福祉事業下での障害者雇用
- 事業所名
- 社会福祉法人富岳会
- 所在地
- 静岡県御殿場市
- 事業内容
- 社会福祉事業および公益事業
- 従業員数
- 317名
- うち障害者数
- 22名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 2 グループホーム世話人、事務 内部障害 知的障害 20 調理、清掃、販売、パン製造、保育園補助 精神障害 - 目次


1.事業所の概要
社会福祉法人「富岳会」は、1970年に運営を開始した社会福祉法人富岳保育園を第一歩として歩みだした事業所である。40年以上にわたり、毎年のように新たな施設や事業を立ち上げて成長を続け、社会福祉法人としての実績を積み上げてきた。現在、障害者支援事業では5箇所の施設をもち、就労継続A型・B型・生活介護・自立訓練のサービスや日中一時支援・ショートステイ事業、7つのグループホーム経営など、数々の事業を展開する。また、老人介護に関わる事業としては、2箇所の老人介護施設を有し、その中で特別養護老人ホームや短期入所生活介護事業、訪問介護事業、居宅介護、地域包括支援センター等々の事業を運営する。加えて、3箇所の保育施設経営を通し、子育て支援事業にも深く関わるなど、地域に密着した、乳幼児から高齢者までの総合的福祉施設となっている。
これらの施設は、御殿場市にある富岳会本部を拠点として、御殿場市の南部から裾野市の北部にかけ広く点在し、そこここに「富岳」の名前の看板を目にすることができる。
富岳会は、利用者の方々が豊かで充実した人生を主体的に送れるようにと「健・心・愛」を理念として掲げ、1970年の法人設立以来、個性ある施設作り、質の高いサービスの提供に努めてきた。児童・障害者・高齢者のニーズに応えるべく事業を充実させ、地域社会の厚い信頼を得てきた社会福祉法人である。
当法人を創設した山内令子理事長の出発点は「有限会社富岳製作所」の1960年代設立時にさかのぼる。そこで働く従業員60名近くの主婦たちが働きやすいようにと社会福祉法人を立ち上げ、女性たちの子どもを預かる保育園を設立した。それが今の社会福祉法人富岳会の原型である。つまり福祉事業を展開する社会福祉法人とはいっても、出発点は福祉事業にはなく会社経営のスタンスにあった。そこが他所の社会福祉法人にない大きな特色であると言ってもいい。そうした背景もあって、今では県内だけでなく全国的にも広く知れわたる存在となっている。
2.障害者雇用の経緯
山内理事長は富岳製作所時代に特別支援学校の卒業生を毎年のように受け入れ、障害者を雇用する経験をし、気づくと15~16名にふえていたという。障害者を理解するために寝食を共にしながら、様々な苦難を乗り越えてきた。
当時、従業員からあがる非難の声が絶えなかったため、山内氏は障害者の授産施設立ち上げという再スタートを切ることを決断した。当初から歩みを共にし、再スタートを切る時点で残った従業員は7名。その人たちを山内氏は「7人の侍」と呼んでいる。
施設の利用者となった障害者は、法人の発展とともに数を増し、現在約230名を数える。障害者の社会的自立が叫ばれる施策と世の中の流れにのるような形で、一般就労する者も増えてきた。そうした中で法人内施設での雇用も推し進めてきたのである。
富岳会では高齢を迎える障害者のために、1985年に高齢者施設「富岳の郷」を開設した。それが今の特別養護老人ホームの始まりである。ここでは施設で訓練され育った障害者を従業員として受け入れてきた。介護老人福祉施設「富岳一の瀬荘」および「オレンジシャトー富岳」で現在6名が従業員として働いている。また、3箇所の各保育園には1名ずつ従業員として障害者を雇用し、障害者施設では2名、法人が経営する店舗とパン製造部門「セルプ・アムール」では9名の雇用をしている。
3.取り組みの内容
特別養護老人ホーム「オレンジシャトー富岳」のAさんは、主に清掃やベッドメイキング、補助的な仕事をしている。下の写真は清掃作業がひと段落したあと、おしぼりたたみを任されているところである。

デイサービス室内

Aさんは現在48歳。もともと「富岳の園」施設の利用者であったが、法人が主催した講座を受講してヘルパー2級の資格をとり、当老人ホームに従業員として雇用された。資格取得することにより、仕事に対するやりがいと責任を認識し、よい効果を生んだ例である。
当法人では障害者対象のヘルパー講座を開催しており、今年度ここで養成されて資格を取得した特別支援学校の生徒も1名、当ホームで採用し平成23年4月より仕事をする予定になっている。

Bさん

同じく「オレンジシャトー富岳」で働くBさんは厨房スタッフの一員である。46歳とは思えないほどきびきびと元気に仕事をしている。受け答えも大きな声ではきはきとしており、自分の仕事に対する自信と満足感を感じられた。
取材の日、たまたま老人ホームに野菜の販売にきていたCさん(27歳)の様子も写真に収める事が出来た。手早く、手馴れていたレジ打ちの様子からは、Bさんと同様に自分の仕事に対する自信と責任感が感じられた。Cさんは法人が運営する「セルプ・アムール」の店員であり「看板娘」的な存在である。
「セルプ・アムール」は就労継続A型事業所であり、パン製造、販売、野菜仕入れ販売業務を行ない、Cさんも含めて9名(30~50歳代)の方を雇用する。野菜の仕入れについては青果市場の権利も持っており、販売される野菜は本格的な質と量を備え、Cさんの他に雇用されるもう1名の従業員が野菜の仕分けをし、法人内の各施設の厨房にも配達をしている。


パン工房で作られるパンは駿河湾深層水・深層塩を使用し、富士山の溶岩でできた石窯で丁寧に焼き上げられる。法人店舗でも販売するが、近隣の大手スーパーマーケットでも多く売られ、月平均300万円ほどの売り上げがある。地域の大きなスーパーで、自分たちの作ったパンが売られている光景を目にする訳である。作り手にとっては一番の励みになるといっていいだろう。
パン工房の隣にはさらに「お菓子の館」といって、クッキーやバウムクーヘンを製造するお菓子工房が建っている。ここは就労継続B型の作業施設であり障害者雇用はしていないが、パン工房以上に売り上げているという。バウムクーヘンは、味の良さから大手のお店が買い上げをするなど、販売ルートもしっかりと確保されている。また、設備投資を惜しまないという理事長の構えから、工房内に入る前にはエアシャワー室が完備しており、バウムクーヘンを焼く機械も本格的な機械が作動している。隣では、おからクッキーの仕込み、奥のカーテン向こうでは焼きあがったクッキーの袋詰め作業が行われていた。
これらの設備等はすべて自前で賄ってきたわけではない。様々な財団法人の補助金事業や障害者自立支援基盤整備事業などを活用し駆使しながら、一流の環境づくりを手がけてきた。ここにも理事長をはじめとするスタッフの手腕が発揮されてきたのである。
富岳保育園で補助の仕事をする女性Dさん(37歳)が就職して8年が経つ。
当法人が運営する3つの保育園にはそれぞれ1名ずつ障害者を雇用しているが、皆一生懸命に働き、なくてはならない存在となっており、他の従業員からの信頼も厚いという。

直接園児と触れ合うこともある
以上にあげた20名の知的障害者の他に、法人内では身体障害者も2名雇用している。
1名はグループホームの世話人の仕事をしている下肢障害の人、もう1名は事務で音声パソコンを使って仕事する視覚障害の人である。ここで紹介した障害のある人たちのほとんどが法人内にあるグループホームに生活する人たちである。
社会福祉法人「富岳会」は、障害者にとって、療育・自立訓練・日中活動・就労の場であると同時に、生活全般を支援する、まさに一人ひとりの人生を支援する自己完結された法人であると言っても過言ではない。さらに芸術・創作活動を取り入れた余暇活動にも力を入れ、障害者が地域社会で人として豊かに暮らせることを目標に、様々な事業を展開しているのである。
次にあげるのは以前に業務を一時休止していた「富岳製作所」の雇用である。当法人の山内理事長が代表取締役を務めており、ここでは13名の障害者が働いている。(冒頭の雇用障害者数の中には含まれていない。)他の従業員3名はいずれも高齢者であり、障害者雇用だけでなく高齢者雇用にも力を入れている理事長の姿勢が窺われる。
山内理事長の知名度には素晴らしいものがあるが、70歳代になった今も現状に甘んじることなく、自らが障害者の仕事探しに余念がない。計り知れない幅広いネットワークを駆使して、様々な業務を障害者の仕事として取り入れてくる。そうした結果が平成22年7月の「富岳製作所」再開の足がかりとなった。

ここではS系列の下請け作業であるご当地グッズの製品化やパッケージング、製薬会社の製品の箱詰め梱包作業、旅行会社カタログの袋詰め作業等々を行なっている。今後も様々な大手企業から協力のもと下請け仕事の導入をしていくことが予定されている。
富岳製作所で働く障害者は、20歳代から50歳代の人たちで、御殿場市や沼津市などの近隣市町にある自宅から通勤する人が5名、他8名は当法人内のグループホームから通っている。集中して作業する様子が写真からもわかるが、彼らの仕事にほとんどミスがなく、安心して任せることができると、取締役は話す。
4.取り組みの効果
製作所の再始動は、法人内施設にいる人たちの「働く場の確保」という「必要」から始まった取り組みであるが、それは製作所に限らず、特別養護老人ホームも保育園もパン工房も、すべてがそうであったと言っていい。
どの職場も「障害者の作るものだから、障害者の仕事だから、この程度でいい。」といった甘えを感じさせない。程よい緊張感が、職場の中に漂っている。一般市場で売られるパンやバウムクーヘン、健康ダイエットブームに乗った「おからクッキー」が顕著な例である。こうした真剣な取組みは、広く一般社会に「障害者施設」の上質な仕事を顕示し、認められるという効果を生みだしている。その結果、「富岳の園」には、年間2,000人の見学者が施設を訪れていると聞く。
また、社会福祉法人本体が大手企業の研修の場所として受入れの依頼を受けるほど、広く一般社会に知られる存在になっているのである。さらに富岳会といったら忘れてはならないのが「富岳太鼓」の存在である。知的障害者の療育活動の場として、創設以来続けてきた和太鼓活動は、演奏する彼らのリハビリ効果を生むだけでなく、聴衆の心を揺さぶる。今では「富岳太鼓」は立派な収益事業として位置づけられ、彼らの生きていくための活力の源となっている。
5.今後の取り組みと課題
今後も幅広い事業の展開が期待される社会福祉法人である。山内理事長に今後の構想を伺ったところ、静岡県内に現在おかれていない「能力開発センター」・「障害者の専門学校」的な機能をもった施設の立ち上げを考えているという回答が返ってきた。
また、乳児専門の保育施設の立ち上げも計画をしているとのことである。
以上の構想は、これまでのすべての事業立ち上げの場面でもそうであったように、地域的な強いニーズがあり、必要性を感じるからこそ生まれてくるものである。
特別養護老人ホームがまさにそのいい例であり、ホームを立ち上げることにより法人自体が地域のニーズを満たし、大きな信頼を得る結果となった。
今後も地域と密着した仕事を実現させながら、自立を願う人たちの行き場として、雇用の現場をさらに作り出していけたらと考えている。
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