事業所名

株式会社　かね松老舗

所在地

京都府京都市

事業内容

青果物の販売

従業員数

22名

うち障害者数

4名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害
聴覚障害
肢体不自由
内部障害
知的障害	3	農産物の加工・仕分け
精神障害	1	農産物の加工・仕分け

目次

1. 事業所の概要
2. 障害者雇用の経緯
3. 仕事内容と取り組み
4. これからのやお屋と障害者

事業所外観

1．事業所の概要

明治15年（1882年）創業の老舗のやお屋である。店舗は京の台所・錦市場に位置し、京野菜を中心に全国から選び抜いた野菜が並び、春は竹の子、秋は松茸、そして野菜以外にも果物、乾物、菓子、ドレッシングなど、加工品も多く取り揃えている。他にも阪急デパートの梅田店、北花田店、西宮店にも店舗が入っており、錦本店には、店舗の二階で「やお屋の二かい」というランチタイムのみの営業の食事処を併設している。

2．障害者雇用の経緯

雇用のきっかけは、2008年就労支援施設職員の友人に同窓会で頼まれた事からであった。それまでは、お客様としての関わりだけを考えており、共に働くということは考えもしていなかった。そんな中、実習が始まり、最初はイベント感覚でかね松社員も実習生も楽しく時間を過ごせたらいいかなという軽い気持ちであった。しかし、いざ実習生の働きぶりを見ると、社員全員が実習生の能力の高さ、勤勉さに驚かされた。それから延べ27名の方に実習に来てもらい、彼らのおかげで、今までなかった「雇用」という考えに至った。

また、記録として残ってはいないが、昭和初期2代目店主は数人の障害者を雇い、野菜の加工をしていたという話を近所の方から聞いた。

3．仕事内容と取り組み

（1）これまでの受け入れ

2009年3月に初めて実習生を受け入れた。障害者と向き合い始めて1年半、これまで15回に渡り、延べ27名の実習生を受け入れてきた。うち4名は実習を経て、2009年8月に1名、2010年4月に3名雇用した。

表1　かね松の実習及び雇用の実績

表2　実習生の障害種別

（2）仕事内容

障害者は、商品を店頭に並べる準備をしている。それは、まず一つに野菜のラップがけや袋詰めといった仕事で、店頭用以外にも、阪急店舗用や発送用のラップがけや袋詰めもある。現在は特に、阪急店舗用に比重を置き、仕事をしている。そして、もう一つ要となる仕事は、菓子や乾物・味噌などの袋詰めやパック詰め、ラベル貼りである。また、食事処では、主に調理に使う野菜の下処理や料理の盛り付けなどの調理補助の仕事をしている。その他にも、店内清掃や漬物製造、そして農家との繋がりがあるやお屋だからできる農作業などもしている。

やお屋の二かい（食事処）　—女性TMさんー

かね松は、2009年8月1日から障害者雇用を始めた。初めての雇い入れは、やお屋の二かいの食事処の方で、女性（TMさん）1名を受け入れた。最初は少しずつ時間を長くしてマンツーマンで包丁の使い方や野菜（牛蒡）の扱い方を覚えてもらった。主婦でもあり、3人の子供のお母さんでもあるので、月曜日から金曜日の午前10時から午後2時までの勤務としてスタートした（現在は午後2時30分まで）。慣れるまでは同じ野菜を同じ切り方で覚えてもらい、慣れると共に少しずつ野菜の種類を替え、切り方も替えながら仕事をしてもらった。

働くのが楽しいと言い、教えたことは確実に覚えて、次につなげてくれている。日が経つと共に、スタッフにも少しずつ慣れて、硬さも少しずつ無くなり、自ら段取り等を確認して、朝からの仕事がスタートする。季節が替われば扱う野菜も違ってくるが、自ら質問をし、覚えて、綺麗な仕事をしてくれている。3ヶ月を過ぎる頃には、柚子の皮むきや大根の面取りなど、細かい包丁使いも真剣に取り組み、回を重ねるたびに上達していくのが頼もしく思えてくる。

今では出社すると自ら盛り付けの数を聞き、食材を指示すると準備からできるので、スタッフの心強いアシスタントが出来るまでに成長している。子供を育てながらの仕事なので休むこともあるが、勤務可能な日は時間を延長して仕事をするまでになっている。

かね松（やお屋）　—男性TJさん ・ TMさん 、 女性Nさん—

やお屋では、2010年4月1日より、男性2名・女性1名の計3名の雇い入れを行っている。最初の3ヶ月間はトライアル雇用として、1日5時間、週4日（月、火、木、金曜日）の勤務で、勤務時間帯は8時30分から13時30分（男性TJさん）と11時30分から16時30分（男性TMさんと女性Nさん）の2つに分け、基本的にそれぞれ別の仕事をしてもらっている。

TJさんは、主に阪急用のトマトや人参のラッピングを担当している。言葉遣いも仕事も丁寧である。トマトは4個をトレーに乗せ、ラップをかけるのだが、こちらが目を見張るほどの出来栄えで、毎日驚かされている。最近は、他の様々な野菜のパックや袋入れにもチャレンジし、悪戦苦闘しながらも丁寧に綺麗に仕事をしている。勤務日の店頭には彼の作った作品が並んでいるので、是非手に取ってほしいものである。

TJさんのトマトのラップがけ

TMさんとNさんは、二人ペアで仕事をしてもらっている。基本的には同じ仕事であるが、徐々に違う仕事も同じ作業台でしてもらうようにしている。お菓子や乾物などは、とにかく大量のストックが欲しい商品である。一日に2、3種類ではあるが、100も200も袋詰めをするので、かなりの集中力が必要な仕事であるが、二人は抜群のコンビネイションプレイで丁寧かつ綺麗に商品に仕上げてくれている。

TMさんとNさんのお菓子の袋詰め

やお屋の3名に共通していることは、みんな真面目で、それぞれにこだわりがあり、仕事が丁寧だということである。丁寧すぎるぐらい丁寧なので、確かに仕事に時間はかかる。雇用直前の実習が終わったときに、課題はスピードアップだと言った。しかし、急に1時間かかる仕事を20分にというのは難しいと思うし、多くの経験が必要である。現場としては長い目で見ることが大事だと思っていた。彼らが就職して8ヶ月余り、仕事のスピードは少しずつだが確実に上がっている。どのくらいの期間で、私たちのスピードに追いつくか今から楽しみであり、彼らならきっとやってくれると思っている。

（3）取り組み

やお屋の障害者3名はアビリンピックの出場を予定している。普段の仕事ではスピードについてあまり言及していないので、大会においていい成績は修められないとは思っているが、社員全員が目標を共有できるという点で非常に意義があると考えている。

また、TJさん、TMさんが歴史好きということから全国の城を巡る旅を彼らに企画させ、社員旅行を行う予定である。

障害者のサポートについて、当社には2号ジョブコーチ2名（うち1名は2011年2月に取得予定）がいる。また、毎年社員2名ずつ、障害者生活相談員の取得を目指している。

4．これからのやお屋と障害者

当社が考える障害とは、「不幸」ではなく「不便」なだけと思っている。4代目店主の私自身、幼少のころの病気が原因で右手の握力が非常に弱い。色々な操作も思うようにできず、「不便」だなと思うことは多々ある。しかし、「不幸」である思ったことは一度もない。それどころか、家族との関わりが増えて、幸せと感じることのほうが多いように感じている。その障害ゆえの「不便」を「利便・簡便」にするのが我々かね松社員の仕事である。

かね松には、福祉経験のあるものは誰一人いない。そのため病気のこと、障害の専門的なことはわからない。しかし、どの福祉施設・専門家に負けないくらいの熱い想いはある。