人間尊重の社風により、自然体かつ実践先行型の持続可能な雇用を実現している事例
- 事業所名
- 株式会社富士レークホテル
- 所在地
- 山梨県南都留郡富士河口湖町
- 事業内容
- 政府登録国際観光ホテル(宿泊・宴会・パーティー・各種催事・冠婚葬祭・会議・その他)
- 従業員数
- 120名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 1 調理・配膳(従業員食堂) 精神障害 5 調理(盛り付け、洗い場)、リネン取り扱い、清掃 - 目次

1.事業所概要
(1)事業内容
富士山麓と河口湖を訪れる方々に対する宿泊事業と婚礼、七五三等のお祝いや、法事に関するレセプション事業、宴会事業、又軽食ラウンジも運営している。
昭和7年に河口湖鵜泊ガ岬に開業した『岳麓ロッヂ』というラウンジが富士レークホテルの始まりであり、その2年後の昭和9年に『河口湖ホテル別館』として観光旅館が誕生した。歯科医であった創業者は、その中に歯科治療室を併設。宿泊客のみならず地域住民も診察に訪れていた。
その“おもてなしの心” は現在も受け継がれ、“ユニバーサルデザイン” をコンセプトに、客室のみならずホテル内全般のバリアフリー化や食事など、“すべてのお客さまが快適に過ごせるよう” 従業員一同、日々努めている。

「沿革」
創業昭和9年(1934年) | ドクターが開業したホテルでは、ホテル一室に〔治療室〕を設け、 お客の滞在中に治療診療するという画期的なサービスを提供。 |
昭和26年(1951年) | 組織化を進め、法人として株式会社化。 |
昭和46年(1971年) | 西館OPEN=河口湖初の和洋室タイプのホテルを開業。 |
昭和59年(1984年) | 東館OPEN=富士五湖を代表するリゾートホテルに発展。 |
平成9年(1997年) | 河口湖温泉湧出に伴い、大浴場改装。 |
平成11年(1999年) | ホテルのバリアフリー化(ユニバーサルデザイン)に着手。 |
平成22年(2010年) | 創業77周年を機に、 『FUJI-LAKE-HOTEL 100th ANNIVERSARY= (富士レークホテル100周年老舗計画)』着手。 |
(2)社風・経営の考え方
創業時からホスピタリティ(お客様を“温かくおもてなしする心”)を大事にしており、社風としては『個人個人それぞれの個性をお互いに認め合いつつ、お互いに持っている力を存分に出し合う』ことを大事にしている。そんな理想を掲げるリゾート(理想処)である。
(3)組織構成
組織は大きく分けて、次の部門から成り立っている。
総務・経理、営業、業務、仕入れ、調理
(4)障害者雇用の理念
障害者雇用の理念は、経営の考え方とほぼ共通し、『個人個人それぞれの個性をお互いに認め合いつつ、お互いに持っている力を存分に出し合う』という社風に集約されている。すなわち、個性には障害も含まれるという認識は、特別なものでも何でもなく、当ホテルでは障害を特別視することはなく、ごく普通に受け止めている。
会社のためによくやってくれる人材であれば、障害の有無は関係なく、ありがたい存在であり、貴重な仲間である。また、女将さん自らの、「効率だけを考えた人材活用はせず、雇用確保を優先し、弱者を切り捨てない」という考えが反映された人材活用となっている。
結果として、障害者雇用が自然となり、まさしくCSR(企業の社会的責任)とノーマライゼーションを実践していると考えられる。
2.取り組みの経緯、背景、きっかけ
取り組みのきっかけは、昭和59年の新館オープンに合わせて従業員を増員するために、口コミによる応募で採用した従業員(仲居職)が、障害者であったことから始まる。その従業員の場合、受け答えが多少不自然な程度で、面接時には障害に全く気づかず採用となったものである。
そして、採用後数ヶ月して妙な言動、例えば、接客中にお客様と一緒にお茶やお酒を飲むなどの行動が見受けられるようになった。女将さん(現、専務)が、親戚でもある精神科の井出さき子先生に障害への対応等を相談し、そのアドバイスを参考にして、離職などは考えず配置換えで雇用を維持することを決定した。このことがきっかけで、当ホテルの障害者雇用がスタートしたのである。その従業員は70歳を過ぎた現在も在籍し、リネンや清掃の仕事で活躍している。
また、井出先生を通じた保健所経由の、「医療施設を退院後、定職に就けず住居にも事欠くような障害者がいるので何とかお願いできないか」というような要請に応じることもあり、口コミによる応募も含めて、その後も障害者の採用が続いた。
中には、新卒採用した従業員で、採用時から多少の違和感はあったものの、本人も全く自覚がなく、採用後10年程度経過後に障害者手帳を申請したケースもあった。あるいは、精神障害者社会適応訓練事業として、同時に複数の障害者を受け入れることもあり、精神障害者小規模作業所の富士桜作業所からの見学者も受け入れている。
したがって、この地域においては、障害者雇用に取り組んでいる企業として広く知られるようになったのである。
3.取り組みの具体的な内容
(1)労働条件
労働条件は障害のない従業員とほぼ同じであり、通勤については送迎バスも利用できる。
①期間
従業員全員が期間の定めのない契約を締結しており、正社員登用もある。
②場所
ホテル内である。
③時間
精神障害者の場合は、次のとおり逓増する仕組みとなっており、パートから正社員に転換可能である。
1日2時間(体験時(※後記(4)労務管理の工夫 参照))
↓
4時間
↓
フルタイム(8時間)、リズムが大切なため正社員として1ヶ月20日前後勤務
④賃金
パートは時給制、正社員は月給制である。 なお、必要に応じて最低賃金の減額特例を活用する場合もある。
(2)仕事の内容
主に、次のような業務を担当している。
①調理場での盛り付けや洗い場
②リネンの取り扱いや清掃
③従業員食堂の調理や配膳















(3)精神障害者社会適応訓練事業の活用
精神障害者社会適応訓練事業とは、精神障害者を一定期間事業所に通わせ、集中力、対人能力、仕事に対する持久力、環境適応能力等の涵養を図るための社会適応訓練を行い再発防止と社会的自立を促進し、もって精神障害者の社会復帰を図ることを目的とし、受託した事業者に対して、協力奨励金を支給するものである。
(4)労務管理の工夫
当ホテルの労務管理の基本を端的に表せば、人間尊重であり「人優先」となる。即ち、仕事基準ではなく人基準ということであり、これは、女将さんの「人は必ずスキルアップする」という信念に基づいた労務管理手法なのである。言い換えれば、「仕事に人を付けるのではなく、人に仕事を付ける」という方針であると理解できる。
①採用について
「グループホーム希望の会」が設立される前は、女将さんがボランティア的に、自宅で日常生活の訓練を行い、大丈夫であれば就業するような流れとなっていた。現在は、グループホームの中での様子に応じて、本人の希望に基づき就業するケースが一般的となっている。なお、採用面接時には、必ず保護者も同伴してもらうことにしており、後記「③就業時について」で詳述するが、このことが、雇用継続にとって非常に重要なポイントとなっている。

②配置について
配置に関しては、本人と会社の希望に応じて、接客にチャレンジしたこともあり、その時は、会社からの命令ではなく自発的にお花の一輪ざしに取り組むなどの意欲的に仕事をこなした事例もある。現在はレストランの運営方法が変更になったため、配置換えをしているが、原則は、「その人にあった仕事に長く配置する」ということである。
まずは職場体験として、1ヶ月程度以内でいろいろな仕事を体験してもらい、その人にあった仕事に配置し、定着・育成はそこからスタートする。
なお、確実に定着するには数年を要し、適宜、配置換えを行って適性を見ることがポイントと考えられる。当然そこには解雇等の考え方は存在しない。離職するのは、いろいろな仕事を体験した結果、「自分には合わない」と本人からの申し出がある場合に限られているのが実情である。
③就業時について
障害者を受け入れる現場の対応だが、当ホテルが障害者雇用に取り組んでいることは、この地域における周知の事実であり、求人に応募する障害のない人も一定の認識を持っているため、理解が早くスムーズである。 具体的には次のような取り組みがされている。
グループホーム希望の会の世話人であり、ジョブコーチの資格を有する関係者が、言わば相談窓口的に、あるいはコーディネーター的に定期に、あるいは必要に応じて現場に入り障害者に声をかけたり、顔色等を見てちょっとした変化も見逃さないようにしている。少しでも変化があれば、家族面談等を実施することにより、引きこもりなどの状態にならないように予防している。これは、上記「①採用について」で記した、家族同伴による採用面接があればこそ実現可能な対応と言えるだろう。
障害のある人もない人も教育において区別なくOJTを徹底し、スキルアップを図ること。
現場では、古参の従業員が新入社員に対して、障害者への接し方等を教えている。教育のポイントは、以下のとおりである。
1.声をかけること。
2.「分かりやすい言葉」を使うこと。
3.何かあれば総務及び世話人に相談すること。また、世話人の存在を常に認識していること。
反応が不自然の場合、直ちに総務に連絡すること、また、本人も何かあれば総務に申告すること。それにより、世話人による迅速な対応や医療機関との連携を図ることが可能となる。
褒めることを心掛けること。それにより、やりがいを感じ、自信につながるため、スキルアップし、定着率も向上する。
④福利厚生等について
親睦行事に参加することで、コミュニケーションを円滑にすることが可能であり、特別視することは全くない。また、表彰制度の効果は大きく、特に長期勤続表彰などは張合いやインセンティブにもなり、モチベーションを高めることが期待できる。
⑤仕組みについて
労務管理の工夫としては、実行が優先であり、制度や助成金等は後付け的なものとして運用されていることが挙げられる。すなわち、最初から制度化や仕組み作りを考えるのではなく、まず実行してみて、試行錯誤する中で制度化や仕組み作り、助成金の活用等を考えるという感覚である。 この実行優先の姿勢が、様々な問題や課題に対して、臨機応変かつ適切な対応を可能にしていると考えられる。
⑥エピソード
以下にエピソードの一部を紹介する。
・ カラオケが好きで、皆と一緒に歌いに行ったりして、職場を明るくしてくれている。
・ 疲労がたまると薬を飲まないことがあり、世話人が具合が悪いことに気付いて病院に連れて行ったことがあるが、そのことを律儀によく覚えていて、義理を欠いてはいけないと時々話をし、場を和ませている。
・ 障害者雇用に関連して、過去に複数の表彰を受賞しており、地元では、障害者が活躍している事業所として広く知られた存在である。したがって、新規採用者に対しては、障害者雇用に関して説明が不要なほどである。
・ 障害者に対して行き過ぎた指導を行った板長に職場を離れてもらったことがある。 板長といえば、ホテルにおける最重要人物の一人ではあるが、そういう立場の者であっても、あるいは、そういう立場の者だからこそ、社風である『個人個人それぞれの個性をお互いに認め合いつつ、お互いに持っている力を存分に出し合う』を体現できない場合は、当ホテルは厳しい姿勢で臨むということが伝わってくる。即ち、このエピソードからは、人間尊重の精神が生きていることが非常によく分かる。
4.取り組みの効果
会社として、障害者が職場に加入したことにより、労務管理上有効と感じることは、会社内の雰囲気や様子を的確に捉えることができることである。すなわち、バロメーター的な役割を果たしてもらっており、誤解を恐れずに言うと、建前ではなく本音を言ってもらえることで、不平不満や喜び、やりがいなど職場の真の気持ちを理解することができ、より魅力的な職場づくりに生かせるからである。
また、上記以外にも次のようなメリットが挙げられる。
・ 仕事基準ではなく人基準に基づく配置による適材適所を徹底することにより、しっかりと仕事をしてもらえる。
・ 職場内で声かけを励行することにより、コミュニケーションが大きく向上する。
・ 障害の有る無しの区別なく、ごく普通に接することにより、定着率が向上する。
5.今後の課題と対策・展望
(1)課題
現在、高年齢化による不調を訴える回数が増えた従業員がおり、その対応を試行錯誤している段階である。今後、症状の変化によっては対応が難しくなることが予想される。
(2)対策・展望
原則的には、現状維持による雇用確保が最優先であるが、要請等があれば必要に応じて採用を検討することもある。
(3)総括
最後に、今後障害者雇用に取り組む企業に対してアドバイスするとすれば、次のような点が挙げられる。
①障害者、障害のない者を区分しないこと。
②効率や能率だけを見るのではなく、一人の人として見ること。
③何かあれば、すぐに対応できる体制を整備すること。
④いつでも相談できる仕組みを整備すること。
具体的には、相談窓口あるいはコーディネーターのような担当者を設け、
医師(精神科)と連携できるようにする。
⑤上司はよく話を聞くこと。具体的な注意点は次のとおりである。
・話の内容が間違っていたとしても途中で遮ったりせず、まずは受け入れて話を聞き、それから指導する。
・最初から否定したり、拒否したりしない。
上記のような取り組みは、全体的には、なかなか難しいことかもしれないが、トップに障害者の特性を理解している人がいれば、スムーズに障害者雇用を実現できると思われる。
以上であるが、当事例に関しては、文中にも登場する世話人である天野さんからもお話を伺っており、天野さんは、障害者雇用の原点とも言うべき女将さんの考え方や言動に共感し、言わば縁の下の力持ちのように障害者雇用をバックアップしている。
このように、経営の考え方や障害者雇用の理念が、人を惹き付け職場を活性化し、それが業績を向上させ、さらに魅力を高めるというプラスの循環を生んでいることが分かる。
これらの根底にある人間尊重の精神は、企業経営に不可欠とされているCSRの要素そのものであり、当事例はまさに、CSR活動の実践に他ならない。
また、当事例の特筆すべきことは、最初に障害者法定雇用率やCSRを意識して取り組んだのではなく、経営トップの人間尊重の考えを実現することが自然と、障害者雇用やCSRの取り組みとなっていったことである。
したがって、法律等による義務付けに対しての障害者雇用ではなく、人間尊重の経営の結果としての障害者雇用であり、それが有形無形の効果を生んでいることが認められる。
すなわち、経営理念に基づく社風の表れによる取り組みのため、自然で無理のない持続可能な障害者雇用を実現していると考えられる。言い換えれば、自然体の障害者雇用とも言うことができる。
障害者雇用に関して全てが実践先行であり、制度や仕組み等は臨機応変かつ試行錯誤しながら整備し、より良い結果を生んでいるのが分かる。それらは全て、人間尊重の社風がもたらしていると言っても過言ではないだろう。
法律だけではなく、人間尊重の気持ちからも障害者雇用を現実化できるという、一つの方向性を示唆している事例である。
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