事業所名

株式会社谷内商店

所在地

奈良県桜井市

事業内容

食鳥（主に鶏肉）の販売と加工品・惣菜の製造販売

従業員数

75名

うち障害者数

1名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害
聴覚障害
肢体不自由
内部障害
知的障害	1	鳥皮のカットと串刺し、ハンバーグの計量・成形と真空パック、唐揚げ用の加工とパック包装、ギフトケース組立
精神障害

目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
2. 取り組みの内容
3. 日常的なサポートの実践
4. 取り組みの効果と今後の展望

事業所外観

1．事業所の概要、障害者雇用の経緯

（1）概要

昭和31年に桜井市に鶏肉卸業として、先代が個人創業したが、商売の広がりにより、昭和62年5月に法人成りし、現社長（2代目）が就任した。その後、事業拡大を図るため、平成4年5月に当社の完全子会社である株式会社鶏太郎を設立し、近鉄百貨店の食品売り場への出店と合わせ、近鉄電車の駅ナカやその近辺に飲食店を併設し、小売業と合わせ飲食業に進出した。

かねてから規模拡大とともに経営上の重要課題であった、手狭で立地条件も悪く、機能性・生産性及び就業環境上にも問題があった、本社事務所兼製造部門の移転について格好の物件が見つかり、平成22年5月にグループ会社を含め桜井市内のメイン道路に面した交通の便のよい現在地に本社事務所・製造部門を移転した。

主に、国内各地の地鶏、特に奈良県産大和肉鶏の鶏肉の各部位の販売に加え、鳥串、ハンバーグ、惣菜等鳥肉加工品を製造し、近鉄デパート内で屋号「鶏太郎」として直販するほか、飲食店も近鉄駅ナカをはじめ、駅近辺に店舗を構える。Aさんが従事する仕事は、本社製造部の鳥肉加工品の製造部門に所属している。

（2）障害者雇用の経緯

平成20年に社団法人奈良県雇用開発協会より、障害者の法定雇用率及び助成金等の説明があり、併せて特別支援学校からの職場実習受け入れの要請を受けた。

以前より障害者の雇用については関心を持っていたが、知的障害者の受け入れは初めてで不安なことばかりであった。雇用の安定と重層化のために、とりわけ当社は食鳥の加工販売業としての店舗展開のためには、女性従業員の活性化が必須の要件であり、全従業員の働く意欲向上と併せて、平成21年3月16日から特別支援学校生徒Aさん（女性）を実習生として受け入れた。

特別支援学校の担当の先生と家族の協力を得て、平成21年3月16日から3カ月間トライアル雇用として1日7時間、週35時間、週休2日制とし、賃金は時給制に加え、食事手当と皆勤手当、通勤代を支給のほか、雇用保険、社会保険加入条件の雇用契約を締結し、スタートした。

Aさんにとっては、社会人としての船出であり、大きな不安と緊張感がいっぱいで、その受け入れには体制を整える必要があると考えた。

①配置部門はどこがよいか

②職場に溶け込めるにはどうするか

③仕事がきちんとできるか、そのために仕事をどのように教えたらよいか等

これらの課題について事前に専門家の意見を聴きながら検討した。

①については、作業内容が安全かつ平易な加工部門の配置とし、ただし清潔を心がけること

②については、同じ加工部門内のよく気の付く面倒見のよい女性従業員を業務遂行援助者に任命した。

③については、仕事を習熟し自信と安心感が持てるよう、業務遂行援助者は手取り足取りで絶えず障害者の横で付き添うこととした。

そのためには週休2日制の休日シフトをAさんと同じ日とし、不在時のための補助の業務遂行援助者を任命すること等で開始した。

2．取り組みの内容

（1）作業場のリニューアル

本社移転により、製造部門に入室する際の手の洗浄場所、加工作業がスムーズになるように調理台や作業台の位置、仕事がし易いように「包装機」、「真空パック機」の配置、加工前の原材料の保管としての「大型冷凍室」や「冷蔵庫」の場所等のリニューアルを行い、清潔で加工作業の高度化を図ったことが、障害者にとって一段と作業がしやすくなったものと言える。その他加工済の製品置き場やトイレの場所、他部門との連携のための社内通信も配置場所に工夫して流れがスムーズになり、作業能率が向上した。

（2）障害者の作業の継続化・効率化

トライアル雇用期間中の作業状況を踏まえ、Aさんが作業にかかる前の鶏肉の皮や鶏肉の部分カットの均一化に工夫したこと、リニューアルの際に、調理台や作業台の高さ、包装機や真空パック機を使用しやすい位置に配置したこと等が功を奏したことで、袋詰め等一生懸命に働き、今では障害のない従業員と変わらない作業を行っている。

Aさんは、当初の作業ペースはゆっくりではあったが、言われたことを守りながら、与えられた単純作業に対して、毎日真面目に一生懸命取り組んだ。その姿勢が、周りの従業員の理解を深めていった。

障害者であるAさんが、毎朝一人で家を出て、電車に乗り、最寄駅から自転車で通勤した後、初めて経験する職場で作業することは、不安と緊張でいっぱいであろう。そのためにも、受け入れ体制を万全に整えることが、障害者にとって不安を少しでも軽くし、自信を持って働けるようになるものと、今では確信している。

平成23年度にも同じ特別支援学校から実習生を受け入れ雇用するが、先輩障害者の事例が積み上がり、同僚も増えれば孤独感も感じることなく、雇用の継続に繋がるものと考える。

3．日常的なサポートの実践

（1）重度の知的障害を持つAさんは、平成21年3月16日からトライアル雇用して以降、同年6月16日には正社員となり、今日まで2年間継続して一生懸命に勤務している。さらに、平成23年4月には新たに1名の障害者を雇用する予定で、既に特別支援学校から推薦を受け、内定している。当社では障害のある者もない者も同様に戦力として位置付けているが、当初は迎える側の従業員にも、指導やコミュニケーション等をどうすればいいか戸惑いが見られた。しかしながら、会社の障害者に対する強い思いが従業員に伝わり、伝統的な家族的社風を背景として、事前の対応をきめ細かく実践したことがよかったのではないかと思われる。更には、専務取締役が、日頃から本社工場をはじめ、各店舗にも日を決めずに不定期に巡回し、一人一人の従業員の様子を観察し、状況を聞くなどの現場重視の姿勢である。そして、その結果を経営に反映して、安全配慮が行われていることに加え、業務遂行援助者としてベテラン従業員を配置するとともに、障害者の日常的なサポート、いわゆるナチュラルサポートを心がけている。 知的障害者の場合の障害特性として、以下のことが言えるのではないかと思う。

・抽象的な概念が理解しにくい

・自分の意思を表現したり、質問したりすることが苦手

・知的障害者は何もできない人ではなく、的確なサポートがないためにできないだけ

・数の概念が難しい等 したがって、下記のことを常に心がけて接している。

・わかりやすい言葉でゆっくり話し、笑顔で受け止める

・抽象的な概念ではなく、絵や図を使って具体的にわかりやすく、ゆっくりした口調で説明する

・教え方や学習の仕方として、きめ細かく手を携えて、無理と決めつけず何度でも根気よく教える

・一人の人間として特別視せず普通に接し、子供扱いしない

その結果、無口ではあるが基本的には明るく素直、かつ温和であるAさんの性格が分かるにつけ、毎日の指導にも自信が持てるようになってくる。相互理解のために自然に交流できる場として、休憩時間なども、作業場に隣接する休憩室でみんなと一緒に談笑し、心身共にリフレッシュさせるようにしている。また、午前9時から午後5時までの所定労働時間は遵守し、疲労が残らないよう、定時には帰宅している。休日も週休2日を確保して、賞与も支給している。

障害が重度でも生き甲斐や役割を持たせることでいきいきとした生活ができ、普通の生活ができるように願っている。

（2）当初、Aさんの担当作業は下記の3項目であった。

①加工台を前にして出された鳥皮を串に刺す作業（1本30gのものを1日約100本）

②ハンバーグの生地を秤で計量し、丸く手で成型する（1日約30個）

③出来上がったハンバーグを真空袋に1個ずつ入れ、真空パック機でパックし、その上で箱詰めする作業

今では下記の3項目の作業も担当している。

④お中元、お歳暮の時期は、ギフト用化粧箱を作る作業

⑤単純な鶏皮を刺す作業から鶏皮を串用に切る作業

⑥唐揚げ用の漬け込み作業に加え漬け込み後、袋詰めし真空パックして箱詰めする作業

（3）業務遂行援助者の障害者に対する指導等については

①作業開始前には、毎日消費者の口に入る大切な食材を加工していることを基本的に教えてから 作業に取りかかる。

②鳥串一本一本の出来栄えがきれいで形が整い、丁寧に加工されているか見ながら指導している。

③Aさんはきっちりした性格ながら、時々根気が続かない時があり、その都度指導しながら同じ作業をさせている。根気が続かないことは、誰しもあることであり、同時に障害特性と理解している。

④絶えず横にいて教え、手取り足取り教えたとおりの作業をし、串刺しも目方もほぼ間違えずに、かつ形も整ったものができるようになってきている、また本数も1日100本超をこなしている。

⑤一つの作業ができた後、次の作業は何をするのか自分で判断できないときもあり、作業の段取りのため、次の加工部品を目の前に置いていたが、今では慣れて次の作業に進めるようになってきている。

⑥Aさんは自分から話しかけることは少ないが、作業仲間の話はよく分かり笑顔がもれる。仲間の受けもよく、業務遂行援助者の指導にも素直に従っている。

⑦仕事面は当然のことであるが、私生活面においても、衛生面、健康管理や健康保持等細やかに教え、日々指導援助している。

作業の様子

4．取り組みの効果と今後の展望

Aさんの日頃の生活等については、専務取締役が中心になり、健康管理のほか、Aさんへの日々のさまざまな手助けを担い、家族との連携や本人との積極的な会話や接触を通じて、きめ細かく対応している。障害を理由に会社内で差別をしない雰囲気作りに注力している。Aさんも今では二十歳となり、年頃でもあるので、通勤途中や社外での行動にも絶えず気を配っている。

一時、本人から休みの申し出が増えたときもあったが、誕生日や成人式のお祝いなど愛情をもって接し、声かけをしながら、本人が納得するように皆勤手当の話もすることで、今は解消し一生懸命に勤めている。

当社では障害者に対して、何よりも愛情をもって接するようにしている。仕事の上では障害のある人も障害のない人も、みんなお互いのことを大切にして助け合う愛情をもって行動するノーマライゼーションの姿勢が大切なのであり、一生懸命に仕事に取り組む姿勢を尊重している。

仕事の手順が覚えられない、作業のスピードが遅いのは障害者当人の責任ではなく、障害特性である。それをカバーするために、日常的なサポート、いわゆるナチュラルサポートや工夫が大切と考える。そのことが、実は企業発展の基礎であり、全従業員のやる気に繋がるものと確信している。今後さらに、障害があるからと決めつけずに、あらゆる職種や職務の中から、障害者の一人一人の持っている力や障害の違いにあった仕事の可能性を探り、また仕事をする場所や時間を工夫して、少しでも働きやすい就業環境を構築して、障害者雇用の拡大に努めていきたいと考えている。