特性に合った無理のない職場環境を作り、雇用安定に努める
1．事業所の概要
生駒山の斜面にある閑静な住宅地の最も山側に位置し、西側は大阪平野を一望に見下ろす絶景、東側は緑に溢れ、暖かい陽ざしがふりそそぎ、小鳥のさえずりが聞こえるような、静かで豊かな自然に囲まれた場所にある。
入居者の尊厳を重視したケアの実現のため、居室の全室個室化とユニットケアを特徴とした2階建ての施設である。
また平成15年12月の開所以来、大型手動式オルゴール（12連奏）の設置や、中庭でウサギを飼うなど、利用者の情緒的なケアに力を入れている。
《なるかわ苑の基本理念》
～「なるかわ苑」での豊かな生活に向けて～
私たちは、人格の尊重、自己決定、自由、自立、ソーシャルインクリュージョンの考え方をベースに、暮らしの継続性を大切にし、安心してこころ豊かな充実した生活がおくれる、地域に開かれた「なるかわ苑」を目指します。
2．障害者雇用の経緯
開所から4年ほど経過した頃、地元の特別支援学校から職場体験実習の依頼があり、介護分野での実習先の必要性を感じ、受け入れを決断した。障害者を受け入れるという経験がなく、わからないことばかりであったが、その後も毎年、数名の職場体験実習を受け入れていく中で、特性に合わせた業務内容や職場の環境を整えれば、障害者が十分就労可能であることがわかり、雇用できると考えた。しかし、施設の立地から通勤可能な方が見つからず、雇用できない状況であったが、実習受け入れから数年経って、ようやく通勤可能な知的障害者を1名雇用した。雇用してからも職場体験実習の受け入れは続け、特別支援学校に限らず、近隣の施設や支援機関等からの実習受け入れも行っていた。
平成22年には、障害者職業能力開発施設からの実習依頼を受け、職場実習の後、知的障害者Aさんを雇用した。Aさんは、近隣在住で通勤も可能であり、またホームヘルパー2級の資格を取得しており、介護補助業務などを念頭においた雇用であった。
3．取り組みの内容
（1）障害者の状況に配慮した取り組み
現在、Aさんは施設内の環境整備の業務を担当している。
フロアの掃除、モップ掛け、居室の掃除、洗面台の掃除、トイレ掃除、シーツ交換、食器洗い、食事の下膳、寮母室の掃除などである。
Aさんを指導、育成していく上での考慮した点は主に下記の4つである。
①口頭での指導ではなく、まず、手本を見てもらい、その後実際にやってもらうようにした。
うまく出来ない時も、口頭で伝えるのではなく出来るだけ動作で示して伝えるようにした。
②1日の業務内容をきっちりと決め、1日の流れを作り、覚えてもらうようにした。
③ユニットごとに曜日を決め、曜日で決められた場所で業務するようにした。
④流れが決まっていても、作業終了ごとに報告してもらうようにし、つぎの作業の確認をした。
職員が、Aさんの動きを常に把握できるようにした。
以上の点を考慮し指導したのは、Aさんの特性として、決まったことをきっちりコツコツとする作業は得意であり、作業の流れが決まっていてわかっていると安心して作業に打ち込めるが、次に何をしていいのかがわからないと不安を感じてしまうことがある。また、コミュニケーションが苦手でホームヘルパー2級の資格を取得しているが、直接介助や利用者とのコミュニケーションも困難なところがあると実習中の様子で判断し、得意なことを活かせる形での就労から始めて、ゆっくり出来る業務を増やすほうが、負担なく安定した雇用につながると考えたからである。
今回がAさんの人生で初めての就労なので、本人にとって働くことが大きな負担にならないように配慮し、毎日、安心して仕事ができるように職場環境を整えた。
現在ではほとんどないが、Aさんが間違えたときは注意もするが、素直に注意を受け入れている。このような素直な態度が、職場の雰囲気を良いものにしている。
Aさん自身も、業務の流れや、注意事項などをメモ帳に記入し、忘れないように工夫している。
（2）取り組みの効果
業務の流れを覚え、不安を感じることなく働くことが出来ているので、Aさんの気持ちに余裕が出てきたのか、今まで土・日・祝が休日であったが、祝日は自らの意思で出勤することが多くなってきている。また、笑顔が硬く、なかなか上手く笑顔を出せなかったAさんが、今では自然と笑顔が出るようになってきた。
利用者とのコミュニケーションが苦手であったAさんが、最近では自分から少しずつコミュニケーションを取るようになったり、利用者から声が掛かれば、車いすの移動を手伝ったりと介助業務にも興味を持ってきている。
4．今後の課題と展望
障害者雇用については、まず特性を見極め、無理のない職場環境を整備することが重要であると考えている。その上で、少しずつでも出来ることを増やしていき、新たな業務プログラムを再構築していく。
当苑では、短期間で苦手なことすべてを出来るようにすることが目標ではない。まずは出来ること、得意なことを最大限に活かせる職場環境づくりに職員一同で取り組んでいる。期間も1年、2年で考えるのではなく、10年後どのように成長しているか、そして一番は、無理なく、意欲をなくすことなく、仕事をすることに喜びを感じて、そして安定した雇用継続ができているかということを大きな目標としている。
Aさんについては、当苑にとってすでに、なくてはならない存在となっている。本人の真面目でどんなことにも手を抜かず、丁寧できっちり確実にする業務は、安心して任せることが出来ている。特性に合った業務を中心に、今後は少しずつでもホームヘルパー2級の資格を生かした業務を増やしていきたい。
最後に、介護施設では、障害のある方が出来る業務が数多くある。今後、より一層、障害のある方が雇用される機会が拡大することを望んでいる。
大阪市職業指導センター 職業指導員 辻 俊光
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてユミルリンク株式会社提供のCuenote(R)を使用しております。
