比較しても、障害者雇用率が下回っているこの地域において、このような職場があることは支援者として非常に心強く思う。何より、決して無理をさせず長期間働いて欲しいという会社の考えは、働く者にとって良い職場環境であり、またそういった社風であるからこそ現状に甘えず、職員もやりがいを持って働けるのではないだろうか。今回は詳細について触れなかったが、同じ万世統合事務所の別部署である資材グループにも4名の障害者が雇用されている。そもそも、バイオファーム事業部の立ち上げや、近隣施設に声を掛けたきっかけに関しては、今は亡き先代の会長の意思によるところが大きかったとの話があった。
今となってはその詳細を確認する術は無いが、その思いは今も会社全体に引き継がれ、現在もイキイキと障害者が働いている環境があるのだろうと強く感じられた。
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