妥協しない指導姿勢が“思わぬ効果を生み出す人材育成”

1.事業所の概要
当社が営む商業施設“きんたの里”は、農村空間を整備し、「湯屋温泉」を利用した体の健康造り「食」による健康造りの滞在型拠点として、平成10年4月に整備された。
この施設で提供する食材は、地元生産の有機野菜、米、鮮魚、加工品を中心とする事で、特産品及び加工品の利用、販売の促進により地元農業の活性化にも繋がっている。
現在、県外のお客様の宿泊、会食、入浴利用者は多く、皆様に満足していただくことにより、都市と農村の交流人口増加や地元観光資源のイメージアップを目標としている。
2.障害者雇用の経緯
創業開始してから、過疎地域という事もあり、求人に対する応募も少なく、又、サービス業ということで、従業員の定着率も良くない状況が継続した。そんな中、温泉&地元の食材等を活かした営業展開が顧客ニーズにマッチし、顧客数は年々増加していったが、反面、従業員不足の状態が続き、雇用維持・拡大が大きな課題となっていった。 このような状況の中で、社長は地元の社会福祉法人・特別支援学校のサポートを受けて、順次障害者雇用に取り組んでいく。そのことが障害者にとって大きな雇用の機会となり、現在の障害者雇用に結びついていくこととなった。
知的障害者Aさんトライアル雇用を経て、平成13年4月雇用開始。
知的障害者Bさん実習期間を経て、平成16年6月雇用開始。
知的障害者Cさん実習期間を経て、平成14年4月雇用開始。
3.取り組みの内容
施設での従業員の配置は、支配人・部署長を中心とした就業支援体制を構築した。業務については、厳しく部署長が指導し、個々に問題点があれば、支配人・事務長・部署長で話し合い、解決していくシステムである。3名共雇用を開始した当初は、人手不足であり、各部署内にとって必要な人材であったので、各担当者は自ずと指導に力を注いでいくこととなった。サービス業であり、不規則な勤務や、土曜・日曜の仕事を嫌ってか、特に若年層の従業員の定着率は悪く、人材は常に流動的であったので、会社としては、3名について“継続して勤めること・社会人として成長すること”を目標として指導にあたった。
時には、本人が仕事に悩み、退職したい旨の相談を受けたこともあった。主な理由は、「家族が休みの日に、本人は仕事がある」こと等である。その時は、社会福祉法人の先生を交えて、解決に向け話し合うことで対応してきた。またそれぞれが、仕事上の悩みや問題にぶつかった時は、一つ一つ解決していった。そして3人共、仕事の経験や年数を積むごとに、力強く成長している。
4.障害者の従事業務、職場配置
Aさん

現在、館内清掃・客室清掃・公衆浴場の受付と、3パターンの業務を日々の状況により担当している。ここまでの成果が出せるようになるまで、決して順調な道程を経てきたわけではない。…当初Aさんは、お客様との挨拶・会話等が苦手であり、緊張のあまり、他の従業員との連携がうまくいかなくなることで自信を無くしていき、就業時間が不安定になることがあった。
このような悪循環のなかで、当然個別指導もうまくいかなかった。ちょうどこの頃お客様も増え、施設がもっとも忙しい時期であり”即戦力がほしい“という全体の流れの中から、今いる従業員で、仕事をきちんとこなすことで、施設運営が何とかギリギリやっていける状態であった。その中で、障害者も障害のない従業員と同じような技術を身につけて貰いたく、結果的に自然と障害の有無に関係ない指導を行うこととなる中で、Aさんは何度もやめようとしたことがあったそうだ。しかし、その都度、支配人、事務長、所属部署所長、そして、浜田就業・生活支援センターレント を交えて、Aさんの成長のための指導を、また、必ずその成果が現れる時がくることを、皆で顔を合わせて熱心に、本人が納得するまで語り、その都度、納得してもらう状況が繰り返えされ、その過程の中で本人の意識向上を図っていった。
そして、その成果として、プロ意識が身につき、現在では仕事をする上での、体力・気力もでき、粘り強く業務にあたることができるようになってきた。またその延長上の効果として、空いた時間も有効に使い、仕事を探すこともでき、鍛えられてきたことで、営業的なこともできるようになり、最初は苦手であった受付でのお客様への挨拶や、会話においてのコミュニケーション(会話のキャッチボールまで進展)を取るまでに成長した。この指導に負けずについていくことができたことが、飛躍的な精神面での成長を生み出し、確かな自信に繋がることになったのである。
特に当初から、お客様に“ありがとう”と言うことを継続的に指導してきたことで、自然と“お客様に感謝すること”の動機づけが身に付き、Aさん自身が会社に対して、働けること・賃金を貰うことに“感謝の念”をいだくようになったと考えている。
また、何よりも喜ばしいのは、自宅において、今まで応援してきてくれた両親等に対して、今まで実践できなかった“感謝の念”を、実体験を通し自ら体感し学んできたことの集大成として、自発的に、はっきりと、言葉・態度で表現できるようになったことである。
Bさん

現在レストランホール係をしている。接客・配膳・レジ業務の担当である。また、他部署の館内清掃、客室清掃、公衆浴場受付、厨房食器洗浄の業務にも対応できる。
3部署に亘り幅広く仕事をこなせるので貴重な戦力である。
この職場に来てから変化していったことは、お客様とのコミュニケーションが自然に取れるようになり、親しいお客様とは、マニュアル通りの挨拶だけでなく、自分のプライベートな心配事の相談ができる間柄まで成長しており、仮にBさんが何か失敗したとしても、特にリピーターであるお客様から“Bさんなら、許してしまう。”といったような顧客反応にまでなっている。失敗が接客業として良いということではないが、ここで強調したいことは、“お客様の認知度が高まる従業員”にまで成長していることを伝えたいのである。ロイヤルティ化の一環としての考え方としては接客・サービス業にとって、特に喜ばしい限りである。
このことは、本人がどの部署でも一つ一つ真剣に取り組んだことの証であり、現在では、繁忙期に雇い入れるアルバイトを指導できるようなるにまで、成長した姿を見せてくれている。
Cさん

現在調理補助・軽食の調理・配膳・盛り付け雑務全般を担当している。労働時間が早番から遅番までと不規則であり、体調コントロール等が難しい上に、お客様の注文数に的確に対応しないといけないので、スピードと集中力、そして体力も必要とされる部署である。作業処理の正確性、安全衛生の徹底、作業速度の平準化、他の従業員との連携、特急業務の的確な処理など難易度が高いと考えている。
繁忙期には、遅くまで残業する時もあり、体力的についていけない時は、他の従業員がカバーした。又、過去には人間関係でいろいろ悩んだ時期もあったが、持ち前の素直さ、明るさ、謙虚さ、無遅刻無欠勤など仕事に対する姿勢、一生懸命な仕事姿、難しい業務フローの中でも正確な仕事をきちんとやりこなす力強さなど、本人の努力・才能・進化で定着していった部分を、他の従業員が自然な流れで認めていったことで、徐々に乗り越えていく形となったのである。
つまり、Cさんの“仕事に対する思い入れ”という価値観を、自らの働く姿で他の従業員に注入していったのである。その成果として、現在では部署の一員として、担当を任されて頼りにされている。
調理補助等は、勤務時間が不規則(早番・遅番)であり、人間関係や体力的な問題等で、継続した雇用が難しいのであるが、この職場に来てから変化していったことは、この仕事を“ごく当たり前に継続して業務をこなしている点”である。正直、誰にでもできることではない。これは、本人の努力と、本人の将来性を考えて、他の従業員と変わらず、厳しさと愛情を持って指導していった、部署長と部署従業員の努力の賜であると感謝している。
5.取り組みの効果
会社側の都合、人員的な都合もあり、基本的には障害のない従業員と変わらない指導を実施した。本人的には、つらい事も沢山あったと思うが、指導する担当者も、そのことに対して精神的な苦労やジレンマがあった。3人とも現在は、会社を支える一員となり、無くてはならない存在である。特筆したいことは、Bさんは2年前、Cさんは3年前からグループホームを離れ、自分でアパートを借り、各々自立している。Aさんは自宅通勤であるが、家族のこれまでの継続的な献身的援護を、本人自身当社での職業経験を通して理解できるようになり、自発的に“感謝の念”を表現でき、その活力から業務に一生懸命励む毎日である。そして、当社としては今後も雇用を継続し当初の目標を達成したい。
6.今後の課題
今後の目標を各自と話し会ったところ
Aさんの目標
お客様への挨拶を大きな声で、質問への受け答えは理解してもらえるようにしっかり言いたい。また理解してもらえるように勉強をしていきたい。家族には感謝の気持ちを持って接したい。
Aさんに対しての今後の期待
特に、精神面での成長は目を見張るものがある。接客態度に対しても十分に動機づけられ、自発的な目標を定められるまでに飛躍してきている。今後も、ひとつひとつ自らの気づきに基づく目標を掲げていき、成就していってほしい。
Bさんの目標
仕事のスピードを早くしたい。お客様へのソフトクリームを作るのが苦手なのでもっと上手になりたい。お客様、会社の従業員、友人の話は良く聴いて理解したい。 両親と沢山食事や、旅行にいけるように頑張りたい。
Bさんに対しての今後の期待
お客様に認められる接客態度が出来るということには大変喜んでいる。また、アルバイトを指導できるまでに成長した本人にとって、今後は当部署の若手従業員・アルバイト等を育成指導していくことが出来るよう更なるステップアップを重ねていってほしい。
また、3名に対して言えることであるが、本人が持つ“仕事に対する熱意・思い入れ”という価値観を注入していくことにより、他の従業員のモチベーションが高まるような、各部署の中心的な役割りを果たせる人物になってほしい。
Cさんの目標
会社では笑顔で挨拶できるようにする。健康に気をつけて元気でいる。仕事は一生懸命に頑張ること。
Cさんに対しての今後の期待
とにかく、Cさんのごく当たり前に継続業務する姿には正直頭が下がる思いである。今後は、この姿勢を他の従業員にも見習ってもらうために、さらなる飛躍を期待してやまない。
今までの厳しい指導から、各々が各々の作業環境で、きちんと業務を行うことに動機づけられ、一生懸命取り組んできた3名である。ちょうど忙しい時期に重なった障害者雇用であり、その指導において、障害のない従業員と変わらない方法を取ることとなったが、結果的に、より以上の育成効果を生み出す形となったと同時に、責任者として、日々その日、この育成方法が本当に障害者雇用に適しているかどうか、自問自答することがあったのも事実である。今後は、育成方法も改善していき、ますますの各自の発展のために、仕事や生活面で意欲的な目標を、持続・達成してもらうことを目的に日々業務に取り組んでもらう。
当社も引き続き3名および職員と共に、さらなる従業員満足度(ES)・顧客満足度(CS)を果たし、お客様の求める多様化したニーズにお応えすることを目標として、躍進してゆく所存である。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。