他の従業員と変わらない雇用形態で
- 事業所名
- 紀洋精密株式会社
- 所在地
- 三重県北牟婁郡紀北町
- 事業内容
- 精密機械器具製造業
- 従業員数
- 70名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 2 車載用ゴム製品加工 肢体不自由 2 火災警報器部品の組み込み、組み付け 内部障害 知的障害 精神障害 - 目次

1.はじめに
紀洋精密株式会社(以下、本事業所)は1963年に個人会社として設立され、1983年に現在の社名に変更し現在に至っている事業所である。主な事業としては当初はプレス加工で金型の設計・製造等を手掛けていたが、タイマーの製造のメーカーとなり現在では表示管や車載用ゴム製品の加工、住宅用火災警報器、各種基板組み立て、車載ABS加工などを行っている。
本事業所における事業はコスト面等から機械化しにくいものが多く、労働集約型の事業所となっていることに1つの特徴がみられることと、会社方針に「物づくりは人づくり」の思想のもと、従業員の働きやすさを考えた就業形態であることにも特徴がみられる。
現在、4名の身体障害者を雇用しているが、そもそも障害者雇用の開始は、およそ20年前に遡るとのことであった。それ以前にも創業当初から、手帳を所持していたかどうかは不明であるが、足の不自由な人が居たそうだが、その従業員は不自由さを特に気にすることもなく、通常の業務を同じようにこなしていたとのことである。
障害者を雇用するきっかけは、公共職業安定所からの依頼で、特別支援学校から数名の知的障害者を受け入れることになった。うち1名は集中力が続かず3ヶ月で退職してしまった。もう1名はしばらくの間は働いていたが、やりたい仕事があるという理由で3年後に退職している。
この時の雇用動機としては、「事業所として少しでも社会の役に立つことが出来るのであれば」という「社会貢献」を挙げている。それ以降にも聴覚障害者を採用したこともあるが、その人もやりたい仕事を見つけて転職をしている。ただ、この時の体験から、現在の会長自身が手話に関心を持つようになり、聴覚障害に対する理解を深め、現在雇用している聴覚障害者についても何の迷いもなく採用を決めている。
2.採用にあたって
現在雇用している障害者に関しては、採用前の実習をしたこともなく、トライアル雇用もないとのことであった。通常行われている面接をして、適当な部署に配置をするようにしている、とのことである。面接は公共職業安定所からの紹介があってから行われ、勤務意欲や問題なく遂行できそうであるかどうかを判断し、採用となっている。
この背景には、現在雇用している障害者は特別支援学校等を卒業してすぐではないことや、他の製造業で働いた経験のある人が多かったことが挙げられる。また、障害種別や部位も関係しており、作業に従事する上での不安材料が少ないことが要因として挙げられる。
現在雇用している4名のうち、1名については面接時に、以前の職場での経験から、後ろから声をかけられると、聴覚障害のために気がつかないが、前面から話しかけてもらえれば口の動きを読むこと(読唇)が出来るので問題なく対応できる、という話があった。そこで採用後の朝礼などを通して、聴覚障害のある従業員と話をするときは、正面に立って、大きな口ではっきりと話すよう、繰り返し他の従業員に伝えている。この聴覚障害者の後に採用した従業員の中に手話のできる人がいたので、朝礼などでの補足は、その従業員が行っている。それまでは細かなことは筆談であったため、時間の短縮にもなり、本人の負担もかなり軽減されたのではないかと考えられる。
3.採用後の職務について
採用後は、ベテランの現場管理責任者をつけてOJTを行いながら、仕事を覚えるようにしている。通常は現場管理責任者が手本を見せ、実際にその作業を行わせ、その手順や正確性等を確認しながら1つの仕事を覚え、およそ半日から1日である程度の作業が出来るようになる、とのことであった。採用後は、現場管理責任者による評価を受けながら、見習い中⇒指示すればできる⇒任せて出来る⇒指導できる⇒人に教えられる、といった段階のどの位置にいるのかについて評価を受けており、速くステップアップしようとする意欲を掻き立てるような取り組みがなされている。
現在の4名の障害者を採用した時には取り入れていなかったが、現在は教育訓練道場と呼ばれる場所を工場内の一角に設け、作業1つ1つの目的等を説明しながら仕事を覚えられるよう工夫をこらしている。
2人の下肢障害のある従業員については、火災警報器の部品組み込み・組み立て作業に従事しているが、階段を登った先にあるクリーンルームで作業を行っている。ここでは、イスに座っての作業となっており、この仕事に2人を配属するために、他の従業員に対して、下肢に障害があり長時間立って作業することが難しいことを十分に説明し、他の従業員が障害者に対して不満を持ち、職場で居づらくなるような状況をつくらないよう配慮している。
個々の作業については、標準書や手順書が作業場に掲示又は設置されており、不安があるときに随時確認できるようになっている。原則として作業時間中は私語をすることはなく、黙々と作業をしているために、聴覚に障害があることについて問題になることが少ない。そのため、本事業所で行われている作業は全般的に聴覚障害の特性に合っていると考えられる。聴覚障害者2名は、いずれも車載用ゴムの加工で1名は面取り作業を中心で、もう1名は、かなり力のいる部品組み込み作業に従事している。
過去の雇用においては、どうしても対人関係で人と接触する場所での作業が難しい障害者については、このケースに合った一人で完結できる仕事を用意し、他の従業員と接触しなくてもよい環境をつくって仕事に従事してもらった。

4.採用後の経過として
本事業所において、障害者の就業が継続をしている要因の一つに、パート従業員が休みを取りやすいことが挙げられる。もともと地域に密着した事業所であるため、地区の運動会や祭りなどがあれば従業員が出勤することが難しく、事業所としてもそれに対応するため、個別の事情にも事前に分かっている場合であれば、申請をして休みを取ることが出来るようにしている。これは通院が必要な場合に、それを理由に休みを取得することにためらいや気まずさを感じなくてもよいというメリットがあり、納期などが迫っている場合は振替えて、土曜日などに出勤することで、全体としてカバーできるように調整が図られている。
また、職場全体で取り組んでいることとして、朝礼の後で行われる生産ラインごとのミーティングで、現場管理責任者が一人一人の顔色や声の調子などからその日の様子を確認し、必要と思えば言葉をかけて体調の把握やフォローを検討し、対応するように努めている。さらに週に一度、現場管理職を集めて会議を行っており、必要な生産ラインの改善をしている。そのために朝礼やアンケートなどで、作業のやりにくさや不具合のある個所などを吸い上げるようにし、結果としてこの取り組みが効果を挙げている。
障害者の不便や作業の不具合の例としては、単車で通勤している下肢障害のある従業員の駐輪場を、建物のすぐそばに移動させ、歩く距離が少しでも短くなるようにした。また、生産ラインにおいて、作業工程の一部にランプと音声で知らせる機械があるのだが、その機械を操作している聴覚に障害のある従業員のために、下を向きながらの作業でもランプの点灯に気がつくよう鏡を付けたり、蛍光灯の光でランプの点灯に気がつきにくいのを改善するために、ランプの上部にカバーをつけて、点灯した時に分かりやすくする等の工夫をしている。

中央上:カバー 中央:鏡
5.今後の展望について
本事業所における障害者雇用の拡大には、先にあげたような作業の改善や柔軟な勤務体制、職場内の物を言いやすい風土等の他に、事業所として少量多品種の作業を確保し、それらが人の手を必要とする労働集約型の仕事となっていることから、多くの人材を確保する必要性に迫られたことが挙げられる。採用後は他の従業員と何ら変わることなく作業に従事しており、障害ゆえの特殊な配慮としては、聴覚障害であればコミュニケーション場面での若干の気配りであったり、下肢障害があれば移動距離や立っている時間を減らす等はあるが、それ以外については他の従業員と同じ扱いをしている。これがもしかすると、障害のない他の従業員にとって程良いプレッシャーになって、労働意欲を高めると言った副次的な効果があるのかもしれない、という話もあった。
一時期は従業員の関係する福祉作業所に仕事を発注したこともあるが、現在は発注できるほど仕事がないことや、納品等を引き受けることのできる従業員がいないために行われていない。この状況が改善し、仕事の受注量が増えればさらなる雇用の拡大も期待できるが、現状では、退職者が出た時に、本事業所の求める作業遂行能力がある人であれば、採用に至る可能性はあると思われる。
採用から雇用定着に至るまで、形作られたスタイルがあるために、今後は特別支援学校若しくは福祉関連の就労継続支援事業を行っている事業所等との連携を図り、新卒者・利用者の採用やその訓練、又は実習の場所の提供等、様々な形での社会貢献が期待される。そのための基盤を本事業所は十分に備えていると思われるので、今後さらなる障害者雇用の拡大が期待できると考える。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。