分け隔てのない、段差のない社会を目指し、地域社会に貢献

1.事業所の概要
昭和58年創業当時は阪神福祉観光輸送株式会社として、兵庫県尼崎北部・伊丹・宝塚周辺地域に深く根付いたタクシー会社であり、後に現在の社名「株式会社フクユ」に変更する。
この「フクユ」は福祉のフクであり、それに輸送のユを取ってフクユとした。
これには障害者をはじめ高齢者にもっと外に出てもらい、外出できることの喜びをもっと知ってほしい。段差のない社会を目指すという松下社長の熱い思いが込められている。
現在では兵庫県伊丹市に本社・営業所、兵庫県川西市に川西営業所を置き、タクシーでの輸送業務を主として、「フクユグループ」としてフクユ貨物・フクユバス・特別養護老人施設・デイサービス等福祉関連と事業を拡大しており、従業員総数225名(内身体障害者雇用数7名/重度2名を含む)に至っている。
車両数も各種タイプの車両を含め総数98両と年々増加しており、福祉・患者輸送から発展し、「安全・安心・快適輸送」をモットーにマンツーマン輸送であるタクシーの特色を全乗務員が理解し、また「フクユにご乗車頂こう」を合言葉に輸送サービスを提供し続けている。
配車においても、受話器を取るだけの「無料直通電話」設置エリアも順次拡大して、最新機能のGPSシステムを搭載した無線配車を行っており、常に顧客目線で満足度を徹底的に追及していることも会社の大きな魅力である。
また福祉に関しては、この業界としては画期的な訪問介護支援事業所(訪問介護・居宅介護)にも指定され、現在では車いすのまま乗車できるリフトタイプの車両も6台所有している。
2.障害者雇用の経緯
当時は患者輸送事業を始めるには許可制だったため、免許をもらう必要があったが、なかなか認可が下りなかった。関係各所の後押しもあり、4年半を費やして、昭和58年5月に免許が下りた。しかし、一般のタクシー事業者には、免許制であることから反発が強く、当時は猛反対された経緯もある。
ちょうどそのころ国際障害者年にあたっていたため、トヨタ自動車の下請けであるアラコ株式会社から、車いすで乗れる車が東京モーターショーに出展され、こうした気運が高まってきたこともあり、地域の後押しもあって免許を取得することができた。
この年より、近所にある市立伊丹病院の患者輸送に携わることができた。
松下社長は言う。当時は周囲からは「これだけ反発があるのになぜ・・・」と散々言われたが、輸送に従事するものとして、障害者や車いすに乗っている人は、特に雨の日は一般の車両に乗ることができない。「何か自分にできることはないか・・」「困った方を病院にお連れできればいい・・・」常に自分の中にそういった気持があったからこそ頑張れた。
当時はスロープのついたタクシーは皆無に近かったが、自動車ディーラーとも相談しながら車両を増やしていった。そんな時、ふと思いつたのが、障害者であっても、車いすに乗っていたとしても障害のない人と何ら変わらない人がいっぱいいる。「社会に出て働かせてあげたらいいのになあ」そんな考えがよぎった。それが障害者雇用を始めるきっかけとなった。タクシー会社でも配車の仕事、乗務員などをお任せできる仕事があるかもしれない、皆で力になってあげられないものだろうか、たくさんの障害者に仕事をしてもらいたい。
こうした松下社長の熱い思いがあって社内で検討を始めた。
さらに社長は言う、実際に障害者の方を雇用しても、障害のない人と何ら遜色なく、同等の給料で生きがいを持って働いていただけると。 このように株式会社フクユは患者輸送からこの業界に参入しており、現在も患者・高齢者・障害者の輸送率は高く、乗務員もそのようなお客様の立場に立った接客を勉強している。そこで、従業員の中に障害者がいればもっと身近に感じられるのでは・・・の発想から障害者雇用を始め、現在も力も注いでいる。
入れ替わりはあるが、今までに延べ20名以上の雇用実績を誇っている。
3.取り組み内容
現在、株式会社フクユには身体障害者が7名おり、うち重度の障害者が2名いる。彼らがどのような業務に従事しているのかといえば、輸送業務として当然であるが、乗務員に3名、配車の無線オペレーターが2名と別れる。
乗務員の労働時間は約168時間/月で、オペレーターの場合は約120時間/月であり、重度の障害者においては約40~60時間/週となっている。
障害者が乗務する車両は、特に障害者用の仕様ではなく一般の車両であり、障害を持たない者と全く変わりなく乗務している。オペレーターの場合においては、無線といっても全自動なので長々と話すことはほとんどなく、GPSの搭載でパソコン画面を見れば、近くを走るタクシーにデータで連絡が行くようになっているので、操作も簡単であり時間的にも短縮できる。
県下にこうした最新システムを導入しているのは、フクユの他1~2社しかなく、全て先を見越した先行投資をしている。
無線のこと、コンピューターのこと、車両のメーターやカメラ等々に相当額を投資しているが、兵庫県下においてはこのような設備をどこの業者も取り入れていない。これも障害者が仕事に従事しやすくと考えてのことであるが、このような設備を整えていないと障害者の輸送事業での就労は難しい。聴覚障害の人も登録してもらえればすぐに駆け付けることができるようになっており、障害者・高齢者の方にもフクユを指定していただきやすい設備をこれからも順次導入していき、そのための投資は惜しまない。
このように、自社の障害者雇用における配慮だけではなく、障害者や高齢者のお客さんの立場に立った配慮もなされている。障害のない従業員における障害者への理解度も、特別な意識はなく、車いすの職員に対しては、そこに居合わせた者が自動ドアのスイッチを押して、スロープの上まで押していくといったことが、ごく当たり前に行われている。
フクユの営業次長 佐々木さんは言う。世話を焼きすぎないのが障害者への理解度の表れであると・・・。
また、オペレーターや事務補助等、対応可能な仕事があるし、乗務が可能な障害者もいる。だから応募を断ることはしていない。
当然、障害の度合いによっては雇用できない場合もあるが、このために作業量の確保や、職務を創出することは敢えて行っていない。
さらに佐々木さんは続ける。仕事の幅は、その人なりに考えて仕事をしていれば自然と広がるはずである。場合によっては考えるきっかけを与えるようにしているが、余程でない限り、そのためだけの工夫はしていない。ただ会社(仕事場)に来たくなるような環境を整えるには常に心がけている。もっともこれは障害者に限ったことではなく、障害のない従業員に対しても同じことである。
株式会社フクユの社内設備には段差というものが存在しない。これは全て障害者への配慮であり、自動ドア・スロープ・1階部分のバリアフリー・車いす対応トイレ・トイレ内非常スイッチ等々事務所内にはこうした設備が施され、何ら支障なく業務につけるようになっている。
障害者雇用関係機関ならびに専門医との連携についても、株式会社フクユの産業医及び保健師に、本人の健康状態、作業環境管理など細部にわたって定期的にチェックを受けているので問題はない。
また、ハローワークとは常に連携を密に取っており、障害者合同面接会にも積極的に参加している。今後もあらゆるネットワークを駆使して関係機関との連携を図っていく予定であり、障害者雇用についての取り組み方は前向きで、さらなる発展が望める。

障害者に優しい社内施設

最新のシステムにて迅速な配車
4.取り組みの効果
現在では、株式会社フクユが障害者を積極的に、かつ率先して雇用していることが確実に周りに知れ渡り、こうしたことが影響してか、株式会社フクユのタクシーを優先して利用する乗客が増加している。
これは従業員の家族や、契約先の特別養護施設等各支援施設から自然と周知につながっていくケースが多く、必然的な結果として認知度が上がり、顧客開拓にも一役買ってもらっていることになっている。
「株式会社フクユという会社がこうして内外ともに社会貢献していることで、多くの方からの支援をいただき、皆さんの信頼を得ているのではないかと、大変嬉しく思う。採用面においても障害者のみならず、障害のない人についても、株式会社フクユがこれまでやってきたことに対する認識があり、株式会社フクユという会社の名誉にもつながっている。これは従業員全員が頑張ってくれている証でもあり、これからも共に力を合わせながら、会社の発展に寄与できる人材を育てていきたい」と松下社長は言う。
5.今後の展望と課題
会社設立当初は各種マスメディアの取材も受けたが、当時としては申請してもなかなか下りなかった免許が、長年の努力が実ってやっと下りたこと。また、障害者を中心に輸送するといったことに注目されたかもしれないが、株式会社フクユはそれに甘んずることなく障害者・高齢者福祉輸送を中心に事業を展開してきた。
松下社長は言う。
「障害者や高齢者はまだまだ閉じ込められている感がある。もっと外に出て、元気な間はバリバリ活動してもらいたい。それには国・県や市の行政にもっと障害者や高齢者が外に出やすい環境を整備してほしい。例えばこの業界において言えば、各自治体によって異なるタクシーチケットの配布でも、もっと効果的かつ便利な活用法を検討してもらいたい。」
タクシー料金は障害者の方にご利用いただくと1割引となっているが、例としてあげてみると初乗り660円であるが、乗客からは590円しかいただかない。多くの方が誤解されており、この差額は行政が負担していると思われているが、この差額70円は会社負担なのである。この料金差額につては、運転手と会社が折半していることが通常であり少なくない現状ではあるが、株式会社フクユでは全額会社負担としている。障害者だけでなく、一般の従業員にも優しい会社である。
業界の規制緩和により、また、バリア新法施行により、伊丹市にはわずか8台しかない福祉車両をもっと増やしていかなければならない。兵庫県下全体を見てもまだ少なく、株式会社フクユが先導を切ってやらなければとの思いがあるようだ。
松下社長は、障害者雇用は我々障害のない者の責務だと考える。また、そういう一翼を担いたい。ただ、「どうせ障害者だから・・・」という考えは持たないでほしい。
会社の一員である以上、責任感を持って仕事に従事してもらうが、それ以上に社会の一員として積極的に取り組んでいくことを望んでいる。
会社としてはこれまで以上に障害者雇用を積極的に推進していき、重度障害の人でも立派に頑張れて、やりがいを見出すことのできる場所を提供していきたい。 また、国が法定雇用率を定めているが、こうしたことに関係なく、働ける場所がある限り、今後も提供していく決意である。
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