人事、総務業務、営業ツールの作成などの職域開拓により
障害者雇用の拡大を図っている
- 事業所名
- リゾートトラスト株式会社
- 所在地
- 本社 愛知県名古屋市
東京本社 東京都渋谷区 - 事業内容
- 会員制リゾートホテルの開発と会員権販売、ホテル・レストラン事業、
メディカル事業・シニアライフ事業、ゴルフコースの開発と運営 - 従業員数
- 5,165名
- うち障害者数
- 75名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 1 清掃 肢体不自由 38 DM作成、PC入力、清掃 内部障害 1 人事事務 知的障害 29 DM作成、PC入力、清掃 精神障害 6 総務事務、清掃 - 目次


1.事業所の概要
(1)沿革
・1973年4月、名古屋市中区に宝塚エンタープライズ株式会社(現リゾート トラスト株式会社)設立
・1982年12月、東京都新宿区に東京本社を開設し、二本社化
・1986年4月、企業理念を確立してリゾートトラスト株式会社に商号変更
・2000年11月、東京、名古屋両証券取引所市場第一部に株式を上場
・2003年8月、東京本社を渋谷区に移転
(2)経営理念
より多くの皆様に最上のホスピタリティを提供する「エクセレント・ホスピタリ ティ・グループ」
(3)事業の概要
・会員制リゾートホテルの開発と会員権販売事業
・ホテル・レストラン事業
・メディカル事業・シニアライフ事業
・ゴルフコースの開発と運営
2.東京事務センターにおける障害者雇用の経緯と推移
①企業として当然果たさなければならない法令順守、すなわち障害者の法定雇用率の達成は、当社にとって長年の課題であった。しかし、当社の主力事業はホテル業で、従業員のほとんどが現場要員であり、お客様へのサービス、作業の安全面を重視しなければならないという認識から、2005年秋、愛知労働局からの指導を受けるまで、障害者雇用は遅々として進まなかった。
この指導を受け、即座に人事総務部管掌役員が中心となり、法定雇用率達成までの計画作成に取りかかった。当時、当社の実雇用率は、0.66%と法定雇用率の1.8%から大きく乖離していた。
「先ず、障害者ができる仕事はないかと社内営業に奔走しました」と障害者雇用促進の旗振り役となった宮田修造取締役は当時を振り返る。宮田修造取締役は、きめ細かく全社的に仕事を見直し、事務支援センター的なセクションで集中して業務を行う体制をとることを決断した。名古屋と東京にDMルーム(現事務支援センター)を設け、営業ツールとして使用しているDM作成をここで行うことにした。当社程度の規模になると特例子会社を作ったらどうかという意見も多々あったが、長期的展望がないままに、安易に特例子会社を設立するのではなく、本社が中心となって障害者雇用を促進する道を選んだ。

②2006年3月、障害者4名でDMルーム(現東京事務支援センター)を開設し、スタートを切った。その後、本体、子会社を問わずリゾートトラストグループ各社を「社内営業」し、業務開拓を行った。その結果、PC入力補助、名刺作成、文書のPDF化補助と仕事内容も多岐に亘るようになった。実習・委託訓練事業・トライアル雇用を通じ、障害者雇用を並行して進め、着実に実雇用率も上昇した。
③2008年7月には、ノーマライゼーションの観点から、東京人事総務部と同じフロアに作業場を移転し、障害の有無にかかわらず同じ場所で業務を行うようになった。
④2009年には主力事業であるホテルの清掃作業にも職域を拡大し、2010年には、実雇用率が法定雇用率1.98%になった。 現在、東京事務支援センターには37名の障害者が勤務しており、全社的に障害者雇用の大きな拠点となっている。又、設備面でも、高速印刷機、名刺印刷機、紙数 計算機、三折り機、PDFスキャナー、ハスラー(郵便料金の管理機械)等を設置し、効率的な作業を行える体制になっている。
⑤以上の経緯を総括すると障害者雇用の推進に当たって人事担当役員がリーダー役 となり、先ず法定雇用率の達成に向けて、綿密な工程表に基づき着実に取り組んできたことが今日の成果をもたらしたものといえる。
事務支援センター | その他 各施設 |
合計(人) | 従事業務 | ||
名古屋 | 東京 | ||||
視覚障害 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
聴覚障害 | 0 | 1 | 0 | 1 | 清掃 |
肢体不自由 | 9 | 4 | 25 | 38 | DM作成、PC入力、清掃 |
内部障害 | 0 | 1 | 0 | 1 | 人事事務 |
知的障害 | 2 | 26 | 1 | 29 | DM作成、PC入力、清掃 |
精神障害 | 1 | 3 | 2 | 6 | 総務事務、清掃 |
障害者雇用率の推移
年度 | 2005年 | 2006年 | 2007年 | 2008年 |
2009年
|
2010年
|
---|---|---|---|---|---|---|
名古屋他(人) | 18 | 30 | 38 | 43 | 32 | 38 |
東 京(人) | 0 | 10 | 12 | 15 | 32 | 37 |
合 計 | 18 | 40 | 50 | 58 | 64 | 75 |
実雇用率(%) | 0.66 | 0.99 | 1.45 | 1.54 | 1.56 | 1.98 |
3.取り組みの内容
(1)障害者の受け入れ体制について
①実習の受け入れと採用について
・実習の受け入れ
地域就労支援センター(世田谷区立就労支援センター「すきっぷ」)、特別支援学校、近隣の社会福祉協議会、JICAの仲介による外国の障害者団体などから年間10数件の実習(期間:半日~3週間)を受け入れている。
・採用について
特別支援学校出身者には、2年次の職場実習中に就労意欲について当人、保護者と面談を通して確認している。3年次の2回の職場実習では、グループ就労が可能な程度のコミュニケーション能力を有しているか否かを重視して採用の合否を決めている。
地域の就労支援センター出身者については、当社が受託した東京しごと財団の委託訓練事業の訓練プログラムによる実習を経て、トライアル雇用に進み出退勤、 勤務態度、職種とのマッチング等を慎重に判断し、継続雇用に結びつけている。
②職域開拓、職務設計(下表は、現在の主な業務である)
作業内容 | 指導法 | |
---|---|---|
DM作成 | 封入、封緘、帳合、シール張り | 班ごとに経験者が指導 |
DM内容物の印刷 | 高速カラープリンターの使用 | 指導員が見本を見せ、教える |
名刺作成 | 名刺ソフトを使いパソコン入力 | 指導員が一緒に作業 |
シュレッダ- | 重要文書の裁断 | 一人作業向き仕事として活用 |
PDF化補助 | PDF化過程のスキャン作業 | 指導員が一緒に作業 |
PC入力補助 | 住宅地図への情報張り付け | 指導員が一緒に作業 |
ハスラー | 郵便物の種類確認と切手貼付 | 障害程度の軽い者が単独作業 |
ホテル清掃 | ベットメイキングと浴室清掃 | 人事総務全員が技能習得、指導 |
老人ホーム清掃 | 共用部分の清掃 | ホテル清掃経験の障害者が指導 |
ホテル清掃は雇用率アップに大きく寄与した。作業開始から2年が経過し、知的障害者の技量も大幅にアップ、身体障害者や精神障害者の作業能力も障害のない者と同じくらいに高まった。さらに、老人ホーム清掃という新たな職域開拓のきっかけとなった。




③教育訓練
・ジョブコーチの社内育成
障害者職業生活相談員の講習を人事総務部員全員が受講。さらに、職業コンサルタント、2号ジョブコーチ(職場適応援助者)などの資格を取得するために中期的展望を持って人事配置をしている。
・障害者の教育
入社前に把握している個々人の障害特性、作業能力、コミュニケ—ション能力を勘案し、従事する職種を決めている。一定の作業能力(品質・生産性)に達したら他業務へのスキルアップ教育を行い、作業職種の増加を図っている。さらに、朝のあいさつ、部屋の出入りの際の行動など、従業員として相応しい規律、ビジネスマナーの教育も適宜行っている。
④指導員体制(東京事務支援センター下記)
・事務支援センター長(地域就労支援センターで長年、支援員を務める)
・2号ジョブコーチ(職場適応援助者):1名
・障害者職業コンサルタント:2名
・業務遂行援助者:3名
⑤障害を持たない従業員への啓発
障害者が同じフロアで仕事をしていること自体が、障害のない者への啓発になっている。更に業務面でも、一例を挙げると、営業従業員の仕事(DM作成)の補助的役割を担っており、業務を通じても理解啓発に繋がっている。
⑥障害者の育成ポイント
上記の指導員体制のもとに日々、職業指導、定着指導を行っている。指導スタッフが日々の業務を通して、各人のスキルを判断しながら、新規に創出した作業に従事させ、一人ひとりが、最低2業務以上を担当できるように指導している。
(2)支援について
①社内支援(配慮事項も含む)
・本人の意志確認のもと、3年以上の勤務者には勤務時間を延長している。
・通勤ラッシュ、通勤距離、本人特性を考慮し、出退勤時間を決めている。
・通勤用制服、作業着などを貸与している。
②家族支援
保護者、就労支援センター、会社による保護者会を年1回開催し、当事者間の結束を再確認している。また、各人の日誌を通して、常に保護者と連絡を取り合っている。


③出身学校の支援
従来は、地域就労支援センター出身の雇用が多いので、出身学校の支援はほとんどなかった。今年度は永福学園の卒業生が入社し、同学園からの支援を得ている。
④地域就労・生活支援センター等の支援
東京事務支援センタースタッフは世田谷区在住者が多い。世田谷区では、生活支援センター「クローバー」と就労支援センター「すきっぷ」の関係が密であり、 通勤支援、勤務時間外の生活支援も円滑に行われている。
(3)ケーススタディー(2例)
①Mさん(37歳、男性、入社2年、知的障害者)のケース
知的障害者(愛の手帳2度)のMさんは、世田谷区内の特別養護老人ホームの清掃を10数年間続けてきた。一昨年2月、老人ホームの清掃業務を卒業したと いう自分の判断で退職(Mさんには、一つの仕事は6年間で卒業するという考えがある)。その後、「すきっぷ」の紹介で当社にホテルの清掃業務要員として入社 した。
Mさんは、ストレスが溜まると大量の汗をかき、どんどんと壁を叩くなどの行動をとったために、お客様の出入りが多いホテルでの勤務は難しいと判断した。 そのため、東京事務支援センターでDM作成等の業務に就かせることにした。しかし、MさんにとってDM作成などの細かい作業は不向きで、ストレスになっていると思われ、何度も保護者に会社に来てもらい、就労支援センター、保護者、主治医、会社の四者が一体となってその対策にあたった。就労時間を従来の6時間から4時間に短縮し、更に他人と接触の少ない一人作業(シュレッダー作業)を担当させた。この措置が功を奏し、その後大声をあげたり、壁を叩いたりすることがほぼなくなった。この取り組みの結果、就労の継続が危ぶまれていたMさんの再生は成功し、Mさんは自身の努力が認められ、2010年12月の障害者週間に世田谷区長から表彰を受けた。
② Wさん(23歳、男性、入社1年、精神障害者)のケース
精神障害者保健福祉手帳(発達障害)を持つ彼は、N大学を卒業し、100社以上の就職試験に落ち、地域就労支援センターの支援を受けながら東京障害者職業能力開発校に通ったが、コミュニケーション能力が十分でなかったため、どこの会社でも雇用には至らなかった。昨年、ハローワーク渋谷の紹介で当社に入社。入社当初は、指導員やジョブコーチに対し大声をあげたり、指導員に逆に指示したりするなど、周囲を驚かせる行為が多かった。Wさんは、ニュースを見ることが好きで、携帯電話を常に身につけていないと気が済まなかった。PC入力スキルは高かったが、就業規則の無視、他者との軋轢も多かった。地域就労支援センター、保護者、更にハローワーク渋谷の相談員も加わり、Wさんに「作業中は、携帯電話を手放すように」と根気よく指導した。更に、指導員等の指示に従うことの大切さを四者で何回も何回も話し合った。Wさんの場合、即、常用雇用に繋げるには難しいと判断し、一日4時間週3日の勤務体制とした。1年経過した現在、Wさんと「週20時間勤務が可能かどうか」の話し合いが始められる段階にきている。
(4)助成金の活用
・ハローワーク関係:特定求職者雇用開発助成金
・独立行政法人高齢・障害雇用支援機構(当時)等:
職業コンサルタントの配置または委嘱助成金(配置)、業務遂行援助者の配置助成金、第1種作業施設設置等助成金、第2種作業施設設置等助成金、委託訓練修了者雇用奨励金等を受給している。これらの助成金を活用し、高速カラー印刷機、名刺印刷機、紙数計算機、スキャナー、ハスラー、シュレッダー等の機械設備を購入、障害者が従事可能な職域の拡大を図ると共に、障害者一人ひとりが働きやすい環境
・スペースを確保している。又、奨励金の受給により通勤着(ブレザー)や作業着を無償貸与し、障害者のモチベーションアップにも寄与している。
(5)リゾートトラストの障害者雇用に関するポリシー
ハイクオリティーなステージを顧客に提供するリゾートトラストとしては、法定雇用率1.8%に拘ることなく、CSRの一環として障害者雇用を進めてゆく方針である。当社の障害者雇用は、「先ず仕事ありき」ではなく「障害者個人の障害特性を捉えたうえで、業務の創出を行うこと」を実践している。
制度的には身体障害、知的障害、精神障害の三障害に大別されるがその垣根は低く、基本的に個々人に丁寧な対応をすべきであることを指導の原点としている。
4.今後の展望と課題
①2011年度に『グループ特例認定企業』として、障害者雇用をキーワードにグループシナジーを高め、さらに職域と雇用の拡大を行ってゆく計画である。
②当面、老人介護施設の清掃業務の更なる拡大を図ってゆく。
③雇用障害者の障害特性に起因する問題行動、勤労意欲の変化等に関し、就労支援機関などの関係機関と職業リハビリ体制の強化を図るとともに、一方当事者の意向に配慮した福祉的就労など次ステージの展開も行ってゆく。
副理事長 小林 幸夫
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