事業所名

パシフィック技研株式会社

所在地

滋賀県野洲市

事業内容

不織布加工
（メディコン資材、工業資材、電気資材、空調資材、自動車資材、衣料資材）、医療機器加工

従業員数

125名（常用雇用労働者）

うち障害者数

4名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害
聴覚障害
肢体不自由
内部障害	1	事務（総務・経理）
知的障害	2	検査・検品・梱包
精神障害	1	仕上り品の検査

目次

1. 事業所の概要
2. 障害者雇用の経緯
3. 取り組みの内容
4. 障害者雇用の経験を通じて変わったこと

事業所外観

1．事業所の概要

パシフィック技研株式会社は、1985（昭和60）年6月、不織布のトップメーカーである日本バイリーン株式会社の加工部門が独立して設立された不織布素材を主原料とする加工専門会社である。同社は日本バイリーングループの一員として、不織布の高付加価値化のための最先端技術を有した、いわゆる加工技術センター的な会社である。当社の加工製品は国内に留まらず、日本バイリーングループを通じて、海外のユーザーにも提供されるなど国際的な展開も行なっている。

2．障害者雇用の経緯

（1）「一人ひとりカケガエノナイひと」である

同社の雇用理念は「カケガエノナサ」との言葉に象徴される。一人ひとり役割があり、役割があるということ自体に優劣はない。それは障害の有無にかかわりなく、同社が基本としている大切なことである。

（2）知的障害者の雇用

同社の障害者雇用の取り組みは以前から継続したものではあるが、今から6～7年前にトップがかわり、できるだけ雇用していこうとの姿勢になってきた。以降の採用実績は5名であり、現在3名が定着をみている。採用の時に重視しているポイントについて、担当部長に訊いた。

私は2人の方々と関わり、共に「素直」である印象を強く受けた。教えたことを素直に真面目に辛抱強く継続していただけるのでありがたい。

2名はともに知的障害者で、「素直さ」は知的障害者の印象として一般的に挙げられることが多い項目でもある。性格が素直であると、単一作業の仕事の覚えも早い。1名は障害者雇用フェスタ（障害者就職面接会）を通じて、1名は特別支援学校の就業体験を受け入れたことを通じて採用に至ったものである。特別支援学校からの依頼はこの時が初めてであり、就業体験の受け入れは現在でも継続して行なわれている。

（3）精神障害者の雇用

同社の所在地である市の精神障害者地域生活支援センターからの講演依頼が契機となり、結果として精神障害者の雇用につながることとなる。同社社長は以前から障害者の社会参加に積極的であり、「働くということ」というテーマでゲームを組み込んだ話をした。その後、講演を聞いた同センターの利用者から手紙が届き、その手紙には「社長の会社で働きたい。働かせてもらえないだろうか」との思いが素直で丁寧な文面で書かれていた。講演日からおよそ1ヶ月半後、面接を行ない採用となった。

3．取り組みの内容

（1）職務の選定に際しての考え方

先述の就業体験を通じて採用になった知的障害者。就業体験のなかで興味をもった仕事があったが、現実にはその仕事ではない別の仕事に就いている。本人が興味を示した仕事は機械（部品を作る自動機）の操作にかかわる仕事だったが、安全の確保や品質の管理もあり、適性をみて最終的には医療機器の検品・梱包の配属となった。結果的に当初の本人の希望とは別の仕事に従事することとなったが、そのことで問題にはならなかった。職務の選定に関しては本人の「やりたい」希望とは別に、本人の本質を見抜いた「できること」と「できないこと」との見極めが重要であると言える。

（2）具体的な職務

在籍障害者の従事業務の概要、勤続年数については下表のとおりである。

（平成23年2月8日現在）

作業風景：部材のセット

（3）仕事の実態

まず、身体障害者1名の仕事は管理的な事務であり、主な仕事は固定資産管理や安全・衛生関係の事務局としての議事録の作成、経理資料の作成等の総務・経理としての仕事を担当している。なお、本人は人工透析を受けているが、勤務時間中での治療配慮は特に行なっていないのが実状である。

次に勤続年数が長い知的障害者1名だが、現在は原材料をラインに投入する前に汚れや異物等を除去検査する仕事を担当している。原材料の種類や数も多く、量をこなさなければならない時には他の誰かが手伝うこともあるが、通常は1人でこなさなければならない仕事である。

以前は別の仕事を担当していたが、より適した仕事ということで現在の仕事となった。以前は医療用のドレープ（患者さんに被せる2m×3mの布）を二人一組で折りたたむ仕事を担当していたが、新しい仕事（＝現在の仕事）が生じたことで職務変更となった。以前の折りたたみの仕事と原材料の中間検査の仕事を比較すると、折りたたみの仕事のほうが難易度は高く、共同作業でのチームワークとなりいろいろある折り方のパターンを覚えることは知的障害者だけでなく、他の人にとっても慣れるまでは簡単な仕事ではない。

さらに勤続年数が短い知的障害者1名の仕事だが、当初から医療機器関係の検品を主に、併せて梱包作業も行なっている。仕事場は3人1組で、その3人のなかで梱包であったり、部材を組み込んだりであったり、と作業の持場が変わることもある。常に3人1組ではあるが、各々の作業は単独で行なう。ただし3人は極端に離れているわけではなく一つの工程であり、仕事の確認・指示等に支障は見られない。

続いて精神障害者1名の仕事だが、配置転換ならびに職務変更を経て、現在は仕上り品における最終検査を担当している。規格どおりの形か、そして異物、汚れがあるかを検品する。仕事の担当の2名のうち1名は定年後の再雇用者で業務のベテランでもあり、検査は各々が別々に行なっているが、任せておける安心がある。

以前は本人の希望もあり、経歴と専攻（化学の専門知識）をいかせる仕事ということで、入社当初から品質管理で、医療用機器の物性測定と評価、不織布製品のラミネートおよびボンディング加工における物性測定と評価、異常品の物性測定と評価、ISO関係の書類作成といった品質管理・品質検査の仕事を担当していたが、メンタル面での負担を考慮し、あわせて本人の希望にも応えて現在の職場に変更となった。

（4）継続した改善努力

以前から障害者雇用の経験はあったものの、精神障害者を受け入れるにあたっては現場作業の標準化を進めた。具体的にはすべての基準（就業規則、作業手順書、作業要点書、設備安全基準、コンプライアンス規程、あるいは福利厚生他）、仕事の手順を見直し、殊に作業手順書、作業要点書については障害があっても品質保証（「桁違い品質」）が確保できるように見直しを行なった。

さらに企業人権啓発の促進や、特にセクハラ、パワハラ、コンプライアンスの遵守と、ペナルティーについても改善を加えた。会社の仕組み、判断基準を全員に分かり易くすると、公平感が向上し、お互いの信頼と、それぞれが仕事への誇りが持てるようになった。

（5）職場定着ができるために

採用から定着までの過程においては現場での声かけを重視してきた。特に上司からの声かけはそうである。また、会社における正式な相談窓口として総務・人事担当者1名を選任している。相談窓口の周知については入社時において、その他随時、案内をし、「何かあったら相談にいける場所がある」体制を整えている。ちなみに窓口の担当者は「障害者職業生活相談員資格認定講習」を受講している。

4．障害者雇用の経験を通じて変わったこと

時間に沿ってみれば、精神障害者、その後、知的障害者を雇用したことによって、その人にあった配慮を心掛けるように、言いかえれば、あからさまな配慮ではなく、自然体での気遣いができるようになってきた。そうした気配りの効果もあり、障害者の受け入れは一つの部に限られることもなく、そのことが全従業員の「人への思いやり」「人への配慮」「人のよさを見出す」といった現場力の改善につながってきている。

また、今後においても採用を前提としない就業体験の受け入れも積極的であり、それが「受け入れ側の教育になる」とのトップの考えでもあり、継続して受け入れている。

同社の雇用理念でもある「一人ひとりカケガエノナイひと」との社風作りが定着してきたと言えるだろう。