IT技術を駆使した就労継続A型事業所

1.事業所の概要
平成8年に視覚障害者を主たる対象とした無認可作業所(ワークアイ・船橋)としてスタートした。平成14年には社会福祉法人格を取得し、身体障害者向けの小規模通所授産施設(ワークアイ・船橋)を運営。平成18年10月より、障害者自立支援法が施行されたのを機に、障害者の自立支援として、主に技術習得、社会性習得、就職支援を中心に就労移行支援事業(IT就業支援センター、身体・精神・知的の3障害対象)を新規開設、翌平成19年4月に小規模授産施設を就労継続B型事業(ワークアイ・船橋)に移行し、就職困難な障害者の活動の場所として運営。
そういったなかで、就労移行支援事業等で技術や社会性を身につけても、なかなか就職できない障害者を支援することを目的に、平成22年5月、新たに就労継続A型事業所(ワークアイ・ジョブサポート)を開設し、法人として直接、障害者を多数雇用した事業展開を実施し、実務の業務をしながら一般就職を目指す人、または、当法人の雇用従業員として働き続ける事業所を実施してきた。
主な業務として、IT技術を駆使したパソコンでの各種データ入力や、保険会社等の支払い案内はがきの印刷業務、ホームページの情報格差(デジタルデバイド)解消のアクセシビリティー診断業務、視覚障害者向けIT講習等々を事業として、26名の障害者を雇用している。
2.障害者雇用の経緯
当法人は社会福祉法人である為、障害者支援が本来の業務である。日常的に、障害者の就職支援を実施してきた結果、技術的能力がありながら、人間関係の問題や、通勤に伴う諸問題、週40時間という労働時間の問題等、様々な理由で一般就職が出来ない障害者が多数いる現状を憂いていた。
そうしたなか、自立支援法が発効され、障害者を直接雇用する施設形態である、就労継続A型という制度が確立され、障害者支援が本来業務である社会福祉法人でも、雇用という形態をとって一般就労への移行を支援できるようになった。
その制度を利用して障害者を直接雇用し、人材・戦力として企業活動を行うことを目的に、平成22年5月ワークアイ・ジョブサポートを設立した。現在26名の障害者を雇用し、企業体として活動することを目指したのが経緯である。
障害者の人達には、毎日出勤できない人、短時間でしか仕事が出来ない人がおり、様々な障害者をケアすることは、本来業務として障害を持たない従業員は精通しているので、ためらうことなく取り組むことが出来た。
3.取り組み内容
当法人の業務は、作業系と呼ばれる物作りではなく、パソコン技術を活かしてITに特化した業務であり、業務内容は複雑で、発注先に対して、納期遅延と製作ミスは許されない業務が中心である。
業務の一例であるが、保険証券やカード会員申込書等の各種申込書など個人情報のデータ入力業務を16名の障害者が中心となり、業務に従事している。
当社の特徴は、申込書をそのまま原本を見ながら入力するのでは、企業情報ならびに個人情報保護の観点からセキュリティー上において好ましくなく、情報漏洩が発生した場合に、会社の存続が危ぶまれてしまう業務内容である。そのため、精神障害者や発達障害者などでは不安症が発生してしまい、過剰な反応をしてしまうことがある。
そこで、申込書原本をスキャニングし全ていったん画像化する。その画像化したファイルを、申込書の項目ごとに分割するシステムを使用し、サーバーより従業員の端末に一部の項目のみを配信入力するシステムを構築している。
こうすることによって、従事する者の不安を解消し、また情報漏洩を未然に防ぐ手立てを実施している。
個人情報は、住所・電話番号・年収・家族構成など、全ての情報が一枚に記載されていると個人を特定できてしまうが、上記の方法では、個人を特定できない段階まで、項目を細分化するので、画面に表示される画像データは単なる数字の集まりだったり、「千葉県」、「船橋市」など個人を特定できない意味のない情報となる、漏洩を防ぐために構築したシステムである。
このことが結果的に、電話番号など数字項目だけを抽出して配信できるシステムになったため、重度の脳性麻痺等で上肢痙攣が起こっている場合でも、指一本で入力できたり、また知的障害などで加減乗除演算、漢字の読み書き等が苦手であっても、数字項目ならば、見たまま入力すればよいので、正確に入力でき、精度が上がり、高品質のデータになる。
従事者に負担を強いらない入力環境を構築したので、誤入力のみに神経を使えばよく、業務上でのストレス軽減に繋がっている。また、一件を複数の人間が入力するので、出勤状況が不安定でも、問題なく従事してもらうことが出来る。 また、ベリファイといって、複数の人間が、同じ項目を入力することで、より入力ミスをチェックできるシステムとなっている。


出勤が不安定な障害のある従業員に業務指導する場合の、一日で完結する内容に業務を細分化することや、誰が見ても判るチュートリアル的マニュアルの作成、一目でわかる工程管理表等々、「時間内に終わらなかったらどうしよう…」などの不安や「難しくて良く判らない。でも、周りの人に聞けない…」等々、不安や悩みを解消する業務体制や指導体制を構築し、指導員も6人に一人は配置する体制にし、業務に就く障害のある従業員の負担軽減を図っている。
また、ストレスが障害を不安定にする大きな要因なので、ストレスを視覚化すること、つまり、一ヶ月に一度は、必ずストレスチェックサイトで従業員自身のストレス度合いを把握することや、何に対してストレスを感じているかを明確化することに務めている。
また、月に一度、個別面談を実施し、10~15分程度の話し合いの時間を設けている。ここでは、社内のこと以外にも、家族や異性問題を含め、幅広く相談に載る体制で取り組んでいる。
そういった取り組みのおかげで、当初週2日しか通勤できなかった従業員も、週5日出勤できるようになったり、就労時間内の休憩が短くて済むようになってきており、結果として、自分に自信が付いてきて、働く意欲の向上に繋がっている。
1)労働時間・労働条件
勤務時間は1日5時間、1週間に25時間を越えない範囲で、午前10時から午後4時、休憩は正午から1時間としている。勤務は毎週月曜から金曜であり、休日労働、時間外労働をさせることはない。
基本賃金は時間給750円である。
2)定年・継続雇用
定年は65歳である、法人が特に必要と認めるときは、一定の期間勤務を延長し、または再雇用することがある。
3)活用した制度や助成金
障害者雇用納付金制度に基づく助成金の受給資格認定申請を行った。
「第2種作業施設設置等助成金(賃貸)」では、作業施設である事務所と、作業設備である視覚障害者用音声パソコン・視覚障害者対応複合機を。「障害者介助等助成金(職場介助者の配置助成金)」では、視覚を必要とする業務指導上の読み書き、移動についての職場介助者の配置を申請し、認定・支給されている。
「障害者介助等助成金(業務遂行援助者の配置助成金)」では、客先から受信したデータを使用したはがきを印刷、印刷したはがきの検品と梱包についての業務遂行援助者の配置を認定・支給されている。



4.今後の展望と展開
今後の展望としては、安定的な業務の確保は当然であるが、更なる技術の習得(向上心の継続)や、同一業務の効率化という問題・課題を明確にしていき、個別課題に取り組む姿勢を構築していきたい。
指導員は、わかりやすいマニュアル作成、手順書の作成、わかりやすく正確に伝える能力を磨き、障害のある従業員の育成に取り組んでいきたい。
経営主体が社会福祉法人である以上、収益を目的とした運営は出来ない。しかしながら、雇用形態である以上、雇用は維持し続けていかなければならず、利益を留保できにくい経理基準制約の中で、雇用者の賃金アップを図っていくことは至難の業といえる。業務内容を認められ、多くの業務を受託できることは、本来、企業ならば喜ばしいことだが、社会福祉法人組織では難しい面もある。
従業員は、一般就職を目指し、支援しなければならないという、自立支援法上の制約もあり、優秀な人材だからといって、施設に留めておくことも出来ない。就労継続A型雇用という法制上の雇用形態の限界を感じている。
したがって、自立支援法の事業形態に頼らなくても運営でき、障害者雇用を維持できる制度や組織にしていかなければならないと考えている。
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