老舗旅館で笑顔で接客・清掃業務にチャレンジ
- 事業所名
- 株式会社上山田ホテル
- 所在地
- 長野県千曲市
- 事業内容
- 旅館業
- 従業員数
- 70名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 3 接客（ルーム係）、厨房食器洗い 精神障害 1 風呂及び館内清掃 - 目次
1．会社概要
開湯百余年の戸倉上山田温泉の歴史を刻む温泉宿である。
大正八年創業の旅の癒しの宿、掛け流しの温泉宿として信州を訪れる多くの旅人を魅了しながら名湯の歴史を刻み続けている。
客室数38室、180人の宿泊客を収容。また、200人の会議・パーティ・結婚披露宴のできるバンケットホール、大小の会議室・宴会場を備え、宿泊だけでなく各種の集まりにも利用できる設備を誇っている。
客室は95％和室で、日常の生活の中で薄らぎつつある和の落ち着きを大切にしたおもてなしを目指している。
2．障害者雇用の経緯と背景
当社には、40年近く厨房食器洗い業務に勤務している知的障害者のDさんがいる。
少々こだわりの強い所はあるが、コミュニケーションもほとんど滞りなく、数多い食器の収納場所が全て頭に入っている。
また以前には、聴覚や知的の障害を持つ人も何名か清掃部門で働いていた。元々旅館業は働く人の平均年齢が高く、社会経験の豊富な人も多いので、障害のある人を受け入れ面倒を見ていける就労場所が他の業種に比べ比較的多く、適材適所に採用しやすい雇用環境にあるように思う。また、寮が整っている旅館が多いことと食事なども出るため、生活の場の確保が必要な障害者の受け皿となる場合も多かったと思う。
ここ5年間で3名を採用してきたが、最初の知的障害者のAさんは、高卒での応募で接客係として内定していた。
卒業までに療育手帳を取得し、手帳取得後も最終的には、接客を目的にステップアップをしていき、2年後には、本人の努力もあり、1人で接客ができるようになっていた。そんなAさんの仕事ぶりに、職場の担当者も指導に自信がつき、3年後にもう1人、知的障害者のBさんを接客業務に特別支援学校高等部卒で採用することが出来た時には、Aさんは先輩としてBさんの指導をも担ってくれた。
精神障害のCさんについては、ハローワークとCさんの通う障害者支援事業所の方から、旅館業務で何か出来る仕事はないかとの問いかけと、各種の支援制度の中の、ステップアップ雇用の説明を受け、関係者で検討の結果、雇用に向けて努力することになった。精神障害者の雇用は初めてなので、いろいろな不安はあったが、障害者支援事業所の方の親切な対応に安心すると共に、精神障害者ステップアップ雇用という制度が利用出来るということも採用の後押しとなった。
3．障害者の従事業務と業務定着の取り組み
AさんとBさんの業務は、当館ではルーム係、世間的には仲居と呼ばれている仕事である。接客の最前線であるが、毎日タイプも人数も料金も違うお客様への接客は、大変応用力が必要な仕事である。このため、客室を整える、宴会場を整える等の裏方の仕事から研修を始めた。また、高校側からの配慮で、延べ1ヶ月程卒業前の研修を2～3回の宿泊を含めて行った。先輩のチーフの手本を見て、そのとおりに客室やお膳の上を整える作業であるが、覚えるのには、やはり障害のない者より、かなり時間が掛かってしまった。しかし、担当チーフは「時間を掛けて繰り返せば必ず定着する」と、腰をすえて取り組んだ。
5年前のAさんの正式入社時には、市の相談支援コーディネーターから、ジョブコーチをつけることも出来るとの話があったが、研修の成果がすでに上がっていることもあり、また、清掃のようにある程度パターン化した作業と違い、毎日少しずつ違う作業であるため、ジョブコーチ制度は利用しなかった。
精神障害のあるCさんの業務は、風呂及び館内清掃である。薬の服用・通院も配慮しながら、勤務予定を組み立てるという精神障害の方ならではの取り組みが必要であった。清掃ということで、こちらはジョブコーチについて貰ったが、元々本人がお世話になっている社会福祉法人の人がジョブコーチであったので、本人も安心して業務に入ることが出来たようだ。彼は、疲労感を感じにくいという特性があるため、精神障害者ステップアップ雇用制度も利用する方向で、ジョブコーチの人達と勤務予定を細かに検討し、少しずつ勤務時間を長く出来るよう調整してきた。その結果、最近では本人の判断で調整できるようになって来ている。
4．今後に向けて
入社からそれぞれ、5年半のAさんと1年半を経過したBさんは、現在1人で接客が出来るまでになっている。当初はチームの中で指示されたとおりに動くという形態の仕事であったが、最近では、15人ぐらいの団体を到着からチェックアウトまで、1人だけで担当出来るようになっている。幸いにも部署には年配の女性が多く、周りの者が皆、母親のように細々と世話を焼いてくれている。少し定着に時間が掛かる二人にとっても、また、周りにとっても根気のいることである。
本人たちも時には、不平をもらすこともあるが、周囲には「たとえ何年経ったからと気を緩めず、常にチェックをしてくれるよう。」本人たちには「自分たちの力になるのだから、同じことを何度言われても素直に聞くよう。」折に触れ、伝えて来た。
今年、同じ部署に3人目を迎え入れた。年長のAさんは、歳の近い先輩として新人たちの頼れる存在となっているようだ。
障害者雇用のため、特別な努力をしているという意識はない。
これからもお客様には、いつも笑顔で接客を続けてくれることを望んでいる。
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