人で支える障害者雇用
1．事業所の概要
当社は、昭和8年合名会社オカザキ製パンを設立し、昭和17年に岡崎製パン有限会社、昭和41年にオカザキ製パン株式会社に改組、昭和42年に現在の赤渋町に工場移転をし、昭和43年には犬山工場を稼働、敷島製パン株式会社と業務提携等をし、グループ会社としては「株式会社和田屋」「早川物産株式会社」「東和給食株式会社」を持ち、現在に至る。
「私たちは、食を通じて『価値ある豊かさ』を創造していきます」を経営理念とし、「食のトータルコーディネーター」としてお客様の要望に応えられる企業作りを目指しており、「『食』に対するこだわり」「『二つの主食』への関わり」「『食の安全・安心』への取り組み」「お客様との様々な接点」を強みとした企業である。
2．障害者雇用の経緯
オカザキ製パン株式会社は地域に根ざした会社であり、地場産業として活躍されてきている。その中で、地域に貢献し、職場で適した仕事があればということで、約30年前に障害者5名を採用し、現在も引き続き仕事をしている。そのような中で、平成21年度も2名の障害者を雇用し、現在は7名の障害者が勤務している。
総務課の馬場氏は「とくに特別なことはしていません。」と言われるが、約2～30年と長い雇用経験の中、様々な取り組みが会社組織の中で自然に行われ、障害者が働ける環境を整えてきているように思われた。また、「障害者が働いていることがあたりまえだ、と考える会社の雰囲気がある。」という言葉がとても印象的であった。
3．取り組み内容
作業内容は、パンの製造にかかわる成型、焼成の工程の中で、パン生地を成型する、数個のパン生地を載せた鉄板をオーブンへ投入する、焼き上がったパンを型枠からはずす等の作業を行っている。会社では障害者自身ができる仕事を探し、本人を見守りながら職場への適応が図られている。障害者の働いている状況と工場内での工夫を紹介していきたい。
（1）障害者の個性に合わせた仕事の方法
①障害者の適性を見た作業工程
オカザキ製パンでは、採用をするにあたり、障害者一人一人に適している作業があるかどうかを大切にしているとのことであった。そして、実際の職場の中で、さらに適性を見ながら、実態に応じた作業を提供している。障害者の日々の変化を見ることは非常に重要なことである。「常に様子を見ながら」の言葉でも分かるように、障害者一人一人を見つめ、その変化や伸びを見ながら極め細やかな配慮がされていた。そして、徐々にスキルアップが図れるようになっており、自信に満ちあふれた表情で仕事をしている障害者が多いのに驚いた。
写真はAさんの作業風景である。Aさんにとって作業工程が分かりやすく、とても集中して取り組めている。また、入社のときよりも作業スピードが上がり、現在では機械（オーブン）のスピードに合わせながら仕事の前段取りをするようになってきたそうである。
②作業工程の細分化
障害者にとって、複数の作業工程を同時に処理していくような仕事は非常に難しいものであり、一つずつの作業工程に時間をかけ、習得し積み重ねていく中で、複数の作業工程を1人で取り組んでいけるようになる。その際に、作業工程をどれだけ障害者に分かるようにするのかが重要である。作業工程を細分化することにより、一つの仕事をする上でいくつかの工程をしなければならない状況が回避でき、見通しの持ちやすい作業になり、障害のない従業員以上の仕事や能力を発揮することができる。実際にオカザキ製パン株式会社でも、障害者にとって分かりやすい作業工程であり、自信を持って仕事をしている姿が多く見られ、「素晴らしい」と感じられる仕事ぶりであった。
写真はBさん、Cさんの作業風景である。作業工程が分かりやすく、仕事に責任を持って、確実に取り組めていた。また、Cさんは非常にスピードが速く、熟練の技を見ることができた。
（2）工場内での職場環境整備
①決められた場所での作業
工場内は広く、その中で障害者は自分の作業工程のエリアで働いている。広い場所での作業であるが、一人の障害者が働いている場所は必ず1か所である。場所の移動があまりないので、混乱が少ないように思われる。会社では適材適所、決められた工程をその障害者にまかすことにより、大きく職場環境が変わることのない状況を作り、作業が持続できるように工夫しているように思われた。また、決められた場所で作業をすることにより、障害者一人一人の個性も職場の方に理解されやすく、馬場課長の「少し情緒が不安定です。」と、独り言を話されているのを見て言われた言葉から障害者の方への対応が十分にされている印象を受けた。
②整理整頓された職場環境
障害者にとって雑然とした職場環境というのはとても苦手なものである。職場環境が整理整頓され、ラックやパン箱等の場所が決まっていることにより非常に分かりやすくなり、作業効率を上げる効果が期待できるのである。実際に障害者の作業を見ていても、てきぱきと作業がしやすい環境にあった。
（3）従業員の意識
①障害者への支援の考え方
障害者を障害者としてみるのではなく、本人ができる仕事を探し、本人の仕事の様子を見ていきながら適性を見極め「見守る」ことにより、障害者は責任を持って働いていることを実感していた。そして、社内では、障害者への指導の業務が増えたものの、障害者は「粘り強く」、「休まない」、「まじめ」というイメージが定着し、頼れる存在として、また、主任やリーダーが分かりやすく仕事の指示を出すという心構えができ、他の従業員に良い影響を与えている。
②障害者への接し方
オカザキ製パン株式会社では「特別扱い」をしない事により、周りとの軋轢もなく、現場も同僚として認めていけるようになる。このような支援の考え方に基づき、オカザキ製パン株式会社では障害者の支援をしている。「なぜこの作業ができない」というような注意をしたことはなく、他の従業員と同様な注意は多いものの、自然にそのような支援が浸透しているのが印象的であった。そのような中で、会社の中では障害者がしっかりと認められ、誇らしげに働いている姿が、同じ障害者雇用にかかわるものとして嬉しく思えた。また、寛容な対応が障害者に自信をつけていくのである。
4．今後の展望
障害者を長期にわたり雇用するオカザキ製パン株式会社にとって、障害者雇用は地域貢献だけのものではなく、障害者自身が働くために雇用し、会社にとっても従業員を得られるということで両者がうまくいっている好例であると言える。今後も障害者のために何かということではなく、地域に貢献し、従業員の働きやすい環境づくりを進め、その中で他の従業員採用と同様に進めていきたいとのことであった。また、現在は勤続30年以上の従業員の再雇用についても検討しているところである。
最後に、障害者雇用に携わる上で、配慮は必要であるものの、一従業員として受け入れるノーマライゼーションの考えがここにはあるように強く感じた。ぜひ、このような会社が一社でも増えていくことを今後の社会に望みたい。
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