主役である福祉社員とそれを支える指導員の面々
そして何より各支援機関の理解と尽力この全てが結集

1.事業所の概要
「株式会社いくせい」は現在、平成7年に発生した阪神淡路大震災では最大の被害であった神戸市長田区にある。あれから16年が経過した今、震災後の復興により道路は整備され、特に駅より通じるメイン通りなどは、震災以前より広くなり、ビルや家屋も比較的新しい建物が多く建ち並んでいる。当時の被害状況を思い起こすまでもなく街並みが一変し、他の地域と比べると、真新しさを感じる環境のメイン通りに位置している。
「株式会社いくせい」は、知的障害者の就労の場の確保と、雇用の拡大を目標に昭和62年に設立された。主な事業内容は屋内・屋外作業での清掃・除草・植栽等であり、福祉就労促進事業として、神戸市の各公共施設から、これらの業務を受託している。また、資源リサイクルセンターでの手選別業務委託や福祉ショップ等、計11事業所の運営と、多岐にわたり事業を展開しているが、特に清掃関連での主な事業所は須磨海浜水族園・森林植物園・王子動物園・外国人墓地・ポートアイランド(プール及びホール)他、年々事業所を拡大している。それに伴う雇用の拡大を計りながら、現在では総従業員数228名(うち知的障害者数182名)にまで至っており、更なる躍進を続けている。
2.障害者雇用の経緯
昭和62年に、①知的障害者の働く場を創出拡大する。②安定した就労を図ると共に他のグループホーム等と連携して知的障害者の社会参加を促進する。③事業活動によって生じた利益を障害者福祉に還元し、知的障害者の自立に寄与する。という三つの目標のもとに、「(社団)神戸市手をつなぐ育成会」の協力を得て設立し、須磨海浜水族園の清掃業務が6名の障害者からスタートした。
一方昭和48年に神戸市では、当時全国的にもほとんどなかった知的障害者の福祉就労事業に取り組んでおり、これを「知的障害者雇用・訓練事業」と位置づけ、「神戸市立たまも園」や、「おもいけ園」などの卒業生を特別職の地方公務員(嘱託職員)として障害者を採用した。こうした雇用訓練制度における採用が年々増加していき、50人を超えたところで訓練事業が固定化された。
しかし昭和63年当時、それまでは年間数十名であった特別支援学校の卒業生が、養護教育の義務化に伴い、進学した生徒が巣立つ時期と重なって、毎年120名~150名の卒業生が輩出されるようになったため、その受け皿をどうするかが課題となった。
神戸市においても定員が固定されているため、欠員が生じない限りは、新規採用として受け入れを継続することは困難であり、このため神戸市はこれを民間へ業務委託することになった。
こうして福祉就労促進事業が、昭和63年「株式会社いくせい」へ移管することになり、一度に49名の従業員が増えることになった。
このような経緯により障害者雇用がスタートしたが、その後、事業の拡大に伴い年々従業員も増員し、現在では182名の福祉就労社員(注:株式会社いくせいでは知的障害者を福祉就労社員という名称で位置づけている)が各事業所においてそれぞれの業務に従事している。
3.取り組み内容
配置部署と具体的業務内容については、大きく分けて園地管理業務と手選別業務に分類されるが、園地管理の事業所によっては斜面の多い職場や階段の多い場所での作業があるので、安全面においては常に細心の注意を払い、適材適所を見極めている。
手選別業務においても、体調の変化や健康面に留意し、他事業所の実習や職場体験を実施している。
総務課長の藤原さんによると、福祉就労社員は毎日繰り返し持続することによって確実な作業が身に付き、仕事を覚えていく。また障害が軽度の社員は環境の変化を求める意味で、他の事業所での職場にて実習体験してもらい、視野を広げてスキルアップにつなげていく。そうすることによりモチベーションをあげることになり、活躍している社員も少なくないそうだ。
このように、その都度本人の希望を聞き入れながら実施しているが、就労継続を支えるため、障害者職場推進定着チームを事業所ごとに設置して、支援者同士で情報を共有しながら、障害者職場推進定着会議を実施している。 障害者支援機関等との連携においても、現在8機関の広域ネットワークを張り巡らせ、常に情報を共有しているが、特に各区にある障害者地域支援センターとの連携を図り、協力を得ているのでたいへん助かっている。
この他、要援護世帯には関係機関で連携を取り、3か月に1回の割合でケース会議を開催し、皆で支えあっている。 ここで、その支援機関のネットワークと、その担当者を紹介しておきたい。
①株式会社いくせい
②グループホームのサービス管理責任者
③通所施設の施設長及び支援員
④区役所福祉知的障害者担当者
⑤区役所生活保護担当者
⑥安心サポートセンター担当者
⑦移動支援事業所担当者
⑧障害者地域支援センター担当者
以上の面々によって障害者をバックアップしているが、ここで一例を挙げれば、福祉就労社員がグループホームに入所しており、その母親もまた知的障害で通所施設に在籍している。
生活保護を受けている世帯でもあるので、お金の管理等も支援機関に依頼している。また休日にはガイドヘルパーを利用するなど、会社・支援機関のネットワーク一体となって障害者を支える仕組みができている。
総務課長の藤原さんは、生活面でのサポートを自分のところだけでやっていると、ついつい弱気になってしまうこともあるが、ネットワークを作り、各方面から支えてくれるので充実したサポートができる。こうした皆の熱意のおかげで、“よし、気持ちをリセットして頑張ろう”という気持になれて本当に有難く、感謝していると言う。
また医師等との連携についても、産業医を選任し、月1回現場を巡回している。 衛生管理者も同行し、健康管理、作業環境管理、安全管理(職場における健康障害の原因調査、事業場責任者に対する専門的な指導助言)を医師の目線で見ていただき、毎月1回実施している安全衛生委員会において報告している。
障害者雇用では重要課題である社内設備の問題においても、改善と工夫がなされており、まず、足の不自由な社員や体が大きい社員などは和式トイレが使い辛いため、これを洋式トイレに改善し、苦痛なく利用してもらえるようにしている。また、各事業所の休憩室などではカーペットを敷き、土足から上履きにすることによって、ゆっくり腰を掛けたり、寝転べるような快適空間を造る等、改善されている。さらに、女性ばかりの職場では床と壁の色を少し明る目にしたり、壁面をうまく活用して、作業用帽子や麦藁帽等をかけたりと、収納するスペースを取っている。
こうした設備改善には障害者雇用に伴う助成金の活用もあるが、その都度会社の経営状態に合わせて、必要と思われるところは随時改善に努めている。

福祉就労社員。
いきいき働いている姿が印象的

常に安全を意識して仕事も丁寧
4.取り組みの効果
会社が設立されて23年、もともと知的障害者を雇用するために設立された会社ではあるが、多方面において前向きに取り組んできた。従業員はほんとうによく頑張っている。森林公園(六甲山中にあり、総面積142.6ヘクタール、実に甲子園球場が64個収まる広大な面積)は、春先には桜が咲き乱れ、秋口には紅葉と見事な色合いを醸し出す、とても見ごたえのある公園で、除草や植栽に従事する福祉就労社員Hさんは、障害のない者でも危険な急斜面の除草で草刈り機を上手に使い、一生懸命仕事をしている。
話を伺うと「斜面での仕事が多いので、慣れてはいるものの、足を滑らせたりすることもあります・・・。」と屈託のない笑顔で、少し恥ずかしそうに話してくれた。
他の福祉就労社員も「こんにちは」と声をかけると皆笑顔で「こんにちは」と返してくれて清々しい気分になれる。
おそらく屋外での作業なので、夏は暑く、六甲山中でもあるので、冬に至っては大変寒い場所であることは容易に想像がつく。
そんな中で皆黙々と作業をしている姿を見て、感動すら覚えたことを忘れない。 「株式会社いくせい」 には、設立当初から働いている従業員が約30名いる。このように定着率は非常に高いが、これも障害のない従業員の障害者に対する理解度と言うより、障害の有無に関係なく、分け隔てなく一体となって、一生懸命仕事に取り組む姿勢の表れであろう。
しかし、ここではあくまで主役は福祉就労社員(障害者)である。障害のない従業員は現在、事務・営業及び指導する者(業務遂行援助者)と位置づけているが、この名称を支援社員又は支援員と変更する予定であり、この支援社員は全員障害者職業生活相談員の資格を有している他、支援社員規定を遵守し、作業中またはそれ以外のことにも心掛け、介助・支援を行い、常に言葉を交わすなど、メンタルケアを行うようにしている。
各事業所の休憩室等においても、明るく改善されたことで雰囲気が良くなり、気持ちがリセットされ、作業に戻ることができる。
こういった様々な方面からの支援、会社全体の障害者に対する前向きな基本姿勢とアットホームさが、福祉就労社員の高い定着率につながっていることは間違いない。
5.今後の展望と課題
福祉就労社員の平均年齢は43~44才と高く、能率、能力、体力の低下等と避けては通れない現実があり、こうしたことに伴いまた新たな雇用の創出が必要となってくる。体力的な低下はだれにでも起こりうることで、個々の体力に応じた作業に移行していくことが賢明であるが、現在では対処法のひとつとして、個々に応じた勤務の軽減として、短時間勤務制度(3/5の勤務など)を取り入れ、勤務表によりシフトを組んで、末長く頑張ってもらえるような勤務形態を構築している。
また現在、毎月実施している専門医等による福祉就労社員の健康管理を、安全衛生委員会において報告しているが、何かメンタルな問題があれば必ず診断書を提出してもらい、例えば診断書提出によって、社員が長期休暇を希望した場合には、産業医にも入ってもらい、どのくらい休職するかなど、産業医の立場から検討していただき、審査会を開く方法を今後は導入していく方向である。
年々、各方面での課題も増加するであろうと思われるが、これまでやってきた障害者雇用に対する前向きな姿勢を今後も維持され、障害者雇用を継続されることはもとより、関係各所の株式会社いくせいに対する厚い期待を背負って、今後も躍進されることを心より祈るばかりである。
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